buddy ~絆の物語~

AYANO

文字の大きさ
上 下
29 / 117
高校生編

28. 恋の始まり⑤

しおりを挟む
1週間後の土曜日。
「おはよう明日香ちゃん、久しぶりだね」
「市木くん、おはよう。久しぶり」
「ねぇ、ひとつ聞いていいかな?」
「なに?」
「なんで葉山がいるのかな?」
「市木、俺には挨拶なしか?」
「明日香ちゃんは一体番犬を何匹飼ってるの?」
「えーーーーーと、それは......」
「市木、今日は俺と明日香とお前の3人でデートだ」
「なぁ葉山、空気を読んでくれよ~」
「諦めろ」
市木の願いもむなしく、今日はこのまま3人デートとなった。
3人はいま、GEMSTONEの最寄り駅にいる。といっても、いつもとは逆の出入り口から出たため、なんだか知らない街に来た気分だ。

駅から歩いて10分ほどの所にボウリング場がある。明日香は今日、生まれて初めてボウリングをすることになった。
「明日香ちゃん、ボウリング初めて?」
「うん。テレビでちょっと見たことはあるけど、やるのは初めて」
「そっか~明日香ちゃんの一緒にできてうれしいな~」
「おいっ市木」
僚は市木の肩をグイっと掴んでこちらを向かせる。すると市木は僚を見てベーっと舌を出す。
始まる前からこれではこの先どうなることかと、僚は盛大なため息が出た。

受付を済ませ、各自でシューズをレンタルする。そして、指定されたレーンに行くと、僚が自分の靴からレンタルのボウリングシューズに履き替えていた。
僚の靴を見て、明日香は何気なく聞いてみる。
「僚って、足何センチ?」
「俺?27cm。明日香は?」
「わたしは22.5cm。僚、いつの間にこんなに大きくなったの?」
そう言いながら、明日香は自分の足と大きさを比べるため、僚の右足のそばに自分の左足を置く。その時、自然と僚のふくらはぎと自分のふくらはぎが触れてしまい、明日香はドキッとした。
「ははっ、こうして比べると明日香の足小さいな。俺、中学1年の3学期から急に身長が伸びてさ、成長痛もあって大変だったな.......」
僚が話しているのに、明日香はそれどころではなかった。
(体が触れたぐらいでなに⁉こんなこと今まで何度もあったのに....)
そんなことを考えていると、
「ちょっと、ちょっと、そこ~!な~にくっついてんの!離れて、離れて~!」
と市木が2人の間に割り込んできて、無理やり座ってくる。
「いてーよ市木」
「葉山は今日は空気なのっ。俺と明日香ちゃんの邪魔しないで」
「邪魔はしないけど、監視はするぞ」
「あ、あのっ、私、ボール取ってくるね」
明日香はいたたまれずに、その場を離れた。
そしてボウリング場のハウスボールが置かれている棚を見ると、ボールの穴の数が3つだったり、5つだったりするし、ボールに数字が書いてあったり、初心者の明日香は何を選んだらいいのかわからずにいた。
「明日香」
後ろから僚が声を掛けてくる。
「ボール決まった?」
「ううん、何を選んだらいいかわからなくて......」
「あぁ、そっか初めてだったな。一緒に選んでやるよ」
そう言って僚がボールを見ていく。
「女の子だと7~9ポンドくらいがいいと思うけど、試しにこれ持ってみて」
僚が選んだのは、8ポンドの3つ穴のボールだった。
「僚、詳しいね。女の子と来たことあるの?」
と、明日香は先ほどの発言が気になり、僚に聞いてみた。
「あーまぁ、クラス会とかで2~3回あるかな」
「そうなんだ。クラス会でボウリングってめずらしいね」
「そうかな?わかんないや」
明日香はその僚の言い方が、なんとなくはぐらかされたように感じて、少し心の中がモヤッとする。
僚はそんなことはお構いなしに、明日香にボールの穴を見せながら、
「利き手の中指と薬指をここに入れて、親指をここに入れて。うんそう、持った感じどう?」
僚は明日香の指に触れながら、ボールの持ち方をレクチャーしてくれる。しかしさっきの会話ではモヤっとし、指に触れられた瞬間、明日香はずーっとドキドキしっぱなしだった。しかも顔が近くにあることで、明日香の顔がみるみる赤くなる。
(え?なんだろ?私の心臓壊れた?)
僚に対してモヤモヤしたり、ドキドキしたり、自分の心臓が目まぐるしく動く。明日香はこの感情の動きに終始振り回されていた。

明日香は結局、最初に選んだボールをそのまま使うことにした。
そして、市木が第1投目を投げる。カコーンッと気持ちいい音がすると同時にピンがパーンと弾ける。しかし、右端に1本だけ残ってしまった。
「うわーー!おしいっ」
「市木くんスゴイ!」
「明日香ちゃん、明日香ちゃんのためにスペア取るからね!」
そう言って、市木は2投目の投球フォームに入る。しかし肝心の明日香は、
「ねぇ、僚。スペアって何?」
と僚に聞いていた。
「2投目に全部倒したらスペアになるんだよ」
「ふーん。ストライクじゃないんだ」
「ストライクは1投目に全部倒さないとならないよ」
そう2人で話していると、見事スペアを取った市木が、
「明日香ちゃんっみた⁉」
と言いながらベンチに帰ってきた。
「あ、ごめん市木くん.....」
「すまん市木、明日香にスペアの説明してたら見逃した」
「がーーーーーーんっ」
と、市木の顔に書いていた。
次は僚の番だ。きれいなフォームでボールを投げると、カコーンッとこれもまた気持ちのいい音が鳴り、見事にストライクを取った。すると僚が、
「よっしゃーっ!」
と言いながら、満面の笑みで明日香と市木にハイタッチをしてきた。
明日香はその笑顔に、今日一番のドキドキを食らってしまった。
(な、な、な、なに⁉言われなくてもわかるっ。今絶対顔が赤いっ)
明日香は僚にも市木にも顔を見られたくないと、両手で顔を隠す。しかし、その様子を市木はずっと見ていた。

「つぎ、明日香の番だよ」
「明日香ちゃん、がんばれ~」
と、2人に送り出され、明日香はレーンに上がる。
フォームも何もわからないので、見よう見まねでボールを持ってぽてぽてぽてと歩き、腕を振ってボールを手から離す。すると、僚や市木のようにゴーっと転がらず、ゴロゴロゴロ....とゆっくり転がっていき、ピンにコンッと当たると、コンコンコンコンと1本ずつゆっくりとピンが倒れていき、最終的には8本も倒れた。明日香はまさかピンに当たって、8本も倒れるとは思っていなかったので、
「やった!初めてで、8本も倒れた!」
と、ストライクを取ったかのように喜んだ。すると市木が、
「明日香ちゃん可愛いい~」
と言って明日香の頭をなでようとする。しかし、それを僚が直前でガシッと受け止め、
「明日香、2投目もあるよ」
と言ってきた。明日香は自分の頭上で2人の男の腕がなにやら攻防しているのをみて、
「うん。わかった」
と言い、すぐレーンに戻った。
明日香は市木に「可愛いい」と言われても、何も心が動かなかった。そんな言葉より、さっきの僚の笑顔の方が何倍も、何十倍も心が動かされた。
結局明日香はスペアをとることが出来ずに、8本で終わってしまったが、初めてにしては上出来だったため、満面の笑みでベンチに帰ってきた。すると、それに気づいた僚に、
「明日香、よかったな」
と言われると、またドキドキしてしまう。僚に言われるのと、市木に言われるのと全然違う。この気持ちの差はなんなのか......明日香は気づかないふりをしていた。

初めてのボウリングを終えて、3人は昼食のために近くのファミレスに入った。土曜日の昼時で、店内はそこそこ込んでいたが、なんとか窓際の席をとることが出来た。一番奥に明日香が座り、その隣に市木、明日香の向かい側に僚が座る。注文をし終わって一息ついていると、市木が話しかけてきた。
「明日香ちゃんと葉山ってさ、いつからの付き合い?」
「えっと、小学校5年生の時からだから、5年くらいかな」
「ふ~ん。毎日一緒にいるの?」
「学校が違うから毎日ではないけど......」
「でもさ、相当仲良しだよね」
「う、うん。まぁ、それなりには......」
「市木、何が言いたいんだ?」
僚がじろっと市木を見る。
「いやさ、お揃いの腕時計をするくらい親密なのに、恋愛に発展しないのかな~と思って」
市木は僚と明日香の腕時計まで、目敏くチェックしていた。
「これは.....」
明日香は上手い言い訳が思い浮かばずにいた。すると僚が、
「これは、高校入学と進学祝いにみんなでお揃いで買ったものだよ。隼斗も、この間会った誠も、竣亮も、深尋も持っている。それだけだよ」
「........ふ~ん。そうなんだ~」
市木が納得したかどうかはわからないが、この話はこれで終わった。

昼食を食べ終わり、食後にコーヒーを飲みながらおしゃべりをしていると、また市木が突然妙なことを言い出した。
「ねぇ、ねぇ、明日香ちゃんってさ、今までの彼氏ってどんな人だったの?」
「え....私、誰とも付き合ったことない.....」
「.......え?マジ?」
「うん。変?」
「いやっ!全然変じゃないよっ!むしろありがたいというか......」
「おいっ市木!それ以上は.....」
僚が話をやめるように言っても、市木はそれを無視する。
「こんな美人をほっとくなんて、明日香ちゃんの周りの男はみんなヘタレだったんだね」
と、僚を挑発するように見ながら市木が言う。
「あ、それとも番犬たちが怖くて近寄れなかったのかな?」
「おい、市木......」
「そうやって、みんなで明日香ちゃんを守ってきたんだろうけど、明日香ちゃんの恋愛の機会を奪ってきたのは葉山たちじゃない?」
「..........そんなことないよ市木くん」
明日香が小さな声で反論する。でも市木はやめない。
「そう?実際、今日ここに葉山がいるのがそうだと思うけど?」
そう言われると、2人は黙るしかなかった。
「あ~....ごめんごめん!ただ、明日香ちゃん美人なのにもったいないなって話。さ、そろそろ行こうか」
市木は勝手に話を終わらせて、伝票をもってさっさとレジへ行ってしまった。
僚は明日香の横に立ち、
「明日香、気にするな」
と声を掛ける。明日香はその気遣いがなぜか苦しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

処理中です...