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第二章 サムジャともふもふ編

第71話 サムジャ、令嬢、そして――

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「ワウ!」
「お帰りパピィ」

 俺は戻ってきたパピィの頭を撫でてあげた。嬉しそうに目を細めて尻尾をパタパタさせている。可愛い。

「そういえばパピィどこに行っていたの?」
「ちょっとした調査かな」
「調査?」

 ルンの質問に答えると更に頭に疑問を浮かべたような顔になった。

 そして俺はパピィに話を聞くことにする。勿論パピィが喋れるわけじゃないが、パピィは最近影操作を覚えた。これによってジェスチャーの幅が広がったんだ。

「ワンワン!」
「ふむふむ」
「わ、影が何かの形に! これって?」
「多分ダミールとハデルだろうな」
 
 そして俺はパピィの言わんとしていることを読み取っていった。

「シノ、ルンちょっといいか?」

 大体察したところでオルサから声がかかった。振り返るとあのミレイユとメイシルもこちらを見ていた。

「一緒に俺の部屋まで来てくれ。頼みたいことがあってな」

 オルサの話に合わせるようにミレイユとメイシルが一揖していた。

 どうやら頼みたい事というのはこの二人に関係ありそうだな。

「さっきの二人といい、大事な話みたいね」
「あぁ。かなり――」
「冒険者ギルドは、ここかーーーーーー!」

 シエロが誰にともなく口にし、オルサがそれに応じたその時だった。

 勢いよくギルドの扉が開かれ、響き渡る叫び声。それによってギルド中の視線が一点に集まる。

「あ、あんたは」
「ワンワン!」
「む、むむ――そなたは宿の!」
「えっと、シノの、し、知り合い?」

 向こうも俺とパピィに気がついたようだな。一方ルンは困惑気味に俺に問いかけてきた。

「あぁ、俺の泊まってる宿にいたんだ」

 ルンに答えたが、訝しげな顔を見せているな。まぁ初めてみたらそうなるか。あの般若の面とやらは中々インパクトがあるからな。

 そうギルドに入ってきたのは宿で今朝知り合ったあの仮面の女だったわけだが。

「お、おいおい待て待て! あの仮面まさか!」
「え? パパ知ってるの?」

 やってきた仮面の女にオルサが反応を見せていた。ルンも気になったのか彼女について聞いている。

「あぁ。あんな仮面を着けてるのはそうはいないからな。間違いなければAランク冒険者の千面のマスカだ」

 Aランク冒険者だって? それはまた偉い大物だったんだな。ちょっと驚いた。

 そしてマスカは黒いお下げ髪を揺らしながら近づいてくる。

「俺より早く出ていた気がしたが、随分と時間が経ったな。何かあったのか?」

 近くまできたところで何となく気になって問いかけてみた。するとマスカはコホンっと咳払いして答える。

「途中、道で困ってる人をみかけたのだ。全く冒険者というのは難儀なものだ。そういう人を職業柄、放っておくわけにはいかないからな」

 なるほど。立派な心掛けだな。

「あ、いたいた。あんた、さっきこれ、お金の入った袋落としただろう?」
 
 すると一人のお婆ちゃんがギルドに入ってきて声を上げた。雰囲気的にマスカに向けて言っているようだ。

「さ、さっきのお婆ちゃん……」
「あぁ良かった。おかしな仮面だからすぐにわかるね。それにしてもいてくれてよかったよ。全く道を教えてくれと聞いてきたから教えたら右にいけといえば左に行くしまっすぐに行けばいいと言えば屋根の上からまっすぐ行ったりして変わった子だったからねぇ」

 お婆ちゃんが感慨深そうに何度も頷いた。一方マスカはなんだかわたわたしている。

「全く同じ相手から繰り返し八回も道を聞かれるなんて初めてだよ。しまいには大事な袋まで落としていくんだから。ほら、もう落とすんじゃないよ。後道ね、もう間違うんじゃないよ。気をつけてね。じゃあね」

 そしてお婆ちゃんは去っていった。わざわざ届けてくれるとはいい人だな。

「ふむ、いまのが道で困っていた人か?」
「う、うるさい! みなまで言うな!」
 
 俺が聞いてみると、何かマスカの頭上にプシューと湯気が吹き出ているぞ。

「クゥ~ン」

 パピィの鳴き声も細いな。まぁ、でもこれ以上突っ込むのは野暮だろう。

「……変わった人だけど、その、シノ随分と親しそうね」
「うん? ふむ、とは言っても朝に宿で会っただけなんだけどな」
「本当に?  本当の本当に?」

 ルンが聞いてきたから朝の出来事を思い出しながら答えると何故かシエロにまで追求されてしまった。嘘は言っていないが何故そんなに気にするんだろうな。

「しかし驚いた。あの千面のマスカがどうして、いや。悪いが今は別件がある。シエロ何か話があるようなら聞いてくれないか?」
「あ、はい。マスカでしたね。もし用件があればとりあえず私が聞きますが?」
「うん? そなたがか? 可能ならギルド長にも話を聞きたがったが……」
「悪いな。今は先客がいるんだ」
「もうしわけありません。なにか私達の為に」
「もしそちらが急ぎなら私達は後でもいいのですが」
「いやいや、伯爵家のご令嬢に流石にそれは」
「む! 待て! 伯爵家の令嬢と言ったか? それならば私にも関係してくる可能性がある」

 オルサとミレイユ達でやりとりしているとマスカが二人に注目した。

 ふむ、何やら様々な話が絡み合ってきたな――
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