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高校生編
22. これからのこと 後編
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「元木くん、元木くん、みんな固まってるよ」
Evanという音楽プロデューサーが、6人の様子を見て元木に言う。
「あ、あれ?みんな、どうしたの?おーい」
元木が話しかけるも、誰も返事をしない。レコード会社の社員2人も、どうしたものかと苦笑いをしている。
「........元木さん。CDデビューって、俺たちがCDを出すって言うこと?」
しばしの沈黙の後、6人の特攻隊長の僚が何とか口を開いた。
「そうだよ。Evanさんに楽曲提供してもらって、君たちが歌う。ちなみにEvanさんは、いま最も勢いのあるプロデューサーで、あの桜木純平にも楽曲提供しているんだよ。それとね..................」
元木はEvanがどれだけ凄い人なのか語るが、6人の耳には全く入ってない。すると、Evanが6人に話し始めた。
「君たちさぁ、いきなりこんなことを言われて驚くのもわかるよ。だけど、君たちもこの事務所の練習生としてレッスンをしていたなら、デビューも視野に入っていたんだろう?」
ん?という顔でEvanが尋ねる。
「.........俺たちは、デビューというよりも、ただみんなと一緒にレッスンするのが楽しかっただけで........」
「いいじゃない、それで。自分達が楽しいと思っていることを、日本中の人に知ってもらう。こんなに素敵なことってないよ。それでいて、お仕事にもなる。CDの売り上げとか難しいことはここにいる大人達に任せて、君たちは君たちで楽しんだらいいんだよ」
「........でも、私たちにできますか?」
明日香が不安げに聞く。すると、Evanはふーっと一息ついて話す。
「この間ね、君たちのレッスン風景の映像を元木くんに見せてもらったんだ。以前から元木くんが、熱心に君たちを売り込んできていてね。映像を見るまでは正直、期待していなかった。でも初めて見た時、衝撃だったよ。僕はあまり自分からプロデュースしたいとは思わないけど、君たちは違った。元木くんが熱心に君たちを売り込んできたのがわかるよ。いいかい?僕は君たちならできると思ったから、この話を受けたんだ。あとは君たちの覚悟だけだ」
Evanが話し終わると、その場はしーんと静まり返った。
「みんな、不安に思うのはわかるよ。どんなことが不安?」
元木が6人にそう言うと、めずらしく竣亮が手を挙げる。
「.....あの、僕は学校との両立が出来るかどうかが心配です」
それもそうだろう。6人とも高校に入学・進学したばかりだ。CDデビューより、高校生活をどうしていくかが今一番大きな問題だろう。しかし、そこは元木も考えていないわけではなかった。
「うん、その心配は当然だと思うよ。学業優先は大前提だ。それはみんなの親御さんとの約束でもあるからね。そこで、レーベルのスタッフとも話し合ったんだけど、CDデビュー後数年は顔を隠していこうと思っているんだ。CDジャケットにもMVにも顔を一切出さない。音楽番組にも出演しない。完全に楽曲で勝負をするんだ。そうしたら、学校生活も過ごしやすくなるだろう?」
6人は学校の友達や先生には、GEMSTONEの練習生であることを一切打ち明けていない。なので、顔を出さずに活動することは、これまでと同じような生活を送ることができると言われたようなものだった。
「あ、あの、顔を隠してっていうのは、いつまで隠すんですか?」
おどおどしながら深尋が聞く。
「いつまでっていうのは、今は特に決めてないな。高校卒業までなのか、それ以降なのか。でも、せっかくダンスもできるんだから、なるべく早く世の中の人に見せたいとは思っているよ。歌とダンスが君たちの一番の魅力だからね。それにライブツアーもやりたいしね。だから、姿を見せるのはまた相談してからというところかな」
ここまで話を聞いて、全員感じていた。
(外堀を埋められるって、こういうことをいうんだろうな)
(なんだろう、どんどん断れない状況になっている....)
と。じりじりと追い詰められている感覚だ。
それにね、と元木が続ける。
「たとえ顔を出すようになっても、何でもかんでも出していくわけではないよ。安売りはしない。出演するメディアは君たちと相談して決める。でも、もし他にやりたいことが見つかったら、それはそれでやればいいと思ってるよ」
元木はいつもの優しい口調で、6人にそう話した。
「元木さん、その......デビューっていつするんですか?」
今度は隼斗が質問する。
「今年の冬の予定だよ。それに向けて、レッスン回数も増やすつもり」
「それって平日もってこと?」
「学校が終わった後に?」
「そう。レッスン日には、みんなの学校に送迎車を出そうと思ってる」
「え、迎えに来てくれるっていうこと?」
「うん、時間をロスしたくないからね」
ここまで言われると、さすがの6人も気づいてしまう。この大人たちは本気で自分たちをデビューさせるつもりなんだと。だったら、自分たちも真剣に考えなければいけないと、そう思った。
「元木くん、今日のところはこの子たちにも考える時間をあげてはどうだろう」
「.......そうですね。みんな、今日の内容をまとめた資料を渡しておくから、家に帰ってご両親と相談してほしい。そして、これだけは覚えておいて。僕は君たちと一緒に仕事がしたい。これは、君たちをスカウトしたときからずっと変わらない僕の願いだよ。だから僕を信じてついてきてほしい」
元木は6人にそう訴えかけた。するとEvanが、
「君たちは幸せ者だね。デビュー前にここまでしてくれる事務所はなかなかないよ。スカウトしたのが元木くんでよかったね」
と、ニコッと笑った。
話し合いの後、通常通りのレッスンだったのだが、そのレッスンをEvanとレコード会社の人達が見学していて、妙に緊張してしまった。
こうして6人は高校1年の春、人生の大きな岐路に立たされた。
Evanという音楽プロデューサーが、6人の様子を見て元木に言う。
「あ、あれ?みんな、どうしたの?おーい」
元木が話しかけるも、誰も返事をしない。レコード会社の社員2人も、どうしたものかと苦笑いをしている。
「........元木さん。CDデビューって、俺たちがCDを出すって言うこと?」
しばしの沈黙の後、6人の特攻隊長の僚が何とか口を開いた。
「そうだよ。Evanさんに楽曲提供してもらって、君たちが歌う。ちなみにEvanさんは、いま最も勢いのあるプロデューサーで、あの桜木純平にも楽曲提供しているんだよ。それとね..................」
元木はEvanがどれだけ凄い人なのか語るが、6人の耳には全く入ってない。すると、Evanが6人に話し始めた。
「君たちさぁ、いきなりこんなことを言われて驚くのもわかるよ。だけど、君たちもこの事務所の練習生としてレッスンをしていたなら、デビューも視野に入っていたんだろう?」
ん?という顔でEvanが尋ねる。
「.........俺たちは、デビューというよりも、ただみんなと一緒にレッスンするのが楽しかっただけで........」
「いいじゃない、それで。自分達が楽しいと思っていることを、日本中の人に知ってもらう。こんなに素敵なことってないよ。それでいて、お仕事にもなる。CDの売り上げとか難しいことはここにいる大人達に任せて、君たちは君たちで楽しんだらいいんだよ」
「........でも、私たちにできますか?」
明日香が不安げに聞く。すると、Evanはふーっと一息ついて話す。
「この間ね、君たちのレッスン風景の映像を元木くんに見せてもらったんだ。以前から元木くんが、熱心に君たちを売り込んできていてね。映像を見るまでは正直、期待していなかった。でも初めて見た時、衝撃だったよ。僕はあまり自分からプロデュースしたいとは思わないけど、君たちは違った。元木くんが熱心に君たちを売り込んできたのがわかるよ。いいかい?僕は君たちならできると思ったから、この話を受けたんだ。あとは君たちの覚悟だけだ」
Evanが話し終わると、その場はしーんと静まり返った。
「みんな、不安に思うのはわかるよ。どんなことが不安?」
元木が6人にそう言うと、めずらしく竣亮が手を挙げる。
「.....あの、僕は学校との両立が出来るかどうかが心配です」
それもそうだろう。6人とも高校に入学・進学したばかりだ。CDデビューより、高校生活をどうしていくかが今一番大きな問題だろう。しかし、そこは元木も考えていないわけではなかった。
「うん、その心配は当然だと思うよ。学業優先は大前提だ。それはみんなの親御さんとの約束でもあるからね。そこで、レーベルのスタッフとも話し合ったんだけど、CDデビュー後数年は顔を隠していこうと思っているんだ。CDジャケットにもMVにも顔を一切出さない。音楽番組にも出演しない。完全に楽曲で勝負をするんだ。そうしたら、学校生活も過ごしやすくなるだろう?」
6人は学校の友達や先生には、GEMSTONEの練習生であることを一切打ち明けていない。なので、顔を出さずに活動することは、これまでと同じような生活を送ることができると言われたようなものだった。
「あ、あの、顔を隠してっていうのは、いつまで隠すんですか?」
おどおどしながら深尋が聞く。
「いつまでっていうのは、今は特に決めてないな。高校卒業までなのか、それ以降なのか。でも、せっかくダンスもできるんだから、なるべく早く世の中の人に見せたいとは思っているよ。歌とダンスが君たちの一番の魅力だからね。それにライブツアーもやりたいしね。だから、姿を見せるのはまた相談してからというところかな」
ここまで話を聞いて、全員感じていた。
(外堀を埋められるって、こういうことをいうんだろうな)
(なんだろう、どんどん断れない状況になっている....)
と。じりじりと追い詰められている感覚だ。
それにね、と元木が続ける。
「たとえ顔を出すようになっても、何でもかんでも出していくわけではないよ。安売りはしない。出演するメディアは君たちと相談して決める。でも、もし他にやりたいことが見つかったら、それはそれでやればいいと思ってるよ」
元木はいつもの優しい口調で、6人にそう話した。
「元木さん、その......デビューっていつするんですか?」
今度は隼斗が質問する。
「今年の冬の予定だよ。それに向けて、レッスン回数も増やすつもり」
「それって平日もってこと?」
「学校が終わった後に?」
「そう。レッスン日には、みんなの学校に送迎車を出そうと思ってる」
「え、迎えに来てくれるっていうこと?」
「うん、時間をロスしたくないからね」
ここまで言われると、さすがの6人も気づいてしまう。この大人たちは本気で自分たちをデビューさせるつもりなんだと。だったら、自分たちも真剣に考えなければいけないと、そう思った。
「元木くん、今日のところはこの子たちにも考える時間をあげてはどうだろう」
「.......そうですね。みんな、今日の内容をまとめた資料を渡しておくから、家に帰ってご両親と相談してほしい。そして、これだけは覚えておいて。僕は君たちと一緒に仕事がしたい。これは、君たちをスカウトしたときからずっと変わらない僕の願いだよ。だから僕を信じてついてきてほしい」
元木は6人にそう訴えかけた。するとEvanが、
「君たちは幸せ者だね。デビュー前にここまでしてくれる事務所はなかなかないよ。スカウトしたのが元木くんでよかったね」
と、ニコッと笑った。
話し合いの後、通常通りのレッスンだったのだが、そのレッスンをEvanとレコード会社の人達が見学していて、妙に緊張してしまった。
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