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2巻

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 第1章 ドワーフとの因縁


 カルセル王国の宮廷から追放された俺、ワーク・ルフタ。
 魔導の技術を使う建築士――魔導建築士だった俺は、使い魔のブラウニー、ウニと一緒に国を出ると、海を渡ってとある島に流れ着いた。
 その島では、タンボ、マーボ、モグタ、マツオ、イッキという五匹のモグラの魔物たちに、カーバンクルのキャニといったもふもふな仲間が増えた。その後も、ゴーレムのルベルにスライムのキオン、そして島の竹の主である竹姫たけひめという名前の女の子も仲間になって、俺たちは島を開拓していた。
 そんなある日、ドワーフの姫であるエフと知り合った俺たちは、俺の使う道具を父であるドワーフ王に見せたいという彼女の頼みで、ドワーフの王国に向かっていた。
 移動手段は、魔導作業車。
 魔導建築の技術で生まれた、四つのタイヤと頑丈がんじょうな装甲の鉄の車体を持ち、魔力によって走行する機械だ。
 ドワーフの王国は山の方にあるので、平原を抜けて山を登っていく。
 途中でゴリラのような魔物の襲撃にあったけど、上手く追い払って俺たちは先を急いだ。
 すると、エフが感心したように声を上げた。

「山道でもすいすいなのね、この魔導作業車って」
「ああ、どんな悪路でも進めるようじゃないと、建築作業に支障をきたすからな」

 ドワーフの国までは、自然に出来た山道を使って向かっているが、当然舗装ほそうされていない。
 かなりの悪路だが、魔導作業車なら何の問題もなかった。
 そうして進むことしばらく――

「着いたわ。ここが私たちの暮らしている町よ」
「おお! 何か凄いな」
「山に穴が一杯開いているのじゃ」
「ウニッ!」
「ク~♪」

 魔導作業車から下りて、ドワーフの暮らしている町並みを見る。竹姫にウニ、キャニも興味津々きょうみしんしんといった様子だ。
 段々畑のようになっている山の斜面が利用されていて、畑なんかがある。
 そして何より特徴的なのは、斜面に掘られた横穴たちだった。

「モグ~」
「モギュ~」
「モグッ!」
「モグモグ」
「モ~グ~」

 人が出入りしているから、あの中が住居なのかな。穴掘り名人のモグラたちも、この造りには好感をもったようだ。

「キュピ~♪」
「ゴッ!」

 ルベルの肩の上にはキオンが乗っていて、ポンポンッと跳ねて町の様子を眺めている。

「原始的で驚いたでしょ? ちょっと恥ずかしいぐらいよ」
「いやいや、そんなことはないよ」

 苦笑交じりにエフが問いかけてきた。
 原始的か。確かに昔の人間は、洞窟を住まいとして利用していた。
 だからといって、そういう暮らし方が恥ずかしいとは思わない。俺は魔導建築士だが、しっかりとした建物を造って暮らすべきだ! なんて考えを押し付けるつもりもないしね。
 イメージしているドワーフの暮らしとはちょっと違ったけど、こういう暮らしもいいと思う。

「いいのよ、ハッキリ言ってくれても。私だって、いい加減ちゃんとした家の一つでも造ってほしいと思ってるもの」

 ただ、エフはどこかうんざりしたような口調で言った。そして文句は続く。

「大体パパもそうだけど、うちのドワーフ連中は剣とかよろいとかそんなのばっかり打ってて、生活に役立つ物なんて何一つ造ってくれないのよ」

 口調に段々と熱がこもってきたな。
 しかしエフの話を聞いてると、ドワーフは好きで穴の中で暮らしているってわけじゃないのか。
 確かに、例えばエルフなんかは自然と共存している種族だから、わざわざ木々を伐採ばっさいして家を造ったりはしない。エルフは精霊と意思疎通いしそつうできるため、精霊を通して森の樹木と会話し、そこにうろを作って住処とするんだ。
 そんな自然を大切にする種族だから、かつては木々を伐採して家を造る人間に嫌悪感けんおかんを持っていたらしい。今は時代が変わり、互いを尊重できるようになっている。
 それはそれとして、ドワーフはそういったエルフとは対照的という印象があったんだけどな。
 物作りが好きな種族だから、本来家なんかも自分で造れるはずだ。だから洞窟で暮らしているのは好きでやってるのかと思ったのだが、エフの口調では違うようだ。

「そこまでして造りたい装備品があるってことなのかな?」

 俺はふと、そう思った。装備品にこだわりがあって、建物を造るひまがないとかだろうか。

「どうかな? ただ意固地いこじになってるだけって気もするんだけどね」

 エフがマツオを抱きかかえながら言った。理由は彼女も知らないようだな。

「とにかく、話は聞いてみようかな」
「ならこっちよ」
「中はどうなってるのかのう?」

 竹姫は洞窟暮らしに興味津々なようだ。エフの案内で、俺たちは坂を登っていく。

「姫様! どこに行ってたのよ! 心配したのよ!」

 すると穴から出てきた女の子が、目を見開きながら声をかけてきた。姫様とはエフのことだろう。

「ごめんね。ちょっと気になることがあって出てたの。そうそう、こっちの皆は昨日知り合ったお客さん」
「え? お客、て、え? うそ? もしかして人間!?」

 出てきた女の子は、エフの後ろにいた俺たちを見て驚いている。しかし、この人もエフ同様に幼く見えるな。

「わしは竹姫じゃ!」
「た、竹姫……?」

 竹姫が前に出て、やってきたドワーフに名前を告げた。相手は若干戸惑ってるようだな。
 そんな彼女に、エフが説明する。

「そこのワークは、カルセル王国から海を渡って来たんだって。それでね、パパに会ってもらおうと思って」
「随分急な話ね……それにカルセル王国? 何か聞いたことあるような……」

 ドワーフの彼女が頭をひねる。エフもそうだったけど、国の名前には聞き覚えがあるようだ。

「とにかく悪い人じゃないから安心して」
「姫様がそう言うなら……でもジェイ王は何て言うかしらね」
「ま、パパには私からなんとか言うわ」

 そして俺たちは、ドワーフの彼女と別れて王のもとへ向かうことになった。

「エフの友だちだったのかな?」

 道中、エフにさっきの女性について聞いてみた。随分と親しげだったよな。

「友だちって、まぁ仲はいいけど、あの人私よりずっと年齢は上よ」

 そうだったのか。見た目からは年の差が全くわからないな。

「随分心配されていたけど、エフは俺たちのところへ来るのを誰にも言ってなかったのか?」
「ええ。水をみに山を降りた時に、貴方たちのとりでをたまたま見つけただけだったから」

 そんな話をしながら、エフの案内で横穴を進む。
 うん。なんか普通に洞窟って感じだな。この中が住居兼王の工房になってるらしいけど……さて、一体どんなドワーフなのか。さっきから遠くの方で、高い音が聞こえるんだよな。
 それにしても、中は随分と蒸し暑いな。やっぱり近くにがあるからなんだろうか?

「むぅ、とっても暑いのじゃ! キオンがひんやり気持ちいいのじゃ~」
「キュピ~」
「ウニュ~」
「「「「「モグッ、モギュッ、モ~グ~、モグ~、モグモグ」」」」」

 この暑さには竹姫も参っているようで、キオンを抱きかかえて暑さをやわらげようとしている。
 ウニもキオンに寄り添う。モグラたちもグテ~ッとしていた。やはりキオンの冷たさに救われているようだ。

「ルベルとキャニは大丈夫か?」
「ゴッ!」
「ク~」

 どうやら大丈夫みたいだな。キャニも意外と暑さには強いようだ。障壁を張れるから、もしかしたらそれで熱を通さないようにしているのかもしれない。
 俺はといえば、現場によってはもっと暑い場所で作業することもあるから、これぐらい問題ない。
 そうして奥に行くにつれ、次第にカーンカーンカーンという金属音が大きくなってきた。
 そのまま進むと、大きく開けた空間に出た。そこではドワーフたちが一心不乱に鉄を打っている。
 赤く染まった鉄を打つドワーフの目は鋭い。ドワーフのおとこたちのムンッとした熱気で鍛冶場全体がかすみがかっている程だ。

「パパ、ちょっといい?」

 ――カーン! カーン! カーン!
 エフは上半身裸のドワーフに声をけた。パパと言っているから、この人がジェイというドワーフの王なのだろう。
 背は他のドワーフと一緒で低いが、筋肉量が他を圧倒していた。目付きも魔獣のごとく鋭い。
 鉄を打っては掲げて、出来を確認している。形状を見るに剣を造っているのか。
 う~ん、でもあれって……

「ねぇパパってば! 聞いてるの!」
「……何だまったく、うるさい奴だ。こっちは仕事中だぞ」

 エフが何度も呼びかけて、ようやくジェイが反応する。

「だから一体何の仕事なのよ……」
「女にはわからんことだ」
「年がら年中鉄を打って、失敗したといって捨てるだけの作業の何が仕事なのよ」

 エフが胸の前で腕を組み、口をへの字に結んだ。それから指を立ててジェイに用件を告げる。

「とにかく、お客さんが来てるから一旦手を止めて話を聞いてよ」
「――客だと?」

 ジェイは振り上げたつちを止め、ギロリと俺を睨んでくる。
 そしておもむろに立ち上がり、隣に積んであった巨大な鉄鉱石を俺の足もとに投げつけてきた。

「打ってみろ。鉄も打てないような奴に娘はやらんからな」
やぶからぼうに何言ってるのよパパ! バッカじゃないの!」

 エフが顔を真っ赤にして叫んだ。い、いきなり盛大な勘違いだな。

「むっ、貴様、人間だな?」

 するとジェイの眉が上がり、いぶかしげにこっちを見ながら聞いてきた。

「え? はい。そうです。初めまして、ワークと申します」

 なので俺も、相手は王だから失礼のないように、そう答えた。

「ふん。人間がドワーフ様の娘に手を出そうとはいい度胸じゃねぇか。いいか? 俺は人間なんかに娘をやる気はねぇ!」
「だからやるとかやらないとか、そっから離れてよ馬鹿!」

 エフがジェイの背中をぽかぽかとたたきながら訴える。とんだ勘違いではあるけど、なんか可愛い。

「何だ、男を捕まえてきたんじゃないのか?」
「違うって言ってるでしょう!」
「だったらお前は何だ? 何で人間がこの島にいる」

 ジェイは仁王立におうだちになり、ギラギラしたひとみを俺に向けてきた。エフと違って人間への警戒心が強そうだな……

「えっと、実は事情があって」
「待て――そこにいるのはブラウニーだな?」
「ウニッ?」

 ジェイは俺を手で制し、すぐ横にいたウニに注目した。

「この子はウニなのじゃ!」
「うん? 人間の子どももいたのか?」

 そしてウニを抱き上げ、竹姫が会話に加わった。

「人ではない! わしは竹姫なのじゃ!」
「竹姫?」

 ジェイは目をパチクリさせている。

「だから、まずは説明を聞いてってば」

 眉を寄せながらエフが言い聞かせるように告げると、ジェイは鼻を鳴らし答える。

「……ふん。仕方ない。こっちは忙しいんだが、ちょっとだけ時間を割いてやろう」

 よかった、話を聞いてもらえるみたいだ。しかし、エフは父親らしいこともしてくれなかったと言っていたけど、さっきの会話を聞いてるとエフのことを父親として気にかけているみたいだよな。
 ただ、やはりうわさ通りドワーフは気難しそうだ。しっかり話ができるかどうか。
 まずはエフが俺たちについて簡単に説明してくれる。

「――ふむ。つまりお前はカルセル王国から来たということか」

 ジェイがジロリと俺を見る。値踏みするような目付きだ。

「……しかし、まさかあの国からこの島にやってくる者がいるとはな」
「カルセル王国を知っているのですか?」
「俺の親父は元々カルセル王国で鍛冶師をやっていたからな」

 ジェイが答える。それは驚きだ。

「凄い偶然じゃない。それならパパも仲良くしてあげてよ」
「は? ふざけるな! なんで俺がカルセルの人間と仲良くなんざ。馬鹿も休み休み言え」

 エフが笑顔で告げるが、ムスッとした顔でジェイが答える。どうやらカルセル王国そのものが嫌われているようだ。

「あの、王国と過去に何かあったのですか?」
「そんなことをわざわざてめえに聞かせる義理はねぇ」

 おいおい、取り付く島もないな。なまじ出身国の名前を出してしまったせいか、より意固地になってしまった気がする。

「もう。そんなこと言わないでよ。何があったか知らないけど、そこの出身ってだけじゃない」

 エフが両腕を組んで口をへの字にした。ジェイの方は、ふんっ、と鼻を鳴らし俺に背中を向ける。

「とにかくそういうことなら話すことはなにもない。とっととけぇれ」

 そして鎚を振り上げる。どうやらもう話す気は失せたようだ。

「いい加減にしてよ! 大体その作業だって、いつも失敗ばかりして横に積んであるのもその成れの果てでしょう!」

 エフが怒鳴った。ジェイが作業している辺りには鎧や盾、剣などが無造作に積み上げられていたが、あれは全て廃棄する予定の失敗作ってことか。

「だから私はワークを連れてきたのよ! 彼、凄いんだから! 魔導建築士と言ってね。砦や壁もあっという間に作れちゃう凄腕なのよ!」
「何!? 魔導建築士だと!」

 エフの話を聞いた途端、ジェイが鎚を振る手を止めて、弾かれたように俺を振り返る。

「つまり貴様はカルセル王国からやってきた魔導建築士だというのか!」
「は、はいそうですが――」

 ジェイはクワッ! と両目を見開くと、顔を真っ赤にして、積み上げられていた鎧を掴み投げつけてきた。地面に当たって明後日の方向に跳ね返ったが、いきなりの行動に皆驚く。

「ウニィ!?」
「「「「「モ~グ~!」」」」」
「お主、いきなり何をするのじゃ! あぶないじゃろう!」

 竹姫たちが抗議の声を上げた。
 当たりこそしなかったが鉄の鎧だ。もし命中していれば大怪我していたかもしれない。

流石さすがに今のは危ないだろう! 皆に当たったらどうするんだ!」

 俺もたまらず文句を言った。だが、謝るどころかジェイは怒りを露わに怒鳴り返す。

「うるせぇ! こっちは魔導建築士と聞くだけでムカムカしてたまんねぇんだ! とっとと神聖な工房から出て行け! ぶっ飛ばすぞ!」
「パパ、何馬鹿なことを言ってるのよ!」
「うるせぇ! テメェもこんなのと付き合うのは今すぐ止めろ! そうでないならこの町から出て行け!」
「なッ! わかったわよ。だったら出て行くわよ、このわからず屋!」

 そしてエフは「行こう、ワーク!」と促してきた。
 それにしてもなんて剣幕だ。他のドワーフもジェイの憤慨ふんがいぶりに作業を止めてこっちを見ていた。
 今も興奮して鼻息が荒い。このままじゃ話にならないし、またその辺の物を投げつけられる可能性がある。

「……わかりました。この場は出ていきます。だけど、あんたも鍛冶師の端くれなら、自分の作った物を投げつけるなんて恥ずかしい真似はやめるんだな」
「な、何だと! てめぇ、わかったふうなことを!」

 ジェイの怒鳴る声が聞こえたが、俺は無視してエフを追いかけるようにその場を後にした。

「全くもう! あの意固地! 頑固者! 偏屈へんくつドワーフ!」

 工房から離れてから、エフの口からはジェイの文句ばかりが出ていた。かなりご立腹の様子だな。

「むぅ、それにしても何なのだ? なぜにワークの職業を聞いただけであそこまで怒るのじゃ?」
「竹姫もそう思うか……俺個人ではなくて、魔導建築士という職業を毛嫌いしている様子だった」
「わかんないけど、どうせ子どもっぽい理由よ!」

 う~ん、エフはすっかりジェイに不信感を抱いてしまったようだ。勿論もちろん俺も、いきなり切れられていい気はしないが、親子の仲がこじれてしまうのを見ると複雑な気分だ。

「あら、どうしたんだいエフちゃん。随分とご機嫌斜めじゃないか」
「あ、ステンおばあちゃん!」

 怒りが収まらないエフと歩いていると、正面からやってきた女性が声を掛けてきた。
 それにエフが応じていたけど……お、おばあちゃん? 全くそうは見えないな。他の女性と一緒で、見た目はとても幼い。

「エフのお婆様ばあさまなのかのう?」

 竹姫がエフに聞いた。彼女も気になったのだろう。

「ううん。そういうわけじゃなくて、うちでは年長者だから皆からおばあちゃんと呼ばれて親しまれてるのよ。こう見えてパパより大分上だし」

 そ、そうなのか。本当にドワーフは年齢がわからないな。
 そう困惑していると、ステンがエフにたずねた。

「それで? そんなユッサユッサして一体どうしたんだい?」
「それが……って、なぜユッサユッサ!」
「いや本当。エフちゃんはいつみてもだねぇ。ドワーフの女は極端に大きいか極端に小さいかのどちらかだからねぇ。あたしゃうらやましいよ」

 そう言ってアッハッハ、と笑ってみせた。おばあちゃんとは思えない可愛らしさだけど、確かに胸はエフと比べるまでもないな。

「おっと、ついおっぱいに目が行っちゃったねぇ。それでどうしたんだい?」
「うん。パパがね、わからずやなの! もう本当偏屈!」
「おやおや。あんたら親子は本当よく衝突しょうとつするねぇ。だけど、今回はもしかしてそちらのお客さんにも関係してるのかねぇ?」

 ちらりと視線を向けられたので、俺は挨拶あいさつしようとする。

「あ、申し遅れました。私は――」
「あぁ、いいってそういうのは。人間が来たってのは既に噂にはなってたけどねぇ。私も前の国にいた時は、人間とはよく話したさ。とにかく普通にしゃべってくれたらいいよ」

 前に出した手を上下させながらステンがそう促した。ならまぁ、お言葉に甘えるとしようかな。

「俺はワークと言って、カルセル王国から来た魔導建築士なんだ」
「こりゃ驚いたね。カルセル王国、しかも魔導建築士ときたかい」

 目を丸くするステンに、エフが尋ねる。

「おばあちゃん、もしかして何か知ってるの? パパがそれで急に怒り出して追い出されたのよ。私にも、ワークと付き合うならもう出て行けって! 本当信じられない!」

 思い出したのか、エフがまた不機嫌になった。

「なるほどね。まったく、親子揃って頑固というか馬鹿というか」

 えっと、頑固と馬鹿はちょっと意味合いが違ってくるような……ただこの口調だと、何か知ってそうではあるな。聞いてみるか。

「その、ステンさんは王がなぜ怒ったのかわかるのかな? よかったら聞かせてくれるとうれしいんだけど」
「そうさね。あんなことで親子の仲が気まずくなるのも、折角やってきてくれた人間と反目するのも馬鹿げてるしねぇ。いいさ、教えてあげるよ。ま、立ち話も何だからうちに来な」

 そして俺たちはステンの家へと案内された。家と言ってもたくさん開いた横穴の一つでもある。

「ま、今茶でもいれるさ」

 ステンは洞窟内の出っ張った岩に、金属のケトルを置いた。特に魔法や道具を使ってる様子はなかったのだが、しばらくしてケトルの口から湯気がてくる。

「ウニィ~」
「「「「「モグ~モグ~」」」」」
「キュピ~」
「ク~」
「ゴッ!」
「あはは、これに興味あるのかい? こんなのは魔導建築士が作るような道具に比べたら玩具おもちゃみたいなもんだろうさ」

 興味津々きょうみしんしんな様子の使い魔たちにステンはそう言うが、俺は首を横に振る。

「いやいや。だけど、よく考えられてるな。この近辺は温度が高い。恐らく火山の熱を利用してるんだと思うけど、その出っ張った部分は熱が集中していて熱くなってるのでは?」
「流石だね。だから触ったら駄目だよ。危ないからね」

 そう言ってお茶をれてくれた。
 壁に熱源があるからか、洞窟内もかなり暑いのだが、湿度は低いからかカラッとはしている。
 お茶を飲み終えると、不思議と暑さがやわらいだ。竹姫が満足げにうなずく。

「うむ。旨い茶なのじゃ!」
「はは、喜んでくれたなら何よりだよ。さて、落ち着いたところでさっきの話だけどね」

 ステンが話を切り出してくれたので、俺たちも聞く態勢に入った。


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