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第1章 球技とボール編

第10話 キングの欲しかった物

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 ダンジョンの番人たるボスはキングの手で倒された。すると広間の中心部分に宝箱と魔法陣が生まれた。ダンジョンでは各所に宝箱が出現することがある。そしてボスを倒した際には必ず何かしらの財を残す。その代わり倒されたボスは消えるため、ボスそのものから何かが手に入ることはないのだが。

「ほう、これはダンジョン金貨だな」

 早速宝箱を開けるキング。ボスを倒した後に出現する宝箱には鍵や罠が掛かっていることはない。勿論それでも一応は警戒したがやはり何も仕掛けられておらず、中には金貨が10枚入っていた。

 ダンジョン金貨は文字通りダンジョンで手に入る金貨のことをさす。何故敢えてダンジョン金貨と呼ぶかと言えば、大陸が発行している大陸貨幣の金貨とはデザインが異なるからだ。

 つまりダンジョン金貨は貨幣としては使えない。だがしかし、通常貨幣の金貨は金以外にも様々なものを混ぜて作成される。

 一方ダンジョン金貨は純金製でありしかも貨幣としての金貨よりも一回りほど大きい。質も高いため、貨幣としては使えないがダンジョン金貨そのものは流通されている金貨よりも価値が高いという状況に至っている。その価値は相場によってもある程度左右されるが最低でも大陸金貨の三倍は固いとされている。

「その中身はキング、お前が全部持ってけ」
「え? いやでも一緒に行動しているしな。半々でいいんじゃないか?」
「馬鹿いえ。ここにくるまで俺は何もしてない。全ておまえさんがやっつけちまったしな。それにお前がいなかったらとてもこんなとこまでこれなかったわけだしな」

 そう言ってスミスは戦利品の受け取りを固辞した。なので、すまない、と断りを入れてダンジョン金貨を受け取る。

 この後、どうするかだが、選択肢は2つある。それは核をそのままにして戻るか、核を破壊するかだ。戻る場合、宝箱と一緒に現れた魔法陣に乗れば地上に出ることが出来る。

 何故こんなことをと思うかも知れないが、これはダンジョンなりの延命処置だ。ボスを倒せば宝箱が出る、しかもボスは暫く経てばまた出現する。これを冒険者の間ではリスポーンするとも言う。かつての異世界の勇者が伝えた言葉なようで復活の意味があるからだそうだ。

 当然核を壊せばダンジョンが消え、その恩恵にも預かれなくなる。なのでダンジョンの核は壊すこと無くそのまま戻ってダンジョンを維持し続けるパターンも少なくはない。

 だが今回は鉱山がダンジョン化してしまっている。当然残しておく理由はない。そのため、キングたちは迷うこと無く奥へと進み、壁に埋め込まれていたダンジョンの核を破壊した。

 結果、ダンジョン化は解消され元の鉱山へ戻ることになった。ちなみに核が破壊されるとダンジョン内に残っていたモンスターも全て消滅する。

 ただし変質した鉱石は残る。そのため、ダンジョンではなくなった後でも、暫く希少な魔法鉄であるルフタンは採掘出来ることとなるだろう。

 そう考えるとダンジョン化も悪いことばかりではない。

 こうして無事ダンジョンから鉱山を解放した二人は歩いて隧道を戻り、他のドワーフたちから称賛されることとなる。

 尤もスミスは他のドワーフ達に、全てキングのおかげだと触れ回ったわけだが。

「これで作成は可能だろうか?」
「可能も何もない。何よりも優先させてやらせてもらうぜ!」

 工房に戻り、改めてキングが問うとそんな答えが返ってきた。その上でどんなものが必要か口で伝えつつ、参考になる漫画を開いて見せてやったが。

「……本当にこれでいいのか?」
「これがいいんだ。出来れば可能な限り圧縮して重くして欲しいんだが」
「ふむ、ま、問題はないがその分時間はいるな。3日あれば出来るがそれでいいか?」
「勿論だ。凄く助かる。それでいくら掛かるかな?」

 物作りを頼む以上当然お金はかかる。キングとしては素材を売った分とこれまで集めた素材でなんとかならないかと考えていた。それに今回はダンジョンで手に入ったダンジョン金貨もある。

 もしそれでも足りないのであれば、一旦保留にし狩りにでもいくつもりだ。

「そんなものはいらねぇよ」
「え? いやしかしそういうわけにはいかないだろう」

 だが、スミスは報酬はいらないと言ってきた。キングとしてはそれは流石に申し訳ないという思いだが。

「考えても見ろ? こっちから頼んでいる以上、このダンジョン攻略は本来なら冒険者に報酬を支払って来てもらう案件だ。敵の強さを考えたら攻略も本来なら楽ではないし、それ相応の金が掛かる。だが、お前さんはそれをたった一人でやっちまったんだ。俺らとしても感謝しても仕切れねぇ話さ。それなのに金なんて取れるかよ。それどころか逆にこっちで報酬も用意しないとな」

 そこまで言われてなるほど、とキングが頷く。それでも申し訳ない気持ちはあるが、ドワーフはこれで義理堅い種族だ。堅物で最初は愛想もあまり良くないことから、付き合いづらいと考えるものもいるが、仕事に関しては律儀であるし、恩には恩で報いるのを当然と考える。

 そんな彼らの気持ちを無駄には出来ないと、キングは素直に好意に甘んじることにしたが。

「だけど、報酬は流石にいらない。依頼したものを作ってもらえるだけで十分過ぎるからな」
「ふむ、だがこれだけというのもな。おお! だったら何か必要な装備とかあるか? ついでに作ってやるよ!」

 スミスがそういって張り切りだす。どうやらキングがこれといった装備をしていないことから思いついたらしいが、球技を戦闘に活かすというスタイルな為、あまり金属の装備は好ましくない。

 だが、そこでふとキングが思いつき。

「なら、これに乗ってるこんな感じの、プロテクターというらしいのだが、これは可能か? 出来るだけ軽量で……」
「ふむ、なるほど。これは面白いな。これならルフランとウールメタルの組み合わせで――」

 こうして新たな球技ようの装備も手に入ることが決まった。キングは来てよかったなとしみじみ思う。

「色々と助かる。それなら、3日後にまたくると――」
「まて、わざわざここを離れることもないだろう? というより許さん。俺以外にもお前に感謝してるのは多いのだからな。これから3日間はここで持て成させてもらうぜ! 勿論そこのスライムもな」
「キュッ! キュ~キュ~♪」

 持て成すという言葉の意味をなんとなく理解したのがボールは随分と嬉しそうだ。キングは苦笑気味だが、スミスがこう言っている以上、招待を受ける他なさそうである。

 こうしてキングはドワーフたちの手厚い歓迎を受けることになり酒好きのドワーフにつきあわされ三日三晩酒を呑まされ続けることとなった。

 そして――

「うん、これはいい。サイズもぴったりだ」
「キュッ! キュー!」

 キングは先ず、スミスが作成したプロテクターを装備することにした。ちなみにこれは鎧球とも呼ばれる球技を参考にしている。

 なお、視界を確保するため、マスクはなしとした。首から下のも揃えており、肩当てや肘当て膝当ては装着されている。

「かなり柔らかくて動きやすいな」
「素材に気を遣ったからな。革系の材料も組み合わせた」

 なるほど、とキングは納得した。ドワーフは基本金属を弄るのが好きだが革をいじれないわけではない。

「それとこれはついでだ。ま、エルフほどうまくは作れないかもだが、そんなボロボロの靴よりマシだろう」

 そう言って革製の靴を床においた。どうやらキングの履いている靴を見て見てられなくなり作ってくれたらしい。

 そう言われてみれば確かにキングの靴は修行の連続によってボロボロだった。

「これは、形もいい! こんなものまで用意してくれるなんて感謝の言葉もない」

 スミスが作成してくれた靴は、漫画で見たようなスポーツシューズに限りなく近かった。履き心地も良く、スミスはエルフと比べたが十分過ぎる出来である。

「いいってことだ。それだけのことをやってもらったからな。でだ、後は注文された品なんだが……外に用意してあるから来てくれ」

 スミスに促され工房の外に向かうキング。すると確かにそこには加工され完成されたそれが置かれており。

「……しかし、本当にこれでいいのか?」

 スミスは改めて自分でこしらえたそれを見て後頭部を擦った。彼にはこれが一体何に使うものなのか理解できない様子だ。

「うむ! これも完璧だ! 俺はこのゴンダーラが欲しかったんだ!」
「う~ん、俺にはさっぱり理解できないんだがな。しかもこれ、相当重いぞ。50トンはあるからな」

 そう言って改めて彼の言うゴンダーラを見やる。円筒状に加工したゴンダーラに金属製の取っ手をつけたものだ。スミスはこれを素材の名前としてみているがキングは違った。

「それでいいんだ。凄く重たいゴンダーラが欲しかったからな」
「重たいゴンダーラねぇ……」
「キュッキュッ♪」

 ボールはゴンダーラの上に乗って嬉しそうにぴょんぴょんっと跳ね回っていた。

「ところでこの重たいのどうすんだ? まぁ素材を取り込んだぐらいだから、そのスライムでなんとかなるのか」
「うむ、なんとかなるとは思うが、これは早速使わせてもらう」
「使う?」
「あぁ」

 そして、キングはゴンダーラの取っ手を掴み。

「ボール、そこにいたら危ないからさぁ」
「キュ~」

 キングに言われ、ボールがその肩に飛び乗った。

「それじゃあ俺はいくとするよ」
「あぁ、元気でな。よくわかんねぇが、とりあえず冒険者に復帰する気はあるんだろ?」
「……わかってしまったか」
「わかるだろそりゃ。引退して諦めた奴の腕じゃないからな。ま、今度会う時は有名になってると信じてるよ」
「はは、買いかぶりすぎだと思うが、まぁやれるだけのことはやるさ」

 そう返し、そしてキングは取っ手を掴む手を強めた。

「よし! これで改めて本格的な修行が出来るな。いくぞボール」
「キュ~!」

 そしてキングは気勢を上げて駆け出した。重たいゴンダーラを引きながらだ。そう、これはキングがスポ根漫画で見たトレーニング用の道具だったのだ。

 漫画の中でも主人公はこれと似たものを引いてトレーニングに明け暮れていた。それを見てからキングはずっとこれを手に入れることを夢見ていたのである。

「……あんな重たいものを引けるなんて、やっぱとんでもねぇな」

 あっという間に視界から消えたキングを思いながらスミスはそう呟いた。そして同時にこうも思ったという。

 あんなもんを軽々と引けるのに、これ以上何を修行する必要があるのか、と――
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