buddy ~絆の物語~

AYANO

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大学生編

73. 沖縄へGO!①

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「うわぁ、あついーっ」
「じめーっとしてるねー」
飛行機を降り、ボーディングブリッジを歩いていると、これが沖縄かとみんなわくわくが止まらなかった。
夏真っ盛りということもあり、那覇空港は混雑していたが、その混雑も気にならないくらい浮かれていた。
預けた荷物を受け取った後、事務所が用意した車でホテルへ移動する。

空港から約2時間。沖縄県の本島北部のリゾートホテルに到着した。
今日は移動だけなので、ホテルに着いた後は基本的に自由だ。6人はスタッフがチェックインの手続きをしている間、ホテルの案内図を見て、夕食までどうするか相談していた。
「今日は泳げないけど、とりあえず海行ってみる?」
「なんかここ、ちょっとした水族館みたいになってるみたいだな」
などと、仕事ではなく遊びモード全開だ。
「はーい、みんな集合」
元木に呼ばれて集まる。まるで修学旅行だ。
「とりあえず、明日香と深尋の部屋の鍵ね。それと、この2部屋は男部屋。誰がどこに入るかは任せるよ」
ツインの部屋をそれぞれ割り当てられた6人は、荷物を持って部屋に向かう。
男子は僚と隼斗、誠と竣亮が相部屋になった。

明日香と深尋は部屋に入った瞬間、目の前に広がる海を見て、きゃあきゃあ騒ぐ。部屋にはバルコニーがついており、早速外に出る。
「明日香ぁ、ホントに来ちゃったねー」
「そうだね。海の色がさ、テレビとか写真で見るのと同じだよ」
さっきまで騒いでいたのに、今度は感動で胸がいっぱいの2人。
すると、部屋についているチャイムが鳴る。明日香が開けると、そこには隼斗と僚が立っていた。
「ちょっと海に行くけど、どうする?」
「あ、行く!深尋ー、海行こうって」
明日香が呼ぶと、深尋もあわてて出てくる。
誠と竣亮も呼び、結局6人でビーチの散策に出掛けた。

時間は午後4時を周っており、泳ぐ人も少なくなっていた。
ビーチに出て白い砂の上を歩くと、昼の熱がまだ残っている。
「海も、砂も、きれいだね」
「しかも、サラサラしてるー」
深尋は履いていたミュールをポイッと脱ぎ捨てて、素足で歩き始める。明日香はベルト付きのサンダルを履いているため、さっきから足の裏に砂が入り込んで歩きづらそうにしていた。
「明日香、サンダル脱いで素足の方が気持ちいいぞ」
僚がそう言うので、明日香は僚に支えてもらいながら、片足ずつサンダルを脱いでいく。その様子を見ていた隼斗が、
「あのーお2人さん、俺たちがいること忘れないでくださいね」
と、2人をからかうようなことを言う。
それからディナーまで、ビーチでのんびりしたり、ホテルにある水槽の魚を見て回ったりしながら、ゆっくり過ごした。

ディナーの時間になったので、元木にあらかじめ伝えられていたレストランに6人で向かう。
今日のディナーは、明日から3日間かけて行われる写真集の撮影と、プロモーションビデオの撮影のため、全てのスタッフが揃ってのいわば決起集会のようなものだった。海の上にあるレストランのテラス席を貸し切って、みんなでバーベキューをする。
「いやぁ、buddyがこんな美男美女のグループだって公表されたら、今以上に人気になりますよー」
今回撮影スタッフとして新たに入ってきた人が、6人の座る席に絡みに来た。
さっきからこんな大人達ばっかりで、全然食事が進まない。

「これ、いつまで続くのかな.....」
竣亮がボソッと呟く。
「いい加減、愛想笑いも疲れたな」
「俺はそんなことしてないけど、しないとダメか?」
「誠は.....そのままでもいいと思う.....」
誠に愛想よくしろというのが、そもそも間違っている。
すると今度は、自分たちのレッスン風景を撮っていたカメラマンが6人の元へやってきた。
「みなさん、明日からまた、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
全員、挨拶だけはきちんと返す。
「さきほど、みなさんがビーチにいるところを見ていたんですけど、やっぱりあなたたちは、自然体の方がいい顔されますね」
このカメラマンさんは、以前も同じようなことを言っていたなと思い出す。
「あの、俺たちの自然体って、どんな風に見えるんですか?」
僚は思い切って聞いてみた。

「そうですね.....いい意味で脱力感があるというか、肩肘張らずにいまこの瞬間を楽しんでいる姿が、見ている人を引き付けるんじゃないかと思いました。それは、あのレッスン室でもそうでしたよ」
「脱力感.....ですか」
意識したら難しいが、このカメラマンさんからはそう見えているのだから、出来ないこともないんだろうなと、僚は思った。
「ははっ、まぁ、あまり深く考えず、カメラを意識しなければ、あなた方は大丈夫だと思いますよ。それではまた明日」
それだけ言い残すと、カメラマンさんは別の席に行ってしまった。
「やれるだけやってみるか」
「そうだね。沖縄まで来て出来ないとは言えないしね」
カメラを意識せず、いつも通りに。
あのカメラマンさんの言葉を信じて、明日はやってみようと思った。

ディナーが終わり、6人は他のスタッフより早めに部屋に戻ることにした。
レストランからホテルへはビーチを横切っていくため、6人はまた海に近い砂浜を歩いていた。

すっかり暗くなった海は、ザザーーン、ザザーーンと波の音だけが響いており、それがまた心地よい雰囲気を作り上げていた。
「なんかさ、知らない人にあんなに囲まれたのが初めてだったから、緊張というか、とにかく疲れたね.....」
明日香が隣を歩く僚に言うと、僚も明日香を見て、
「そうだな.....でも、これからもっとたくさんの人達と関わっていくだろうから、こういうことにも慣れないとな」
そう言って、長い明日香の髪の毛を、そっと耳にかけてあげる。
僚は、ふいにこういうスキンシップをとってくるので、その度に明日香はドキドキして翻弄されっぱなしだった。
そして、僚と明日香の前を歩く4人は、2人の様子が気になってしょうがなかった。

「おい、深尋。なんとかして、あの2人と離れられんか?」
「そんな急に言われても無理だよー。もうホテル着いちゃうしー」
「隼斗と深尋が部屋の鍵持って逃げれば?」
「誠、いい考えだねー」
「.......俺の部屋の鍵、僚が持ってる」
「隼斗......肝心な時にダメだね......」
「俺のばかっ!」
「あれ?でも、2人ともあんなとこにいるよ」
竣亮に言われて振り返ると、すぐ後ろを歩いていたはずの2人が、だいぶ離れた後ろの方で、波打ち際でしゃがんで何かしている。
「これってさ、このまま気づいてないフリして行くか」
「そうだな。行こうぜ」
そうして4人は、2人から遠ざかっていく。

明日香は波打ち際にいるヤドカリに気づき、それに夢中になっていた。
僚は、4人が離れて行ったのを横目で確かめ、心の中で礼を言う。
「この子たちどこに帰るのかな?」
明日香の目線の先には、2匹のヤドカリがちょこちょこ歩いている。
「夜行性だし、帰るっていうより、エサでも探しているんじゃないか?」
「そうなんだ。じゃあ、邪魔したら悪いね。バイバイ、ヤドカリさん」
明日香が立ち上がろうとすると、僚が手を差し出してきた。
「ありがとう」
明日香は素直にその手を取り立ち上がると、僚はその手を握りなおし、歩き出す。いまは周りに誰もいないが、他の人に見られたらと、ソワソワする。

「あのさ、俺たちが付き合ってること、元木さんに話そうと思ってるんだけど、どう思う?」
ふいに僚にそう聞かれて、明日香は戸惑った。
「あ、うん.....そうだね.....」
「俺は、明日香や俺の両親もそうだけど、やっぱり元木さんにも話した方がいいんじゃないかって思うんだ。なんか、コソコソするのもイヤだし.....」
buddyを育てたという意味では、元木も親同然であるのは間違いない。それに、恋愛するなとは言わないとも言ってた。だから、いまはその言葉を信じて、元木にも打ち明けるべきなんじゃないかと思った。

「うん。元木さんに話そうか。恥ずかしいけど......」
「俺は恥ずかしくないよ。ホントのことだし、悪いこととは思わないから」
「う.....そうだけど.....」
子供のころから知っている人に、こういうことを打ち明けるのは、そう何度もあるわけではないので、明日香としては気恥ずかしさが勝ってしまうようだ。
それがすぐに顔に出る明日香は、首まで赤くなっていた。それに気づいた僚が、
「すぐそんな風に赤くなるところ、可愛くて好きだよ」
と明日香の耳元で囁くと、余計に赤くなる。
ホテルのロビーで2人と合流した隼斗たちは、赤くなった明日香の顔を見て、(この短時間で何があったんだ⁉)と、別の意味でドキドキしていた。

翌日から写真集の撮影が始まった。それとほぼ同時進行で、プロモーションビデオも撮影していく。
ホテルから少し離れた、観光客が来ない穴場のビーチにやってきた。人がほとんど来ないためか、ホテルのビーチよりもきれいに見える。
6人が到着した時には、すでに大勢のスタッフが撮影の準備をしていた。
そして簡易のテントがいくつか用意されており、そこで着替えやヘアメイクをする。

現場に着くと、早速衣装に着替える。6人が衣装をそろえるのは初めてだったので、どんな衣装か楽しみだった。
明日香は肩や鎖骨が美しく強調される、オフショルダーの大人っぽい白のワンピース。深尋は首の根元から肩にかけて大きく開いたアメリカンスリーブに、二の腕からフリルの袖がついた、可愛めの白いワンピースを着ていた。
男性陣も白をベースにした衣装で、僚はシャツにネクタイその上からベスト、下はアンクル丈のパンツ、隼斗はTシャツに七分袖のジャケットとチノパン、竣亮はタンクトップにシャツ、クロップドパンツ、誠はシャツ1枚とワイドパンツという、なんともスタイリッシュな衣装だった。
その後、初めてプロのヘアメイクさんにメイクとヘアセットをしてもらった6人は、女性たちは喜び、男性たちはちょっと恥ずかしかった。

「おおーっ、可愛いじゃん」
「ほんと、2人とも可愛いねー」
「似合ってるな」
全員着替えて対面すると、隼斗、竣亮、誠が、明日香と深尋を素直に褒める中、僚は1人だけ浮かない顔をしていた。
「僚、何か言うことはないのか?」
隼斗に言われて僚はボソッと呟く。
「...........たくない」
「あ?」
「明日香のその姿、見せたくない。誰にも......!」
僚がそう言った瞬間、明日香以外の4人は、はぁぁとため息を吐く。
当の明日香は、オフショルダーで見えている肩まで真っ赤になっている。
「お前、いまからそんなこと言ってどうすんだよ」
「僚くん、気持ちはわかるけど.....」
「うちのリーダー大丈夫か?」
「溺愛がひどすぎるねー」
そんなことを言っていると、スタッフに呼ばれて撮影がスタートした。

波打ち際で6人横1列に並び、正面からの写真、それからバックショットを撮ったり、1人1人のアップの写真はもちろん、自由に動いてほしいと言われて、6人で海で遊んでみたりと、とにかくたくさんの写真を撮った。
特に最後の方になると、撮影のことも忘れて思いっきりはしゃいでしまった。
それはまさしく、昨日カメラマンさんに言われた「自然体」「脱力感」が発揮されており、それをそばで見ていた元木は、あの河川敷で最初に見た6人の顔を思い出す。

6人を初めてみた時の高揚感、そして期待。人を引き付ける魅力。その全てが詰まっている奇跡の子たち。
見つけて良かった、育てて良かったと、心からそう思った。

その後も衣装を変え、場所も海だけではなく、食事をしているところや、サトウキビ畑の中、那覇市内の公設市場内で撮影したりと、3日間ありとあらゆるところで撮影を行った。
ある時は、カメラマンさんからカメラを渡され、
「これで、お互いを好きなように撮ってください」
と言われ、6人で交代ずつカメラを握って撮影することもあった。

こうして3日間の撮影を終えた6人は、明日から事務所からのご褒美の、自由時間を迎えることになった。
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