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第二章 サムジャともふもふ編

第55話 サムジャ、皆で昼食

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 セイラは今日は休みを貰っていたらしい。ただ、それでも外に出るには色々と手続きが面倒らしいが、いい加減教会が窮屈で目を盗んで抜け出してきたそうだ。

「話には聞いていたけど、結構大胆なことをするのね」
「つい、思い至ってそのまま行動に移しちゃいました」

 シエロは感心したようなそれでいて呆れたような表情でセイラに言った。セイラは苦笑しているが後悔はしてなさそうだ。

「でも、ごめんなさい。折角楽しんでたところに、お昼にまで混ざってしまって」
「べ、別にいいわよ。大勢のほうが楽しいもんね」
「あぁ、そうだな」
「アンッ!」
  
 俺の足元でパピィも嬉しそうに吠えた。今俺たちは食事用に設置されたスペースで一緒に昼食を楽しんでいた。

 バザーのこのスペースでは、外に椅子やテーブルが設置されていて、周囲の屋台から好みの食事を購入してテーブルで食事する形になっている。

 屋台には定番の串焼きからサンドイッチ、それにクレープという変わった食べ物など色々と用意されていた。

 それらを適当に購入してテーブルの上に並べてある。ちなみにここでは俺の分はルンとシエロが出すと言って聞かなかった。だから俺はセイラの分をだすことにした。

 セイラは遠慮していたけど、パピィを治療してもらったことでしっかりとしたお礼がまだだったからな。

 お布施は払ったがあれはあくまで教会に対してでセイラ個人とは関係ない。

 そして今セイラを含めて食事をとっているわけだが、この短時間で皆も随分と打ち解けたな。セイラの人当たりの良さもあるのだろうけど。

「何か私の分まで出してもらっちゃって……」
「いいさ。おかげでパピィが元気になったんだしな」
「ワンワン!」

 パピィがセイラの近くまで移動し吠えた。お礼を言っているみたいだ。可愛い、とセイラも頭を撫でている。

「こんな可愛い犬を治療してくれたんだからセイラには感謝よね」
「確かにそうね。パピィがこうして元気でいるのもセイラのおかげだもん」
「そんな。あれはシノさんが見捨てたりせず教会にまで連れてきてくれたからですし」

 セイラは謙遜しているが、あの場にセイラがいなければパピィが助からなかったのも事実だ。

「それにしても今の話を聞いてると、アグールという神官は腹が立つわね!」

 ルンが唐揚げをもぐもぐと咀嚼しながら憤る。ほっぺを膨らませてリスみたいだな。

「そういえば、そのアグールなんですが、お布施の精算で金額が合わなかったということで相当絞られていました。百万ゴッズ分が足りないとかで、アズールが盗ったという疑いまで掛けられてましたね」

 そんなことがあったのか。しかし百万ゴッズか。

「パピィがダンジョンで回収しておいた金額と一緒だな」
「アンッ!」

 そう言いながらパピィを撫でると嬉しそうに吠えた。どことなく誇らしげにも思える。

「百万ゴッズって大金ね。でも、ちょっといい気味に思えちゃうわ。最近の教会は評判も悪いし」
「ちょ、ルン」
「あ、ご、ごめんなさい」

 ルンが教会について触れた途端、シエロから注意が入った。セイラが教会に属しているからだろうな。

「いいんです。私も今の教会には疑問を思ってるんです。シノさんのお布施にしても高すぎるし、勿論ハデル大神官の言う通り今はそれが普通のようですが、その普通がそもそもおかしいなって」

 顔を伏せセイラの表情に影が落ちる。

「やめやめ。折角の楽しい時間なのに、そんな話ばかりしてても、ね。セイラも楽しもう?」
「え? あ、はいそうですね」

 ルンが明るく語りかけたおかげでセイラの表情も明るくなった。ルンはいいムードメーカーだなと思う。

「通り魔事件まだ解決してないんだってな」
「いやだ私こわーい」
「大丈夫だって。いざとなったら俺が守ってやるからさ」
「お前に守れるのかよ?」
「こいつネズミを見ただけでビビって逃げ出す程だからな」
「おま、それを言うか!」
「でも、本当に早く解決してほしいよねぇ」

 俺の背後の席からそんな会話が聞こえてきた。男女のグループらしいが、通り魔という単語にシエロが顔を険しくさせる。

「シエロさんどうかしたのですか?」

 セイラがシエロの変化に気がついたようだ。良く見ているな。

「あ、ごめんなさい。通り魔事件はうちでも扱っている事件だからつい」
「う~ん。でもとんでもない事件よね。ねぇシノ。パパはあぁ言っていたけど、やっぱり私が囮になってみるってどうかな?」
「ちょっと。だめよ。それに冒険者は襲わないんだから」
「だから変装して」
「それでもだめよ危険だわ。だったら私がやるわよ」
「シエロだって受付嬢なんだからバレてるんじゃないの?」

 そんな会話をルンとシエロが繰り広げていると、セイラが興味深そうに口を開いた。

「あの、その囮っていうのは?」
「うん。だからね。通り魔の犯人を捕まえるために私が囮になって夜歩こうかなって思ったんだけど」

 そしてその流れで通り魔事件に関する現状をセイラに教えてあげていた。
 
 するとセイラが少し考え、顔を上げて言った。

「それ、私がやります!」
「へ?」
「やるって何を?」

 シエロとルンが目を丸くして尋ねるが、俺はちょっと嫌な予感がした。

「その囮役です。私なら冒険者じゃないし出来ますよね?」
「だめよ何言ってるのよ!」
「そうよ! 危険すぎるわ!」

 セイラがまた大胆なことを言い出したが、しかし、これにはルンとシエロが止めた。当然と言えば当然だろう。

「でも、こんな小さなパピィを傷つけたんですよね? 私許せないんです! 飼い主もそんな目にあわせて……」
「クゥ~ン……」

 セイラの声のトーンが落ちた。パピィも細い声で鳴く。

「シノさん! シノさんはどうですか? 私はシノさんが見ていてくれるなら安心して囮になれます!」
「駄目だ」

 俺が即答するとセイラがしゅんっとなった。だが、こればっかりは譲れない。セイラの聖女としての力はこれからも必要としている人がいるし、単純にセイラを危険な目にはあわせたくない。

「ここはやっぱり私が変装して」
「まだ言ってる。大体ルンなら胸でバレるわよ」
「な! 胸って何よ! 関係ないでしょ!」

 ルンがシエロに噛みつき、それをクスッと微笑んでセイラが見ていた。良かったまた笑顔が戻ったな。

 しかし変装か……変装?

「あ、そうか! その手があったか!」
「え?」
「どうしたのシノ?」
「思いついたんだ。そしてこれはたしかにセイラの協力があれば上手くいくかも知れない!」
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