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第1章 球技とボール編

第2話 理想のボール

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 キングは気晴らしに森を歩いていたが、そこでサバイバルウルフの群れに襲われる一匹のスライムを見つけた。

 スライムはどこか助けを乞うように鳴いていた。放っておけなくなったキングは試作品の球を使い、サバイバルウルフを追い払うのに成功する。

「キュ~」
「喜んでくれているのだろうか?」

 モンスターを逃亡させ、キングはスライムに近づくと、鳴き声を上げながら近づいてきた。どこか声も弾んでいるように感じられた。助けられたことをわかっているのかも知れない。

「キュ~♪(すりすり)」

 するとスライムはキングの脚にすり寄ってきた。体を脚にこすり付けてきているが攻撃の意志はなく、親しみの篭ったような擦り付け方だった。

「助かって良かったな」

 キングはそう語りかけながらすり寄ってきたスライムの頭を撫でた。ひんやりとしていてぷよぷよした触り心地が気持ちよくもある。

「キュ~♪」

 どことなくスライムも嬉しそうだ。こういう姿を見ると助けて良かったと思える。

「さて、いくか。お前も今後は気をつけて、達者で暮らせよ」

 キングは踵を返しその場を後にしようと脚を動かす。

――ザッザッザッ。
「キュッ♪ キュッ♪ キュッ♪」
――ザッザッザッ。
「キュッ♪ キュッ♪ キュッ♪」

 キングは足を止め、振り向いた。みるとスライムがポンポンポンっと跳ねながら鳴き声を上げついてきていた。

「…………」

 キングは再び歩きだす。

――ザッザッザッ。
「キュッ♪ キュッ♪ キュッ♪」
――ザッザッザッ。
「キュッ♪ キュッ♪ キュッ♪」

――クルッ。
「キュ~?」

 キングが足を止め、振り返るとスライムが器用に体の一部を伸ばし、首を傾げるようなポーズを見せた。

 そんな姿を認め顎に指を添え、黙考するキングだったが。

「……お前ついてくる気か?」
「キュッ! キュ~♪」

 嬉しそうにその場でポンポンと跳ね、その後キングの足下に寄ってきた。

「キュ~♪(すりすり)」

 そして体を脚にこすり付けてくる。見たところとても懐いているようだ。命の恩人であるキングに恩義を感じているのかも知れない。

「ふむ……」

 キングは少し考える。己を鍛え直すため一人で山ごもりを決めた。そんな自分がスライムにかまけていていいものか、という思いもなくはないが。

「キュ~(ぷるぷる)」

 スライムが小刻みに震えだした。キングに何かを期待しているようでもある。思えばこの辺りでスライムなどこれまで見たことがなかった。そもそもスライムはあまり森に出るモンスターでもないが、もしかしたらこのスライムは他に仲間もおらずたった一人で過ごしてきたのかも知れない。

 それはあくまで憶測でしか無いが――。

「なら、一緒にくるか?」
「キュッ! キュ~(すりすり)」

 すり寄ってきた。どうやら嬉しいようだ。しかし、このスライム、なんとなくキングの言葉を理解しているようでもある。

「よし――」

 キングはひょいっとスライムを持ち上げ肩に乗せた。

「キュ! キュッ♪ キュッ♪」

 肩の上でポンポンっと飛び跳ね、スライムはなんとも嬉しそうである。その様子を微笑ましく思いつつ、キングは新しく加わった同居人と共に丸太小屋に戻るのだった。





「キュ~♪」
「美味いか?」

 キングがスライムの頭を撫でながら問いかけた。プルプルと震えて答えるスライムにキングは微笑んだ。

 当初、スライムは何を食べるのか? と頭を悩ませもしたが、スライムは言葉は喋らないまでもリアクションで意志を伝えてくれたのでその問題はすぐ解消された。

 そして結果で言えばスライムは何でも食べた。それこそ地面に生えた草も食べるし、キングが採取した木の実も狩ったモンスターや獣の肉も食べる。

 今もきのこを美味しそうに取り込んでいった。もっともスライムの食べ方は食べ物の上に乗り取り込むだけなので、美味しそうというのはキングの感覚でしかないが、機嫌は良さそうなのでまずいとは思っていないのだろう。

「しかし、参ったな……」

 スライムの食事を見届けた後、改めてキングは異世界の本に目を向けた。悩みのタネは変わらず球だった。あれからもいろいろ試したが中々納得のできる出来の球が完成しない。

「キュ~」
「ん?」

 気がつくと、スライムはキングの肩によじ登り、そして彼が読んでいる本を覗き込んできていた。

「興味があるのか?」
「キュ~♪」
「そうかそうか。この本の良さがわかるとは、中々見どころのあるスライムだ」

 スライムの頭を撫でてやると、キュッ♪ と弾んだ声を上げ、そしてキングの頬にすりすりしてきた。

 だが、真剣な顔で本を読むキングに気が付き。

「キュ~?」

 そう問いかけるように鳴いた。キングはなんとなくその声に反応し。

「あぁ、実はこの中にあるこれが中々作れなくてな」

 そう言ってキングはページ内の球を指さした。だが、すぐに苦笑し。

「と、言ってもわからないかな」
「キュッ、キュー!」

 だが、スライムは思い立ったようにキングの肩から飛び降り、かと思えば地面の上でポンポンっと跳ねた後。

「キュ~」
「え? な! こ、これは!」

 その変化・・にキングは目を見張った。
 なぜなら、スライムの見た目がすっかりキングが見ていた本に出てくる球。白と黒の入り混じった蹴球サッカーの球、そう蹴球球サッカーボールそっくりに化けていたのである。

「お、驚いたなこれは」
「キュッ、キュ~」

 キングが蹴球球サッカーボールそっくりになったボールを持ち上げるとスライムが何かを訴えるように鳴いた。

「なんだどうかしたのか?」
「キュ~」

 スライムはキングの手の名からポーンと飛び出し、地面で数回バウンドした後、ころころと彼の足下まで転がってきた。

「キュ~」
「む、ま、まさか、俺に蹴ってみろと言っているのか?」
「キュッ!」

 どうやらその通りらしく、プルプルと震えて答えてくれた。

「し、しかしいくら見た目が蹴球球サッカーボールそっくりと言ってもな」
「キュ~! キュッ、キュ~」

 だが、スライムはその場で再度バウンドし、早く早く~と言っているようでもある。

 キングは迷ったが、スライムがあまりにせっついてくるので、もしかしたらこういう遊びが好きなのかも知れないと頭を切り替えた。

「……なら、軽くな」
「キュッ!」

 キングは球となったスライムを持ち上げ、軽く膝を当てた。ポーンっと跳ね、球となったスライムは上空高く上がっていく。

「お、おぉ!」

 その光景に思わずキングは感動した。そして落ちてきたスライムを漫画で見たように胸で受け止めた。トラップという技術であり、更にそこから流れるように脚まで持っていき軽くポンポンっと蹴って見せる。リフティングだ。

「こ、これは凄い……まさに理想形だ。だが――」

 触り心地、感触、弾力ともに申し分ない。だが、やはり元はスライムであることにためらいを覚えるキングだが。

「キュッ! キュッ! キュ~!」

 スライムがしきりに何かを訴えていた。キングはまさか、といった顔を見せ。

「蹴れと言うのか? 蹴弾シュートをしてみろと?」
「キュー!」
「……しかし、本当にいいのか?」
「キュ~」

 任せろと言っているようだった。どうやら本気で蹴弾を望んでいるようである。キングとしてはやはりためらいもあった。

 だが、もしこれで俺の蹴りに耐えられたら、そんな予感が頭を過る。キングはしばし考えたが。

「な、なら先ずは軽く」
「キュ~!」

 ドンッとこいと促されているように感じた。なので思い切ってキングは球となったスライムを蹴った。軽くだったが、脚に感じる確かな感触、そして球は正面の木に当たりキングへと跳ね返ってきた。

「キュー!」

 スライムは、もっともっとと言ってるようであった。

「よ、よし! ならもう少しだけ強めに」
 
 こうしてキングは球と化したスライムをそれから何度も何度も蹴弾シュートしていた。蹴る力もどんどん強くなり、最終的にはためらいなく思いっきり蹴るようにもなっていたが。

「キュッ、キュ~♪」

 なんとスライムはそれを嫌がることもなく、それどころか楽しそうでもあった。もしかしたらキングの役に立てたのが嬉しかったのかも知れない。

 こうして結局その日だけで一万本ほど蹴弾シュートを繰り返したキングは、それでもまったくへばることなく、当然破れることもないスライムを持ち上げ、満面の笑みで伝えた。

「凄いぞ! はは、実はお前に名前を決めよつと思っていたんだが、今思い浮かんだ名前がある。ボール、どうだ? お前の名前はボールにしようと思うんだが?」
「キュ! キュー! キュ~♪」

 キングが名前をつけると、スライムもといボールは嬉しそうに体を震わせ、そしてキングが手を離すと弾んだ声を上げながら跳ね回りキングの肩に戻り体を頬に擦り付けてきた。

「はは、気に入ったか。良かった。なら今日からお前の名前はボール! 俺の大事な、友だちだ!」
「キュ~♪」

 こうしてひょんなことからキングが助けたスライムはボールという名前を付けられ、彼の大事な友だちとなったのだった――
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