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第二章 サムジャともふもふ編
第64話 サムジャと仮面の女
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「はいタオル。しかし大丈夫かい?」
「だ、大丈夫だ。済まない」
般若の仮面をつけた女は、主人から貰ったタオルでスープを拭き取っていた。
それにしても、妙にドジっぽい子だな。そもそも何故そこまでして仮面に拘るのかが不思議だが。
「しかしここの料理は旨いな。スープもアツアツだ」
「俺はそれになんて返せばいいのか」
彼女の言葉に主人が戸惑っていた。何せスープは飲んだのではなく掛けたのだからな。
「ところで主人。一つ聞きたいことがあるのだがいいかな?」
「え? まぁ俺に答えられることならな」
「うむ。知っていればでいいのだが、今起きている通り魔事件について知ってることがあれば教えて欲しいのだが。実は色々あって調査中でね。かなり凶悪な犯人とは聞くがどうかな?」
仮面の女はなんともタイムリーな質問を主人にしていた。
「いや、どうと言われても今まさにそのことで街は大騒ぎなんだが?」
「へ? 大騒ぎ?」
「あぁ。何せその犯人が見事倒されたからな。もう事件の心配はいらない」
「は、はぁああぁああああ!?」
仮面の女が素っ頓狂な声を上げた。どうやら彼女はしらなかったようだな。まぁ昨日の今日知れ渡った情報だしな。
「どういうことだ! 一体誰が倒したというのだ! 情報では闇の天職持ちだとあったのだぞ!」
「いや、そう言われてもな。俺も詳しいことは知らねぇよ。てか、何だその闇の天職って?」
「はっ! い、今のはその、き、聞かなかったことにしてもらおう!」
「はぁ……」
主人が気のない返事をした。呆れているとも言えるか。
しかし、主人の言っていた口が堅いというのは本当だったようだな。しっかり俺のことを黙っていてくれた。
「ところでお前」
すると今度は彼女が俺に顔を向けてきた。
「うん? 俺か?」
「クゥ~ン?」
「むっ!」
と思いきや、反応した俺に合わせて首を傾げたパピィに、仮面が向いた。
「興味があるのかパピィに?」
「な! べ、別に可愛らしいとかいう意味でみてたのではないぞ!」
見てたんだな。可愛いのは確かだが。
「とにかくだ、見る限り冒険者のようだが、その通り魔を倒した相手が誰かは知っているか?」
俺だな。正確には俺とパピィだが、主人が約束どおり言わないでいてくれたのに俺が明かすわけにもいかないしな。
「さて、俺もさっき起きたばかりだしな今日の出来事はまだよく知らないんだ」
「むぅ、そうか。仕方ない直接ギルドに行って聞くとするか」
彼女はそう言って勝手に納得していた。それなら最初からそうした方が早い気もするぞ。
そして仮面の女は主人に改めてお礼を言って去っていった。チラチラとパピィを見ながらだ。
そして俺とパピィは改めて食事に手を付けた後、主人に挨拶を済ませ宿を出た。
このままギルドに向かうことになるがそしたらあの仮面の女と会うことになるかな?
もしそれで、実は俺が倒したって知られてしまったら気まずい気もしたが、まぁ気にしていても仕方ないか。その時はその時だ。
「ま、とにかくギルドに向かうか」
「アンッ!」
「あ、シノおはよう」
ギルドにつくと近くの席にルンの姿があった。早めについていたようだな。
「昨日はお疲れ」
「うん! 大変だったよね。でも、シエロから聞いたけどセイラのことがちょっと心配なんだよね」
セイラ、大神官に連れて行かれた件か。ルンも既に関係者だからシエロが教えたんだろうな。
「シノ、ちょうど良かったわ。昨日の件でいい?」
ルンと話しているとそのシエロから声が掛かった。俺とルンはカウンターに向かう。
「ギルド長には昨日のことを話したわ。朝からそれで不機嫌でね。抗議文に関しては納得というか寧ろ張り切っていたわ。最近の教会の横暴さはギルド長も鬱憤が溜まっていたみたいだからね」
「そうかそれなら良かった。ところで既に町ではあのジャックが倒されて事件が解決したことが知れ渡ってるみたいだけど」
「あ、そうそう私もびっくりしちゃった」
「それね。ギルド長が手を回したのよ。知り合いの情報屋とかを総出で動かしたみたい」
やっぱりギルド長だったか。しかし随分といろいろな方面に顔がきくみたいだな。
「それで抗議文について二人の証言もあったほうがいいと思って。聞かせてもらってもいい?」
「それは勿論構わないさ」
「私もよ。出来ることなら何でもするわ」
「ふん、ここが冒険者ギルドというところか。随分と狭苦しくて品のない連中のたまり場なことだな」
その時、ギルドの入り口から妙に高慢な声が聞こえてきた。
振り向くと身なりの良い金髪の男が立っていた。眼鏡を掛けているがレンズの奥の瞳が左右に動いている。ギルドの中を確認しているようだ。
「仕方がありませんぞダミール様。彼らは仕事を選ばず、時には溝掃除から便所洗いまでこなす身。勿論それも世の中の役には立っていますが、貴族から見ればむさ苦しい無作法な連中の集まりにしか見えないことでしょう」
そしてダミールと呼ばれていた男の隣には昨日の夜出会ったばかりの男の姿があったわけだが。
「大神官ハデル、何しに来たのよ……」
「グルゥ」
「あいつ、本当嫌な感じ。てか、隣の奴も一体何者なの?」
ハデルの登場にシエロが眉をひそめ、パピィは警戒心を強めていた。そしてルンに関してはハデルは勿論隣のダミールにもいい感情は抱いていないようだ。
ま、その気持ちもわからなくもないがね――
「だ、大丈夫だ。済まない」
般若の仮面をつけた女は、主人から貰ったタオルでスープを拭き取っていた。
それにしても、妙にドジっぽい子だな。そもそも何故そこまでして仮面に拘るのかが不思議だが。
「しかしここの料理は旨いな。スープもアツアツだ」
「俺はそれになんて返せばいいのか」
彼女の言葉に主人が戸惑っていた。何せスープは飲んだのではなく掛けたのだからな。
「ところで主人。一つ聞きたいことがあるのだがいいかな?」
「え? まぁ俺に答えられることならな」
「うむ。知っていればでいいのだが、今起きている通り魔事件について知ってることがあれば教えて欲しいのだが。実は色々あって調査中でね。かなり凶悪な犯人とは聞くがどうかな?」
仮面の女はなんともタイムリーな質問を主人にしていた。
「いや、どうと言われても今まさにそのことで街は大騒ぎなんだが?」
「へ? 大騒ぎ?」
「あぁ。何せその犯人が見事倒されたからな。もう事件の心配はいらない」
「は、はぁああぁああああ!?」
仮面の女が素っ頓狂な声を上げた。どうやら彼女はしらなかったようだな。まぁ昨日の今日知れ渡った情報だしな。
「どういうことだ! 一体誰が倒したというのだ! 情報では闇の天職持ちだとあったのだぞ!」
「いや、そう言われてもな。俺も詳しいことは知らねぇよ。てか、何だその闇の天職って?」
「はっ! い、今のはその、き、聞かなかったことにしてもらおう!」
「はぁ……」
主人が気のない返事をした。呆れているとも言えるか。
しかし、主人の言っていた口が堅いというのは本当だったようだな。しっかり俺のことを黙っていてくれた。
「ところでお前」
すると今度は彼女が俺に顔を向けてきた。
「うん? 俺か?」
「クゥ~ン?」
「むっ!」
と思いきや、反応した俺に合わせて首を傾げたパピィに、仮面が向いた。
「興味があるのかパピィに?」
「な! べ、別に可愛らしいとかいう意味でみてたのではないぞ!」
見てたんだな。可愛いのは確かだが。
「とにかくだ、見る限り冒険者のようだが、その通り魔を倒した相手が誰かは知っているか?」
俺だな。正確には俺とパピィだが、主人が約束どおり言わないでいてくれたのに俺が明かすわけにもいかないしな。
「さて、俺もさっき起きたばかりだしな今日の出来事はまだよく知らないんだ」
「むぅ、そうか。仕方ない直接ギルドに行って聞くとするか」
彼女はそう言って勝手に納得していた。それなら最初からそうした方が早い気もするぞ。
そして仮面の女は主人に改めてお礼を言って去っていった。チラチラとパピィを見ながらだ。
そして俺とパピィは改めて食事に手を付けた後、主人に挨拶を済ませ宿を出た。
このままギルドに向かうことになるがそしたらあの仮面の女と会うことになるかな?
もしそれで、実は俺が倒したって知られてしまったら気まずい気もしたが、まぁ気にしていても仕方ないか。その時はその時だ。
「ま、とにかくギルドに向かうか」
「アンッ!」
「あ、シノおはよう」
ギルドにつくと近くの席にルンの姿があった。早めについていたようだな。
「昨日はお疲れ」
「うん! 大変だったよね。でも、シエロから聞いたけどセイラのことがちょっと心配なんだよね」
セイラ、大神官に連れて行かれた件か。ルンも既に関係者だからシエロが教えたんだろうな。
「シノ、ちょうど良かったわ。昨日の件でいい?」
ルンと話しているとそのシエロから声が掛かった。俺とルンはカウンターに向かう。
「ギルド長には昨日のことを話したわ。朝からそれで不機嫌でね。抗議文に関しては納得というか寧ろ張り切っていたわ。最近の教会の横暴さはギルド長も鬱憤が溜まっていたみたいだからね」
「そうかそれなら良かった。ところで既に町ではあのジャックが倒されて事件が解決したことが知れ渡ってるみたいだけど」
「あ、そうそう私もびっくりしちゃった」
「それね。ギルド長が手を回したのよ。知り合いの情報屋とかを総出で動かしたみたい」
やっぱりギルド長だったか。しかし随分といろいろな方面に顔がきくみたいだな。
「それで抗議文について二人の証言もあったほうがいいと思って。聞かせてもらってもいい?」
「それは勿論構わないさ」
「私もよ。出来ることなら何でもするわ」
「ふん、ここが冒険者ギルドというところか。随分と狭苦しくて品のない連中のたまり場なことだな」
その時、ギルドの入り口から妙に高慢な声が聞こえてきた。
振り向くと身なりの良い金髪の男が立っていた。眼鏡を掛けているがレンズの奥の瞳が左右に動いている。ギルドの中を確認しているようだ。
「仕方がありませんぞダミール様。彼らは仕事を選ばず、時には溝掃除から便所洗いまでこなす身。勿論それも世の中の役には立っていますが、貴族から見ればむさ苦しい無作法な連中の集まりにしか見えないことでしょう」
そしてダミールと呼ばれていた男の隣には昨日の夜出会ったばかりの男の姿があったわけだが。
「大神官ハデル、何しに来たのよ……」
「グルゥ」
「あいつ、本当嫌な感じ。てか、隣の奴も一体何者なの?」
ハデルの登場にシエロが眉をひそめ、パピィは警戒心を強めていた。そしてルンに関してはハデルは勿論隣のダミールにもいい感情は抱いていないようだ。
ま、その気持ちもわからなくもないがね――
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