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第一章 天職はサムジャ編

第4話 サムジャの居合忍法

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・居合忍法
印を結ぶ代わりに居合に忍法を乗せて放つ。

 それが表示された説明だった。居合に忍法を乗せる? どうやらこれでわざわざ印を結ばなくても忍法が使えるらしい。

 ……やってみるのが一番早いか。とにかくたくさんいる狼の一匹に狙いを定めて――腰をグッと落とし刀の柄に手を添えた。

「居合忍法・抜刀鎌鼬!」

 鞘から抜くと同時に刀を振る、それが抜刀。そして乗せた忍法は鎌鼬の術――抜刀と同時に発生した風の刃がスパァアアァアン! と空気を切り裂きその先の狼すらも一刀両断にした。

 離れ離れになった狼の体がボトリと地面に落ちる。この威力、忍法の力を十全と発揮してるな。しかも印がいらないとは。おかげで、まるで斬撃が飛んだかのようだ。

 これが――居合忍法か……

「「「「「「「「「グルルルルルルウゥウ!」」」」」」」」」

 だけど、それで安心してはいられない。流石にこれだけ派手な攻撃で倒せば気配を消していても気づかれる。

 先ず正面から三匹の狼が疾駆し飛びかかってきた。でも――

「居合忍法・抜刀土返し!」

 抜刀すると同時に土が捲れ上がり壁のようになって飛びかかってきた狼を妨げた。反動で三匹の狼が弾かれ地面を転がる。

 これは盾としても役立ちそうだ。これといった防具が装備できないのが欠点だったけど、この忍法が印なしで使えるなら十分防御に役立つ。

「ガルゥウウウ!」

 おっと、背後に回ってきていた狼が飛びかかってきたな。これは土返しじゃ対応できない。

 だけど――狼がガブリと俺に噛み付いたかと思えば俺は狼の真上をとっておりその場には丸太だけが残されていた。

 居合忍法・変わり身だ。攻撃を受けた時に丸太を身代わりに出来るのがこの忍法。そして俺は頭上から居合で攻撃。

「抜刀・燕返し!」
「ギャッ!」

 これは忍法でないサムライの技だ。抜刀し返す刃も含めて瞬時に相手を二回切る。それにしても居合か。前前世の俺も居合スタイルだったから良く手に馴染む。

 そもそもこの居合は俺が確立・・させたものだったしな。サムライは紙装甲なのが欠点でやられる前にやれが基本だった。

 その中で考え出したのが一撃の威力を高める居合だった。それがこういう形で活用できるとは感慨深いものがある。

「グルルルゥ……」
 
 一連の俺の動きで狼が警戒心を強めているのがわかる。そして俺は居合忍法・土錬金で苦無を六本作成し指に挟めた。

「ハッ!」

 それを一斉に投げつける。苦無や手裏剣はニンジャの得意とする武器で効果も大きい。

 カツカツカツカツカツッ! と淀みなく苦無が狼の頭に命中しそのまま傾倒していった。

 これで、全滅――転生して初めて戦った魔物だが、無事一人で倒せたな。

「よっし!」
 
 思わず声を上げ、拳を強く握りしめて喜びを表現してしまう。

 それぐらいには嬉しい……サムライもニンジャも中途半端でマイナス面が大きく使えないとされる天職だった。それが合わさったサムジャも結局一緒だろうとされていたけど、まさかマイナスとマイナスが組み合わさるとこんなにも凄い天職になるなんて。

 恐らくだけど本来黒装束を着ないと力を発揮出来ない筈がサムジャになったことでサムライとしてニンジャの力が使えるようになったんだろう。
 
 だからこそニンジャのスキルは使用できた。そのうえで土錬金があれば、今の基準だと価格的にとても手が届かない刀や手裏剣、苦無が作れる。

 そして居合との組み合わせで印を結ばなくても忍法が使える。これは大きい。

 前世や前前世のサムライとニンジャの欠点が見事になくなっている。最初はまたサムライとニンジャか、とがっかりしたがこれなら話は別だ。

 寧ろ俺の経験も活かせる最高の天職と言えるだろう。これなら十分この時代でもやっていけるはずだ。

 おかげで魔物を倒すのにも随分と役立った。
 さて、後はこれをどうするかだな。魔物は素材をギルドで買い取ってくれるがまだ見習いですらない俺でも適用されるだろうか?

 そもそも貰った袋じゃ入るわけないが、実はそれに関してはこの忍法がある。

・影風呂式の術
影を利用した風呂敷を作成し千キロまで保存できる。死体なら生物でも保存可能。保存したものはその状態を維持される。使用者のレベルで容量が大きくなる。

 そうこれだ。前世でも役立ったな。これがあれば袋に頼らなくても自由に持ち運べる。影の風呂敷に入れたものは出し入れも自由だ。

「居合忍法・抜刀影風呂敷――」

 刀を抜くと、バサッと黒くて大きな布が出現し、狼の死体を包み込み回収した。

 やっぱり便利だなこれ。さて解体してもいいのだが、過去と素材の価値や扱われている部位が一緒とは限らないしな。

 だからとりあえず全部回収してみた。残りどれぐらい回収可能かもわかる。今ので五百キロ減ったから一匹辺り大体五十キロぐらいあったということか。

 それでも薬草ならまだまだ回収可能だ。それに――

「居合忍法・抜刀草刈り!」
 
 発生した風によって草が刈られていった。見てみるがやはりナイフで採取するより綺麗だし早い。薬草採取に実に向いている忍法だ。しかも薬学の知識のおかげで薬草の種類も手早くわかる。

 影風呂敷で十分量も入る。これならハイセレナ草を採取しても大丈夫そうだ。よし、どんどん採取していこう!





◇◆◇

「あぁ、戻ってたんだな。今日は案内してくれてありがとう」
「え? あれ? え~と、え?」

 仕事も終わり冒険者ギルドに戻ると親切に森まで案内してくれたカイルたちがいた。

 おかげで迷わずに済んだぞ。だから三人にしっかりお礼を言ったけど、何だろう? 
 頭に疑問符が浮かんだような顔してるが?

「その、何だろう。森から逃げてきたのかなー?」
「いや、森で薬草採取してきたのだが?」
「……そ、そうなのー?」

 カイルが小首をかしげていた。仲間の女の子二人も目をパチクリさせてるし。何だろう一体?

「あ、空いたみたいだから行くよ。それじゃあ」
「あ、ちょ!」

 よくわからないけど、俺に仕事をお願いしてくれた受付嬢のところが空いたから報告しに行く。

「言われたとおりの仕事をこなしてきた。見てもらっても?」
「あれ? 君は確かサムジャの……」
「あぁ、シノだ。仕事が終わったので報告しに来た」
「……そう。それで危険はなかった?」
「魔物には襲われたが、大丈夫だ。薬草も採取してきたしな」

 俺がそう答えると、へぇ、とちょっと感心したように受付嬢が俺を見てきた。

「しっかり魔物からは逃げたってことね。危険から身を守る術も初心者の冒険者には大切なことよ」
「え? いや、倒したぞ。魔物」

 俺がそう答えると、え? と受付嬢が目をパチクリさせた。

「倒したの? 魔物?」
「あぁ。何か問題あったか?」

 襲われたし、そのままじゃ依頼も達成出来ないから倒してしまったけどもしかしてまずかったのか?

「いえ、問題はないわ。そうね、あの辺りなら灰ネズミぐらいなら、ナイフ一本でも上手くやれば勝てないこともないし、そういうこともあるかもね」
「うん? 灰ネズミ……? 倒したのは狼だが?」
「狼? おかしいわね。あの辺りにそんな魔物は出ない筈だけど……」

 受付嬢が怪訝そうに俺を見てきた。う~ん、何か話が噛み合わないな――
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