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第二章 サムジャともふもふ編

第13話 サムジャ、報告する

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 馬車に揺られて町に戻った俺は、その足でギルドに向かった。

「シノくん! 無事だったのね!」

 俺がギルドに入ると受付嬢のシエロが随分と大きな声で呼んでくれた。

 しかし、無事だったねとは何のことか? カウンターまで向かい話を聞いてみる。

「シノくんが蒼の流星と朝一緒だったのを見たという方がいて驚いたのよ」
「そうだったのか。でも、それがどうかしたのか?」
「それがね、私もしっかり言っておかなかったのが悪いんだけど、蒼の流星には悪い噂があってね……固定の三人以外に追加で加わったメンバーが連続で死亡したり行方不明になったりしているのよ。勿論こういう仕事だから仕事の途中で死んでしまうなんて日常茶飯事だけど、それにしても追加のメンバーだけなのがおかしいって噂になっていたの」

 なるほどな。つまり奴らは俺にやったような真似を外でもしていたってことか。

「本当はギルドで対処すべきで調査中でもあったのだけど、まだ決定的な証拠が見つかってなかったのよね。でも、その様子だと一緒に行動していたわけじゃないのね」
「いや、一緒だったぞ。迷宮攻略に誘われたからな」
「え! やっぱり本当だったの?」
「あぁ、連中から俺が一緒に行くことを伝えておくと聞いていたんだが」
「そんな話は聞いていないし、もしそうだったらなんとしても止めていたわ」

 なるほど。だが、まぁそうなんだろうな。でなければあんな暴挙に出ないだろう。

「ま、俺の心配は不要だ。ただシエロの予想通りなのは間違いないだろう。俺も罠に嵌められたからな」
「え!」

 そして俺は事の顛末をシエロに話して聞かせた。

「そんなことが……」
「一応これは奴らから回収したギルドカードだ。今言ったようにアンデッド化していたから倒してしまったが問題ないよな?」

 念のための確認だ。冒険者が身内を殺すのはご法度で本来なら重罪だが、正当防衛の場合や今回みたいにアンデッドになったなどであれば話は別な筈だ。

「そうね。ギルドカードもあるなら間違いないわ。解析すればどんな原因があって死んだのかわかるからね。アンデッド化なら反応はすぐに出るから時間は取らせないはずよ」
「それならよかった」

 シエロがすぐにギルドカードを鑑識にまわしてくれた。これで俺があの三人を倒したことで罪に問われることはないだろう。

「それにしても、あのダンジョンにそんな隠し通路があったなんてね。調査隊を派遣した方がいいかもしれないわね」

 シエロの言葉を聞いてちょっとした罪悪感が生まれる。でも、いわないわけにはいかないんだろうな。

「それなんだが、そのすまない。既にあのダンジョンはない」
「え? な、ないって?」
「隠し通路の奥にドラウグルがいてな。どうやらダンジョンのコアを媒体に生まれたボスだったらしく、倒したらコアが砕けてしまってダンジョンが崩壊した」
「え? ドラウグルって、ちょ、ちょっと待って!」

 俺の話を聞いてシエロが目を白黒させた。や、やっぱりまずかったんだろうか?

「シノくん! ちょっと待っててね!」

 そしてシエロは慌てた様子で階段を上っていった。そ、そんなに不味いことをしてをしてしまったのか。まぁ勝手にダンジョンを破壊してしまったのだしな。

「おう、お前が新入りのシノか?」
 
 そしてシエロが随分と屈強な体をした男を引き連れて戻ってきた。茶色い髪がM字のようになっていて額が顕になっている。瞳からは野生の熊のを思わせる獰猛さを感じた。顎を覆うような茶ひげも特徴の一つと言えるだろう。

「そうだがあんたは?」
「おう、俺はここでギルド長やってるオルサってんだよろしくな」

 ギルド長だったのか。道理で風格があると思った。しかしそうなるとちょっと口の聞き方がなってなかったかな?

 とは言え、冒険者というのは舐められたら終わりという風潮が強い。だから敬語なんて敢えて使う冒険者は基本いない。そもそも作法なんてものをしらないような連中が殆どだ。一部の魔法使いを除けば首から下で物事考えるような連中の集まりみたいなものだからな。

「それにしてもあのダンジョンが崩壊するとはな」
「やはりまずかったか?」
「逆だ。あのダンジョンはとっくに宝も取り尽くされていたし、これといった実入りもなくなっていたからな。出来ればとっとと寿命が尽きてほしかったんだが中々しぶとくてな。ダンジョン内は魔物が増殖しやすいから定期的に駆除しないといけねぇし面倒だなと思ってたんだ。だから感謝している」
「まぁ俺が直接やったわけでもないんだがな」

 確かに結果的にあのドラウグルを倒した影響で崩壊したがたまたまみたいなものだ。

「しかし結果に繋がったのはお前の功績あってこそだ。だが、そんなことより驚きなのはあそこに隠し通路があって奥にドラウグルがいたってことだ。そんなヤベェ魔物を一人で倒したってんだから驚くほかねぇな」
「そこまでだったか?」
「そりゃそうだ。ドラウグルクラスだと低レベルでも油断できないからな。ところでレベルの格差は知っているか?」
「あぁ、それなりにだが」

 レベルの格差、同じレベルであっても相手によって差が生じるという意味で使われる言葉だ。例えば極端な例では人とドラゴンだ。この二つを比べた場合例え同じレベル1でも人は絶対にドラゴンには勝てない。それどこころかレベル10の冒険者であっても簡単ではないだろう。
 
 他にも例えば同じ人間同士であっても天職が農民の場合と戦士の間でも強さという面でみれば格差が生じる。ようは同じレベルであったとしても相手次第で差が生じるという話だ。

「ドラウグルクラスだと例えレベル1だったとしても油断できないわけだが、何レベルだったか、て、そこまでわかるわけないか」
「いや、相手の言うことを信じるならレベル5だと口にしていたぞ」
「れ、レベル5だって! おいおいそんなのうちのギルドから大群引き連れて討伐しにいくレベルだぞ。マジかよ……」

 オルサがまじまじと俺を見てきた。しかし、そこまでの相手だったか。道理で俺も危なかったわけだ。

「そんな化物、よく倒せたな」
「あぁ、実は隠し通路の奥でこれを見つけてな」
「うん? 刀か?」
「そう。数珠丸恒次じゅずまるつねつぐだ」
「ふむ、それって何か凄いものなのか?」
「え?」

 俺は若干得意になって答えてみたのだが、オルサの反応は思いの外薄かった。

「天下五剣の一本なんだが知らないのか?」
「知らんな」
「私も聞いたことないわね」

 なんてことだ。これだけの名刀を手に入れて俺なんてわりと浮かれているぐらいなんだが。

「そ、そんな顔するなって。そもそも刀は今の世じゃ評価が低いんだよ」

 あぁ、そういえばそうだな。そもそもサムライの天職を得られる人間が少ない上、能力が微妙すぎて希少な外れ天職扱いだったぐらいだ。

 刀はサムライが持ってこそ真価が発揮出来る武器だ。だが逆に言えばサムライは刀を持たないとその力も全く発揮できない。

 結果的にサムライにしか扱えない刀の良さがわかるものなど皆無状態なのだろう。

「とはいえ、お前サムジャだったか? 本当珍しいというか初めて聞く天職だが、それがあれば天職の真価を発揮できるってわけだな」
「そうだな」
「いきなりシャープウルフの群れを倒して見せた上、その次がドラウグルというのだからとんでもないわね」

 シエロが顎に細い指を添えながら言った。綺麗だからそういうちょっとした仕草も様になるな。

「とにかく今回のことはご苦労だったな。蒼の流星の問題も片付いたし新人でこの活躍ぶりは素直のにすげぇぞ。報酬に期待してくれ」
「助かる。手に職をつけて稼ぎたかったからな」
「ならおまえさんの今後にも期待してるぜ。後はランクだが、本来ならそれだけの腕があるわけだしBランクぐらいまであげたいところなんだがな」

 何かとんでもないこと言い出したな……いきなりBランクって――
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