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第1章 球技とボール編
第1話 そうだ、球を作ろう
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「おお、まだ無事残っていたか――」
町を離れ、キングはかつて修行の為に篭っていた山までやってきていた。その当時に雨風を凌ぐため及び、将来なにかの役に立つかも知れないと丸太小屋を作っておいた。それがまだ残っているかは不安だったが、昔から変わらずそこに立ち続けていた。
「ふむ、中はやはり掃除が必要か」
埃っぽく、蜘蛛の巣も張られ放題だ。丸太小屋はそこまで広くもなく部屋も一つだけで、木製の簡素なベッドに椅子と机だけが置かれている。だが結構な量の本を貰ってきたので本棚も必要かもな、とキングは考えた。
とにかく先ずは掃除だ。簡素な品ではあるが箒とタオルぐらいは購入してきた。後は蝋燭と針と糸もだ。衣類までは買い揃える余裕がなかったので破けたりしたら自分で補修する必要がある為だ。
キングは蜘蛛の巣を取り除く。蜘蛛は逃してやった。そして近くの川でタオルを濡らし拭き掃除、その後は適当な木を材料に本棚を組み上げた。
丸太小屋に本棚を設置し、譲り受けた本を並べ満足げに眺めた後、読書に入った。図書館では全てを読みきれなかったので、そこからは何日か掛けて全て読みきった。
その間の食事は適当に狩りをして調達していた。水も川から手に入るので生活する上でそこまで困ることもなかった。それにもともと修行で利用していた地だ。勝手知ったるといったところなのだろう。
しかし何故ここで読書に集中するのか、勿論ただ趣味に耽っているだけというわけではない。これにはキングなりの理由があった。
そう、この異世界の本にはキングが再び冒険者として返り咲く為のヒントが散りばめられているとそう思えて仕方なかったのである。
そして、全てを読み終えたキングはどこか満たされた顔を見せ、恍惚とした表情で余韻を噛み締めていた。
その上で改めて表紙に目を向けた後。
「……ふむ、やはりこの本に乗っているのは球を使った技なようだな」
キングはそう判断した。この本、実は日本で愛され続けたスポ根漫画なわけだが、その内容はかなりぶっ飛んでもいた。何せ玉を蹴ったり投げたりして時には選手が吹っ飛んだり、爆発したりしているのだ。
勿論それは過剰ではあるものの本来スポーツとしての描写なのだが――
「つまり、これは球を使った戦闘術というわけか」
しかし、キングの判断はそうではなかった。だがそれも仕方のないことかもしれない。何せ読んでいた中には最終的にはただのスポーツで終わらず、スポーツの技で強大な敵を倒すようなものもあったのだから。
「言うなればこれは球技といったところか……」
それがキングの判断だったわけだが、偶然とは言えその予想は当たっていた。
「闘球ともあるしつまりこれは球をつかった戦闘術! 球技なのだな!」
だが、結論づけた概念は大きく異なっていた。しかし、それも仕方のないことかもしれない。キングは独学で異世界語も多少は覚えたが読めるのはひらがなだけ、しかもざ行やが行は苦手であり「お」と「を」といったものの違いもわからなかったりと中途半端なのだ。
なのでどうしても足りない分は想像で補うしか無いのである。投球一つとっても闘球と勘違いするほどだ。
「うむ、だがこれで理解した。やはり俺にはこれを習得する他道はない! 異世界で使われてる技術を使いこなせるようになれば、きっと大きなアドバンテージになるはずだ!」
キングはもうレベルも頭打ちで寧ろ下がっていく一方だ。だが自分にはやはり冒険者の道しかなく藁にもすがる思いだったことだろう。
故にこの球技を極める他ないとこれにかけたのである。
「よし! 何はなくとも先ずは球だな!」
こうしてキングは動き出した。異世界の勇者が遺した戦闘術(?)である球技を極めるため――
「むぅ、これも駄目か……」
キングが山ごもりを始めてから1ヶ月が過ぎた。だが、キングは予想以上に苦戦していた。技が再現出来ないなどであればまだ諦めるには早すぎたのだが、そもそもまともに技の練習に入れる段階でもなかった。
その理由は、球にあった。そう、球技を行う上で最も大事な球作りがいまいち上手くいっていないのだ。
キングも試行錯誤は繰り返していた。本で見た球の形にするため、外側はこの辺りに出現するモンスターの皮を使った。その上で中に土を詰めてみたり砂を詰めてみたりした。他にもウールラムという羊のようなモンスターのもこもこした毛を詰めたりもしてみた。
だが中々しっくりとこなかった。これらの欠点は弾まないことだった。
一番イメージにピッタリ来たのは獣の腸を膨らました後皮で包み球にしたもので、これはそこそこ弾力性があり中を詰めたものよりはよく弾んだ。
だがこれは威力がいまいちだった。色々試したが投げても蹴っても威力なら土砂を詰めた方が高いが弾まず、弾む方は威力が足りない。
だが、何より問題なのは強度であった。
「確かに本の中でも破れることはあったが……」
球を蹴る球技では球が破裂するシーンが顕著だった。なので多少は覚悟したが、キングの作成した球はただ普通に蹴ったり投げるだけでもすぐ破れてしまった。
流石にこれではとても戦闘では使えない。キングは早くも壁にぶち当たった。
「……中々本のようにはいかんか」
改めて本を読み考え込む。読んでる内に技のイメージは固まってきたのだがそれを試す武器、つまり球が出来ない。
「ふぅ、悩んでいても仕方ないか」
キングは気分転換にまた外に出た。レベルは黙っていても下がる身だが、普段から体を鍛えるためにも外には出ている。
だが、これはそういった訓練関係なしに、森の中をブラブラしてみようといったところなのだ。
とはいえ、一応自家製の球は持っていく。剣も帯びているが、今後の自分の武器はこの球だ。だから体になじませるために常に一緒にいる。これは読んでいる本にも載っていたことだ。
球を蹴りながら森を歩き回るキングだが。
「キュ~キュ~!」
「「「グルルルルルゥ」」」
ふと、どこからか鳴き声が聞こえた。そして唸り声も。
「キュ~キュ~!」
「ふむ……」
どこからともなく聞こえてきた声は、なんとなく悲しげで、助けを呼んでるようでもあった。距離は離れてはいない。
人の声ではないが、なんとなく気になりキングは鳴き声のする方へ進んでいった。
「キュ~キュ~!」
「む、スライムが、狼に狙われているのか」
木々をかき分け出た先には、幹を背にして鳴いているスライムと、それを囲むようにして唸っている三匹の狼がいた。
狼と言っても正式にはサバイバルウルフというモンスターである。このあたりにはよく出没し、キングも何度か狩ったことがあった。
だが、スライムはこの辺りでは珍しい。大体スライムというモンスターは洞窟の中など暗くジメッとした場所にいることが多いからだ。
「ふむ、しかし、少し丸っこい?」
気になったのはキングが知るスライムに比べて若干丸みが強い気がしたことだ。よく見るスライムはもう少し平たい気がするのだ。
「キュー! キュー!」
ふと、スライムの鳴き声が強まった気がした。もしかして自分に気がついたのか? と首をかしげる。
もしかしたら助けてと縋ってきているのかもしれない。どちらもモンスターではあるが、ここで見捨てるのは可愛そうだなと自家製の球を軽く踏み、狙いを定めた。
「喰らえ! 蹴弾!」
キングの蹴った球は一直線に向かい狼に命中した。
「キャン!」
悲痛な鳴き声を上げ、スライムの正面にいた一匹が吹っ飛んだ。だが弾力が無いため、あまり跳ね返ってこない。仕方がないのでキングは駆け出し、直接球を蹴った。
「ギャン!」
「ギャイン!」
その結果、今度は一匹に当たった球が跳ね返りもう一匹にあたった。三匹とも地面に倒れたが、よれよれになりながらも起き上がると、クゥンクゥン、と情けない声を上げて逃げていった。
「ふむ、どうやら追い払うことは出来たようだな」
町を離れ、キングはかつて修行の為に篭っていた山までやってきていた。その当時に雨風を凌ぐため及び、将来なにかの役に立つかも知れないと丸太小屋を作っておいた。それがまだ残っているかは不安だったが、昔から変わらずそこに立ち続けていた。
「ふむ、中はやはり掃除が必要か」
埃っぽく、蜘蛛の巣も張られ放題だ。丸太小屋はそこまで広くもなく部屋も一つだけで、木製の簡素なベッドに椅子と机だけが置かれている。だが結構な量の本を貰ってきたので本棚も必要かもな、とキングは考えた。
とにかく先ずは掃除だ。簡素な品ではあるが箒とタオルぐらいは購入してきた。後は蝋燭と針と糸もだ。衣類までは買い揃える余裕がなかったので破けたりしたら自分で補修する必要がある為だ。
キングは蜘蛛の巣を取り除く。蜘蛛は逃してやった。そして近くの川でタオルを濡らし拭き掃除、その後は適当な木を材料に本棚を組み上げた。
丸太小屋に本棚を設置し、譲り受けた本を並べ満足げに眺めた後、読書に入った。図書館では全てを読みきれなかったので、そこからは何日か掛けて全て読みきった。
その間の食事は適当に狩りをして調達していた。水も川から手に入るので生活する上でそこまで困ることもなかった。それにもともと修行で利用していた地だ。勝手知ったるといったところなのだろう。
しかし何故ここで読書に集中するのか、勿論ただ趣味に耽っているだけというわけではない。これにはキングなりの理由があった。
そう、この異世界の本にはキングが再び冒険者として返り咲く為のヒントが散りばめられているとそう思えて仕方なかったのである。
そして、全てを読み終えたキングはどこか満たされた顔を見せ、恍惚とした表情で余韻を噛み締めていた。
その上で改めて表紙に目を向けた後。
「……ふむ、やはりこの本に乗っているのは球を使った技なようだな」
キングはそう判断した。この本、実は日本で愛され続けたスポ根漫画なわけだが、その内容はかなりぶっ飛んでもいた。何せ玉を蹴ったり投げたりして時には選手が吹っ飛んだり、爆発したりしているのだ。
勿論それは過剰ではあるものの本来スポーツとしての描写なのだが――
「つまり、これは球を使った戦闘術というわけか」
しかし、キングの判断はそうではなかった。だがそれも仕方のないことかもしれない。何せ読んでいた中には最終的にはただのスポーツで終わらず、スポーツの技で強大な敵を倒すようなものもあったのだから。
「言うなればこれは球技といったところか……」
それがキングの判断だったわけだが、偶然とは言えその予想は当たっていた。
「闘球ともあるしつまりこれは球をつかった戦闘術! 球技なのだな!」
だが、結論づけた概念は大きく異なっていた。しかし、それも仕方のないことかもしれない。キングは独学で異世界語も多少は覚えたが読めるのはひらがなだけ、しかもざ行やが行は苦手であり「お」と「を」といったものの違いもわからなかったりと中途半端なのだ。
なのでどうしても足りない分は想像で補うしか無いのである。投球一つとっても闘球と勘違いするほどだ。
「うむ、だがこれで理解した。やはり俺にはこれを習得する他道はない! 異世界で使われてる技術を使いこなせるようになれば、きっと大きなアドバンテージになるはずだ!」
キングはもうレベルも頭打ちで寧ろ下がっていく一方だ。だが自分にはやはり冒険者の道しかなく藁にもすがる思いだったことだろう。
故にこの球技を極める他ないとこれにかけたのである。
「よし! 何はなくとも先ずは球だな!」
こうしてキングは動き出した。異世界の勇者が遺した戦闘術(?)である球技を極めるため――
「むぅ、これも駄目か……」
キングが山ごもりを始めてから1ヶ月が過ぎた。だが、キングは予想以上に苦戦していた。技が再現出来ないなどであればまだ諦めるには早すぎたのだが、そもそもまともに技の練習に入れる段階でもなかった。
その理由は、球にあった。そう、球技を行う上で最も大事な球作りがいまいち上手くいっていないのだ。
キングも試行錯誤は繰り返していた。本で見た球の形にするため、外側はこの辺りに出現するモンスターの皮を使った。その上で中に土を詰めてみたり砂を詰めてみたりした。他にもウールラムという羊のようなモンスターのもこもこした毛を詰めたりもしてみた。
だが中々しっくりとこなかった。これらの欠点は弾まないことだった。
一番イメージにピッタリ来たのは獣の腸を膨らました後皮で包み球にしたもので、これはそこそこ弾力性があり中を詰めたものよりはよく弾んだ。
だがこれは威力がいまいちだった。色々試したが投げても蹴っても威力なら土砂を詰めた方が高いが弾まず、弾む方は威力が足りない。
だが、何より問題なのは強度であった。
「確かに本の中でも破れることはあったが……」
球を蹴る球技では球が破裂するシーンが顕著だった。なので多少は覚悟したが、キングの作成した球はただ普通に蹴ったり投げるだけでもすぐ破れてしまった。
流石にこれではとても戦闘では使えない。キングは早くも壁にぶち当たった。
「……中々本のようにはいかんか」
改めて本を読み考え込む。読んでる内に技のイメージは固まってきたのだがそれを試す武器、つまり球が出来ない。
「ふぅ、悩んでいても仕方ないか」
キングは気分転換にまた外に出た。レベルは黙っていても下がる身だが、普段から体を鍛えるためにも外には出ている。
だが、これはそういった訓練関係なしに、森の中をブラブラしてみようといったところなのだ。
とはいえ、一応自家製の球は持っていく。剣も帯びているが、今後の自分の武器はこの球だ。だから体になじませるために常に一緒にいる。これは読んでいる本にも載っていたことだ。
球を蹴りながら森を歩き回るキングだが。
「キュ~キュ~!」
「「「グルルルルルゥ」」」
ふと、どこからか鳴き声が聞こえた。そして唸り声も。
「キュ~キュ~!」
「ふむ……」
どこからともなく聞こえてきた声は、なんとなく悲しげで、助けを呼んでるようでもあった。距離は離れてはいない。
人の声ではないが、なんとなく気になりキングは鳴き声のする方へ進んでいった。
「キュ~キュ~!」
「む、スライムが、狼に狙われているのか」
木々をかき分け出た先には、幹を背にして鳴いているスライムと、それを囲むようにして唸っている三匹の狼がいた。
狼と言っても正式にはサバイバルウルフというモンスターである。このあたりにはよく出没し、キングも何度か狩ったことがあった。
だが、スライムはこの辺りでは珍しい。大体スライムというモンスターは洞窟の中など暗くジメッとした場所にいることが多いからだ。
「ふむ、しかし、少し丸っこい?」
気になったのはキングが知るスライムに比べて若干丸みが強い気がしたことだ。よく見るスライムはもう少し平たい気がするのだ。
「キュー! キュー!」
ふと、スライムの鳴き声が強まった気がした。もしかして自分に気がついたのか? と首をかしげる。
もしかしたら助けてと縋ってきているのかもしれない。どちらもモンスターではあるが、ここで見捨てるのは可愛そうだなと自家製の球を軽く踏み、狙いを定めた。
「喰らえ! 蹴弾!」
キングの蹴った球は一直線に向かい狼に命中した。
「キャン!」
悲痛な鳴き声を上げ、スライムの正面にいた一匹が吹っ飛んだ。だが弾力が無いため、あまり跳ね返ってこない。仕方がないのでキングは駆け出し、直接球を蹴った。
「ギャン!」
「ギャイン!」
その結果、今度は一匹に当たった球が跳ね返りもう一匹にあたった。三匹とも地面に倒れたが、よれよれになりながらも起き上がると、クゥンクゥン、と情けない声を上げて逃げていった。
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