49 / 90
第2章 球技を扱う冒険者編
第44話 ラケットの完成?
しおりを挟む
ラケットの試作品が出来たと言うのでキングとウィンは作業場に向かってみた。
「これがラケットの試作品壱号だ」
そしてスミスが手にラケットを持ってやってくる。ウィンとキングはそれをマジマジと見た。形は確かにラケットそのものだ。
柄に当たるシャフトと楕円形のヘッドで構成されヘッドとシャフトの間にはスロートと呼ばれるつなぎ目がある。そしてヘッドにはガットと呼ばれる物も格子状に張り巡らされていた。
見た目にはかなりスポ根マンガのソレに近い。ただドワーフが作った故がその全ては金属製だ。
「とりあえず試作品は全て魔法鉄で作成した。エルフは普通の鉄には忌避感を抱くようだが魔法鉄なら幾分かマシだろ?」
「え、えぇ、まぁ。これなら多少は……」
そしてウィンはスミスが作成したラケットを手渡してもらう。キングはその時ウィンの眉が狭まるのを感じた。
「どうだ?」
「そ、そうね。悪くないわ」
「振ってみたらどうだ?」
「うん、そうだね」
そしてウィンはその場でラケットを試し振りしてみる。初めて振るラケットの筈だが格好だけ見れば中々様になっていた。
「ふむ、どうせなら試し打ちしてみたいと思うんだが、どこかあるかい?」
「ならこっちに来るといい。試し切り用の木偶がある。それでも目的は達成できるだろう」
スミスに案内されキングとウィンは裏口から一旦工房の外に出た。そこには確かに金属製の木偶が設置されている。
かなり頑丈そうだ。これならそう簡単に壊れることもないだろう。
「この木偶に打ってみるといいさ。しかし、これで一体何が出来るんだ? 作ってみて思ったがただの杖じゃないんだよな?」
スミスも当初はラケットを杖だと考えていたが、自らの手で作成したことで少し違和感を覚えていたようだった。
「確かに普通の杖とはちょっと違うかもだが、ボール」
「キュ~」
キングが語りかけると、察したようにボールの体が分裂し、もう1匹ボールが増えた。増えたボールはピョンピョンっと飛び跳ねウィンの肩に乗った。
「あは、可愛い」
「キュ~♪」
ウィンに撫でられ分裂したボールも嬉しそうである。
「ふむ、分裂するスライムはいると聞いたことがあるが、普通はその場合小さくなっていく筈なんだがな」
2匹に増えたボールを見てスミスが首を傾げた。どうやらボールはスミスからみても変わった存在らしい。
キングにとってはもう掛け替えのない友だちであり、そういうものだと納得しているが。
「ではボール頼んだ」
「キュ~!」
キングの言葉を受け、ウィンの肩に乗ったボールが姿を変え、漫画で見たようなテニスボールと化した。
「ウィン、そのボールをラケットで打ってみるんだ」
「で、でも本当に大丈夫?」
ウィンが心配そうに細い眉を顰める。今までキングの姿は見てきたがやはり自分でやるとなると戸惑いを覚えるようだ。
「キュッ、キュ~!」
「ボールも大丈夫だと言っている。俺だってこれまでさんざん蹴ったり投げたり叩いたりしていたわけだしな」
「う~む、それだけ聞いているととんでもない飼い主に聞こえるな」
「キュッ、キュッキュ~!」
「いや、悪気はないんだ。わかってるってキングがそんな奴じゃないのは」
思わず出たのであろうスミスのセリフにボールが抗議した。それほどまでにボールはキングに懐いている。
「まぁとにかくキングがこう言ってるんだから躊躇しないでやってみるんだな。よくわからんが、それをしないとお前、使い物にならないんだろう?」
「う、うっさいわね!」
ガルルと歯牙をむき出しに吠えるウィンだが、このままではどうしようもないのは理解しているようだ。覚悟を決めたのか漫画で見た通りの構えをし、変化したテニスボールを手にとった。
「い、いくわよ!」
そしてウィンはボールを頭上に向けて投げ、そして落ちてきたボールをラケットで打った。
「ナイスショット!」
「なんだそれ?」
「いや、本では打ったらこう言っていたんだ」
「そうなのか。変わってるな」
スミスにはいまいち理解できないことのようだ。そしてウィンの打った球だが、見事に木偶に当たった。初めてとは思えないほど上手くいったものだ。
「どう! どうかなキング?」
「う、うむ、その、なんだ、上手く打てていたと思うが……」
「何よ? 何か歯切れが悪いわね」
「いや、そのなんだ。今のだとただボールを打っただけだなと」
「あぁ、確かにそうだな。ラケットという杖でボールを打っただけだ」
「うん、そうね……あ!」
そこまで話してようやくウィンも気がついたようだ。
「私、魔法使ってない!」
「そうだな……」
「キュ~……」
そう、ウィンはまさにただラケットで球を打っただけなので当初の目的が成し遂げられていない。
「う~ん、でもこれで魔法ってどうしたらいいんだろう?」
「それはおそらくこの本にヒントがあると思うぞ」
キングがあの本、テニスの魔王様を取り出して見せた。ウィンは改めて漫画を読むが。
「そうか! ラケットを通して魔法を行使するのね!」
どうやらウィンは漫画から何かを掴み取ったようだ。そして改めてラケットを構え、ラケットに精霊の力を込めた。
「ほう、ラケットに風が」
「キュ~!」
すると、ウィンのラケットにまとわりつくように風が現出、その状態でウィンがラケットを振るとガットに当たったボールにも風が纏われ、ビュオン! という風切り音を奏でながら木偶に球が吸い込まれていった。
「やったわ! 見たキング? 精霊の力が暴走せず発動した、私魔法が使えたの!」
「あぁ、おめでとうウィン」
「……ふむ」
「ありがとう! よし、この調子で次は!」
そしてウィンは今度はテニスボールに火を纏わせて木偶へ打ち込んだ。見事に命中し、今度は土、雷と続けていく。
「凄いわキング、全く暴走しない。完璧よ」
「うむ、確かに暴走はしてないが……ウィンは本当にそれで満足か?」
何球かうち終わりウィンは満足げに戻ってきてキングに感想を告げた。だが、キングにはどこか思うところがあったようであり。
「え? うん、私はこれでも十分だと思うけど……」
「いや、駄目だなこりゃ」
「キュッ!?」
そしてダメ押しするようにスミス自らがそんなことを口にするのだった――
「これがラケットの試作品壱号だ」
そしてスミスが手にラケットを持ってやってくる。ウィンとキングはそれをマジマジと見た。形は確かにラケットそのものだ。
柄に当たるシャフトと楕円形のヘッドで構成されヘッドとシャフトの間にはスロートと呼ばれるつなぎ目がある。そしてヘッドにはガットと呼ばれる物も格子状に張り巡らされていた。
見た目にはかなりスポ根マンガのソレに近い。ただドワーフが作った故がその全ては金属製だ。
「とりあえず試作品は全て魔法鉄で作成した。エルフは普通の鉄には忌避感を抱くようだが魔法鉄なら幾分かマシだろ?」
「え、えぇ、まぁ。これなら多少は……」
そしてウィンはスミスが作成したラケットを手渡してもらう。キングはその時ウィンの眉が狭まるのを感じた。
「どうだ?」
「そ、そうね。悪くないわ」
「振ってみたらどうだ?」
「うん、そうだね」
そしてウィンはその場でラケットを試し振りしてみる。初めて振るラケットの筈だが格好だけ見れば中々様になっていた。
「ふむ、どうせなら試し打ちしてみたいと思うんだが、どこかあるかい?」
「ならこっちに来るといい。試し切り用の木偶がある。それでも目的は達成できるだろう」
スミスに案内されキングとウィンは裏口から一旦工房の外に出た。そこには確かに金属製の木偶が設置されている。
かなり頑丈そうだ。これならそう簡単に壊れることもないだろう。
「この木偶に打ってみるといいさ。しかし、これで一体何が出来るんだ? 作ってみて思ったがただの杖じゃないんだよな?」
スミスも当初はラケットを杖だと考えていたが、自らの手で作成したことで少し違和感を覚えていたようだった。
「確かに普通の杖とはちょっと違うかもだが、ボール」
「キュ~」
キングが語りかけると、察したようにボールの体が分裂し、もう1匹ボールが増えた。増えたボールはピョンピョンっと飛び跳ねウィンの肩に乗った。
「あは、可愛い」
「キュ~♪」
ウィンに撫でられ分裂したボールも嬉しそうである。
「ふむ、分裂するスライムはいると聞いたことがあるが、普通はその場合小さくなっていく筈なんだがな」
2匹に増えたボールを見てスミスが首を傾げた。どうやらボールはスミスからみても変わった存在らしい。
キングにとってはもう掛け替えのない友だちであり、そういうものだと納得しているが。
「ではボール頼んだ」
「キュ~!」
キングの言葉を受け、ウィンの肩に乗ったボールが姿を変え、漫画で見たようなテニスボールと化した。
「ウィン、そのボールをラケットで打ってみるんだ」
「で、でも本当に大丈夫?」
ウィンが心配そうに細い眉を顰める。今までキングの姿は見てきたがやはり自分でやるとなると戸惑いを覚えるようだ。
「キュッ、キュ~!」
「ボールも大丈夫だと言っている。俺だってこれまでさんざん蹴ったり投げたり叩いたりしていたわけだしな」
「う~む、それだけ聞いているととんでもない飼い主に聞こえるな」
「キュッ、キュッキュ~!」
「いや、悪気はないんだ。わかってるってキングがそんな奴じゃないのは」
思わず出たのであろうスミスのセリフにボールが抗議した。それほどまでにボールはキングに懐いている。
「まぁとにかくキングがこう言ってるんだから躊躇しないでやってみるんだな。よくわからんが、それをしないとお前、使い物にならないんだろう?」
「う、うっさいわね!」
ガルルと歯牙をむき出しに吠えるウィンだが、このままではどうしようもないのは理解しているようだ。覚悟を決めたのか漫画で見た通りの構えをし、変化したテニスボールを手にとった。
「い、いくわよ!」
そしてウィンはボールを頭上に向けて投げ、そして落ちてきたボールをラケットで打った。
「ナイスショット!」
「なんだそれ?」
「いや、本では打ったらこう言っていたんだ」
「そうなのか。変わってるな」
スミスにはいまいち理解できないことのようだ。そしてウィンの打った球だが、見事に木偶に当たった。初めてとは思えないほど上手くいったものだ。
「どう! どうかなキング?」
「う、うむ、その、なんだ、上手く打てていたと思うが……」
「何よ? 何か歯切れが悪いわね」
「いや、そのなんだ。今のだとただボールを打っただけだなと」
「あぁ、確かにそうだな。ラケットという杖でボールを打っただけだ」
「うん、そうね……あ!」
そこまで話してようやくウィンも気がついたようだ。
「私、魔法使ってない!」
「そうだな……」
「キュ~……」
そう、ウィンはまさにただラケットで球を打っただけなので当初の目的が成し遂げられていない。
「う~ん、でもこれで魔法ってどうしたらいいんだろう?」
「それはおそらくこの本にヒントがあると思うぞ」
キングがあの本、テニスの魔王様を取り出して見せた。ウィンは改めて漫画を読むが。
「そうか! ラケットを通して魔法を行使するのね!」
どうやらウィンは漫画から何かを掴み取ったようだ。そして改めてラケットを構え、ラケットに精霊の力を込めた。
「ほう、ラケットに風が」
「キュ~!」
すると、ウィンのラケットにまとわりつくように風が現出、その状態でウィンがラケットを振るとガットに当たったボールにも風が纏われ、ビュオン! という風切り音を奏でながら木偶に球が吸い込まれていった。
「やったわ! 見たキング? 精霊の力が暴走せず発動した、私魔法が使えたの!」
「あぁ、おめでとうウィン」
「……ふむ」
「ありがとう! よし、この調子で次は!」
そしてウィンは今度はテニスボールに火を纏わせて木偶へ打ち込んだ。見事に命中し、今度は土、雷と続けていく。
「凄いわキング、全く暴走しない。完璧よ」
「うむ、確かに暴走はしてないが……ウィンは本当にそれで満足か?」
何球かうち終わりウィンは満足げに戻ってきてキングに感想を告げた。だが、キングにはどこか思うところがあったようであり。
「え? うん、私はこれでも十分だと思うけど……」
「いや、駄目だなこりゃ」
「キュッ!?」
そしてダメ押しするようにスミス自らがそんなことを口にするのだった――
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説


公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件
霜月雹花
ファンタジー
15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。
どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。
そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。
しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。
「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」
だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。
受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。
アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。
2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。
記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー
コーヒー微糖派
ファンタジー
勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"
その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。
そんなところに現れた一人の中年男性。
記憶もなく、魔力もゼロ。
自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。
記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。
その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。
◆◆◆
元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。
小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。
※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。
表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる