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第二章 サムジャともふもふ編

第77話 ルンの戦い

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 主人であるシノに仮面を被ったヴェムが攻撃をしかけた。そこから瞬きしている間に行われた攻防。

 変わり身で後ろをとったシノが一撃を決めると思ったその時、ヴェムの背中から大量の蛇が波のように飛び出てシノに襲いかかった。

 間一髪、恐らく危険を察したであろうシノがその一撃を避けたが、緊迫した様子が感じられた。

「ワンワン!」

 慌ててパピィがシノを援護しようと動き出すが。

「パピィはルンをサポートしてやってくれ!」
 
 シノの声がその耳に飛び込んできてパピィが動きを止めた。そしてルンに顔を向けるともう一人のマジルがルンをターゲットに近づいてきていた。

「私にはちょうど良さそうな相手だ」
「随分と舐められたものね!」
 
 ルンが杖を突き出し、火球が発射された。火の刻印の力だろう。

「アースウォール」

 しかし、マジルは魔法を行使。足元から地面がせり上がり壁となって火球を防いだ。

「魔法系――土の魔法使い!」
「残念違うな。エアロハンマー!」

 更にマジルが魔法を行使。風の衝撃がルンの真上から迫った。

「アンアンッ!」

 しかし、魔法が直撃する前にパピィが疾駆しルンの襟を咥えて引っ張るように移動した。地面が風の衝撃で抉れる。

「あ、危なかったぁ~ありがとうねパピィ」
「アンッ!」

 ルンが安堵してパピィにお礼を言った。パピィが一声鳴き、そしてマジルに体を向け唸り声を上げる。

「グルルルゥウウ」
「うん。パピィこんな奴一緒にやっつけちゃおう」

 そう言いつつもルンはパピィに鉄の刻印を施した。これでパピィの防御力は上がる。

「はは、そうそれだ。その刻印魔法が欲しいのだよ」
「は? 何言ってるのあんた。魔法なんてあげるわけないでしょ!」
「だから奪うのではないか。サンダーボルト!」
「キャンッ!」
「パピィ!」
 
 マジルが次に唱えたのは雷の魔法であった。マジルの手から伸びた電撃がパピィを撃ち抜く。思わずルンが叫び声を上げた。

「あんた! パピィによくも!」
「ふん、煩わしい犬ころだったからな」

 その態度に憤慨し、ルンの杖から火球が連続で発射された。しかしマジルは慌てることなく旋風を纏うことで全て遮断した。

「ウィンドアーマーだ。中々便利だろう?」
「な、あんた一体幾つ魔法を――」

 狼狽しているルン。ちらりとパピィも確認したが、ダメージは負っているものの命に別状はなさそうだ。

 だが相手の多彩な魔法はあまりに厄介でもあった。

「幾つか、だって? さてどうだったかな。奪った相手の数ももう忘れたからな」
「さっきから奪ったって一体何の話よ!」
「あぁ、そういえばお前の鑑定ではみれなかったのか。仕方ない特別サービスだ。私の天職は狂魔師。殺した相手の魔法を奪う闇の天職だ」

 そう言ってククッと仮面の奥から不敵な笑い声を漏らした。ルンが愕然となる。

「殺した相手から魔法を、奪うですって?」
「そうだ。素晴らしいだろう?」

 右手を掲げてマジルが自慢するように答える。しかしルンの肩はプルプルと震えていた。

「ふざけんじゃないわよ! だったらあんた、今の魔法を奪うために何人殺したのよ!」
「だからさっき答えただろう? そんなもの覚えてないとな」
「許せない!」

 ルンが再び火球を放つ。だがマジルは慌てる様子もなく土の壁を生み出した。

「全くまた馬鹿の一つ覚えみたいに同じ火球か」
「バカの一つ覚えみたいな防御しか出来ない癖に何言ってるのよ!」

 叫んだ直後――火球が軌道を変えた。弧を描くように動き、壁を避けて背後からマジルを襲う。

「な、ぐわぁああ!」
「ザマァ無いわね」

 ルンが得意顔を見せる。マジルはただルンが火球を放つしか能がないと思ったようだが火の刻印は炎を生み出し操る刻印だ。

 勿論複雑な動きには微妙な魔力操作も必要となるため、刻印をただ取得しただけでは難しい。それ相応の訓練は必要不可欠だが、ルンは普段から魔法を磨くことに余念が無い。

 自分の刻印で何が出来て何が出来ないか、ルンはそれをよく理解している。

 だが――土の壁が崩れ、姿を見せたマジルは怪我もなくピンピンとしていた。

「そんな、全く効いていないというの?」
「残念だったなアイスジャベリン!」

 マジルの周囲に氷の槍が幾つも生まれルンに向けて飛ばしてきた。

 ルンが火球で応戦しようとするが全ては捌ききれない。

「はは、穿け!」
「そ、そんな!」

 ルンに向けて数本の氷の槍が迫る。鋭い槍に貫かれてはひとたまりもない。

「ワンワン!」

 しかし、パピィの吠える声。そして伸びてきた影がルンに迫る氷の槍を全て叩き落とした。

「な、影を操っただと! ガハッ!」


 そしてパピィの伸ばした影が鋭く変化し意趣返しとばかりにマジルの腹を貫いた。

「やったわ! このダメージなら!」
「ディアラーぜ!」

 しかし、直後マジルが唱えた回復魔法でその傷が癒されていった。

「な、あんた、回復魔法まで……」
「はは。当然だろう。むしろ邪天教団の私が教会の人間を殺してないわけがないだろう? ククッ――」

 不敵に笑うマジルにルンは顔を強張らせた――
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