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19,街区公園-反撃
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銀行の目の前の交番が何だか嫌だ。斎藤浩介は、咎められる事は、まだ何もしていないのに警察を厭う。バス通りから工場エリアに入るところにあるヤマザキの駐車場で、ミルクティーを飲みながら駄弁っている振りで、2軒隣りの銀行の入り口を見張っている。
「なあ、もう来た後って事は無いのかよ」
高階伸二が、冷たいコーヒーの缶を弄びながら、細く整えた眉根を寄せて訊いた。
「まだだと思うけど、どうかな。もう来てたとしたら奥山が解放されてるだろう」
「ところでよ、銀行って何時までなの?」
「え、3時とかじゃねえの」
そうは答えたけれど、斎藤は銀行など行く事が無いので自信は無かった。
正月に稼いだお年玉を預けに来たのが初めてだった。
その時に自動預け払い機という機械にお金を預ける体験をして、ちょっとだけ大人になったような気分になったのを思い出した。
「3時か、あと1時間の間に来るって事か」
高階が落ち着かないようで、所在無さ気に拳を握って自分の腿を叩いている。
「ああ、やば、連絡しなくちゃ。電話掛けて来るから、ちゃんと見てろよ」
高階に言いながら立ち上がり、駆け足でヤマザキの公衆電話に向かう。背中に高階の返事が追って来る。
「分かってるって。つーか、今来たらどーすんだよ」
斎藤は片手を上げて見せるが、公衆電話まで行って電話を掛けた。
「ったく、来ちまったら俺がやっちまうぞ。なんてな」と、独りごちる。
「おお、威勢が良いじゃねえかよ」
急に後ろから声を掛けられてドキリとして、思わず缶コーヒーを溢しそうになる。焦って後ろを振り返る。
「う、宇田川先輩、ちゃ、チャース」
震える声を張り上げながら慌てて立ち上がり、背筋を伸ばす。
「鯱張ってんじゃねーよ。どーだ、まだ来てねえんだろ」
「はい、まだです」高階は直立不動で答える。
「おい、目立つから座れよ」と、宇田川に今までに無いくらいに優しく言われて、背中にこそばゆく感じながら座ろうとする。ふと、公衆電話の斎藤に目を向けると、斎藤よりも身体の大きい男に肩を組まれて、こちらへ戻って来る所だった。
しゃがみ掛けていた腰を起こして立ち上がり挨拶する。
「室戸先輩、チャーッス」
「おお、おつかれ」
室戸が軽く手を上げて答えると、宇田川にヤマザキで買ってき缶コーヒーを渡して言った。
「春彦の奴、連絡係を御木本にやらせてたぞ、巻き込んじゃってるよ」
「はあ、で、アイツはどうしてんのよ」
「青野先輩はビリヤード場にいるそうです」斎藤が緊張した声で二人の会話に入った。
「ビリヤードだあ、呑気なもんだな」宇田川が大袈裟に毒づく。
「春彦って、ビリヤードなんて出来るのか」
「そんで、ここに来るのが、今回の黒幕って事かよ」
「いや、下っ端じゃねえか、こんなお使いみてえな事すんのは。まあ、次にバスが止まったら降りてくるだろう」
室戸はそう言うと、ヤマザキの前にあるバス停を、顎をくいと動かして示した。
「バスで来るのかよ、バイクとかじゃねえのかよ」
「はい、御木本先輩の話だと、普段は原付移動らしいですが、二人乗りだと捕まるリスクがあるので、自転車か、もしくはバスではないかと。人数分の自転車が用意出来ると思えないので、バスで行くだろうとの事です」
「ほう、御木本の考えかよ、人数分って、何人来るんだよ」
「さあ、沢田じゃねえのか、アイツもいるんだろう」
室戸が電話連絡を取っていた斎藤に目を向ける。
優しい声だが威圧感のある目が向けられて一瞬怯むが、唾を呑み込んで報告する。
「今わかっているのは、奥山を除いて三人だそうです。向かっているのは二人だけど、こっちに向かう前にもう一人と合流する筈で、上手くこっちの状況が流れていれば、そこで手分けして行くはずだから、多分、奥山を連れて行くのは一人だろうとの事です。手分けした場合は駅に戻るのに原付バイクを使うだろうから、こっちはバスで来る確率が高いそうです」
「なるほどね、それで俺たちにまで連絡回した訳か」
「なるほどねって、駅に戻るってどういう事だよ」
「そりゃ、春彦が何かやったんだろ、奴らが戻りたくなる様な事をよ」
室戸がその事態を思い浮かべてニタニタと笑みを浮かべる。
「けっ、随分楽しそうじゃねえの、今からそっちに行くかあ」
宇田川が、本気か冗談かも読み取れない不満を漏らす。
「いや、もう遅いな」
室戸がそう言った時に、目の前をバスが通り過ぎた。
速度を落として、ヤマザキの向かいのバス停で停まった。
プシュウと空気を抜く音で扉が開く。
停車しているバスの向こう側に降車してくる人影が見える。
バスが煙を吐き出してゆっくり進み出すと、買い物袋を下げた主婦らしき女性がバスの影から現れるのが見えた。
少し離れてその後ろに奥山真次郎が俯いて歩いている。その背中を押すように歩く、ドデカリーゼント頭の立川がいた。
「おお、アイツかあ、俺の相手は」 宇田川が不敵に笑って立ち上がる。
「本当に一人だな。て事は今頃あっちも盛り上がってんのか」
「あの特徴だと、立川って奴だと思います」
真次郎が促されるままに道路を渡ろうとして、道の向かい側に目を向け、立ち止まる。
目を見開いたまま表情を固める真次郎に、立川が「おい、早く渡れよ」と、苛立ちながら急かす。
「交番が面倒だから、こっちに来させない方がいいな。裏の団地の公園連れてくか」
室戸が食事のメニューを選ぶようにさらりと言う。
「おう、任せろ。高階あ、お前は奥山連れて来い」
「は、はい!」
高階の返事を待つ間もなく宇田川が前に出て道路を渡り出した。慌てて高階が続いていく。
立川は向かってくる宇田川に気付き、当然驚き、きょろきょろと周囲を見る。怯えた表情のまま固まっている真次郎の服を背中から引いてバス停の方に戻ろうとする。
宇田川が道を半分渡った辺りで駆けだして、走り出そうとしていた立川に横から前蹴りを入れて止めると、倒れた立川の胸倉を掴んで首を絞めつける。
「ちょっと、来いよコラ」
凄む宇田川に抵抗しようとするが、喉を絞められて息が苦しく上手く声が出ない。
「はなぜごのやろう」振り絞って声を出すが、宇田川の後ろからゆっくりと向かって来る大男の室戸を見て観念して抵抗を止める。
「おい、奥山」
高階が真次郎の肩を揺らすが、真次郎は固まったまま動けないでいる。
「おう、真次郎ちゃん、久し振りだな」室戸が真次郎の頭をポンと叩く。
「春彦が心配しすぎて、今頃泣いてるんじゃないか」
真次郎が見上げると室戸が葉を見せて笑った。足の力が抜けて崩れる様にその場にしゃがみ込んだ。
バス停の裏側にある団地の中に、砂場とブランコだけの小さな公園がある。
青い葉を揺らす銀杏の木の前で宇田川と立川が向かい合う。
ジジジジと、アブラゼミの声が耳障りだ。
「お前ら、俺にこんな事して只で済むと思ってんのかあ」
立川がねっとりとした話し方で威嚇するが、流石にもう威圧感が無い。
「どう済まねえんだ、教えて見ろよコラ」
逆に宇田川が凄むが、端で見ていた室戸が口を開いた。
「おい、他の奴らはどうした、二人とも駅に戻ったのか」
大きな身体を揺らして、ゆっくりと少し前に歩み出る。
「ああっ」と、返すが怯んでいるのが伝わる。
「ビリヤード場の店員も仲間なんだろ、だから駅に戻るのはせいぜい一人だろう。金を渡しに行くのはお前一人って事は無いから中山台辺りで落ち合う筈だって、ウチのモンが言ってんだけど」
室戸が続けて言うと、明らかに立川の顔が青ざめていく。
何か言い返そうとしたが、言葉が出ないのか口を半開きのままだ。
「図星だな。じゃあ俺は中山台行ってみるよ。斎藤、付き合え」
「は、はい」斎藤が慌てて返事をして室戸の傍に寄る。
「高階は真次郎を連れて駅に行け、皆が待ってるぞ」
「はい」高階は少し不満な様子だ。
「いやあ、宇田、後はよろしく」
室戸はそう言うと公園を出ていく。
慌てて斎藤が付いて行き、その後を高階も続こうとするが、後ろ髪惹かれる思いで宇田川と立川に目を向けていると「早く行け」と叱られてしまい諦めて公園を出た。
小さな団地の公園に、つい先ほどまでは六人もが群がって居たが、今は宇田川と立川が向かい合うだけだ。小さな公園も少し広く感じる。
「おい、みんな帰しちまって良かったのかあ」
立川が、独特なねちっこい喋りかたで話す。不快だ。
「はあ、お前一人に何で大勢で相手せにゃならんの」と、宇田川が鼻で笑う。
「お前、知ってるぞ、宇田川だろ、で、さっきのデカイのが室戸だなあ。UMAとか言ってる生意気なガキがいるってよ、いつかシメねえとって黒沢が言ってたぞ」
「黒沢だあ、誰だそりゃ。あ、川名の一個上のか、お前、あんなのとツルんでんのかよ、まあ、なるほどだな」宇田川が小馬鹿にするように笑う。
「ナメてんのかテメー」立川が声を荒げる。
「いつまでも喋ってねえで来いよ」手のひらをクイと上げて呼ぶ仕草をする。
「しねやこらああ」立川が怒声と共に、宇田川の顔面を殴りつける
。
「痛えじゃねえかこの野郎、もっとシャバいかと思ったぜ」
殴られて尚も不敵に笑う宇田川に「ナメるなあ」と、もう一発喰らわそうとするが、それより先に宇田川が左手で立川の右拳を払うと、空かさず顔面を打ち抜いた。
続けざまに左右をフック気味に、前に踏み込みながら打ち込んだ。立川が、デカイ頭を揺らして派手に倒れる。
「おい、もう終わりじゃねえだろうな」
怒鳴り声がしなくなった公園に、さっきから聞こえていた蝉の声が浮き上がる。
「なあ、もう来た後って事は無いのかよ」
高階伸二が、冷たいコーヒーの缶を弄びながら、細く整えた眉根を寄せて訊いた。
「まだだと思うけど、どうかな。もう来てたとしたら奥山が解放されてるだろう」
「ところでよ、銀行って何時までなの?」
「え、3時とかじゃねえの」
そうは答えたけれど、斎藤は銀行など行く事が無いので自信は無かった。
正月に稼いだお年玉を預けに来たのが初めてだった。
その時に自動預け払い機という機械にお金を預ける体験をして、ちょっとだけ大人になったような気分になったのを思い出した。
「3時か、あと1時間の間に来るって事か」
高階が落ち着かないようで、所在無さ気に拳を握って自分の腿を叩いている。
「ああ、やば、連絡しなくちゃ。電話掛けて来るから、ちゃんと見てろよ」
高階に言いながら立ち上がり、駆け足でヤマザキの公衆電話に向かう。背中に高階の返事が追って来る。
「分かってるって。つーか、今来たらどーすんだよ」
斎藤は片手を上げて見せるが、公衆電話まで行って電話を掛けた。
「ったく、来ちまったら俺がやっちまうぞ。なんてな」と、独りごちる。
「おお、威勢が良いじゃねえかよ」
急に後ろから声を掛けられてドキリとして、思わず缶コーヒーを溢しそうになる。焦って後ろを振り返る。
「う、宇田川先輩、ちゃ、チャース」
震える声を張り上げながら慌てて立ち上がり、背筋を伸ばす。
「鯱張ってんじゃねーよ。どーだ、まだ来てねえんだろ」
「はい、まだです」高階は直立不動で答える。
「おい、目立つから座れよ」と、宇田川に今までに無いくらいに優しく言われて、背中にこそばゆく感じながら座ろうとする。ふと、公衆電話の斎藤に目を向けると、斎藤よりも身体の大きい男に肩を組まれて、こちらへ戻って来る所だった。
しゃがみ掛けていた腰を起こして立ち上がり挨拶する。
「室戸先輩、チャーッス」
「おお、おつかれ」
室戸が軽く手を上げて答えると、宇田川にヤマザキで買ってき缶コーヒーを渡して言った。
「春彦の奴、連絡係を御木本にやらせてたぞ、巻き込んじゃってるよ」
「はあ、で、アイツはどうしてんのよ」
「青野先輩はビリヤード場にいるそうです」斎藤が緊張した声で二人の会話に入った。
「ビリヤードだあ、呑気なもんだな」宇田川が大袈裟に毒づく。
「春彦って、ビリヤードなんて出来るのか」
「そんで、ここに来るのが、今回の黒幕って事かよ」
「いや、下っ端じゃねえか、こんなお使いみてえな事すんのは。まあ、次にバスが止まったら降りてくるだろう」
室戸はそう言うと、ヤマザキの前にあるバス停を、顎をくいと動かして示した。
「バスで来るのかよ、バイクとかじゃねえのかよ」
「はい、御木本先輩の話だと、普段は原付移動らしいですが、二人乗りだと捕まるリスクがあるので、自転車か、もしくはバスではないかと。人数分の自転車が用意出来ると思えないので、バスで行くだろうとの事です」
「ほう、御木本の考えかよ、人数分って、何人来るんだよ」
「さあ、沢田じゃねえのか、アイツもいるんだろう」
室戸が電話連絡を取っていた斎藤に目を向ける。
優しい声だが威圧感のある目が向けられて一瞬怯むが、唾を呑み込んで報告する。
「今わかっているのは、奥山を除いて三人だそうです。向かっているのは二人だけど、こっちに向かう前にもう一人と合流する筈で、上手くこっちの状況が流れていれば、そこで手分けして行くはずだから、多分、奥山を連れて行くのは一人だろうとの事です。手分けした場合は駅に戻るのに原付バイクを使うだろうから、こっちはバスで来る確率が高いそうです」
「なるほどね、それで俺たちにまで連絡回した訳か」
「なるほどねって、駅に戻るってどういう事だよ」
「そりゃ、春彦が何かやったんだろ、奴らが戻りたくなる様な事をよ」
室戸がその事態を思い浮かべてニタニタと笑みを浮かべる。
「けっ、随分楽しそうじゃねえの、今からそっちに行くかあ」
宇田川が、本気か冗談かも読み取れない不満を漏らす。
「いや、もう遅いな」
室戸がそう言った時に、目の前をバスが通り過ぎた。
速度を落として、ヤマザキの向かいのバス停で停まった。
プシュウと空気を抜く音で扉が開く。
停車しているバスの向こう側に降車してくる人影が見える。
バスが煙を吐き出してゆっくり進み出すと、買い物袋を下げた主婦らしき女性がバスの影から現れるのが見えた。
少し離れてその後ろに奥山真次郎が俯いて歩いている。その背中を押すように歩く、ドデカリーゼント頭の立川がいた。
「おお、アイツかあ、俺の相手は」 宇田川が不敵に笑って立ち上がる。
「本当に一人だな。て事は今頃あっちも盛り上がってんのか」
「あの特徴だと、立川って奴だと思います」
真次郎が促されるままに道路を渡ろうとして、道の向かい側に目を向け、立ち止まる。
目を見開いたまま表情を固める真次郎に、立川が「おい、早く渡れよ」と、苛立ちながら急かす。
「交番が面倒だから、こっちに来させない方がいいな。裏の団地の公園連れてくか」
室戸が食事のメニューを選ぶようにさらりと言う。
「おう、任せろ。高階あ、お前は奥山連れて来い」
「は、はい!」
高階の返事を待つ間もなく宇田川が前に出て道路を渡り出した。慌てて高階が続いていく。
立川は向かってくる宇田川に気付き、当然驚き、きょろきょろと周囲を見る。怯えた表情のまま固まっている真次郎の服を背中から引いてバス停の方に戻ろうとする。
宇田川が道を半分渡った辺りで駆けだして、走り出そうとしていた立川に横から前蹴りを入れて止めると、倒れた立川の胸倉を掴んで首を絞めつける。
「ちょっと、来いよコラ」
凄む宇田川に抵抗しようとするが、喉を絞められて息が苦しく上手く声が出ない。
「はなぜごのやろう」振り絞って声を出すが、宇田川の後ろからゆっくりと向かって来る大男の室戸を見て観念して抵抗を止める。
「おい、奥山」
高階が真次郎の肩を揺らすが、真次郎は固まったまま動けないでいる。
「おう、真次郎ちゃん、久し振りだな」室戸が真次郎の頭をポンと叩く。
「春彦が心配しすぎて、今頃泣いてるんじゃないか」
真次郎が見上げると室戸が葉を見せて笑った。足の力が抜けて崩れる様にその場にしゃがみ込んだ。
バス停の裏側にある団地の中に、砂場とブランコだけの小さな公園がある。
青い葉を揺らす銀杏の木の前で宇田川と立川が向かい合う。
ジジジジと、アブラゼミの声が耳障りだ。
「お前ら、俺にこんな事して只で済むと思ってんのかあ」
立川がねっとりとした話し方で威嚇するが、流石にもう威圧感が無い。
「どう済まねえんだ、教えて見ろよコラ」
逆に宇田川が凄むが、端で見ていた室戸が口を開いた。
「おい、他の奴らはどうした、二人とも駅に戻ったのか」
大きな身体を揺らして、ゆっくりと少し前に歩み出る。
「ああっ」と、返すが怯んでいるのが伝わる。
「ビリヤード場の店員も仲間なんだろ、だから駅に戻るのはせいぜい一人だろう。金を渡しに行くのはお前一人って事は無いから中山台辺りで落ち合う筈だって、ウチのモンが言ってんだけど」
室戸が続けて言うと、明らかに立川の顔が青ざめていく。
何か言い返そうとしたが、言葉が出ないのか口を半開きのままだ。
「図星だな。じゃあ俺は中山台行ってみるよ。斎藤、付き合え」
「は、はい」斎藤が慌てて返事をして室戸の傍に寄る。
「高階は真次郎を連れて駅に行け、皆が待ってるぞ」
「はい」高階は少し不満な様子だ。
「いやあ、宇田、後はよろしく」
室戸はそう言うと公園を出ていく。
慌てて斎藤が付いて行き、その後を高階も続こうとするが、後ろ髪惹かれる思いで宇田川と立川に目を向けていると「早く行け」と叱られてしまい諦めて公園を出た。
小さな団地の公園に、つい先ほどまでは六人もが群がって居たが、今は宇田川と立川が向かい合うだけだ。小さな公園も少し広く感じる。
「おい、みんな帰しちまって良かったのかあ」
立川が、独特なねちっこい喋りかたで話す。不快だ。
「はあ、お前一人に何で大勢で相手せにゃならんの」と、宇田川が鼻で笑う。
「お前、知ってるぞ、宇田川だろ、で、さっきのデカイのが室戸だなあ。UMAとか言ってる生意気なガキがいるってよ、いつかシメねえとって黒沢が言ってたぞ」
「黒沢だあ、誰だそりゃ。あ、川名の一個上のか、お前、あんなのとツルんでんのかよ、まあ、なるほどだな」宇田川が小馬鹿にするように笑う。
「ナメてんのかテメー」立川が声を荒げる。
「いつまでも喋ってねえで来いよ」手のひらをクイと上げて呼ぶ仕草をする。
「しねやこらああ」立川が怒声と共に、宇田川の顔面を殴りつける
。
「痛えじゃねえかこの野郎、もっとシャバいかと思ったぜ」
殴られて尚も不敵に笑う宇田川に「ナメるなあ」と、もう一発喰らわそうとするが、それより先に宇田川が左手で立川の右拳を払うと、空かさず顔面を打ち抜いた。
続けざまに左右をフック気味に、前に踏み込みながら打ち込んだ。立川が、デカイ頭を揺らして派手に倒れる。
「おい、もう終わりじゃねえだろうな」
怒鳴り声がしなくなった公園に、さっきから聞こえていた蝉の声が浮き上がる。
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