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第2章 球技を扱う冒険者編
第35話 かつての仲間と再会
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キングはダーテを探すためギルドを出た。それからどこへ行ったかな? と少し歩いてみるが。
「キングさん!」
ふと、キングを呼ぶ声が耳に届く。キングが声に反応して体を向けると三人の男女が駆け寄ってきた。
「おお、久しぶりだな」
「はい、キングさんもお元気そうで!」
「でも、驚いたわ。確か冒険者を辞めたと聞いていたのだけど……」
「はい、もしかして私達のせいだったのかな? て心配だったのですが……」
三人の冒険者はキングにどこか申し訳無さそうな反応を見せた。だがキングは、いやいや、と右手を左右に振り。
「あの時は私も未熟だった。ただそれだけだ。君達のせいだなんてとんでもないさ」
笑顔でそう答えた。彼らはギルドを辞める直前キングが所属していたパーティーのメンバーだった。あの時リーダーのビルには散々文句を言われたが三人はキングを庇ってくれている様子も感じられた。結局キングはマラドナに言われ一度は冒険者を辞めたが、その事を気にしていたのだろう。
「キュ~?」
「おお、そうだなボールは知らないか。彼らは以前俺とパーティーを組んでいた仲間だ」
「キュッキュッ♪」
キングが説明するとボールは肩の上でポンポンっと跳ねて鳴いてみせた。よろしく~と言ってるようにも感じられた。
「え~と、スライムですか?」
「あぁ。俺の友だちのボールだ」
「友だち、あ、テイムですか?」
「キングさん魔法が使えたんだ」
「いや、魔法ではないが、縁があって一緒に行動していてな。今の俺にとっては友だちであり掛け替えのないパートナーだ」
「へぇ……あ、あの触ってみても?」
「あ! 私も触りたい!」
「キュッキュッ♪」
キングが構わないと告げると二人がボールを撫でる。ボールはどうやら女の子ウケがいいようだ。
「あぁそうだ。実はまた冒険者として復帰することになったんだ」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。一度は辞めたもののやはり俺にはこの生き方しか出来ないからな。まぁそういうわけだからもう君達が気に病むことはないさ」
「そう言ってもらえると……少し気が楽になりました。でも、復帰おめでとうございます」
どうやら彼は心から喜んでくれているようだ。キングも余計な心配をかけずに済んだな、と安堵したが、ふとあることに気がつく。
「そういえば、ビルの姿が見えないな。今は別行動なのかな?」
そう、かつてこのパーティーのリーダーを務めていたビルの姿が見当たらなかったのだ。
だが質問したキングに対し、彼はどこか浮かない顔を見せ。
「実は、キングさんがパーティーを追放されてから間もなくして、僕たちもパーティーを解散したんです」
「何? そうなのか? それはまさか、俺のせいで……」
「それは違うわ! キングさんは何も悪くないもの」
「そうです。あれは勝手に決めたビルが悪かったし、それに私達も実は少しうんざりしていたんです」
「うんざり?」
「キュ~?」
ボールに構い喜んでいた二人が手を止め語気を強めたことでボールも、どうしたの~? といった様子を見せていた。
「ビルは、少し自分勝手が過ぎるところがあった。キングさんがパーティーにいた短い間はキングさんが宥めてくれていて少しマシだったのですが」
そう言われてみると、確かにビルは我が強く自意識も高かったので単独プレイも多かった。キングが入った当初もそういった行動が目立っていたので良くキングが間に入って上手く抑えていたのだが、今思えばビルはそんなキングのことを気に入っていない様子でもあった。
「キングさんが抜けてから更に好き勝手やるようになって、勝手に無茶な依頼は請けてくるし……」
「しかも依頼の条件に合わない品物でも平気で持っていって拒否されると切れて依頼人に殴りかかったり本当に酷かったんだから」
「流石に僕たちもこれ以上ついていけないといって自分たちからパーティーを抜けたんです。散々文句は言われましたけどね」
「そうだったのか……」
確かに独断専行が多いリーダーではあったが、キングはそこまでとは思っていなかった。それだけに少々驚きでもある。
「なら今何しているかはわからないのだな」
「……はっきりとは、ただ怪しい噂はあるんですよ」
「怪しい噂?」
「うん、私達は結局ビルとだけわかれてパーティーを再結成して三人でやってるのだけど、ビルはビルでどこかのパーティーに入ったみたいで」
「でもそのパーティーはいい噂を聞かないんです。そいつらと揉めた冒険者が突然姿を消したり……それに冒険者としての仕事とは別に犯罪に関わってるとも……人身売買に手を出しているなんて話も、勿論噂だけですが」
「ふむ……」
「キュ~……」
キングとしては少しの間とは言え一緒に活動した相手である。出来ればそのような悪事に手を染めていて欲しくないと思う。勿論噂レベルなようなので事実とは言えないが。
「でも、今日はキングさんに再会できてよかったです。僕たちはそろそろギルドに戻りますがお互い頑張りましょう!」
そしてキングは三人と別れた。ボールも可愛がって貰えたし、中々気持ちの良い三人であった。
「しかし、人身売買か……」
「キュッ?」
顎に指を添えキングは考え込んだ。異世界からきた勇者の功績で奴隷制度は大きく変わった。だが過去の名残りで今だ奴隷を購入したいと考える者は後をたたない。勿論今は犯罪奴隷以外は奴隷にするのも買うのも禁止だが、裏で取引している連中もいるにはいる。
そしてそういった連中にとっては希少な種族ほど有難がれ高額で取引される。そしてエルフはそういった違法取り引きに手を出す連中にとって絶好の鴨だ。
「気を揉みすぎかもしれないが……念の為だ。ボールいいか?」
「キュッ!」
キングが頼むと、ボールがラグビーボールに変化した。キングはそれを掴み、一度地面に弾ませた後蹴り上げた。ラグビーのドロップキックである。
空に届きそうな程高く舞い上がったボールはその内に自由落下で落ちてきた。キングはそれを地面を蹴り高い位置でハイボールキャッチし、着地を決めた。キングの手の中でボールが元の姿に戻る。
「どうだった?」
「キュッ! キュ~キュッ!」
ボールが答える。キングがボールをわざわざ上空まで蹴り上げたのはウィンの居場所を突き止めるためであった。高い位置からであれば街全体を見下ろすことが出来る。
そしてキングはボールの訴えに耳を傾けた。ボールと行動をともにする内にキングはボールの言っていることが大体理解できるようになっている。
「ふむ……見つかったが一人ではなく、様子がおかしかったのか。そのまま何人かの人物とどこかに向かっていると――」
ボールからの報告に引っかかりを覚えるキングである。ウィンはギルドを出た時は一人だった。パーティーからも追放されている。勿論ウィンの交友関係を把握しているわけもないが、ボールが見た様子だとどこか暗い感じで伏し目がちだったという。
「よくやったぞボール」
「キュ~♪」
キングが撫でてやるとボールはとても嬉しそうにプルプルと震えた。
「さて、ボールまた変化してもらえるか? 球技を変えて急ぐとしよう」
「キュッ!」
するとボールはまた楕円形の球に変化した。一見するとラグビーボールに似てるが若干小さく軽い。また両端が尖ったようになっているのが特徴である。
これは鎧球で使われていたボールである。アメリカンフットボールはラグビーに似てるように思えるスポーツだがルールは明確に違う球技だ。そして当然漫画も異なり、キングが読んだ漫画は『わい走るど!21』というタイトルであった。
これは関西から関東に越してきた主人公が持ち前の足の速さを活かして鎧球で活躍するという物語であった。
そしてこのスポ根、ラグビーを題材にしたスポ根漫画は攻撃側がタックルしながら突き進むという内容だったのに対し、アメリカンフットボールを題材にしたこれは、当たりに弱い主人公が敵の猛烈なタックルを足でかき乱し、避けながらゴールを目指すというものであった。
それ故に、キングは鎧球に関してはボールを持つことで高速で走ることが出来る球技と勘違いしている。
しかしだからこそ、この場では役に立つ。アメリカンフットボール通称アメフトモードになったキングはとにかく脚が速いのだ。
「さぁ、行くぞ!」
そしてキングはボールを確保したまま、一気にダッシュ。とんでもない足で駆けていく。途中障害物があったり通行人がいたりしたが最高速度を維持したまま直角に曲がったりといった物理法則を完全に無視した動きで疾駆する。
だがこれは漫画でも一緒だった。主人公は秒速21mというとんでもない俊足の持ち主であり、それでいて変則的な動きでタックルを躱していったのである。
ちなみにこの速度、キングであれば軽くこの十倍は出たりするわけだが――とにかく、ウィンに追いつくため更に速度を上げるキングなのであった。
「キングさん!」
ふと、キングを呼ぶ声が耳に届く。キングが声に反応して体を向けると三人の男女が駆け寄ってきた。
「おお、久しぶりだな」
「はい、キングさんもお元気そうで!」
「でも、驚いたわ。確か冒険者を辞めたと聞いていたのだけど……」
「はい、もしかして私達のせいだったのかな? て心配だったのですが……」
三人の冒険者はキングにどこか申し訳無さそうな反応を見せた。だがキングは、いやいや、と右手を左右に振り。
「あの時は私も未熟だった。ただそれだけだ。君達のせいだなんてとんでもないさ」
笑顔でそう答えた。彼らはギルドを辞める直前キングが所属していたパーティーのメンバーだった。あの時リーダーのビルには散々文句を言われたが三人はキングを庇ってくれている様子も感じられた。結局キングはマラドナに言われ一度は冒険者を辞めたが、その事を気にしていたのだろう。
「キュ~?」
「おお、そうだなボールは知らないか。彼らは以前俺とパーティーを組んでいた仲間だ」
「キュッキュッ♪」
キングが説明するとボールは肩の上でポンポンっと跳ねて鳴いてみせた。よろしく~と言ってるようにも感じられた。
「え~と、スライムですか?」
「あぁ。俺の友だちのボールだ」
「友だち、あ、テイムですか?」
「キングさん魔法が使えたんだ」
「いや、魔法ではないが、縁があって一緒に行動していてな。今の俺にとっては友だちであり掛け替えのないパートナーだ」
「へぇ……あ、あの触ってみても?」
「あ! 私も触りたい!」
「キュッキュッ♪」
キングが構わないと告げると二人がボールを撫でる。ボールはどうやら女の子ウケがいいようだ。
「あぁそうだ。実はまた冒険者として復帰することになったんだ」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。一度は辞めたもののやはり俺にはこの生き方しか出来ないからな。まぁそういうわけだからもう君達が気に病むことはないさ」
「そう言ってもらえると……少し気が楽になりました。でも、復帰おめでとうございます」
どうやら彼は心から喜んでくれているようだ。キングも余計な心配をかけずに済んだな、と安堵したが、ふとあることに気がつく。
「そういえば、ビルの姿が見えないな。今は別行動なのかな?」
そう、かつてこのパーティーのリーダーを務めていたビルの姿が見当たらなかったのだ。
だが質問したキングに対し、彼はどこか浮かない顔を見せ。
「実は、キングさんがパーティーを追放されてから間もなくして、僕たちもパーティーを解散したんです」
「何? そうなのか? それはまさか、俺のせいで……」
「それは違うわ! キングさんは何も悪くないもの」
「そうです。あれは勝手に決めたビルが悪かったし、それに私達も実は少しうんざりしていたんです」
「うんざり?」
「キュ~?」
ボールに構い喜んでいた二人が手を止め語気を強めたことでボールも、どうしたの~? といった様子を見せていた。
「ビルは、少し自分勝手が過ぎるところがあった。キングさんがパーティーにいた短い間はキングさんが宥めてくれていて少しマシだったのですが」
そう言われてみると、確かにビルは我が強く自意識も高かったので単独プレイも多かった。キングが入った当初もそういった行動が目立っていたので良くキングが間に入って上手く抑えていたのだが、今思えばビルはそんなキングのことを気に入っていない様子でもあった。
「キングさんが抜けてから更に好き勝手やるようになって、勝手に無茶な依頼は請けてくるし……」
「しかも依頼の条件に合わない品物でも平気で持っていって拒否されると切れて依頼人に殴りかかったり本当に酷かったんだから」
「流石に僕たちもこれ以上ついていけないといって自分たちからパーティーを抜けたんです。散々文句は言われましたけどね」
「そうだったのか……」
確かに独断専行が多いリーダーではあったが、キングはそこまでとは思っていなかった。それだけに少々驚きでもある。
「なら今何しているかはわからないのだな」
「……はっきりとは、ただ怪しい噂はあるんですよ」
「怪しい噂?」
「うん、私達は結局ビルとだけわかれてパーティーを再結成して三人でやってるのだけど、ビルはビルでどこかのパーティーに入ったみたいで」
「でもそのパーティーはいい噂を聞かないんです。そいつらと揉めた冒険者が突然姿を消したり……それに冒険者としての仕事とは別に犯罪に関わってるとも……人身売買に手を出しているなんて話も、勿論噂だけですが」
「ふむ……」
「キュ~……」
キングとしては少しの間とは言え一緒に活動した相手である。出来ればそのような悪事に手を染めていて欲しくないと思う。勿論噂レベルなようなので事実とは言えないが。
「でも、今日はキングさんに再会できてよかったです。僕たちはそろそろギルドに戻りますがお互い頑張りましょう!」
そしてキングは三人と別れた。ボールも可愛がって貰えたし、中々気持ちの良い三人であった。
「しかし、人身売買か……」
「キュッ?」
顎に指を添えキングは考え込んだ。異世界からきた勇者の功績で奴隷制度は大きく変わった。だが過去の名残りで今だ奴隷を購入したいと考える者は後をたたない。勿論今は犯罪奴隷以外は奴隷にするのも買うのも禁止だが、裏で取引している連中もいるにはいる。
そしてそういった連中にとっては希少な種族ほど有難がれ高額で取引される。そしてエルフはそういった違法取り引きに手を出す連中にとって絶好の鴨だ。
「気を揉みすぎかもしれないが……念の為だ。ボールいいか?」
「キュッ!」
キングが頼むと、ボールがラグビーボールに変化した。キングはそれを掴み、一度地面に弾ませた後蹴り上げた。ラグビーのドロップキックである。
空に届きそうな程高く舞い上がったボールはその内に自由落下で落ちてきた。キングはそれを地面を蹴り高い位置でハイボールキャッチし、着地を決めた。キングの手の中でボールが元の姿に戻る。
「どうだった?」
「キュッ! キュ~キュッ!」
ボールが答える。キングがボールをわざわざ上空まで蹴り上げたのはウィンの居場所を突き止めるためであった。高い位置からであれば街全体を見下ろすことが出来る。
そしてキングはボールの訴えに耳を傾けた。ボールと行動をともにする内にキングはボールの言っていることが大体理解できるようになっている。
「ふむ……見つかったが一人ではなく、様子がおかしかったのか。そのまま何人かの人物とどこかに向かっていると――」
ボールからの報告に引っかかりを覚えるキングである。ウィンはギルドを出た時は一人だった。パーティーからも追放されている。勿論ウィンの交友関係を把握しているわけもないが、ボールが見た様子だとどこか暗い感じで伏し目がちだったという。
「よくやったぞボール」
「キュ~♪」
キングが撫でてやるとボールはとても嬉しそうにプルプルと震えた。
「さて、ボールまた変化してもらえるか? 球技を変えて急ぐとしよう」
「キュッ!」
するとボールはまた楕円形の球に変化した。一見するとラグビーボールに似てるが若干小さく軽い。また両端が尖ったようになっているのが特徴である。
これは鎧球で使われていたボールである。アメリカンフットボールはラグビーに似てるように思えるスポーツだがルールは明確に違う球技だ。そして当然漫画も異なり、キングが読んだ漫画は『わい走るど!21』というタイトルであった。
これは関西から関東に越してきた主人公が持ち前の足の速さを活かして鎧球で活躍するという物語であった。
そしてこのスポ根、ラグビーを題材にしたスポ根漫画は攻撃側がタックルしながら突き進むという内容だったのに対し、アメリカンフットボールを題材にしたこれは、当たりに弱い主人公が敵の猛烈なタックルを足でかき乱し、避けながらゴールを目指すというものであった。
それ故に、キングは鎧球に関してはボールを持つことで高速で走ることが出来る球技と勘違いしている。
しかしだからこそ、この場では役に立つ。アメリカンフットボール通称アメフトモードになったキングはとにかく脚が速いのだ。
「さぁ、行くぞ!」
そしてキングはボールを確保したまま、一気にダッシュ。とんでもない足で駆けていく。途中障害物があったり通行人がいたりしたが最高速度を維持したまま直角に曲がったりといった物理法則を完全に無視した動きで疾駆する。
だがこれは漫画でも一緒だった。主人公は秒速21mというとんでもない俊足の持ち主であり、それでいて変則的な動きでタックルを躱していったのである。
ちなみにこの速度、キングであれば軽くこの十倍は出たりするわけだが――とにかく、ウィンに追いつくため更に速度を上げるキングなのであった。
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