異世界球技無双~最強すぎる必殺シュートで伝説のドラゴンや魔王も全てふっ飛ばす!~

空地大乃

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プロローグ

プロローグ前編

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「ふざけるなよテメェ! お前のせいで見ろ、俺たち危なく死ぬところだったんだぞ!」

 ギルド内に男の大声が響き渡る。怒鳴り散らしているのは20代の青年。端正な顔立ちをしているが、今は怒りで顔を歪めていた。その後ろには戸惑いがちな男女。
 
 そして彼の正面には青年より一回りは上な中年の冒険者。

 キング・グローブ――それが彼の名前だ。キングはこの若者のパーティーに参加しモンスターの討伐に向かっていた。

 そして結論で言えば討伐依頼は成功したのだが、その帰りにハイアールドラゴンを見かけた。ハイアールドラゴンはB級モンスターであった。この級はそのまま冒険者ランクに比例する。

 キングが所属したパーティーは全員がC級でありキングも一緒だった。ハイアールドラゴンのような竜系のモンスターは単独で挑むのは望ましくない。B級モンスターであれば最低一人はB級冒険者が欲しい。

 だからキングは最初は止めたほうがいいと、依頼は片付いたのだしここで無茶をしても仕方がないと止めたのだが、リーダーは引かなかった。

 竜系のモンスターは素材の価値が高い。鱗から牙、爪、肉まで余すことなく全てが宝みたいなものだ。ハイアールドラゴン一匹でも倒すことが出来れば1年ぐらい仕事をしなくても余裕がある程の金が手に入る。

 それに竜を退治できれば冒険者としての泊もつく。リーダーがどうしても討伐したいと考えるのも無理もないことにも思えた。

 それにB級相手だからと全く勝てない相手というわけではない。パーティー編成や相性で討伐できる可能性はある。

 その上でキングが熟練した冒険者であるという点が今回の場合は災いした。しかもキングはハイアールドラゴンと戦ったこともあったし実際に討伐したこともある。

 それなら、十分いけるだろうという話になり、最終的にそれをキングも止めきれなかった。本当はわかっていた。キングはもうあの頃とは違うんだということに。ハイアールドラゴンを倒した頃はステータス面でも全盛期だった頃だ。

 だが30歳を超えた今は違う。ましてキングの能力は下り坂だった。その結果、将来のある若者を危険に晒してしまった。

 非難されても仕方なかったないのだろうとキングは思う。

「お前のせいで依頼が台無しだ! どうしてくれる!」

「ちょっと待ってくださいビルさんも言い過ぎでは? それに討伐依頼そのものは成功してるじゃない」

 一人カッカして怒鳴り散らしている青年ビルに受付嬢が待ったを掛けた。確かに討伐依頼そのものは問題なく終わっていた。ハイアールドラゴンはあくまでその帰りに見つけた副産物でしかない。

「そうよビル。それに最初はキングさんだって止めたのに、私たちが無理させたののも悪いんだし」
「んだよそれ、お前こんな役立たずのおっさんの肩を持つのかよ!」

 パーティーメンバーの治療術士の少女が宥めようとするが、ビルの機嫌はますます悪くなるだけであり。

「とにかく、もうお前みたいな役立たずはうちのパーティーからは追放だ! わかったな!」
「……あぁ、わかった。迷惑かけてすまなかった。今回の討伐報酬も俺は辞退させてもらうよ」
「え? いや、何もそこまで……」
「当然だな! 結局テメェは糞の役にも立たなかったんだからよ!」

 もう一人のメンバーが口を挟もうとしたが、それを塞ぐようにビルが大声でまくし立てた。
 
 そしてキングに追放を宣言したあと報酬を受け取りビルはギルドを後にした。他のメンバーも気にかけてはいたが、キングが固辞したことで申し訳なさげにギルドを後にした。

「キングさん、そんな報酬まで辞退することなかったのに」
「いいんだ。迷惑を掛けたのは事実だし、俺のことなんかでギスギスするのは見たくない」
「キング、ちょっといいか?」
「あ、マスター」

 キングが受付嬢と話している途中で威厳の感じられる声がキングに投げかけられた。振り返ると中年の男性の姿。

 剃り上がった髪にハの字の髭、そしてはち切れんばかりの筋肉が眩しい肉体、かつてはS級冒険者としても名を馳せたギルドマスターが難しい顔で彼を呼んだ。

 わかりました、と頷き、キングはマスターの私室まで同行した。部屋に付き、背もたれのついた椅子にマスターが腰を下ろす。暫くの沈黙、マスターが背もたれに体重を載せた時に生じたギシッという音が妙に重苦しく感じた。

「……パーティーを追放されたか」
「……はい」
「もう、これで三度目だな」
「……はい」

 キングはマスターの言葉に同じ言葉を繰り返すだけだった。キングの顔はどこか苦しげだった。尤も過去の追放理由は今回とは異なる。とは言え、キングの力不足が理由なのは確かだ。

「……超早熟型だったな。お前の成長特性は。成長特性の中では限りなくレアに近い」

 キングは黙ってマスターの言葉に耳を傾け続けた。この世界にはレベルというものが存在する。それはその物の能力を客観的に図るものだ。

 だがこのレベルの上がり方は個人によってことなり、成長特性によってある程度左右される。

 成長特性には基本として早熟型、平均型、晩成型の3タイプが存在する。だがそれとは別にレア特性として、超早熟型、加重平均型、大器晩成型がある。

 キングはこの内の1つ超早熟型であった。このタイプは成長がとても早く、若いうちからレベルがガンガン上がっていくのが特徴だった。

 事実キングはこの成長型のおかげで誰よりも早くレベルが上がっていき、25歳の時には常人では到達するのも難しいとされたレベル50まで達成させた。

 だが、この超早熟には大きな副作用があった。レベルは老化にともない下がることがある。これは仕方のないことだ。だが、超早熟は更にレベルが下がるのが早いのだ。キングの成長ピークはLV50に達成した25歳であり、そこからは3年は全くレベルが上がらなかった。それどころか28歳を迎えた辺りからレベルが下がり始めた。

 30歳を迎えた頃にはレベルは35まで下がっていた。その為当時のA級パーティーからは戦力外通告をされ、追放された。

 その後はB級パーティーで暫く頑張ったが、やはりレベルの低下は抑えられず、結果B級パーティーも追放されてしまう。
 
 そして、今回の件。32歳を迎えたキングのレベルは既に20にまで低下していた。ギルドの指針で行けばLVでみてもC級水準ギリギリだった。しかもキングのレベルは今後上がる望みが薄いどころか下がる可能性の方が高いのだ。

 そんな落ち目のキングを見ながら、マスターはどこか哀れみに似た感情の篭った視線をぶつけてきた。

「超早熟に関するデーターは少なく、我々は単純に早くからレベルが上がる将来有望な特性だと思っていた。お前が早くにレベル50を達成した時にはいよいようちからS級冒険者が出るかと期待したものだったんだがな」
「……マスターの期待に答えられず申し訳ない」

 キングは頭を下げた。彼が悪いわけではない、マスターが過度に期待を持ちすぎただけだが、それでも彼もマスターに良くしてもらった恩があった。

「……それは俺が勝手に期待したことだ。頭を上げな。だけどな、俺は正直辛いんだ。お前がこうやってどんどん落ちぶれていく姿を見るのがな」
「……申し訳ない」

 謝罪の言葉を繰り返すその姿にマスターはため息を見せ。

「お前ももう、潮時かもしれねぇな」
「…………」

 キングは何も答えなかった。心の何処かでわかっていたことだった。だが、それを自分のなかで消化しきれずにいた。キングは冒険者としての生き方しか知らない男だ。だからこそ、認めたくないという思いもあった。

 だが、マスターはきっとそんなキングの機微も理解していたのだろう。

「ここまで言っても、きっとお前は自分じゃ決められないんだろうな。だから、俺が直接お前に引導を渡してやろう。キング・グローブお前を今日付けで冒険者ギルドから追放する。資格も剥奪だ――」





「今日から無職か……」

 冒険者ギルドを出た道すがら、キングが一人呟いた。受付で冒険者証を返却した際は受付嬢に随分と驚かれたものだった。

 キングは自分からはその理由を話さず、己の不甲斐なさが原因で責任を取るだけだと語ったが納得することなく、受付嬢自ら直談版するとまで言ってくれたがそれはなんとか止めさせた。

 正直言えば、少し肩の荷が下りたと思える自分もいたのだ。キングはとっくに限界を感じていた。冒険者稼業をこれ以上続けるのは無理かもしれないとひしひしと感じ取っていた。だが決心がつかなかったのだ。キングは冒険者としての生き方しかしらないから、それを失ってからどう生きていいかもわからなかった。

 だが、今日から無職、それは変わらない。しかし追放されたとは言えマスターはこれまでの功績を配慮してと功労金を与えてくれた。金貨10枚だった。

 金貨は平民では滅多に目にすることのない貨幣だ。金貨1枚あれば平民が稼ぐ一ヶ月分の給金より多い。

 それが10枚あれば暫くは暮らしに困ることはない。それに冒険者時代の蓄えもある。一体何をしていいかなどすぐには思いつかないが考える時間ぐらいはあるだろう。

「ただいま」
「おかえりなさい貴方」

 家に戻るとキングの妻が出迎えてくれた。妻は元受付嬢で7年前に一緒になった。自分よりも5歳下の美しい受付嬢だった。自分にはもったいないぐらいの出来た妻だとキングは思う。

「お仕事の方はどうでしたか?」

 鎧を脱ぐのを手伝いつつ、妻が聞いてきた。一瞬言葉に詰まるキングだが、黙っているわけにもいかない。

「……実は冒険者は辞めてきたんだ」
「え? あは、また冗談よね?」
「……事実だ。お前も知っているだろう? レベルも下がってきて限界を感じていたんだ。潮時だった。でも、勝手に決めて悪かったな」

 本当は追放されたのだが、そこまで正直にはどうしても話せなかった。我ながら小さな男だなと自己嫌悪に陥りそうになるが。

「ただ、これまでの功績を評価されてな。退職金を貰えた。金貨10枚だ。これに蓄えを加えれば暫くは問題ないと思うんだ。俺も仕事ばかりで苦労かけたけど、暫くのんびりしながら今後のことを一緒に考えてくれないか?」

 キングが問うと、妻はうつむき加減で暫く考え込んでしまった。やはり怒ってるかな? と心配になったキングだったが。

「……はい。そうですね。それに貴方とのんびり出来るなんて嬉しい。うん、今後もきっとなんとかなるわよ」

 そういって笑ってくれた。出来た妻だなと、彼女と一緒になれたことを神に感謝するキングである。これまで冒険者としての仕事ばかりに気を取られ妻に寂しい思いをさせたかも知れない。

 その埋め合わせをしてあげねばとも考える。そろそろ子どもの一人でも作ってみても良いかも知れないなどと思いさえした。

 その日の夕食は豪勢なものだった。これまで冒険者として頑張ってくれたお礼だと妻は言った。料理はどれも美味しかった。そして酒も妻に薦められるがまま冒険者としての自分を忘れるように沢山のんだ。

 次の日の朝、痛む頭を抱えながらキングが目覚めるとベッドで一緒に寝ていた筈の妻の姿がなかった。もう起きたのかな? と周囲を見回し、異変に気がついた。
 
 家の中から調度品などが消えていたのだ。慌てて飛び起き、家中を確認したが、金目のものは全てなくなっていた。蓄えも全てだ。昨日マスターから受け取った金貨10枚もない。

 一瞬泥棒に入られたのか? と頭をよぎり妻の身を案じたが、そうではなかった。置き手紙が残されていた。妻の字だった。

『無職の貴方とは一緒にやってられません。なので別れます。慰謝料は貰っていきますね』

 キングはその全てを飲み込むことが出来なかった。もしかしたら妻は無理やりこれを書かされて誰かに連れ去られたのでは? とさえ考えた。

「あれ? なんだいまだいたのかい?」
「え?」

 だが、追い打ちをかけるように町の不動産屋がやってきて、キングにこう告げた。

「昨日あんたの奥さんから土地の権利書を買い取ったんだ。今日には引き払うって話だったし、さっさと出ていってくれないかね?」
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