4 / 5
4,オニの棲家
しおりを挟む
どのくらい経ったでしょうか、オコジョの坊やが気付いた時には、後ろ足の痛みは無くなっていました。
痛かった足に、何か巻いてあって、何やら塗られている匂いもします。母さんが草で作る薬のようなものだろうかと、考えます。
「ここはどこだろう」
辺りを見まわします。坊やは、さっきよりも、大きくて広い網の籠に入っていました。
籠の外は、見た事もないところでした。とても広くて、木の香りはするけれど、森の木々とは違う木だったし、山では見たこともないほど、いろんな色があちこちにありました。それに、まるで夏の様に暖かい。
オコジョの坊やは、ここがオニの家だと理解しました。
『おや、気が付いた様だね』
オニが近づいて来ます。オニの顔は笑っている様でした。
オニは、木の器を坊やの前に置きます。器にはこんもりと食べ物が盛ってあります。
『さあ、食べなさい』
おいしそうな匂いがします。恐る恐る近づいて、堪らず坊やは、食べてしまいます。
「おいしい」
驚くほどの美味しさでした。鳥肉のような、木の実の味もするような。オニが作ったものなのだろうか、食べた事のない美味しさです。お母さんにも食べさせたいと思いました
。
お母さんどうしているだろうか、心配してるだろうか、頭をよぎりましたが、目の前の美味しい食事には敵いません。ごめんねお母さん、なんて思いながら、むしゃぶりつきます。
『やっぱり、お腹減ってたんだねえ』
坊やが食べている様子を、オニが見ています。オニは笑っているのだろうか、気づけば、もう震えていません。不思議とそんなに恐くなくなっていました。
今度は、奥の方から小さいオニが近づいてきました。坊やは、オニの子供だろうと思いました。
『お父さん、何これ、かわいい』
オニの子供が、オコジョの坊やを見て、興奮した様子で何か言っています。坊やは反射的に身構えます。
『畑を荒らす、タヌキやアナグマを捕まえる罠に、オコジョさんが誤って入っていたんだよ』
オニの子供が、『おこじょだ』などと、キャッキャと声を上げて、籠の中に手を入れて来ます。
オコジョの坊やは、驚いて、怖くて、オニの子供の手に噛み付きます。
『うわーん、いたいよー』
オニの子供は、泣き出しました。
オコジョの坊やにも泣いているのが分かります。びっくりしました。オニは恐ろしい思っていたのに、噛み付いたら泣き出しました。弱いです。
『こら、野生の動物に、むやみに手を出してはダメだ、嚙まれるのは当たり前だよ。それにオコジョさんに限らず野生動物は、どんな病原体を持っているか分からないからね、感染する危険なものを持ってるかも知れないから、直接触っちゃダメだよ』
オコジョの坊やには、オニが、泣いている子供を叱っている様に見えました。
『ごめんなさい』
うつむいって、涙を拭きながら謝っているようです。
『オコジョさんは、ケガをしているんだから、優しく見守ってあげようね。』
オニが子供の頭をなでます。優しく撫でます。
『ほら、診せてごらん』
オニが、子供に笑いかけて、坊やが噛んだところを手で撫でると、子供が泣き止みます。
『オコジョさんはね、昔は、アーミンといって、その毛皮が、権威の象徴とされていてね』
『けんいのしょうちょう?』子供が首をかしげる。
『うん、自分の強さを、他の人に見せつける為、って言うのかな、昔のえらい人たちは、自分が凄いって知ってもらう必要があったんだろうね』
『見せびらかしたいって事?あ、でも学校のお友達にもいるよ、すごく威張ってて意地悪。昔のえらい人って子供みたいだね』
子供の思いがけない言葉に、オニは次の言葉がすぐに出なくて固まったようです。
『ははは、本当だよね、まあ、昔の人も威張る為だけでは無いんだろうけど、本当に必要だったのかと、思っちゃうよね。それでも、みんなが欲しがるほどに、とても高価だったんだよ。それで、競うようにみんなが捕まえてしまったから、オコジョさんが居なくなってしまったんだよ』
『ひどいよ、かわいそうだよ』と、子供が訴える。
『そうだね、減りすぎてしまって、絶滅危惧種に指定されているんだ。今は、毛皮じゃなくて人工毛皮を使っているらしいけどね。だから、オコジョさんもだけど、動物たちを守ってあげないといけないんだね。でも、本当はもっと山の上の方に住んでるはずなんだけど、こんなに麓の方まで来るなんて、めずらしいね』
『うん、ぼく、動物まもる』オニの子供が目を見開いて返事します『でも、なんで、タヌキは捕まえるの?畑を荒らすから?』
子供に言われて、オニは、きまりが悪そうに答える。
『そうだね。我々も生きて行かなければならないからね。害をもたらす動物は捕まえて、もう麓に来ないようにと、山の奥に放すんだよ。そうやって、共存して行けるといいんだけど、こちらの勝手かもね。実際にはね、殺してしまったり、食べてしまったりする事もあるんだよ』
『えー、そんなのひどいよ』
子供が頭をぶんぶん振って、手向かう姿勢を見せます。
『そうだね、殺す事がないと良いよね。でもね、オコジョさんだって、ネズミや、ウサギを殺して食べるんだよ、こんなに小さな体でも、自分より大きな動物と戦っているんだ。みんな自然の中で生きていくには、そうやって生命をもらって生きていくんだ。だから、生命は大切にしなくちゃいけないんだね』
オコジョの坊やは、オニの親子のやりとりを見ていて、母さんを思い出して寂しくなりました。オニが子供に優しく笑うものだから、母さんと重なって見えました。
オニが籠に手を入れて、オコジョの坊やを手で掴みます。捕まえられるのが嫌でバタバタしましたが、もう恐くなかったです。
オニに手で捕まえられて、膝の上で仰向けにされます。
ケガした足を触られてチクっと痛みましたが、薬の様な物を塗られました。
『もう、大丈夫だね』そう言って、オニは手を放しました。
坊やは、自由になって、慌ててオニの膝から飛びのきます。またオニに捕まえられると思ったけれど、オニはそうしません。
代わりに、オニの子供が近づいて来るので、家の中を走って逃げ回ります。
オコジョの坊やには、初めて目にする物ばかりです。
大きな木のテーブルの上を駆けて、ふわふわの、若草色のソファーを跳ねてその下に滑り込み、一枚岩みたいにつるつる滑る床を這い出して、コマクサの淡い色やナナカマドの赤、キンポウゲの黄色とか、たくさんの色が並んだ本棚の裏に隠れて、走って逃げまわります。
いつもの、山の岩場や、森の木の根をかきわけて走るのとも違います。
オコジョの坊やは必死に逃げ回るけれど、オニの子供が笑顔で追いかけてくるので、少しだけ、楽しくなっていました。
痛かった足に、何か巻いてあって、何やら塗られている匂いもします。母さんが草で作る薬のようなものだろうかと、考えます。
「ここはどこだろう」
辺りを見まわします。坊やは、さっきよりも、大きくて広い網の籠に入っていました。
籠の外は、見た事もないところでした。とても広くて、木の香りはするけれど、森の木々とは違う木だったし、山では見たこともないほど、いろんな色があちこちにありました。それに、まるで夏の様に暖かい。
オコジョの坊やは、ここがオニの家だと理解しました。
『おや、気が付いた様だね』
オニが近づいて来ます。オニの顔は笑っている様でした。
オニは、木の器を坊やの前に置きます。器にはこんもりと食べ物が盛ってあります。
『さあ、食べなさい』
おいしそうな匂いがします。恐る恐る近づいて、堪らず坊やは、食べてしまいます。
「おいしい」
驚くほどの美味しさでした。鳥肉のような、木の実の味もするような。オニが作ったものなのだろうか、食べた事のない美味しさです。お母さんにも食べさせたいと思いました
。
お母さんどうしているだろうか、心配してるだろうか、頭をよぎりましたが、目の前の美味しい食事には敵いません。ごめんねお母さん、なんて思いながら、むしゃぶりつきます。
『やっぱり、お腹減ってたんだねえ』
坊やが食べている様子を、オニが見ています。オニは笑っているのだろうか、気づけば、もう震えていません。不思議とそんなに恐くなくなっていました。
今度は、奥の方から小さいオニが近づいてきました。坊やは、オニの子供だろうと思いました。
『お父さん、何これ、かわいい』
オニの子供が、オコジョの坊やを見て、興奮した様子で何か言っています。坊やは反射的に身構えます。
『畑を荒らす、タヌキやアナグマを捕まえる罠に、オコジョさんが誤って入っていたんだよ』
オニの子供が、『おこじょだ』などと、キャッキャと声を上げて、籠の中に手を入れて来ます。
オコジョの坊やは、驚いて、怖くて、オニの子供の手に噛み付きます。
『うわーん、いたいよー』
オニの子供は、泣き出しました。
オコジョの坊やにも泣いているのが分かります。びっくりしました。オニは恐ろしい思っていたのに、噛み付いたら泣き出しました。弱いです。
『こら、野生の動物に、むやみに手を出してはダメだ、嚙まれるのは当たり前だよ。それにオコジョさんに限らず野生動物は、どんな病原体を持っているか分からないからね、感染する危険なものを持ってるかも知れないから、直接触っちゃダメだよ』
オコジョの坊やには、オニが、泣いている子供を叱っている様に見えました。
『ごめんなさい』
うつむいって、涙を拭きながら謝っているようです。
『オコジョさんは、ケガをしているんだから、優しく見守ってあげようね。』
オニが子供の頭をなでます。優しく撫でます。
『ほら、診せてごらん』
オニが、子供に笑いかけて、坊やが噛んだところを手で撫でると、子供が泣き止みます。
『オコジョさんはね、昔は、アーミンといって、その毛皮が、権威の象徴とされていてね』
『けんいのしょうちょう?』子供が首をかしげる。
『うん、自分の強さを、他の人に見せつける為、って言うのかな、昔のえらい人たちは、自分が凄いって知ってもらう必要があったんだろうね』
『見せびらかしたいって事?あ、でも学校のお友達にもいるよ、すごく威張ってて意地悪。昔のえらい人って子供みたいだね』
子供の思いがけない言葉に、オニは次の言葉がすぐに出なくて固まったようです。
『ははは、本当だよね、まあ、昔の人も威張る為だけでは無いんだろうけど、本当に必要だったのかと、思っちゃうよね。それでも、みんなが欲しがるほどに、とても高価だったんだよ。それで、競うようにみんなが捕まえてしまったから、オコジョさんが居なくなってしまったんだよ』
『ひどいよ、かわいそうだよ』と、子供が訴える。
『そうだね、減りすぎてしまって、絶滅危惧種に指定されているんだ。今は、毛皮じゃなくて人工毛皮を使っているらしいけどね。だから、オコジョさんもだけど、動物たちを守ってあげないといけないんだね。でも、本当はもっと山の上の方に住んでるはずなんだけど、こんなに麓の方まで来るなんて、めずらしいね』
『うん、ぼく、動物まもる』オニの子供が目を見開いて返事します『でも、なんで、タヌキは捕まえるの?畑を荒らすから?』
子供に言われて、オニは、きまりが悪そうに答える。
『そうだね。我々も生きて行かなければならないからね。害をもたらす動物は捕まえて、もう麓に来ないようにと、山の奥に放すんだよ。そうやって、共存して行けるといいんだけど、こちらの勝手かもね。実際にはね、殺してしまったり、食べてしまったりする事もあるんだよ』
『えー、そんなのひどいよ』
子供が頭をぶんぶん振って、手向かう姿勢を見せます。
『そうだね、殺す事がないと良いよね。でもね、オコジョさんだって、ネズミや、ウサギを殺して食べるんだよ、こんなに小さな体でも、自分より大きな動物と戦っているんだ。みんな自然の中で生きていくには、そうやって生命をもらって生きていくんだ。だから、生命は大切にしなくちゃいけないんだね』
オコジョの坊やは、オニの親子のやりとりを見ていて、母さんを思い出して寂しくなりました。オニが子供に優しく笑うものだから、母さんと重なって見えました。
オニが籠に手を入れて、オコジョの坊やを手で掴みます。捕まえられるのが嫌でバタバタしましたが、もう恐くなかったです。
オニに手で捕まえられて、膝の上で仰向けにされます。
ケガした足を触られてチクっと痛みましたが、薬の様な物を塗られました。
『もう、大丈夫だね』そう言って、オニは手を放しました。
坊やは、自由になって、慌ててオニの膝から飛びのきます。またオニに捕まえられると思ったけれど、オニはそうしません。
代わりに、オニの子供が近づいて来るので、家の中を走って逃げ回ります。
オコジョの坊やには、初めて目にする物ばかりです。
大きな木のテーブルの上を駆けて、ふわふわの、若草色のソファーを跳ねてその下に滑り込み、一枚岩みたいにつるつる滑る床を這い出して、コマクサの淡い色やナナカマドの赤、キンポウゲの黄色とか、たくさんの色が並んだ本棚の裏に隠れて、走って逃げまわります。
いつもの、山の岩場や、森の木の根をかきわけて走るのとも違います。
オコジョの坊やは必死に逃げ回るけれど、オニの子供が笑顔で追いかけてくるので、少しだけ、楽しくなっていました。
1
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる