異世界球技無双~最強すぎる必殺シュートで伝説のドラゴンや魔王も全てふっ飛ばす!~

空地大乃

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第2章 球技を扱う冒険者編

第11話 馬車に乗ろう

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 重たいゴンダーラを手に入れてから、キングの修行は更に続いた。時にはゴンダーラを引き、時にはゴンダーラを重しにうさぎ跳びをし、時にはゴンダーラをリフティングし、時にはゴンダーラを引きながらボールを操り、そんなことを繰り返しながら――遂に修行開始から1年が過ぎた。

「――ようやく、レベル32か」

 経験紙に表示されたレベルを見てキングが呟いた。その足元ではボールがプルプルと小刻みに震えていた。

「お前にも随分と世話になったな」

 そういいつつ、キングはゴンダーラを労うように撫でた。

「…………」

 当然だがゴンダーラは何も語らない。だが、キングにはゴンダーラが、な~にいいってことよ、とまるでチームのキャプテンのような男気溢れる返事をしたように思えてならなかった。

 そしてしみじみとゴンダーラを眺めた後――。

「今日で暫しお別れだ。といっても一緒にいくがな。しかし、本当に、お世話になりました!」

 キングがゴンダーラに向けて頭を下げた。引退する先輩に向けて感謝の意を示す後輩のように深々とした丁重な挨拶であった。

 そして、一つのけじめを付けた後、ゴンダーラはボールが取り込んだ。一体この体のどこにこれだけのものが入るのかはわからない。そもそもキングにしてももう気にしていなかったのだが。

「よし、いくか!」
「キュ~♪」

 そしてキングは1年間お世話になった丸太小屋からも出た。掃除はキッチリ終え、出た後振り向き、しっかり祈りを捧げた後、修行してきた山を下りていく。

 そう、キングは決めていた。レベル30を超えたら山を下りようと。それに冬も過ぎ去り、今は春。丁度キングが引退したのもこの時期であった。
 
 だからこそ、キングは山を下り、再び街を目指す。

 途中、モンスターとも何度か遭遇したが、更に成長したキングの球技の前に勝てるものはいなかった。そしてそれらの素材は全てボールの中である。

「キュッ♪ キュッキュッ、キュキュ~♪」

 ボールが鼻歌交じりにポンポンっと跳ね回っていた。既に山から出て、今は平原を進んでいる。ボールは元の姿にしていた。暫く山にいることが多く、一時的にはゴンダーラの関係で出たことはあったがその時は冬であった為、春の平原を跳ね回るのが楽しいのだろう。

 途中、蝶々を見つけて追いかけてみたりとなんとも微笑ましい。そうやって歩いている内に、街道で止まっている馬車を見つけた。バスとも呼ばれるタイプの乗合馬車である。

 この手の馬車は大体領内の小さな範囲で移動している事が多い。小さな村から町へ移動する時に利用されたりする。自分用の馬車を持っていない小商などが利用したりもするし、冒険者も良く使う。

 また他にも単純に平民が町への移動に使うこともある。安全面に関しては冒険者が乗り合わせることが多いのでそれで担保されている部分もある。何かトラブルが起きてそれを冒険者が解決した場合運賃がタダになったりもする。

 それ以外に特別な報酬がでるわけではないが、モンスターを狩った時の素材はそのまま冒険者の物となる。なのでモンスター相手なら動いてくれる場合が多い。一方盗賊の場合は交渉になったりもするが。

「乗っていくかい?」

 キングが近くを通りがかると、御者に声を掛けられた。バスの場合はこの御者がそのまま馬車の持ち主であることが殆どだ。

「キュ~♪」

 するとボールが興味深そうに馬車の前でポンポンっと跳ね始めた。冒険者を辞めてからはこれまでキングが馬車に乗ることは無く、一度は商人を助けたが、ゴンダーラの話を聞いてすぐに別れている。

 だからか、ボールは馬車に乗ってみたいという思いがあるのかもしれない。

 見たところ八人まで搭乗可能な馬車だ。

「興味あるのかな?」
「キュッ」

 ありそうだ。キングは御者に顔を向け。

「スライムが一緒なんだが大丈夫かな?」
「はは、珍しいね。テイマーかい?」

 御者が興味深そうに聞いてきた。テイマーとはテイムの魔法を行使し獣やモンスターを使役できる者のことであり、魔法使いの一種とも見られている。高位のテイマーになると魔獣や竜系統の強力なモンスターを使役することもあるようだ。

「そういうわけじゃないのだが、見ての通りすごく人懐っこしスライムだし害はない」
「キュ~」
 
 ボールも僕は悪いことはしないよ~と訴えるように鳴き声を上げプルプルした。

「まぁ確かに害はなさそうだな。どこまでだい?」
「オフサイドの町までなんだが」
「それなら合わせて銀貨1枚に銅貨50枚だね」

 わかったと頷き、キングは運賃を支払った。この手の馬車は基本前払いである。ただしトラブルを解決した場合には返金されて実質タダになるというわけだ。

「おやおやスライムを同行させるとは中々の珍客だな」
「テイマーか? だがスライムしか手なづけられないんじゃまだまだヒヨッコだな」
「おいおい、ヒヨッコって年かよあれが?」

 馬車に乗り込むと、三人の男がこれみよがしに小馬鹿にしてきた。三人は仲間同士にも思える。一人は盾と剣を持ち金属製の鎧姿。一人は革鎧に場所を選ばず使えそうな片手剣、もう一人は厚手のロープを来て杖持ちの魔法使いといったところだろう。

 三人ともキングよりは若い。きっとついついこういうことを言ってしまう年頃なのだろうとキングは考え、特に構うことも腹をたてることもなかった。

 それなりに経験を積んでくると、当然個人差はあるが、ついつい強気になり、ヤンチャな発言をしてしまう者もいる。

 ただでさえ血の気が濃い連中が多いのが冒険者だ。それでもある程度年季を重ねれば落ち着いてくるものだが、血気盛んな時期は仕方がない。

 それに、この三人も別に喧嘩がしたいわけじゃないだろう。実際キングが席についてからは、多少は話の種にはされたがそれもすぐに収まった。

「うわ~かわいい~」
「キュッ?」

 馬車に揺られていると、幼女がボールに興味を持ったようで近づいてきた。

「危ないからあまり動き回っちゃ駄目だよ。それに迷惑かもしれないし」

 幼女の父親と思われる男が注意した。キングはしかし朗らかな対応で。

「はっは、こちらのことなら気にせず。ボールも喜んでいるようだし」
「ふぇ~ボールちゃんというお名前なんだね」
「キュッ!」

 ボールは誇らしげに胸を張った。もちろんそう見えるだけなので実際に胸なのかは定かではないが。

「おじさんのペットさんなの?」
「いや、ボールは私の友だちなんだ」

 基本一人称は俺のキングだが、状況によっては私も使う。子どもを相手する時にはキングの見た目と声で俺だと威圧感が出てしまうので控えることにしていた。

「おいおいスライムが友だちだってよ」
「よっぽど仲間が少ないんだな。泣ける話だなぁ」
「いやいやもしかしたらスライムのおっぱいを吸って育ったスライム人間かもしれないぜ」

 キングの話を聞いて後ろの三人がまた茶化し始めた。少々鬱陶しくも感じるがキングは相手にしない。

「ボールちゃん、凄いプルプルしてる」
「キュッ、キュッ~♪」

 幼女はボールを抱きしめながら気持ちよさそうにしていた。いや実際に気持ちがいいのだろう。その触り心地は確かに極上であり、高級なベッドであってもボールには勝てないだろうとキングは勝手に思っている。

「モンスターだ!」

 その時だった、手綱を握っている御者から緊張の声が響き渡る――
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