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第二章 サムジャともふもふ編

第53話 サムジャと脳筋

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 さて、突如やってきて問答無用で鉄槌を振り下ろしてきた馬鹿がいた。しかもなんだかわけのわからない因縁をつけてきている。

 しかし、この男、どうやらブロストと言うらしい。シエロが口にしていた名前だ。

「シエロ、こいつ知り合いなの?」

 俺の知りたかったことはルンがいち早く聞いてくれた。

「そいつは俺の女だーーーー!」

 そしてとんでもないカミングアウトがこいつの口から飛び出した。

 思わず、シエロを見るが、その顔は明らかに嫌悪に満ち溢れていた。

「いい加減にして! こんなところまでやってきて、そんなものまで……最低よ!」

 そして眦を尖らせてシエロが叫んだ。この様子から決していい仲などではないことが俺にもわかる。

「なんだと! 貴様、俺という男がいながらそんななよっとしたわけのわからん格好の男と浮気しやがって!」
「う、浮気って、あんたが勝手に付きまとってるだけでしょう。わけのわからないこと言わないで!」

 ふむ、なよっとしたか。確かにこいつは筋肉量は多いし、巨体だが、俺から見ると無駄な体つきのようにしか思えないんだがな。

 それにしてもシエロは本当に嫌そうだ。

「何でそんなことを言うシエロ! は、そうか。お前専属受付嬢になったと聞いたが、さてはこいつに脅されてるんだな!」
「だから、何でそうなるのよ。私が自分から選んだのよ」
「嘘だ! お前は俺の女で俺の専属受付嬢になる筈だろう!」

 う~ん。さっきから全く話が噛み合ってないな。どうもこいつは思い込みが激しいようだ。

 シエロに困惑が見える。

「お前、その辺にしておけ」
「あん? どの口が言ってやがんだこの野郎!」
「おっと――」

 再び鉄槌が振り下ろされた。脅しでもなんでもなく、本気で狙ってきてるなこいつ。

「シノ!」
「うん? これは?」

 ルンが杖で俺にポンっと刻印を押してきた。判刻印のおかげで簡単に刻印が付与出来るようになったんだったな。

「それは鑑定の刻印よ!」

 おお、早速役立ててくれたんだな。よし、折角だから見てみるか。

ステータス
名前:ブロスト
レベル:3
天職:破槌士
スキル
腕力増加、体力増加、脳筋、震槌、ハンマープラス、ハンマーチャンス、パワーハンマー、シューティングハンマー


 こいつ、思ったよりスキルが多彩だな。それにしてもこんなバザーの真っ只中の現場で暴れまわるとは迷惑もいいところだ。

「てめぇぶっ殺してやる!」
「そうかよ。だがお前はトロそうだ。筋肉が自慢のようだが、鈍臭い動きで俺を捉えられるか?」
「なめんじゃねぇええぇええ!」
「あ、ちょシノ!」
「どこいくのよ!」
「アンアンッ!」

 俺が逃げるように飛び出すと、二人が叫ぶ。だがルンとシエロは置いていくことになるが、こんな奴に狙われるぐらいならしばらく離れた方がいいだろう。

 とにかくこいつも俺の挑発に乗ってくれたし、広場まで移動する。こんなところで暴れたら見に来ている他の客に迷惑だしな。
 
「やっと追いついたぜ! ちょこまかと逃げ足だけは速いやつだ!」
「グルルゥウゥウ!」

 そして上手いこと広場までおびき寄せることが出来た。ここならまだ迷惑にならない。それにしてもパピィはさすがだな。しっかり追いついてきた。

「お前をギッタンギッタンにしてぶっ殺しシエロの目を覚まさせてやる!」
「お前のほうが現実を見た方がいいと思うぞ」

 そう伝えるとグギギッと歯ぎしりしてみせた。単純だなこいつは。

「喰らえ震槌!」

 そしてブロストが槌を叩きつけると派手に地面が揺れた。地面を揺らして相手の動きを封じるのがこのスキルだ。

「死ねぇ! パワーハンマー!」

 再度鉄槌が振り下ろされ衝撃が広がった。俺とパピィにも命中するが。

「どうだ! て、丸太と毛皮だとぉ!?」
「残念だったな。居合忍法・抜刀落雷!」
「グワァアアァアアアアア!」
「アンッ!」
「グボォォオオォォオオオ!」

 俺が変わり身にパピィは空蝉で攻撃から逃れ、その後は俺の忍法で雷に打たれ、そしてパピィが影で作った拳に殴られてブロストが吹っ飛んでいった。

 ふむ、散々だな。しかしパピィはいつの間にこんなスキルを? おっと、そういえばレベルがいつの間にか上ってるな。

 そして影操作というスキルが増えていた。どうやらこれで自由に影が操れるようだな。

「て、てめぇよくも」
「なかなかしぶとい奴だ」

 向こうではブロストが立ち上がって一人憤慨している。タフな奴だ。

 さっきのステータスでわかったがこいつは完全なパワータイプだ。一撃の威力で勝負を決めるタイプだな。

 だけど頭で考えるの苦手だろう。脳筋というスキルは筋力は上がるが知性が下がるようだしな。

 しかし腕力増加や体力増加があるしハンマープラスは槌の威力を上げ、ハンマーチャンスは槌で攻撃した時にクリティカルヒットが出る確率が上がるというものだ。

 クリティカルヒットは攻撃の際に稀に本来よりも強力な一撃が出るという現象だ。

 こいつは鉄槌で攻撃する時にそれが出る可能性が上がるってわけだ。俺は装甲が弱いからどっちにしろ攻撃をまともに受けるつもりもないが。

「今度こそ殺す! パワーハンマー!」

 近づいてきてまた鉄槌を振り下ろした。パワーハンマーは戦闘用スキルだな。槌で殴ると余波が広がり広範囲に攻撃できる。

 もっとも無駄な筋肉のせいで動きが遅い。みえみえだ。

「居合忍法・土返し!」

 捲れた土によって衝撃を受け止めた。パピィは影に潜って回避していた。やるな。

「くそ! 何故当たらねぇ!」
「脳筋だからじゃないか?」
「がぁああぁ! 馬鹿にするんじゃねぇ! だったらこれだ! シューティングハンマー!」

 怒りに任せるように叫んだかと思えば、おいおい、こんなところで本気かこいつは? 発動するために力をためている。

 そしてシューティングハンマーはこいつの持っている武器のおかげで使えるようになったというスキルだ。

 アーティファクトと呼ばれるタイプの星砕きの槌というのが奴の持ってる鉄槌の正体。

 そしてシューティングハンマーは分裂した槌が空中から広範囲に降り注がれるスキルだ。

 俺たちを遠巻きに見ているのもいるわけで、このままじゃ被害が広がる。

「居合忍法・影縫いの術!」
「は?」

 だけど、そうはさせない。常時持ち歩くようにしてある苦無を投げ奴の影に刺した。居合省略後に行使すればこれでも影縫いは発動する。

「う、うごけ――」
「溜めが必要なのが災いしたな――居合忍法・抜刀影分身!」
「ぎ、ギャァアアァアアァアアアア!」
 
 そして影分身も含めて発生した八回の斬撃によってブロストは悲鳴を上げながら派手に空中に吹っ飛んでいった――
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