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第一章 天職はサムジャ編

第11話 サムジャ、ダンジョンボスを見つける

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「また人間の生贄か。今日は随分と獲物が多いな」

 アンデッド化した三人を倒しその先へ進むと、さっきよりも更に広くなった場所に出た。見るにここで通路は終わっているようだ。

 そして正面には黒く腫れた肉体を有した存在が鎮座していた。肉体はどうみても腐っている。こいつはドラウグルか……そしてこの口ぶりからして蒼の流星をやったのはこいつなのだろう。

「ふむ、お前もレベル2か。サムジャ? 聞いたこともないような天職だな」

 このドラウグル――俺のステータスを覗いたのか?
 それが出来るということはサーチの魔法か鑑定のスキル持ちってことだ。だが目でじっくりと見ていたから鑑定の確立が高そうか。

 この手の魔物の場合、同じタイプならスキルはある程度固定されていることも多いが、個別に異なるスキルを持つこともある。

 しかし、さっきの三人と違いドラウグルは知性あるアンデッドだ。一番厄介なタイプだな。

「早速その魂頂くぞ――」
「むっ!」

 ドラウグルの腕が伸びた。奴は腐った肉体を操作し膨張させたりが可能だ。腕を伸ばしたのもその効果だ。

 この攻撃は一撃たりとも当たるわけにはいかない。奴は腐毒というスキルを持っていた筈だ。これは固定のスキルだから間違いなく持っている。

 攻撃が当たると腐敗と毒の効果も一緒に浴びてしまう。毒へ対処する手段がない以上、回避するより手はない。

「居合忍法・抜刀燕返し鎌鼬!」

 鎌鼬が二発飛んでいきドラウグルに命中した。この魔物動きはそれほそ速くない。

 腕が一本切り飛ばされ肉体も深く抉れた。だが痛みを感じている様子はない。アンデッドだからな。痛覚がないんだ。

「さっきの連中よりは手応えがありそうだ」
 
 そう言いながら切られた腕を掴み俺に投げつけてきた。飛んでくる速度は速くない。横に飛んで直撃を逃れるが地面に落ちた腕が爆発した。

 酷い匂いの瘴気が辺りに撒き散らされる。これを吸うのは不味い!

「居合忍法・影走り!」

 これは居合省略で発動した。シュタタタッと疾駆し煙から逃れるがそれを読んでたようにドラウグルが口から大量の液体を吐き出してきた。
 
「くそっ!」

 地面を転がり既のところで回避。地面にぶちまけられた溶解液でシュウシュウと煙が立ち地面が溶けて大きくて深い溝が出来た。

 とんでもない威力だ。

「居合忍法・土纏――」

 地面の土が俺の皮膚と同化していく。防御力がこれで強化された。とは言えこの相手からの攻撃にどこまで耐えられるか。

「……そういえば、そうだったか」

 そして改めてドラウグルを見て、俺は絶望的な気持ちになった。ドラウグルの肉体が元に戻っていたからだ。

 こいつは腐肉を再生するスキルを所持している。普通に切ったり叩いたりしても無駄だ。

「居合忍法・抜刀烈火弾!」

 抜刀と同時に飛んでいった火球が腐った肉体に当たり燃え上がる。

「フンッ!」

 しかし燃えた箇所を抉り出し投げつけてきた。地面に落ちた肉片は爆発し瘴気を撒き散らしてしまう。

「そろそろ面倒になってきたぞ」

 ドラウグルが大きく飛んだ。俺の頭上に迫る。そして口を開き。

「カハァアァアアァアアア――」

 俺に向けて異様な色の息を吹き出してきた。匂いも酷く思わず袖で鼻と口を塞いでしまう。

「これは――」

 腰に吊るしておいた刀がボロボロと崩れ落ちていく。念の為準備しておいた苦無もだ。

 纏っていた土も崩れ落ちるのがわかる。腐敗の息か!

 俺はすぐに息の及ぶ範囲から抜け出した。だが不味い、刀がなければ忍法は使えずサムライの力も発揮できない。

「フンッ!」
「ぐぼっ!」

 しまった――奴の伸びてきた拳が俺に命中、背後の壁に叩きつけられた。全身に痛みが走る。毒に侵されていく感覚―― 

 ドラウグルの毒は猛毒だ。放っておけば数分で死に至るだろう。もし、このまま死んだらあの三人みたいにアンデッド化させられるのか……はは、冗談じゃない。

 考えろ俺――何か打開策を。意識を集中させると、背後の壁に違和感を覚えた。これはもしや――だが今の俺は忍法が使えないし刀もない、これでは、いや待てよ……

「そろそろ覚悟を決めるんだな」

 壁を背にし、息も荒くなってきている俺に向けてドラウグルが言った。こいつに、なんとか――

「じょ、冗談じゃないな。お前の汚らしいゲボに塗れて死ぬとかゾッとしないぜ」
「――なるほど。それならばお望み通り、この溶解液で惨めったらしくドロドロに溶けてしまうがいい!」

 ドラウグルが口から溶解液を吐き出した。よし! 上手いこと挑発に乗ってくれた!

 俺は力を振り絞って何とか液体から逃れる。

「むっ、まだそんな力が残っていたか。だが無駄な足掻き――」

 そこでドラウグルの口が止まった。その目は溶解液によって出来た壁の穴に向けられている。

「やっぱり、思ったとおりだ!」
「むぅしまった!」

 俺は痛む体にムチを打って穴に飛び込んだ。奴が伸ばした拳が迫ってきていたが影走りの効果がまだ残っていたおかげで既のところで当たらずに済んだ。

「ぬぉおおぉおおお! 図ったなぶっ殺す!」

 ドラウグルの絶叫がこだまするが、あの穴は俺が入れるギリギリぐらいの大きさだ。ドラウグルの巨体ではすぐに追いかけてくることは出来ない。

 正直これで何とかなるかは賭けみたいなものだ。俺の体はとっくに毒に侵されている。肉体的にもかなり無茶をしている。

 ただ、この隠し通路を守らせる為にアイツを配置していたのは容易に想像がつく。それだけの何かがこの先にあるはずだ。

 可能なら毒を何とかするものがあると嬉しいが――そして俺は奥の部屋にたどり着く。一見何もない空間。

 だが、奥の壁際に宝箱が一つ安置されていた。近づいてみたが鍵は掛かっていないようだった。罠の設置も感じられない。

 これは正直助かる。今の俺は上手くチャクラも練れない。罠があったらどうしようもなかった。

 俺は宝箱の蓋に手を添えた。毒に蝕まれているから蓋を持ち上げるのも凄くしんどい。

 そして何とか開けてみると、中には一振りの刀――何でこんなところに刀が?

 いや、しかしありがたいはありがたい。ただ、毒に蝕まれていることを考えると微妙でもあるが、刀さえあれば忍法が使える。

 それで何とか打開策を考えるほか無いか――そう思いつつ刀を手に取ると、ふと体が軽くなる感覚。

 これは――急に楽に、毒が消えた?

 どういうことだ? 俺は刀を鞘から抜いてみる。

 美しい刀だ。武器屋では売っている刀は粗悪品が多いと言っていたがこれは全くそうは思えない。切れ味もよさそうだ。

 そして――刃には呪文のような文字が刻まれていた。待てよ、この特徴、もしや!

 だとしたら、いける! これはあのドラウグルを倒す起死回生の一振りになりえるぞ!
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