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第二章 サムジャともふもふ編

第15話 サムジャ、宿で犬と出会う

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 俺が宿に戻ると入り口近くに宿主でもあり厨房にも立つ親父がいた。

「よう、今帰りかい?」
「あぁ、何とか冒険者になれてね」
 
 宿の親父は俺に気がついて声を掛けてくれる。この宿は飯も美味かったし共同とは言えお風呂もついているからな。値段も手頃とあって三日分の宿泊料を先払いしてある。

「それは良かった。仕事が見つかれば大分違うだろうしな」

 俺が答えると笑顔で返してくれた。強面な顔だが、性格は良い。

「アンッ! アンッ!」
「おう、うめぇか?」
 
 そんな親父の足元には蒼い毛並みの子犬が一匹いた。皿に盛られた食事をがっついてる。

「その子犬はペットなのかい?」

 何となく尋ねてみる。昨晩は見なかったがどこか別な場所で飼っているのだろうか?

「そうじゃねぇさ。ただ、一度腹をすかせていたのを見てからどうも放っとけなくてな」
「ふむ、野良ってことか」
「まぁたしかに今はそうなんだがちょっと前までは綺麗な姉ちゃんに飼われていてな。可愛がってもらっていたんだが……その飼主が亡くなってしまってな……」

 宿の親父がしんみりした顔で言った。そうか、それで行き場を失ったのか……

「全くまだ若かったのにな」
「それは、病気か何かなのか?」
「……違う。最近町で起きてる連続通り魔事件を知っているか?」

 連続通り魔……俺はギルドで見た依頼書を思い出した。

「冒険者ギルドの依頼書でも見たがそれだろうか?」
「あぁ、間違いない。犯人が見つかってなくて冒険者にも領主から依頼が出されたという話だったからな」
「なるほど、ということはこの子犬の飼い主はそれで?」
「あぁ、全くヒデェことしやがるぜ」

 宿の親父が憎々しげに語り歯ぎしりした。そうか、こんな身近なところでも被害者が出ているんだな。

「お前も大変だったな」
「クゥ~ン――」

 俺が撫でてやると尻尾を振って鳴き、指をなめてきた。人懐っこい子犬のようだな。

「アンッ!」
「行ってしまったな」
「あぁ、本当は何とかしてやりたいって気持ちもあるんだが、俺の宿は食べ物も扱うからな。そういう宿はペットを飼えないって規約があってな」

 商業ギルドの規約か。この手の店は商業ギルドに申請をして開店する。その際に色々と規約を交わすようだが、食べ物を扱う店は衛生面の観点からペットは飼えないと俺も聞いたことがあるな。

「全く何も出来なくて不甲斐ないぜ」
「そんなことはないだろう。食事を与えていることが既に立派なことだと思うぞ」
「へへ、そうか? 嬉しいこと言ってくれるな。よし、あんたも腹が減ってるだろう? 腕を振るうぜ」
「それは助かる。実はペコペコなんだ」
 
 そして俺は宿の親父が腕によりを掛けてくれた食事を食べてから部屋に戻った。

 そしてレベルが上っていたことを思い出した。色々とあってじっくり見てなかったんだ。折角だからしっかりステータスを確認しておくかな。

ステータス
名前:シノ・ビローニン
レベル:3
天職:サムジャ
スキル
早熟晩成、刀縛り、居合、居合忍法、居合省略、抜刀燕返し、活力強化、抜刀追忍、円殺陣、忍体術、暗視、薬学の知識、手裏剣強化、チャクラ強化、チャクラ操作、苦無強化、気配遮断、気配察知、土錬金の術、土返しの術、土纏の術、鎌鼬の術、草刈の術、凩の術、旋風の術、火吹の術、烈火弾の術、爆撃の術、浄水の術、水霧の術、水手裏剣の術、落雷の術、影分身の術、影走りの術、口寄せの術、影縫いの術、影風呂敷の術、影鎖の術、変わり身の術


 なるほど。新しく四つのスキルを覚えたな。先ずは口寄せ。これは相手と契約することで口寄せしいつでも呼ぶことが出来るスキルだ。召喚魔法に近い。口寄せ対象は人以外で意思疎通出来るなら何でもいいが、実力差がありすぎる相手とは上手くいかない。

 水手裏剣は水を手裏剣のように投げつける忍法だ。水系の忍法は水が近くにあった方がチャクラの消費が抑えられるし効果も高い。

 後は落雷の術。文字通り雷を落とす。中々強力な忍法だ。

 凩の術は小さな竜巻を操る忍法だ。これは戦闘面ではそれほど役に立たないが使いようによっては別な面で役立つ。

 そして円殺陣。これはサムライのスキルだな。居合の体勢で構えを取り円状の制空圏を作り範囲内に足を踏み入れた相手に最速の一撃を叩き込む。

 間合いも本来の間合いより一回りぐらい伸びるということもあり強力だが完全な守りの型だから発動中は動くことが出来ない。

 使い所は見極める必要があるな。さて、ステータスのチェックも終わったし今日はもう寝て明日に備えるかな――





 さて、今日から本格的に冒険者として動きだすことになる。とりあえずは冒険者ギルドに向かおう。

「おい、あいつが……」
「何であんなのが――」
「くそ! シエロは俺だって狙ってたのに!」

 ギルドに入ると、何か四方八方から視線が突き刺さってきてる気がした。昨日も視線を感じたが更に増えてないか?
 
 まぁいいか。掲示板の前は冒険者が殺到していた。やっぱり朝は人が多い。俺もこの中から選ばないといけないのか。

「おい! Fランクの新入りは向こうへ行ってろ!」

 俺を睨みつけてきた冒険者が突き飛ばそうとしてきたからヒョイッと躱しておく。

「な、お前! 何で避ける!」
「Fランクだから依頼書をみてはいけないって規則はないだろう? 突き飛ばされるいわれがない」
「て――」
「まぁ待て待て、確かにそのとおりだ。それに新入りには優しく・・・してやらないとな」
「そうそう。ほら、空けてやるからこっちでしっかり見ろよ」

 おお、先輩冒険者らしき人が道を親切に空けてくれたぞ。こういう人もいるんだな。

「ありがとう。厚意に甘えさせて貰うよ」

 お礼を言ってから掲示板に向かう。すると道を空けてくれた筈の冒険者が一斉に詰めてきて殴りかかってきた。

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「新入りのくせに生意気なんだよ!」
「これは先輩からの洗礼だ!」
「おらなぐ、ぐぼっ! て、てめぇどこ狙ってやがる!」
「誰だ俺を蹴ったのは!」
「いてて髪掴むな! 大事な残り少ない髪が!」

 やれやれ騒がしい連中だな。俺はとっくにその場にいないというのに。
 それにしても今は新人はこんな洗礼を受けるのか? だとしても大人しく殴られる気もないから気配を消してさくっと抜けさせてもらった。

 興奮状態の相手は気配遮断に弱いからな。その後は勝手に同士討ちを始めて喧嘩になってるけど。
 
 さて、おかげでゆっくりと依頼を探せそうだなと――
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