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第一章 天職はサムジャ編

第7話 サムジャ、囲まれる

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 俺は後日、朝からダンジョン探索に同行することとなった。

 話も決まったので今日のところは依頼を受けずギルドを出る。さて、あとは宿を探さないとな。

 とりあえず冒険者ギルドの近くで探してみるか。どこかいいところがあればいいんだけどな。

「おい見つけたぞ!」

 適当に宿を探して街を歩いていると、何者かの叫ぶ声が耳に入ってきた。随分と騒がしいなと思っていたらぞろぞろとやってきた男たちに囲まれてしまった。

「おい兄ちゃん。ちょっと面かしな」
「嫌だと言ったら?」
「テメェに拒否権はねぇ! 黙ってこい!」

 背中に硬いものが当たった。ナイフか。抵抗したら刺すということなのだろう。この程度どうとでもできそうだが、随分と殺気立っているし下手なことしてこんなところで暴れだしたら周りに迷惑だな。

 仕方ないので男たちに付き合うことにした。しかし、一体俺に何のようなのか? 人に恨みを買われる覚えはないんだがな。

「よし、ここでいいだろう」

 人気のない街の外れに俺を連れてきたところで男が言った。しかし、どう考えてもこんな真似をされる覚えがない。

「なぁ、あんたらこんなところまで連れてきて一体何のようなんだ?」
「テメェ、俺らのこと忘れたわけじゃないだろうな?」

 男の一人がそんなことを聞いていた。忘れた? はて、どこかで会っただろうか?

 俺が思い出そうと頭を悩ませていると、イライラした顔で男が叫んだ。

「テメェのせいで女が一人手に入らなかったんだよ! 何忘れてんだコラ!」
「上手くやれば初物が楽しめた上に、金になったってのによ」
「こっちの稼ぎが無くなったんだぞてめえのせいでな。一体どう落とし前つける気だ!」

 女……あぁ、そういえばいたな。あのセイラという少女に絡んでいたゴロツキが。そうか、それで思い出した。

 しかし、稼ぎ? ふむ、もしかしたらこいつら人さらいか? 奴隷制度というのがあるから、それであの子をどこかに売るつもりだったのかもしれない。

 時代が変わり表向きは正規の奴隷は借金がどうしても返せなくて本人が望んだ場合や犯罪奴隷が主になり、攫ってきた相手を奴隷として売るようは非人道的行為は禁止されるようになった。見つかれば当然重罪だが、それでも裏稼業として続ける奴らはいる。

「そうだな。とりあえずは持ってる金を全部出してもらうか。そのうえで足りない分はキツい仕事専用の奴隷として働いてもらうかな。勿論タダ働きでな!」
「その分の稼ぎは俺らのもんってことだ」
「それでも女を売るよりは稼げねぇんだ。家族がいるならそいつらにも責任とってもらわないとな」
「なるほど、つまりお前らは碌でもない社会のゴミってことだな?」
「「「「「「あぁああん!?」」」」」」

 凄みを利かせてきたが、特に恐れることもない。強者には強者なりの空気というものがあるが、こいつらからは一切感じられないからな。

「使えない天職持ちの癖に調子に乗りやがって」
「この人数相手に前みたいに逃げられると思ったら大間違いだぞ!」
「逃げる? バカを言うな。俺はもう冒険者だ。冒険者は人のために働かなければいけない。特に依頼を受けたわけでもないが、罪もない少女を捕まえて乱暴するような連中を放ってはおけないしな」

 そう宣言し、柄に手をかけると、連中が顔を見合わせ笑いだした。

「おい聞いたかよ! こいつ冒険者だってよ!」
「サムライとニンジャを組み合わせた使えない天職持ちが何の冗談だ!」
「冒険者なんて死に急ぐようなもんだろう!」
 
 どうやら俺は侮られているようだな。やれやれ、確かにサムライとニンジャは中途半端な外れ天職とされた。だが、例えそのどちらかであったとしても、装備さえしっかりしていればこんな連中に負ける気はしない。

「しかしよぉ、こいつ刀持ってんじゃね?」
「ふん、どうせモドキだろ? 刀なんてまともに作ってる職人いやしねぇよ」
「そんな鈍ら持って得意がってるんだから随分とお花畑の頭してるぜ」
「やれやれ、俺からしてみればお前らの方が脳内お花畑どころか、完全に枯れ果ててるんじゃないかってところなんだがな」

 俺が逆に挑発で返してやると、男の一人が蟀谷をピクピクさせながら剣を俺に向けてきた。

「……テメェ、調子こいてんじゃねぇぞ!」

 そして俺に剣を振り下ろしてきたが動きが荒っぽすぎる。半身になって避けると更にブンブンと剣を振り回してきた。

「くそ! こいつちょこまかと! お前らもやれ!」

 男に言われ更に二人が戦いに加わる。だが何人来ても一緒だ。こんなもので遅れをとることはない。

「居合忍法・抜刀火吹!」

 刀を一振りすると同時に刀身から火が吹き出て三人が燃焼した。熱い熱いと地面を転げ回った後、気を失い動きを止めた。

「な、なんだ? 今何をした?」
「抜刀と忍法だよ」
「は? 抜刀、忍法?」

 残った連中が動揺する。

「お前らも言っていただろう? サムライとニンジャの複合職、それがサムジャだ」

 俺がそう継げると、パキンッと音がし、腰に吊るしておいた刀が光の粒子となって消え去った。

 ふむ、込めたチャクラが消えたか。土錬金で作った物はチャクラがなくなると消え去るからな。

「は、は、ぎゃははははは! やっぱそうだ! こいつ刀を手に入れたはいいが、粗悪品を掴まされたようだぜ!」
「ご愁傷さまだな。これでお前はもう戦えない!」

 残ったゴロツキ連中が俺をあざ笑う。確かに刀を失ってしまうと俺はサムジャの力を十全には扱えない。刀がなくなると土錬金も印を結んで行使する必要がある。だが――

「ならこれを使うか」

 苦無を取り出し戦う姿勢を見せた。土錬金で作った物はその大きさや構造で持ち時間も変わる。やはり大きかったり複雑な物の方が維持するのが大変だからだ。

 逆に苦無程度の大きさなら刀より長持ちする。こいつらを倒す程度なら十分だろう。

「そんなものでやられるかよ!」
「死ねカスが!」
 
 おいおい、殺したら奴隷送りに出来ないだろう? ま、殺される気も捕まって奴隷になる気もないんだがな。

「ハッ!」
「「「「「ギャァアァアアアァア」」」」」

 指に挟めた苦無を投げつけるとみごとに全員のアキレス腱を切断して地面に突き刺さった。

 連中が足首を押さえて転げ回る。もうこれで立ち上がることはないだろう。

「おい! 何があった!」
「見てのとおりだよ。後はお前だけだがどうする?」
「な、舐めてんじゃねぇ! 使えない不遇職持ちの雑魚が!」

 残った一人が曲刀を振り下ろしてくる。しかし問題はない。軽く躱して背後から首をめがけて蹴りを叩き込んだ。いい感じに当たったからかそのまま地面に顔面を突っ込んで豚みたいな鳴き声を上げて意識を失った。
 
 さて、この連中このあとどうしようかな? と考えていたら衛兵がやってきた。どうやら俺が連れて行かれるのを見た誰かが通報してくれたらしい。

 ギルドカードを見せて事情を話すと、連中はそのまま御用とされることとなった。

「いや君凄いね。この連中は手配書が回っている闇ギルドの構成員でね。おかげで助かったよ」

 どうやら連中は他にも色々やらかしていたようだ。衛兵の話だとギルドを通して賞金も出るはずだと言っていた。ギルドカードで俺の身分もわかったしな。Fランクということには驚かれたが。

 さて、思いがけないところで冒険者らしいことをしてしまった。もういい時間だし宿を見つけるか。
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