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第二章 サムジャともふもふ編
第25話 サムジャは呪いを否定する
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ふむ。ハデルが俺の刀を浄化しようと申し出てきた。
俺からすれば意味のわからない提案だった。何かこの男の中では既にそうすることが決まっているような口ぶりだが俺には受け入れがたい話でもある。
「どうしたのかな? もし金銭的な心配をしているなら気にしなくていい。その刀はあまりに危険だ。だからこそ今回は特別に無料で浄化してやろう」
ハデルが笑みを深めた。そもそも教会はあくまでお布施という形をとっているから、無料と言ってしまうのもどうかとは思うが。
「悪いが断らせてもらう」
「な、何だと! 貴様、ハデル様がここまで言ってくださっているのに断るとはどういう了見だ!」
アグールが不機嫌そうに語気を荒げた。ハデルも俺の回答を聞いた途端口を結んでしまっている。
「一体何が不満なのかな?」
ハデルがムスッとした様子で問いかけてくる。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
「不満というより、そもそもこの刀は呪われてなどいない。何故そう思ったのか知らないがあんたの勘違いだと思うぞ?」
だから、こっちからはっきりと間違いを指摘してやった。しかしハデルの顔はより一層不機嫌になる。
「何故そのようなことがわかる? 強力な呪いの有無を知れるのは特殊なスキルを持った教会の人間だけだ。正直お前にそこまでの力があるとは思えんが」
ハデルがはっきりした物言いで語る。確かに協会に属するような天職持ちにはそういったスキルを持つものも多い。しかし刀のこととなれば俺に一日の長がある。
「確かに教会が言うような真似は出来ないが、この刀についてはよく知っていてな。これは天下五剣が一本、数珠丸恒次だ。これだけの業物に呪いがついたりはしないだろう」
俺の返答を大神官のハデルは苦い顔で受け止めた。もっともソレについてはまったくないわけではないのだが、それはまた別の話だ。
「し、しかしそれが正しいとは限らないだろう。形だけ似ているから判断してしまうことは素人にはよくあることだ。それに、刀など持ち歩いてどうする?」
俺の刀に視線をぶつけながらハデルがそんなことを言った。ふむ、そういえば俺の天職をこの男は知らなかったか。
「刀というのは多くの天職にとって無縁の武器。それを使いこなせる天職が少ないからだ。持っていたところで意味がない」
「確かにそのとおりかもしれないが、俺の天職はサムジャだからな」
「サム、何だって?」
俺が答えると、聞き慣れていない天職だからなのかハデルが目を白黒させる。
「サムジャだ。サムライとニンジャの複合職。だから俺は刀も扱える」
「な!?」
ハデルの顔が強ばる。随分と驚いているな。確かに珍しいと言うか恐らくこれまでになかった天職だとは思うがそれにしてもそこまで驚くものか。
サムジャという天職を知った者に関しては、これまでは寧ろ小馬鹿にしたり同情するようなパターンが多かったのだが、ハデルの反応はどちらでもない。
「……つまり、お前はその刀が扱えるのか?」
ゆっくりとした口調で、自ら言葉を噛みしめるようにして問いかけてきた。
「あぁ、サムジャにはサムライのスキルもあるしな。寧ろ今の俺にとってはなくてはならないものだ」
俺が答えるとハデルの顔が歪んだ。何かいちいち妙な反応を示す奴だな。
「大神官様、先程から随分とその刀を気にしているようですが呪い以外に何かあるのですか?」
「ば、馬鹿言うな! 何もない!」
セイラがハデルに問う。するとハデルは若干ムキになって答えていた。だがすぐにハッとした顔になり取り繕うように口を開いた。
「いや……失礼した。だが、その刀に奇妙な感覚を覚えたのは確かだ。今は何もなくても後に災いとなる可能性もある。そのことだけはゆめゆめ忘れられるな」
「ふむ、そういうことなら承知した。気に留めて置こうと思う」
どうやら呪いがどうのに関してはハデルの中では一旦保留となったようだな。
「では、私も色々忙しいのでな。これで失礼するよ」
「あぁ、気を遣わせて悪かったな」
踵を返すハデルに言葉を掛ける。本来なら教会も閉まっている時間だ。セイラも含めて長々と引き止めてもいられない。
「……ふん。セイラ様も、すぐにお戻りください」
ハデルに続いてアグールがセイラを促した。
「はい。それではシノさん、あの、寄付金については本当に申し訳ありません」
「それは本当に感謝の気持があったからだ。気にしなくていい」
俺がそう答えるとセイラは何か言いたそうだったが、あのハデルに呼ばれペコリと頭を下げて教会に戻っていった。
それにしてもこの刀が呪われているなんて随分と物騒なことを言っていたな。
でも、それは絶対ありえないんだけどな。どっちかというと逆だし……
「アン!」
「おお、お前も無事で何よりだな」
「アンアンッ!」
何か凄くじゃれてきて顔を舐められた。ふむ、可愛い子犬に好かれるのは悪い気はしない。
「なぁ、お前これからどうする?」
「アンッ! クゥ~ン……」
俺が問いかけると一度は元気よく吠えたが、すぐに顔を伏せて悲しそうな顔を見せた。
飼い主も残念なことになったしな……こいつも今は一人か――
俺も転生こそしたが、生まれてすぐ捨てられた質だからな。もっとも記憶が戻ったのは孤児院である程度物心ついてからだから、何故捨てられたかなどは覚えていない。
とにかくそういう身の上だからこの子犬に共感できる部分もある。
というか、個人的にはこの子がいいなら飼ってもいいかなと思えている。せっかく助けたのに放っておくのは気が引けるし、それに新しいスキルに口寄せがある。
これは動物などと契約することでパートナーとして一緒に行動ができるようになるスキル。他の天職で言えば魔物使いのテイムなどにも近い。
一度契約してしまえばどこにいても呼び出せるのも口寄せの利点の一つだ。勿論常に一緒にいても問題はない。
ただ、気になることはあった。宿のことだ。宿屋の主人も可愛かっているようだし一応確認はとった方がいいだろう。勿論その後、この子の意思も尊重するが――
俺からすれば意味のわからない提案だった。何かこの男の中では既にそうすることが決まっているような口ぶりだが俺には受け入れがたい話でもある。
「どうしたのかな? もし金銭的な心配をしているなら気にしなくていい。その刀はあまりに危険だ。だからこそ今回は特別に無料で浄化してやろう」
ハデルが笑みを深めた。そもそも教会はあくまでお布施という形をとっているから、無料と言ってしまうのもどうかとは思うが。
「悪いが断らせてもらう」
「な、何だと! 貴様、ハデル様がここまで言ってくださっているのに断るとはどういう了見だ!」
アグールが不機嫌そうに語気を荒げた。ハデルも俺の回答を聞いた途端口を結んでしまっている。
「一体何が不満なのかな?」
ハデルがムスッとした様子で問いかけてくる。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
「不満というより、そもそもこの刀は呪われてなどいない。何故そう思ったのか知らないがあんたの勘違いだと思うぞ?」
だから、こっちからはっきりと間違いを指摘してやった。しかしハデルの顔はより一層不機嫌になる。
「何故そのようなことがわかる? 強力な呪いの有無を知れるのは特殊なスキルを持った教会の人間だけだ。正直お前にそこまでの力があるとは思えんが」
ハデルがはっきりした物言いで語る。確かに協会に属するような天職持ちにはそういったスキルを持つものも多い。しかし刀のこととなれば俺に一日の長がある。
「確かに教会が言うような真似は出来ないが、この刀についてはよく知っていてな。これは天下五剣が一本、数珠丸恒次だ。これだけの業物に呪いがついたりはしないだろう」
俺の返答を大神官のハデルは苦い顔で受け止めた。もっともソレについてはまったくないわけではないのだが、それはまた別の話だ。
「し、しかしそれが正しいとは限らないだろう。形だけ似ているから判断してしまうことは素人にはよくあることだ。それに、刀など持ち歩いてどうする?」
俺の刀に視線をぶつけながらハデルがそんなことを言った。ふむ、そういえば俺の天職をこの男は知らなかったか。
「刀というのは多くの天職にとって無縁の武器。それを使いこなせる天職が少ないからだ。持っていたところで意味がない」
「確かにそのとおりかもしれないが、俺の天職はサムジャだからな」
「サム、何だって?」
俺が答えると、聞き慣れていない天職だからなのかハデルが目を白黒させる。
「サムジャだ。サムライとニンジャの複合職。だから俺は刀も扱える」
「な!?」
ハデルの顔が強ばる。随分と驚いているな。確かに珍しいと言うか恐らくこれまでになかった天職だとは思うがそれにしてもそこまで驚くものか。
サムジャという天職を知った者に関しては、これまでは寧ろ小馬鹿にしたり同情するようなパターンが多かったのだが、ハデルの反応はどちらでもない。
「……つまり、お前はその刀が扱えるのか?」
ゆっくりとした口調で、自ら言葉を噛みしめるようにして問いかけてきた。
「あぁ、サムジャにはサムライのスキルもあるしな。寧ろ今の俺にとってはなくてはならないものだ」
俺が答えるとハデルの顔が歪んだ。何かいちいち妙な反応を示す奴だな。
「大神官様、先程から随分とその刀を気にしているようですが呪い以外に何かあるのですか?」
「ば、馬鹿言うな! 何もない!」
セイラがハデルに問う。するとハデルは若干ムキになって答えていた。だがすぐにハッとした顔になり取り繕うように口を開いた。
「いや……失礼した。だが、その刀に奇妙な感覚を覚えたのは確かだ。今は何もなくても後に災いとなる可能性もある。そのことだけはゆめゆめ忘れられるな」
「ふむ、そういうことなら承知した。気に留めて置こうと思う」
どうやら呪いがどうのに関してはハデルの中では一旦保留となったようだな。
「では、私も色々忙しいのでな。これで失礼するよ」
「あぁ、気を遣わせて悪かったな」
踵を返すハデルに言葉を掛ける。本来なら教会も閉まっている時間だ。セイラも含めて長々と引き止めてもいられない。
「……ふん。セイラ様も、すぐにお戻りください」
ハデルに続いてアグールがセイラを促した。
「はい。それではシノさん、あの、寄付金については本当に申し訳ありません」
「それは本当に感謝の気持があったからだ。気にしなくていい」
俺がそう答えるとセイラは何か言いたそうだったが、あのハデルに呼ばれペコリと頭を下げて教会に戻っていった。
それにしてもこの刀が呪われているなんて随分と物騒なことを言っていたな。
でも、それは絶対ありえないんだけどな。どっちかというと逆だし……
「アン!」
「おお、お前も無事で何よりだな」
「アンアンッ!」
何か凄くじゃれてきて顔を舐められた。ふむ、可愛い子犬に好かれるのは悪い気はしない。
「なぁ、お前これからどうする?」
「アンッ! クゥ~ン……」
俺が問いかけると一度は元気よく吠えたが、すぐに顔を伏せて悲しそうな顔を見せた。
飼い主も残念なことになったしな……こいつも今は一人か――
俺も転生こそしたが、生まれてすぐ捨てられた質だからな。もっとも記憶が戻ったのは孤児院である程度物心ついてからだから、何故捨てられたかなどは覚えていない。
とにかくそういう身の上だからこの子犬に共感できる部分もある。
というか、個人的にはこの子がいいなら飼ってもいいかなと思えている。せっかく助けたのに放っておくのは気が引けるし、それに新しいスキルに口寄せがある。
これは動物などと契約することでパートナーとして一緒に行動ができるようになるスキル。他の天職で言えば魔物使いのテイムなどにも近い。
一度契約してしまえばどこにいても呼び出せるのも口寄せの利点の一つだ。勿論常に一緒にいても問題はない。
ただ、気になることはあった。宿のことだ。宿屋の主人も可愛かっているようだし一応確認はとった方がいいだろう。勿論その後、この子の意思も尊重するが――
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