buddy ~絆の物語~

AYANO

文字の大きさ
上 下
107 / 117
番外編

潔癖の理由

しおりを挟む
僚が女性に対して潔癖になった理由を掘り下げてみました
___________________________________________

「葉山くん、これ」
そう言って渡されたのは、四角い箱と手紙だった。

今日はバレンタインデー。
小学校5年生にもなると、それはもうみんな浮足立っているようで、男子も女子もずっとそわそわしている。

「どうも」

それだけ言うと、僚はパッと受け取りさっさと教室に戻る。
渡した女の子は何か物言いたげにしていたが、僚には見えていない。
なぜなら、今日は休み時間になるたびに、呼び出されたり、廊下で引き止められたりして、僚はうんざりしていたからだ。

(ろくにしゃべったこともないのに、なんでこんな物を渡してくるんだ?)
僚はこんなことをしてくる女子の気持ちが、全く理解できなかった。

そして放課後。隼斗と一緒に帰ろうと学校の下駄箱に行くと、また1人女子に声を掛けられた。

「葉山くん。これ受け取って」

僚は持っている手提げバッグの中が、チョコの箱で埋め尽くされていた。
(またか......もう勘弁してほしい......)
そんな思いが顔に出ていたのだろうか、いつも通り一言だけ言って受け取ろうとするが、その包みをなかなか離してくれない。
そばで見ている隼斗も、いぶかしげにこちらを見ている。

すると、その女の子が包みを持ったまま、僚に話しかけてきた。
「葉山くんは、藤堂明日香と新井深尋、どっちが好きなの?」
明日香と深尋の名前を聞いて、隼斗も少し反応する。

「はあ?なんでそんなこと言わないといけないの?」
「だって葉山くん、あの2人とは仲がいいでしょ」

そう言われた瞬間、僚はさあっと自分の中に、冷たいものが流れてくる感覚がした。その次には、今日一日のイライラをぶつけるようなことを口走っていた。

「明日香と深尋と仲がいいのは俺だけじゃないだろ。隼斗も、誠も、竣亮も仲良くしている。俺だけに言うのはおかしいと思わないのか。そんなことを言うなら、これは受け取れない」
僚は握っていた箱をそのまま突き返し、校舎を出て行った。

「僚、よかったのか?あの子泣いてたぞ」
隼斗が心配して声を掛けてくる。
「いいんだよ。それより早く公園に行こう」
「おう......」

冬の河川敷は寒すぎるので、最近はもっぱら近所の公園で遊んでいた。
公園に着くと、すでに竣亮と誠、明日香と深尋がいた。

「あっ、きたきた。遅かったねー」
深尋がブンブン手を振っている。

「僚くん、今日スゴイたくさんもらってたね、チョコ」
竣亮がニコニコして僚に聞いてくる。

「うん。でも結局、弟たちにあげてるから」
「そうなの.....?」

僚は男3人兄弟の長男で、3つ下の弟と、5つ下の弟がいる。
すると、その話を聞いていた明日香が、申し訳なさそうに僚に包みを出してきた。

「これ、わたしと深尋からなんだけど.....」
「いや、明日香と深尋からのものは、ちゃんと自分で食べるよ。ありがとう」
僚はそれを今日初めて、嬉しいと思って受け取る。

今日、チョコを渡してきた女子たちは、一方的に気持ちを押し付けてきたり、こちらの状況も考えずに、渡すだけ渡して逃げて行ったりと、チョコを渡すことだけを考えていて、結局、俺のことなんて考えていないんだと思い知らされた。

でも、明日香と深尋はそんなことをしない。
相手が誰であろうと、その人のことを考えているし、独りよがりになることもない。だから友達として付き合っているんだ。
僚はそう思った。

それ以降、中学、高校とたくさんの女の子が言い寄ってきたが、僚はそういう子が近づいてきた瞬間「気持ちが悪い」と思うようになってしまった。

別に、女の子が嫌いなわけではない。恋愛対象も女の子だし、当然、男として性に対する興味もある。

でも、一方的な好意を向けられると、とたんに「嫌悪感」が芽生える。そして何よりもイヤなのが、女の子たちが体につけている香水やデオドラント系の匂いだ。それで近づいてこられると、嫌悪感と寒気が襲ってくる。

それに対して明日香と深尋からは、そういう嫌な匂いを感じることはなかった。汗をかいたレッスン終わりでも、全くそういうことがなかったので、2人に対して嫌悪感を抱いたことは1度もない。

中学から仲良くなった同級生の市木が、こんなことを言ってた。

「葉山はさ、自分が本当に好きになった子としか、恋愛できない呪いでもかけられたんじゃないの?俺からすれば、可哀想だなって思うよ」

そう言われても、僚は全然悔しいとも思わなかった。
逆に、それのどこが悪いんだ、とさえ思っている。
恋愛は本当に好きな人とする呪い。それはそれで幸せじゃないかと、僚は思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ

まみ夜
キャラ文芸
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻(ホラー風味)は現在、更新休止中です。 続きが気になる方は、お気に入り登録をされると再開が通知されて便利かと思います。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

想い人が他にいると初夜に言い放った夫ですが、それって私のことですよね? ~元野生児令嬢の新婚奮闘記~

西尾六朗
恋愛
「私には想い人がいる。彼女を忘れる事ができない」――お互い家の為に結婚したリリマリアとレオン。政略結婚でも幸せになれると信じ迎えた初夜に他に好きな人がいると告白されたリリマリアだが、詳しく話を聞いてみたら、どうやらそれは幼き日の自分のことのようだ。 どうにかして初恋の相手=自分であると分かって欲しいのだがなかなか上手く行かない。そんなことをしている内に、リリマリア自身もレオンのことを好きになってしまって… 【※他小説サイトでも同タイトルで公開中です】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...