異世界球技無双~最強すぎる必殺シュートで伝説のドラゴンや魔王も全てふっ飛ばす!~

空地大乃

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第1章 球技とボール編

第5話 迂回出来ない理由

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「え、えっと、それは、スライムですか?」
「うむ、スライムであり、私の友だちのボールだ」
「は、はぁ友だちなのですね」

 どことなく変わったものを見るような目を向けてくる商人である。失礼な気もしないでもないが、スライムを友だちとして連れ歩くものは少ないので仕方ないことか、と奇異な視線を受け流した。

「ふむ、これだポカポカ薬。よし、先ずこれを飲むんだ」

 キングは三人の冒険者に薬を飲ませていく。ポカポカ薬はアタタマリ草を煎じて作成した薬だ。体の芯から温め温度を上昇させ凍傷を治療する。

 事実、薬を飲んだ三人の顔に赤味が増していき、震えも収まっていった。その姿を認め、更にボールから小さな袋を取り出す。

「これはカイロ草を加工した粉の入った袋だ。何度か擦り合わせれば熱を持つ。鎧や衣服の中に入れておけば更によく温まるだろう」
「あ、ありがとう、ありがとうございます……」
「助かりました」
「も、もう駄目かと思ったのに――」

 三人の冒険者達は口々にキングにお礼を言った。命が助かったことが余程嬉しかったのだろう。もう辞めてしまった身だが、かつては同業者であった彼らの命を助けることが出来たのはキングとしても喜ばしいことだ。

 キングは三人の様子を認めた後、今度はその場で焚き火を始めた。雪面を踏み鳴らしたり、湿った木材を燃やす必要があったり、雪山での焚き火には工夫がいる。

 だがキングはそういった知識が豊富だった。テキパキとこなし、わりとあっさり火が焚かれた。商人も含めて焚き火を囲む。

「はぁ~何から何までありがとうございます」
「でも、雪の中で焚き火だなんて……」
「雪山で火を焚くなんて魔法でも難しいのにな」

 口々にそう言う。彼らは魔法でも難しいと言ったが、それは寧ろ当然とも言えた。

 魔法で起こす火を維持させるのは難しい。だから焚き火をするなら魔法でも火種として利用するぐらいだ。つまり雪山で焚き火するにはそこから先の知識が大事となる。

 キングは自分の知識が役立ったことが嬉しかった。勤勉な冒険者だった。だから薬草などの知識も深い。だが、知識があってもレベルが下がったなら意味がない宝の持ち腐れと揶揄されたこともある。

 しかし、今日ここで助かった彼らはその知識によってだ。己が培ってきた物が無駄ではなかったと知れただけでも感慨深い。

「キュ~」
「あぁ、そうだな。ボールのおかげで助かったのも大きい」
「……あの、ボールというのはそのスライムの名前ですか?」
「あぁそうなんだ。色々あって今は一緒に行動している。友だちなんだ」
「え? スライムが、友だちなんですか……」

 三人は若干微妙な顔を見せたが、助けてもらった恩もあるのでそれ以上のことは言わなかった。

 ただ、三人の中で唯一の女性である杖持ちの子は、暫く見ている内に気になったのか、そっと手を差し出した。

「キュ~♪」
「あ、これ、凄く気持ちいい、触り心地最高――」

 どうやら彼女はボールを気に入ってくれたようだ。ボールもごきげんであり見ていると微笑ましくも思える。

「しかし、そのスライムは随分と変わってますな」
「うん? そうなのか?」
「はい。スライムが何かに変身したり、物を出し入れ出来るなんて聞いたことがありませんから」
「確かに……そもそも見た目も俺たちの知ってるスライムと違うな」
「もしかしたら希少種なのかもしれない」
「ふむ、もしそうであればかなりの高値が付く可能性もあるかもしれません」
「キュッ!?」

 高値と聞いてボールがビクリと反応した。そして杖持ちの彼女の手を離れ、ポンポンっと弾みながらキングの腕の中に戻ってくる。

「キュ~……」
「うん? 何だ心配したのか? 安心しろ。私はお前を売ったりしないよ。友だちだからな」
「キュ、キュ~♪」

 キングがよしよしとボールを撫でると嬉しそうに鳴きプルプルと震えた。

「もう! そんな可愛そうなことを言ったら駄目じゃない」
「あ、いや、申し訳ない。どうも商人というのは駄目ですな。ついそういったことを考えてしまう」
「はは、別に気にしておりませんよ」
「でも、本当にそのスライムのこと大事にしてるんだな」
「でも、見てると確かに愛嬌があるな。可愛がる気持ちもわかるぜ」

 助けた冒険者たちが微笑ましそうにキングとボールを見た。その時だ、ガサゴソと雪にまみれた叢が揺れ、三匹の白毛に包まれた狼が姿を見せる。

「こ、こいつはスノーウルフ!」
「雪山で戦うには厄介なモンスターじゃねぇか」
「しかもこの状況で三匹もなんて……」
「あぁ! 最悪だ! 折角助かったと思ったのに!」

 商人と三人の冒険者が絶望感を顕にした。スノーウルフは文字通り冬に活動するモンスターだ。そのため餌と判断した相手は決して逃さない。

「大丈夫だ、ここはまかせてくれ。ボール!」
「キュー!」
 
 するとボールが地面を跳ね、かと思えば白黒模様の球体に姿を変えた。

「あ、本当に姿が変わった!」

 杖持ちの彼女が叫んだ。直前の戦いでは彼らはボールの変化には気がついておらず話に聞いただけだったので改めて驚いたのだろう。

「「「ガルルルウゥ――」」」

 前に出たキングへスノーウルフが唸り声を上げた。その牙には咬んだ相手を凍りつかせる効果がある。動きも素早く厄介とされているのだが――

「フンッ!」
「「「ギャン!」」」
「「「「友だちを蹴ったーーーー!?」」」」

 キングがボール目掛けて蹴りを振り抜き、見ていた四人が一様に叫んだ。

 直前まで友だちと称していたキングが、まさかその友を蹴るとは思わなかったのだろう。だが、逆に言えば友だからこそ信頼して蹴れるのだ。
 
 その結果は見るまでもない。キングの
蹴弾シュートによって三匹のスノーウルフは纏めて吹き飛ばされ、錐揉み回転しながら雪の積もった地面に落下。

 そのあまりの威力によって雪はクッションの役目を全く果たさず、寧ろ固い氷の床の上に落ちたような衝撃を生み、三匹のスノーウルフの命の灯は雪山の中で消え失せた。
 
「うむ、丁度良かった。スノーウルフの肉は食べられるしな。いい栄養になるぞ」

 そしてキングはテキパキとスノーウルフの解体を終わらせたが。

「それにしても驚いた……友だちだと聞いていたけど、け、蹴っちゃうんですね」
「うん? むしろ友だちだからこそ蹴れたわけだが」
「そ、そういうものなんだ……」

 色々思うところもあったようだが、キングのおかげでまたもや助けられたわけであり特殊な関係なんだろうということで納得してくれた。

「あの、スノーウルフやスノーグリズリーの毛皮を買い取らせて頂いても宜しいでしょうか? 勿論助けて貰ったお礼もあるので、買取金額は勉強させて頂きます」
「勿論構わない。こちらとしてもその方が助かるしついでと言ってはなんだが、他にも買い取って貰うことは可能かな? 実は山ごもりを続けているうちに色々溜まってしまって」
「はい、拝見させて頂き私が扱えそうなものなら買い取らせて頂きますよ」

 キングはボールにこれまで集めた素材などを出してもらった。その解体の丁重さに商人だけでなく他の三人にも随分と驚かれた。

「こんな綺麗に解体って出来るもんなんだな……」
「むしろあんたがいい加減すぎるのよ」
「ちょっとは俺らも見習わないとな……」

 例えレベルが下がっても変わらないものがある。培った技術だ。キングの解体技術は冒険者ギルドが雇っている熟練した解体師ですら舌を巻くほどなのである。

「いやいや、助けてもらった上にこのような質の良い素材まで引き取らせて頂けるとは感謝の言葉もありません。どうぞ、これが買取分の金貨2枚と銀貨50枚です」
「こんなにも……却って申し訳なかったな」

 キングの中では全部合わせて金貨1枚と銀貨30枚程度の見立てであったが、倍近い金額で買い取って貰えたことになる。

「いえいえ、毛皮などはこの時期貴重ですからね。これぐらい当然ですし先程も言いましたがお礼の意味もあるので」
「恩に着る。ところで一つ気になっていたのだが、貴方は何故わざわざこの雪山を? 冬の山越えは危険故、通常なら迂回ルートを選ぶかと思うのだが」

 キングはこの辺りの地形についても当然把握している。ここボランチ山脈は険阻でありモンスターも多い。春から秋に掛けてもこの山越えルートを選ぶ商人など皆無に近く、ましてや今はさらに危険度が高まる冬山だ。迂回すれば谷間の道を抜けることが出来る。盗賊の心配も多少はあるが、山越えよりずっと危険が少ない。

「あぁ、なるほど。キング殿は暫くこの山にいたのでしたな。それなら知らなくても仕方ないかも知れません」
「いやここ暫くすっかり浮世離れな生活を続けていたので、何とも恥ずかしい限りで」
「いえいえ、それでその答えですが、実は迂回ルートが今は使えない状態なのです」
「ほう、迂回ルートが? 谷間の道があったと思いましたが、まさか、落石でもあったのかな?」
「いや、落石ならまだ良かったのかも知れないんだけどな」

 話に加わってきたのは三人の冒険者の一人であり、それに倣うように他の二人も口々に道のふさがった原因について語りだす。

「谷間の道に厄介なモンスターが現れたんだよな」
「そうそう、ギルドも討伐依頼を出して冒険者を募ってるらしいのだけど、冬は動きたがらない冒険者も多くて、難儀しているみたいだし。暫くはあのルートは使えないかもね」

 ふむ、とキングは顎をさすった。落石ではなくモンスターとは。しかしそういう問題は少なくはない。

 ただ、谷間の道を塞ぐとなるとかなり大きなモンスターということになると思うのだが。

「そのモンスターというのは一体?」
「はい、そのモンスターは――」

 商人の口からモンスターの正体が明かされる。その途端、キングの目が大きく見開かれた。

「それは本当なのか? そのモンスターが本当に!?」
「え? え、えぇ。確かにあまりこの辺りでは見られないモンスターなようですが、それだけに対処するのも難しい状況なようなのですが」
「こうしてはいられない!」

 すると、キングは何かを思い立ったように踵を返し。

「え? もう行かれてしまうのですか?」
「うむ、急遽野暮用が出来てしまった。あぁそうだ。ここから先は――と、このルートで行けば比較的安全に進められる筈だ」
「何から何までありがとうございます」
「ちょっとさみしいけどボールちゃんも元気でね」
「キュ~♪」
「うむ、皆が無事町までたどり着けるのを祈っているぞ。それではこれにて!」

 そしてキングは球と化したボールを蹴りながら走り去っていった。その速さにあんぐりする四人でもあったが。

「何かものすごい人だったね」
「あぁ、でもまたどこかで会えるといいな」
「キングさんも冒険者なのだろ? それなら冒険者を続けている限りきっと可能性はあるさ」
「はは、しかしあれだけの腕ならば、きっと物凄い冒険者なのかも知れませんねぇ」

 走り去ったキングを見送った後、キングについて語る彼らであったが、実は彼が一度は冒険者を引退した身であることなど、誰一人知る由もなかった――
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