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第2章 球技を扱う冒険者編
第55話 理想のキューを求めて――
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「でも、そのキューというのはどうすれば手に入るんだ?」
「キューに必要なのは木だ。だがただの木では球技を極める最高のキューは作れないだろう」
ハスラーの質問にキングが答える。そのうえで一考し。
「ウィン。エルフの暮らす森は自然に溢れた場所と聞く。もしかして質の良い木もあったりするだろうか?」
「そうね。確かにエルフの森なら植物も豊富で最高の樹木があると思うわ! でも、そのエルフから許可が出るかは別問題で」
ウィンの声が途中からしぼんでいく。ウィンも今は森を追放された身だけに自身を持って用意できると言えないのだろう。
「どちらにせよ俺達は近々エルフの暮らすブローニュ大森林に向かう。そのときにでも手に入れられないか色々と模索してみるよ」
「ちょっと待った! そうと聞いたら僕だって黙ってられないよ! 一緒に行くよ! そのエルフの森に!」
「え? でもいいのか? それなりに時間はかかると思うぞ。ハスラーにも冒険者としての仕事があるんじゃないか?」
キングが気にかける。ハスラーは今をときめくB級冒険者だ。ギルドからの信頼も厚く仕事も多いことだろう。
「問題ないさ。丁度依頼も全て片付いて手が空いたところだし、その撞球というのを取得するにはキングと一緒にいた方が良さそうだしな」
「ふむ。しかし俺は道具を使う球技は専門外だから、どこまで役立つかはわからないぞ」
「でも、その球技の基本はわかってるだろう? だから旅の途中にでもその辺り教えてくれよ」
「ふむ。わかった。それで役立てるなら」
「決まりだな」
こうして話が決まり、冒険者ギルドに挨拶を済ませ必要な物を手に入れた後、ギルドから許可証も出た為、彼らはいよいよ町を出た。
「何かお土産に色々依頼を受けちゃったわね」
「ま、それぐらいじゃないとギルドの受付嬢なんてやってられないのかもな。そういうところも僕は好きなんだけどね」
ニヒヒとハスラーが笑う。そういえば最初はハスラーにダーテのこともあって話しかけられたんだったなとキングも思い出した。
「キュッキュ~♪」
「ボールもご機嫌ね」
「ボールは外に出るのが好きみたいだからな」
「スライムが珍しいよな。本来スライムは最弱の部類のモンスターなのに」
後ろに手を回しながらハスラーが言う。確かにだからこそ本来スライムはあまり誰も寄り付かないようなジメッとした場所を好みひっそりと暮らしている。
「ボールはどこか不思議な力を感じる。もしかしたらこの球技とやらの化身なのかもしれない」
「球技の化身! それは凄いな。だったら僕にもその球技の秘訣を伝授してくれよ」
「キュ~?」
ハスラーがボールを抱きかかえ問いかけるが、ボールは不思議そうに頭の上に?マークを描くだけだった。
「さてこっちだったな」
「それにしても川から船でいくとはね」
「馬車よりもそっちの方が早いのよね」
ブローニュ大森林まではまともに行くと険阻な山を幾つか越える必要がある。しかし川ルートならそれもだいぶ短縮出来る形だ。それでも途中で舟からおりてさらに徒歩で五日は掛かる為、宿場を一つ挟むことになるが。
「三人だね毎度」
船代を払い細長い川専用の船に乗り込んだ。細長い櫂を利用して器用に船頭が船を漕ぎ始める。船には他に客の姿はなかった。
「お客さん達仲良くどこまでだい?」
「一旦テニーヌで降りてそこからブローニュ大森林を目指すんです」
「そりゃ大変だ! しかし見たところあんたら冒険者かい?」
「わかるかい?」
「はは。なんとなくね。そうかそう言えば君はエルフだね。だからか。里帰りか何かかい?」
ブローニュ大森林でエルフが暮らしているのはわりと有名な話だ。だから彼も聞いたのだろうがウィンは微妙そうな顔を見せていた。
「まぁ、エルフに用事があるのは確かだな」
「キュッキュ~」
「そうかい。それにしてもやっぱりエルフってのはべっぴんさんだねぇ。エルフってのは嬢ちゃんみたいに皆綺麗なのかい?」
「フェっ! き、綺麗。わ、私が――」
頬に手を当ててウィンが頬を真っ赤に染めた。キングは微笑ましそうな顔でそのやり取りを見ていた。
「見た目に騙されちゃ駄目だぜ。かなり気が強いんだから。エルフっていうのはもっと淑やかなイメージがあったけどおかげで認識を改めた」
「ちょ、何よそれ!」
ハスラーがからかうように言うとウィンが頬をぷくぅっと膨らませた。ころころ表情が変わる姿を見ていて面白いのかキングも笑顔だった。
こうして中々愉快な会話を交わしながら船は進んでいく。
その時だった。
「ゲコォォオォォォォオォオオ!」
巨大なカエルのモンスターが船の進行方向上に飛び出してきた。川が完全に防がれてしまう。
「な! ジャイアントキングフロッガーが! まずい! あんたら一旦戻るから少し遅れ――」
「フンッ!」
――ドゴオォォォォォォン!
川幅一杯の大きさを誇る巨大なカエルに船頭が慄くが、キングがボールをシュートし見事ジャイアントキングフロッガーを討伐した。
「ふぇ~こんな足場の悪いところでよくそんな事出来るな」
「本当凄い」
「いやいや凄いなんてもんじゃないよ! なんだ今の! スライムを従魔にしてるなんて珍しいと思ったけどそのスライムも何か蹴ったりして一体なにがあったんだい!」
「ふむ。ボールはともだちでな」
「キュ~♪」
「いや友達って……だから今蹴ったよね?」
ボールの頭を撫でながら答えるキングだが船頭は目を点にさせていた。もっともボールはそれを気にしないし互いに信頼関係が築けているからこそ出来るのも確かだった。
「ところでこの上、よく考えると練習に良いな。うむバランス感覚を鍛えられる。良かったらつくまで練習していいかな?」
「へ? 練習?」
「へぇ! それが球技の基本なんだね。だったら僕も!」
「な、なら私も!」
「キュ~!」
「あんたら一体なんなんだい!?」
こうして船の上は彼らにとって良い練習所と化した。尤も船頭はだいぶ戸惑っていたが――
「キューに必要なのは木だ。だがただの木では球技を極める最高のキューは作れないだろう」
ハスラーの質問にキングが答える。そのうえで一考し。
「ウィン。エルフの暮らす森は自然に溢れた場所と聞く。もしかして質の良い木もあったりするだろうか?」
「そうね。確かにエルフの森なら植物も豊富で最高の樹木があると思うわ! でも、そのエルフから許可が出るかは別問題で」
ウィンの声が途中からしぼんでいく。ウィンも今は森を追放された身だけに自身を持って用意できると言えないのだろう。
「どちらにせよ俺達は近々エルフの暮らすブローニュ大森林に向かう。そのときにでも手に入れられないか色々と模索してみるよ」
「ちょっと待った! そうと聞いたら僕だって黙ってられないよ! 一緒に行くよ! そのエルフの森に!」
「え? でもいいのか? それなりに時間はかかると思うぞ。ハスラーにも冒険者としての仕事があるんじゃないか?」
キングが気にかける。ハスラーは今をときめくB級冒険者だ。ギルドからの信頼も厚く仕事も多いことだろう。
「問題ないさ。丁度依頼も全て片付いて手が空いたところだし、その撞球というのを取得するにはキングと一緒にいた方が良さそうだしな」
「ふむ。しかし俺は道具を使う球技は専門外だから、どこまで役立つかはわからないぞ」
「でも、その球技の基本はわかってるだろう? だから旅の途中にでもその辺り教えてくれよ」
「ふむ。わかった。それで役立てるなら」
「決まりだな」
こうして話が決まり、冒険者ギルドに挨拶を済ませ必要な物を手に入れた後、ギルドから許可証も出た為、彼らはいよいよ町を出た。
「何かお土産に色々依頼を受けちゃったわね」
「ま、それぐらいじゃないとギルドの受付嬢なんてやってられないのかもな。そういうところも僕は好きなんだけどね」
ニヒヒとハスラーが笑う。そういえば最初はハスラーにダーテのこともあって話しかけられたんだったなとキングも思い出した。
「キュッキュ~♪」
「ボールもご機嫌ね」
「ボールは外に出るのが好きみたいだからな」
「スライムが珍しいよな。本来スライムは最弱の部類のモンスターなのに」
後ろに手を回しながらハスラーが言う。確かにだからこそ本来スライムはあまり誰も寄り付かないようなジメッとした場所を好みひっそりと暮らしている。
「ボールはどこか不思議な力を感じる。もしかしたらこの球技とやらの化身なのかもしれない」
「球技の化身! それは凄いな。だったら僕にもその球技の秘訣を伝授してくれよ」
「キュ~?」
ハスラーがボールを抱きかかえ問いかけるが、ボールは不思議そうに頭の上に?マークを描くだけだった。
「さてこっちだったな」
「それにしても川から船でいくとはね」
「馬車よりもそっちの方が早いのよね」
ブローニュ大森林まではまともに行くと険阻な山を幾つか越える必要がある。しかし川ルートならそれもだいぶ短縮出来る形だ。それでも途中で舟からおりてさらに徒歩で五日は掛かる為、宿場を一つ挟むことになるが。
「三人だね毎度」
船代を払い細長い川専用の船に乗り込んだ。細長い櫂を利用して器用に船頭が船を漕ぎ始める。船には他に客の姿はなかった。
「お客さん達仲良くどこまでだい?」
「一旦テニーヌで降りてそこからブローニュ大森林を目指すんです」
「そりゃ大変だ! しかし見たところあんたら冒険者かい?」
「わかるかい?」
「はは。なんとなくね。そうかそう言えば君はエルフだね。だからか。里帰りか何かかい?」
ブローニュ大森林でエルフが暮らしているのはわりと有名な話だ。だから彼も聞いたのだろうがウィンは微妙そうな顔を見せていた。
「まぁ、エルフに用事があるのは確かだな」
「キュッキュ~」
「そうかい。それにしてもやっぱりエルフってのはべっぴんさんだねぇ。エルフってのは嬢ちゃんみたいに皆綺麗なのかい?」
「フェっ! き、綺麗。わ、私が――」
頬に手を当ててウィンが頬を真っ赤に染めた。キングは微笑ましそうな顔でそのやり取りを見ていた。
「見た目に騙されちゃ駄目だぜ。かなり気が強いんだから。エルフっていうのはもっと淑やかなイメージがあったけどおかげで認識を改めた」
「ちょ、何よそれ!」
ハスラーがからかうように言うとウィンが頬をぷくぅっと膨らませた。ころころ表情が変わる姿を見ていて面白いのかキングも笑顔だった。
こうして中々愉快な会話を交わしながら船は進んでいく。
その時だった。
「ゲコォォオォォォォオォオオ!」
巨大なカエルのモンスターが船の進行方向上に飛び出してきた。川が完全に防がれてしまう。
「な! ジャイアントキングフロッガーが! まずい! あんたら一旦戻るから少し遅れ――」
「フンッ!」
――ドゴオォォォォォォン!
川幅一杯の大きさを誇る巨大なカエルに船頭が慄くが、キングがボールをシュートし見事ジャイアントキングフロッガーを討伐した。
「ふぇ~こんな足場の悪いところでよくそんな事出来るな」
「本当凄い」
「いやいや凄いなんてもんじゃないよ! なんだ今の! スライムを従魔にしてるなんて珍しいと思ったけどそのスライムも何か蹴ったりして一体なにがあったんだい!」
「ふむ。ボールはともだちでな」
「キュ~♪」
「いや友達って……だから今蹴ったよね?」
ボールの頭を撫でながら答えるキングだが船頭は目を点にさせていた。もっともボールはそれを気にしないし互いに信頼関係が築けているからこそ出来るのも確かだった。
「ところでこの上、よく考えると練習に良いな。うむバランス感覚を鍛えられる。良かったらつくまで練習していいかな?」
「へ? 練習?」
「へぇ! それが球技の基本なんだね。だったら僕も!」
「な、なら私も!」
「キュ~!」
「あんたら一体なんなんだい!?」
こうして船の上は彼らにとって良い練習所と化した。尤も船頭はだいぶ戸惑っていたが――
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