上 下
14 / 125
第二章 サムジャともふもふ編

第13話 サムジャ、報告する

しおりを挟む
 馬車に揺られて町に戻った俺は、その足でギルドに向かった。

「シノくん! 無事だったのね!」

 俺がギルドに入ると受付嬢のシエロが随分と大きな声で呼んでくれた。

 しかし、無事だったねとは何のことか? カウンターまで向かい話を聞いてみる。

「シノくんが蒼の流星と朝一緒だったのを見たという方がいて驚いたのよ」
「そうだったのか。でも、それがどうかしたのか?」
「それがね、私もしっかり言っておかなかったのが悪いんだけど、蒼の流星には悪い噂があってね……固定の三人以外に追加で加わったメンバーが連続で死亡したり行方不明になったりしているのよ。勿論こういう仕事だから仕事の途中で死んでしまうなんて日常茶飯事だけど、それにしても追加のメンバーだけなのがおかしいって噂になっていたの」

 なるほどな。つまり奴らは俺にやったような真似を外でもしていたってことか。

「本当はギルドで対処すべきで調査中でもあったのだけど、まだ決定的な証拠が見つかってなかったのよね。でも、その様子だと一緒に行動していたわけじゃないのね」
「いや、一緒だったぞ。迷宮攻略に誘われたからな」
「え! やっぱり本当だったの?」
「あぁ、連中から俺が一緒に行くことを伝えておくと聞いていたんだが」
「そんな話は聞いていないし、もしそうだったらなんとしても止めていたわ」

 なるほど。だが、まぁそうなんだろうな。でなければあんな暴挙に出ないだろう。

「ま、俺の心配は不要だ。ただシエロの予想通りなのは間違いないだろう。俺も罠に嵌められたからな」
「え!」

 そして俺は事の顛末をシエロに話して聞かせた。

「そんなことが……」
「一応これは奴らから回収したギルドカードだ。今言ったようにアンデッド化していたから倒してしまったが問題ないよな?」

 念のための確認だ。冒険者が身内を殺すのはご法度で本来なら重罪だが、正当防衛の場合や今回みたいにアンデッドになったなどであれば話は別な筈だ。

「そうね。ギルドカードもあるなら間違いないわ。解析すればどんな原因があって死んだのかわかるからね。アンデッド化なら反応はすぐに出るから時間は取らせないはずよ」
「それならよかった」

 シエロがすぐにギルドカードを鑑識にまわしてくれた。これで俺があの三人を倒したことで罪に問われることはないだろう。

「それにしても、あのダンジョンにそんな隠し通路があったなんてね。調査隊を派遣した方がいいかもしれないわね」

 シエロの言葉を聞いてちょっとした罪悪感が生まれる。でも、いわないわけにはいかないんだろうな。

「それなんだが、そのすまない。既にあのダンジョンはない」
「え? な、ないって?」
「隠し通路の奥にドラウグルがいてな。どうやらダンジョンのコアを媒体に生まれたボスだったらしく、倒したらコアが砕けてしまってダンジョンが崩壊した」
「え? ドラウグルって、ちょ、ちょっと待って!」

 俺の話を聞いてシエロが目を白黒させた。や、やっぱりまずかったんだろうか?

「シノくん! ちょっと待っててね!」

 そしてシエロは慌てた様子で階段を上っていった。そ、そんなに不味いことをしてをしてしまったのか。まぁ勝手にダンジョンを破壊してしまったのだしな。

「おう、お前が新入りのシノか?」
 
 そしてシエロが随分と屈強な体をした男を引き連れて戻ってきた。茶色い髪がM字のようになっていて額が顕になっている。瞳からは野生の熊のを思わせる獰猛さを感じた。顎を覆うような茶ひげも特徴の一つと言えるだろう。

「そうだがあんたは?」
「おう、俺はここでギルド長やってるオルサってんだよろしくな」

 ギルド長だったのか。道理で風格があると思った。しかしそうなるとちょっと口の聞き方がなってなかったかな?

 とは言え、冒険者というのは舐められたら終わりという風潮が強い。だから敬語なんて敢えて使う冒険者は基本いない。そもそも作法なんてものをしらないような連中が殆どだ。一部の魔法使いを除けば首から下で物事考えるような連中の集まりみたいなものだからな。

「それにしてもあのダンジョンが崩壊するとはな」
「やはりまずかったか?」
「逆だ。あのダンジョンはとっくに宝も取り尽くされていたし、これといった実入りもなくなっていたからな。出来ればとっとと寿命が尽きてほしかったんだが中々しぶとくてな。ダンジョン内は魔物が増殖しやすいから定期的に駆除しないといけねぇし面倒だなと思ってたんだ。だから感謝している」
「まぁ俺が直接やったわけでもないんだがな」

 確かに結果的にあのドラウグルを倒した影響で崩壊したがたまたまみたいなものだ。

「しかし結果に繋がったのはお前の功績あってこそだ。だが、そんなことより驚きなのはあそこに隠し通路があって奥にドラウグルがいたってことだ。そんなヤベェ魔物を一人で倒したってんだから驚くほかねぇな」
「そこまでだったか?」
「そりゃそうだ。ドラウグルクラスだと低レベルでも油断できないからな。ところでレベルの格差は知っているか?」
「あぁ、それなりにだが」

 レベルの格差、同じレベルであっても相手によって差が生じるという意味で使われる言葉だ。例えば極端な例では人とドラゴンだ。この二つを比べた場合例え同じレベル1でも人は絶対にドラゴンには勝てない。それどこころかレベル10の冒険者であっても簡単ではないだろう。
 
 他にも例えば同じ人間同士であっても天職が農民の場合と戦士の間でも強さという面でみれば格差が生じる。ようは同じレベルであったとしても相手次第で差が生じるという話だ。

「ドラウグルクラスだと例えレベル1だったとしても油断できないわけだが、何レベルだったか、て、そこまでわかるわけないか」
「いや、相手の言うことを信じるならレベル5だと口にしていたぞ」
「れ、レベル5だって! おいおいそんなのうちのギルドから大群引き連れて討伐しにいくレベルだぞ。マジかよ……」

 オルサがまじまじと俺を見てきた。しかし、そこまでの相手だったか。道理で俺も危なかったわけだ。

「そんな化物、よく倒せたな」
「あぁ、実は隠し通路の奥でこれを見つけてな」
「うん? 刀か?」
「そう。数珠丸恒次じゅずまるつねつぐだ」
「ふむ、それって何か凄いものなのか?」
「え?」

 俺は若干得意になって答えてみたのだが、オルサの反応は思いの外薄かった。

「天下五剣の一本なんだが知らないのか?」
「知らんな」
「私も聞いたことないわね」

 なんてことだ。これだけの名刀を手に入れて俺なんてわりと浮かれているぐらいなんだが。

「そ、そんな顔するなって。そもそも刀は今の世じゃ評価が低いんだよ」

 あぁ、そういえばそうだな。そもそもサムライの天職を得られる人間が少ない上、能力が微妙すぎて希少な外れ天職扱いだったぐらいだ。

 刀はサムライが持ってこそ真価が発揮出来る武器だ。だが逆に言えばサムライは刀を持たないとその力も全く発揮できない。

 結果的にサムライにしか扱えない刀の良さがわかるものなど皆無状態なのだろう。

「とはいえ、お前サムジャだったか? 本当珍しいというか初めて聞く天職だが、それがあれば天職の真価を発揮できるってわけだな」
「そうだな」
「いきなりシャープウルフの群れを倒して見せた上、その次がドラウグルというのだからとんでもないわね」

 シエロが顎に細い指を添えながら言った。綺麗だからそういうちょっとした仕草も様になるな。

「とにかく今回のことはご苦労だったな。蒼の流星の問題も片付いたし新人でこの活躍ぶりは素直のにすげぇぞ。報酬に期待してくれ」
「助かる。手に職をつけて稼ぎたかったからな」
「ならおまえさんの今後にも期待してるぜ。後はランクだが、本来ならそれだけの腕があるわけだしBランクぐらいまであげたいところなんだがな」

 何かとんでもないこと言い出したな……いきなりBランクって――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...