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プロローグ2
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「いや違うんですよ! そこまでしなくて良いと言う意味ではなく!」
つい口から漏れた一言に、俺は頑張って圧縮された内容を熱弁していた。
「よくある最近の異世界テンプレにおける神様サポートって奴はですね、どいつもこいつも『チート能力』と『これして』だけ与えて、後は放任決めこむ訳ですよ!
ア ホ か と !
転生や個人による召喚ならばともかく、いくら国や神みたいな『ジンケン何それ美味しいの?』だろうと一方的に誘拐(召喚)しといて『後は好きにして良いから、頑張って』は無いだろって! こっちの世界の危機なんだろ?って! 話によってはチートだけ持たせて野に放つ神の方が、何かと支援してくれたりする国より無責任なくらい、そういう物語が地球では腐るほど転がっている訳ですよ!
それに比べて何ですかこれ! やり過ぎでしょう!
いや確かに言ってる事も分かりますし間違っていません! むしろこれが一方的に巻き込んだ側の義務というか責任というか、リアルに考えればこれくらいするのが常識だろうとすら思えます!
なのでさっきの『過保護』発言は脳死でテンプレを想像していたがために起きた事故のようなツッコミに過ぎず、そこまでしなくても良いと言う意図ではありません!
誤解させそうな感想だったのは訂正させてください! ホントごめんなさい!
なので改めて言わせていただきますが、完全サポート過ぎてちょっと恐ろしくなってきたんですけど!?
ここまでしないと勝てない相手なんですか!? 死に戻り前提とか鬱ルートほいほいじゃないですか! チート貰っといてRe:0レベルとか鬼ハードモード過ぎますからね!
それと! 何でここまで出来るのに魔法すら無い地球から取り寄せるんですか! 現地調達しましょうよ! 教会でお祈りしてる聖騎士長とかいなかったんですか!? 神託とレンタルチートだけで泣いて喜び庭駆け回りますよ!」
勢いに流され、今まで燻っていたツッコミが堰を切って溢れ出た。
さっきはシチシさんが絶妙なタイミングで封殺してきたので、口を挟めなかったのだ。 情報を与えられ過ぎて動けなくなるアレ。
まさかの過保護発言に目を丸くしていたアマノさんが「そ、そういう事でしたか」とホッとし、続く疑問にはシチシさんが「ぁ~、それはな……」と半笑いながらも答えてくれた。
さっきからピン芸人のネタを観ているような目なんだが、ちょい面白がってない?
「まず、『何故に地球から取り寄せるのか』についてだが……」
「……?」
半端に言葉を切ったシチシさんが、テーブルに右腕で頬杖を突き、白い犬歯が見えるくらいにニヤリと笑む。
「ちっとも分からんのか?♪」
(な…!)
まるで神格とは思えない明らかな挑発。 ……しかし、ここは敢えて乗ろう。
過保護とツッコんだ手前もあるが、なにも頭空っぽで1から10まで教えて教えてと甘えている訳ではない。 色々思いはしたけど、知ったかぶりみたいで嫌だったから言わなかっただけなのだ。
なんなら当ててやろうか。
そう腹に決め、ピンと来ていた候補の中から一番可能性の高い解答を慎重に選んだ。
「……適性?」
「誤魔化すな」
「グッ……ステータスだとか加護だとか、ゲームみたいなシステムを使わせる気なんですよね? ならゲームで慣れてる方が適任だと判断したとか? 頭のおかしい奴(褒め言葉)なら仲間までチート化出来そうですし」
どこまで科学技術が発達した世界かは知らんが、地球と同レベルの電子ゲームやフィクションが親しまれているとは思えない。
てか、それ以外にアドバンテージある? 戦略・ステータス管理に強いガチ勢や、リアルファイト慣れしてそうな格闘家を呼ぶ理由なんて。
いや、そう考えたら格闘家呼ぶのもどうかとは思うが……ゲーム好きいるでしょ? 一人くらい。
シチシさんが茶を一口、「まっ、それも一理あるがな」と白磁の湯飲みをコツンと置いた。
「他には?♪」
「…………1、「神に選ばれた」とか言って犯罪・私的利用させないため。
2、宗教・政治利用させないため、目的達成後に世界跨いで撤収出来るから。
3、そもそも神チートを受け取れる許容量の適任者がいなかった。
4、異世界転移・転生時にしか付属出来ないから。
5、現地でこれだけの事しでかしたら敵側にバレるから。
6、実は既に現地人はその悪魔に監視されているから、レベル上げ前に叩かれる。
7、ハーレム・逆ハーレム予防。 くらいか」
「よくスラスラと思い付くなぁそんなにぃ!」
ツッコミ代わりにテーブルがバシン!と叩かれた。
「いやまぁ、ほぼ二次元の受け売りですけどね」
最近こういう系列ばっか見てたから。
と、シチシさんがまたニヤっと……いや、今度はドヤ顔を浮かべた。
「たださ、シスターにもステータス貸すって話し、忘れてないか?♪」
「あっ……」
忘れていた。
思い付きを並べただけだからなぁ……迂闊だった。
「まっ、半分は当たってるし、上出来か」とシチシさんが頬杖をやめ、姿勢を戻す。
たったそれだけで、少し、その場の雰囲気が引き締まった。
「ウチらは基本、良くも悪くも平等を貫いてる。 だからこそ、選ばれ、『神の御使い』なんてもんを務めた個人を、権力者や教会が囲い込まない筈がない。
実際、魔王を倒した勇者パーティーは酷かった。 婚約だ妾だと娘を売ろうとする貴族やら、聖女を押し付けた挙げ句ウチらの名を騙って『我等が聖堂に頻繁に祈りに来ていた』『敬虔なる信徒を神はいつでも見守っている』だのとぬかす司祭共。 孤児院出身とバレ、実親だと名乗り出すクズは日に日に増え、それに乗っかり『我が国の出身者だ』と主張し始めた国家連中。
辟易したものだ。
だから、そんな柵から簡単に逃げ帰せる異世界間召喚を選んだんだ。 これなら、お前がもし『神の御使い』って肩書きを悪用するようになっても、強制送還できるだろ?♪」
「確かに……」
邪悪な笑みを浮かべるシチシさんに、余程、腹に据えかねていたのだとも察せられる。
予想の範囲内だったとはいえ、生々しい勇者物語のその後を垣間見た気がして、頷く事しか出来ない。
そりゃぁまぁ、人類を千年以上苦しめ続けてきた魔王なんて存在を倒したら、そうなるわな。
善意を利用した悪質な手紙とか届いてそう。
「あっ、そういやぁハーレム予防も正解な。 てか禁止事項だから、シスターとセックスするなよ?」
「セッ!?」
「シチシさん!!」
「のわっ何だ! 今度は何が駄目なんだ?!」
テーブルに身を乗り出して叫ぶアマノさんへと、シチシさんが肩をビクンッ!と震わせて振り返った。
「セッ……なんて言い方は直接的過ぎます! その、せめて同衾とか、子を成すのは~とか……」
瞳を潤ませながら、段々と失速していく羞恥顔が可愛い。
そんな苦言を聞かされ、シチシさんは「えぇ~…」と面倒臭そうに肩を落としていた。
「真面目な話しなんだから、気にすんなよこれくらいで」
「それは! っ……」
と、アマノさんの視線がこっちに向き、何を感じ取ったのか、気不味そうに腰を下ろす。
「……いいえ、確かに意識し過ぎていたのかもしれません。 どうぞ続きを」
そう促され、シチシさんがやれやれと呆れた様子で俺に向き直す。
「悪りぃな。 あ~……一応聞いとくが、お前もいちいち気にするタイプだったりした?」
「いえ。 サラッと直球が来て驚きはしましたけど、下ネタと医療知識くらい別物だと思ってます」
異性相手に全く意識しないとまではいかないが、何でもかんでも下ネタに聞こえるほど思春期ではない。
「だよな~♪」と嬉しそうなシチシさんの背景にて、更に俯き耳を赤らめたアマノさんの姿が居た堪れなさ気に見えた俺は、「それで、何で禁止なんですか」と話を戻した。
「ん? あぁ。 えっとな……簡単に言うと、異世界人の遺伝子を残したくねぇんだわ」
「ぁ~……」
そこまで聞けば、後は察せられる。
神に選ばれた異世界人の血筋なんて、権力者や教会が黙っていられる筈がないし、遺伝子と言うからには突然変異が産まれやすい可能性も。
世界に広まればどんな影響を及ぼすか……。
それ以前に、ヤることヤって地球にバイバイじゃ、残された母子に申し訳がたたない。
「転生ならともかく、召喚されただけの地球人に魔力の適性なんてあるわけないからな。 魔力を扱えない子とか産まれたら、こっちじゃ結構生活し辛いんだわ。 お前も、変な病気移したり移されたりなんてしたくないだろ?」
「クッソ生々し過ぎて夢も希望も無いって点も含めて理解しました」
物語って上手く出来てたんだな。 恋愛禁止とか魅力半減でしかない。
あわよくばリア充にとか心做しか期待していたのに……こんなリアルさは求めていなかった。
なんなら、好きな女のために! とかなら命も懸けられそうなところを。
せっかくのチート魔法すら不穏でしかないばかりか、恋愛要素だけR18規制された血生臭い討伐依頼なんかに、これ以上関わりたくない。
「あの、帰って良いですか? 一般人な俺じゃぁ役に立てそうにありませんし、誤って召喚されただけなら拒否権ありますよね?」
「なんだ、そんなにセックスしたかったのか?♪」
「当たり前じゃないですか。 てかそんな空気になってスルーできる童貞なんているんですか?」
直球同士の投げ合いに、視界の隅に映るアマノさんの顔の変化が面白くなる。
そんな同僚の性格を熟知してか、シチシさんってば視線を向けてもいないのにニヤニヤと楽しそうだ。
この人やっぱ確信犯だろ。
「じゃぁ、アマノとセックス出来るなら行ける?」
「行きます」
「ちょっと待ってください!!?」
突然体を売られたアマノさんがテーブルをダンッ!と両手で突き、また身を乗り出した。
腹を抱えるシチシさんを余所に、赤面涙目で俺に訴える。
「なに即答してるんですか! 女なら誰でも良いんですか!? こんなので勝手にやる気出さないでください!」
「いやいや、アマノさんみたいなタイプが理想的だからこその即答ですよ。 もちろん本人の同意があればの話しです」
無理矢理とか犯罪じゃん? 現実の可哀想なのはこっちからお断りしたい。 あぁいうのはフィクションやプレイ(同意)だからこそ性癖として受け入れられているのだ。
ぷるぷると両肩を震わせていたシチシさんがアマノさんを見上げる。
「ならウチが代わろうか?♪」
「はぁ!?」
するとスッと俺の隣へ移動していたシチシさんが、流れるような動作で右腕に抱き付いてきた。 巫女服越しの柔らかな膨らみが押し当てりれ、心臓が止まりかける。
0距離上目使いの破壊力がエロい。
「なぁ、付喪神は妊娠しないって、知ってた?」
「具体的にどうぞ」
「なに今までで一番食い付いているんですか!」
*
「いやアマノよ、強がらず正直に告白してくれた若者相手に、このまま役目だけ背負わせて行ってらっしゃいは、いくら何でも酷ではないか?」
「ぅぅっ……」
シチシさんが真面目な顔してお茶を飲み、正論でつつき始めた。
その様子を、内心(いいぞ~もっとやれ~)な気持ちで静観する。
最初は「はしたないです! 軽率過ぎます!」とか顔真っ赤で訴えていたアマノさんだったのだが、その勢いは既に虫の息。
内容はともかく……落ち着いて話されると、ちゃんと耳を傾けてくれるタイプらしい。
そのせいだろうな。 あっさり釣られ、まな板の鯉状態になっているのは。
「それこそ、お前も言っていただろ? こいつは神格とは違うんだ。 分かっていても流され、性欲を抑えられなくなる危険は高い。 なら、ここはウチらが一肌脱ぐべきじゃないのか?」
「それは……ですが……」
何か言いたそうに上がった顔が、ただ左右に目を泳がせただけで、力無くまた下がる。
言いたい事は理解出来るが、納得し切れないといった様子だ。
よし今です、畳み掛けて!
「なにも無理にとは言っとらんだろぉ……どうしても嫌ならウチが代わってやっても良いし。 それに、今すぐなどと誰がぬかした。 これからこいつが頑張っていく様を見て、その気になったら付き合ってやる……という約束くらい、問題無かろ?」
「…………」
だったら放っといてあげてよとも言いたくなるが、そんな甘えをシチシさんは許そうとしない。
「命懸けで尚、人と付喪神なんだからって理由で断られる不安を抱いたままでは、本気で帰りかねんぞ。 過酷になるやもしれん旅にも耐えられるかどうかぁ……」
いくらなんでもそこまで人でなしではないのだが……俺はラノベ主人公でもないのだ。 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるシスターさんから万が一特別な好意を向けられ続ければ、いつまでも鈍感とはいかない。
そんな危険を孕んでいる童貞を送り込むくらいならば、今からでも妻や恋人を一途に想っている適性者を探した方が賢明だろう。
てかそもそも、神様チートがあるからって傍観勢でありガチャで言うならレア度ノーマルな自分に勝機があるのかすら疑わしいんだけど……本気で辞退しようかな。
と、いつまでも腑に落ちない様子のアマノさんに痺れを切らしたのか、シチシさんが遂にお茶を飲み干した。
「ハァ……年上なんだから、自分の性癖を押し付けるくらいのリードを見せんでどうする。 知っとるんだぞオ○っとるの」
「ぅわぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ここまでで一番の絶叫が室内に轟く。
とんでも暴露を塗り潰さんばかりに発せられたその悲鳴には、うつらうつらと船を漕いでいたスイハも「ふぇ!?」と目を覚ました。
こいつ、話しに参加しないなと思っていたら。
「なっななっ……えっ、それ……っ!」
一瞬にして、額の水滴が沸騰しそうなまでに赤く染まり上がった。
シチシさんがテーブルに頬杖を突く。
「一緒に暮らしてんだ、たまに音や臭いでバレてるぞ」
「ぇぇ……うそ……。 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ……」
両手で顔を覆い背を丸め、腹の底から沸き上がってきたような呻きが痛々しい。
なんてえげつない口撃だ。
さすがに見てて可哀想になってきた。
止めないけど。
「気にするくらいなら性欲まで再現しなきゃいいもんを。 それともアレか? 妄想通り、強引に迫られた方が好「」分かりました! 分かりましたから! どうしてもとなればお相手致しますので、これ以上は止めて下さい!!」
何だか聞き捨てならないワードを全身全霊で遮り、アマノさんが勢い任せにそう言い切った。
……マジか。
「そうかそうか♪ 良かったな♪」
「えっ……あっ、はい」
まさか本当に承諾されるとは思ってもいなかったので、紅玉のような瞳と目が合い、経験の無い気恥ずかしさに声が上擦る。
現実味の無い環境で、現実味の無い言質を貰ってしまった。
しかも流されるがままに、R18漫画のご都合展開みたいに。
頬をツネって夢か確かめたくなるも、ここで覚めたくないという願望とのジレンマに苛まれ――
「あの……」
顔真っ赤上目使いでモジモジしているアマノさんと目が合う。
「嫌じゃ……ないですか? 何千年も生きてる器物ですよ? 人ですらないんですよ?」
「全く問題ありませんが」
「あれ~~~ぇぇ?!」
――苛まれる理由は微塵も無かったわ。
もう、これが現実で良いや。
俺は召喚ガチャで天界に誤発注され、なろう系な展開で神様完全サポートのみならず、理想的な彼女候補まで獲得してしまったのだ。
うん、何の違和感も無いな。 あるあるだ。
そんな心情が顔に出ていたのか、アマノさんが目を丸くする。
「私がこのような事を聞くのは間違っているとは思いますが、大変危険で辛い旅になるんですよ? なのにそれを、こんな理由であっさり決めてしまわれて本当に宜しいのですか!」
「アマノさんに好かれる為ならどんな恐怖にでも立ち向かえます」
「っ~~~~!!!!!!」
どこから発せられたのか分からない声でアマノさんが茹でタコになる。
超可愛い。
いつの間にか移動していたシチシさんが、そんなアマノさんの肩に手を回す。
「いやぁ~良かったな、無事に説得出来て。 しかもお相手まで見付かるとか、一石二鳥じゃないか?」
「うぅ……」
「ねぇねぇ~、何の話しぃ?」
「君はもうちょっと寝てて良いと思うぞ?」
こうして俺は、アマノさんを惚れさせるため、悪魔討伐の任を受け入れたのだった。
半ば脅迫染みていた点は見なかった事とする。
つい口から漏れた一言に、俺は頑張って圧縮された内容を熱弁していた。
「よくある最近の異世界テンプレにおける神様サポートって奴はですね、どいつもこいつも『チート能力』と『これして』だけ与えて、後は放任決めこむ訳ですよ!
ア ホ か と !
転生や個人による召喚ならばともかく、いくら国や神みたいな『ジンケン何それ美味しいの?』だろうと一方的に誘拐(召喚)しといて『後は好きにして良いから、頑張って』は無いだろって! こっちの世界の危機なんだろ?って! 話によってはチートだけ持たせて野に放つ神の方が、何かと支援してくれたりする国より無責任なくらい、そういう物語が地球では腐るほど転がっている訳ですよ!
それに比べて何ですかこれ! やり過ぎでしょう!
いや確かに言ってる事も分かりますし間違っていません! むしろこれが一方的に巻き込んだ側の義務というか責任というか、リアルに考えればこれくらいするのが常識だろうとすら思えます!
なのでさっきの『過保護』発言は脳死でテンプレを想像していたがために起きた事故のようなツッコミに過ぎず、そこまでしなくても良いと言う意図ではありません!
誤解させそうな感想だったのは訂正させてください! ホントごめんなさい!
なので改めて言わせていただきますが、完全サポート過ぎてちょっと恐ろしくなってきたんですけど!?
ここまでしないと勝てない相手なんですか!? 死に戻り前提とか鬱ルートほいほいじゃないですか! チート貰っといてRe:0レベルとか鬼ハードモード過ぎますからね!
それと! 何でここまで出来るのに魔法すら無い地球から取り寄せるんですか! 現地調達しましょうよ! 教会でお祈りしてる聖騎士長とかいなかったんですか!? 神託とレンタルチートだけで泣いて喜び庭駆け回りますよ!」
勢いに流され、今まで燻っていたツッコミが堰を切って溢れ出た。
さっきはシチシさんが絶妙なタイミングで封殺してきたので、口を挟めなかったのだ。 情報を与えられ過ぎて動けなくなるアレ。
まさかの過保護発言に目を丸くしていたアマノさんが「そ、そういう事でしたか」とホッとし、続く疑問にはシチシさんが「ぁ~、それはな……」と半笑いながらも答えてくれた。
さっきからピン芸人のネタを観ているような目なんだが、ちょい面白がってない?
「まず、『何故に地球から取り寄せるのか』についてだが……」
「……?」
半端に言葉を切ったシチシさんが、テーブルに右腕で頬杖を突き、白い犬歯が見えるくらいにニヤリと笑む。
「ちっとも分からんのか?♪」
(な…!)
まるで神格とは思えない明らかな挑発。 ……しかし、ここは敢えて乗ろう。
過保護とツッコんだ手前もあるが、なにも頭空っぽで1から10まで教えて教えてと甘えている訳ではない。 色々思いはしたけど、知ったかぶりみたいで嫌だったから言わなかっただけなのだ。
なんなら当ててやろうか。
そう腹に決め、ピンと来ていた候補の中から一番可能性の高い解答を慎重に選んだ。
「……適性?」
「誤魔化すな」
「グッ……ステータスだとか加護だとか、ゲームみたいなシステムを使わせる気なんですよね? ならゲームで慣れてる方が適任だと判断したとか? 頭のおかしい奴(褒め言葉)なら仲間までチート化出来そうですし」
どこまで科学技術が発達した世界かは知らんが、地球と同レベルの電子ゲームやフィクションが親しまれているとは思えない。
てか、それ以外にアドバンテージある? 戦略・ステータス管理に強いガチ勢や、リアルファイト慣れしてそうな格闘家を呼ぶ理由なんて。
いや、そう考えたら格闘家呼ぶのもどうかとは思うが……ゲーム好きいるでしょ? 一人くらい。
シチシさんが茶を一口、「まっ、それも一理あるがな」と白磁の湯飲みをコツンと置いた。
「他には?♪」
「…………1、「神に選ばれた」とか言って犯罪・私的利用させないため。
2、宗教・政治利用させないため、目的達成後に世界跨いで撤収出来るから。
3、そもそも神チートを受け取れる許容量の適任者がいなかった。
4、異世界転移・転生時にしか付属出来ないから。
5、現地でこれだけの事しでかしたら敵側にバレるから。
6、実は既に現地人はその悪魔に監視されているから、レベル上げ前に叩かれる。
7、ハーレム・逆ハーレム予防。 くらいか」
「よくスラスラと思い付くなぁそんなにぃ!」
ツッコミ代わりにテーブルがバシン!と叩かれた。
「いやまぁ、ほぼ二次元の受け売りですけどね」
最近こういう系列ばっか見てたから。
と、シチシさんがまたニヤっと……いや、今度はドヤ顔を浮かべた。
「たださ、シスターにもステータス貸すって話し、忘れてないか?♪」
「あっ……」
忘れていた。
思い付きを並べただけだからなぁ……迂闊だった。
「まっ、半分は当たってるし、上出来か」とシチシさんが頬杖をやめ、姿勢を戻す。
たったそれだけで、少し、その場の雰囲気が引き締まった。
「ウチらは基本、良くも悪くも平等を貫いてる。 だからこそ、選ばれ、『神の御使い』なんてもんを務めた個人を、権力者や教会が囲い込まない筈がない。
実際、魔王を倒した勇者パーティーは酷かった。 婚約だ妾だと娘を売ろうとする貴族やら、聖女を押し付けた挙げ句ウチらの名を騙って『我等が聖堂に頻繁に祈りに来ていた』『敬虔なる信徒を神はいつでも見守っている』だのとぬかす司祭共。 孤児院出身とバレ、実親だと名乗り出すクズは日に日に増え、それに乗っかり『我が国の出身者だ』と主張し始めた国家連中。
辟易したものだ。
だから、そんな柵から簡単に逃げ帰せる異世界間召喚を選んだんだ。 これなら、お前がもし『神の御使い』って肩書きを悪用するようになっても、強制送還できるだろ?♪」
「確かに……」
邪悪な笑みを浮かべるシチシさんに、余程、腹に据えかねていたのだとも察せられる。
予想の範囲内だったとはいえ、生々しい勇者物語のその後を垣間見た気がして、頷く事しか出来ない。
そりゃぁまぁ、人類を千年以上苦しめ続けてきた魔王なんて存在を倒したら、そうなるわな。
善意を利用した悪質な手紙とか届いてそう。
「あっ、そういやぁハーレム予防も正解な。 てか禁止事項だから、シスターとセックスするなよ?」
「セッ!?」
「シチシさん!!」
「のわっ何だ! 今度は何が駄目なんだ?!」
テーブルに身を乗り出して叫ぶアマノさんへと、シチシさんが肩をビクンッ!と震わせて振り返った。
「セッ……なんて言い方は直接的過ぎます! その、せめて同衾とか、子を成すのは~とか……」
瞳を潤ませながら、段々と失速していく羞恥顔が可愛い。
そんな苦言を聞かされ、シチシさんは「えぇ~…」と面倒臭そうに肩を落としていた。
「真面目な話しなんだから、気にすんなよこれくらいで」
「それは! っ……」
と、アマノさんの視線がこっちに向き、何を感じ取ったのか、気不味そうに腰を下ろす。
「……いいえ、確かに意識し過ぎていたのかもしれません。 どうぞ続きを」
そう促され、シチシさんがやれやれと呆れた様子で俺に向き直す。
「悪りぃな。 あ~……一応聞いとくが、お前もいちいち気にするタイプだったりした?」
「いえ。 サラッと直球が来て驚きはしましたけど、下ネタと医療知識くらい別物だと思ってます」
異性相手に全く意識しないとまではいかないが、何でもかんでも下ネタに聞こえるほど思春期ではない。
「だよな~♪」と嬉しそうなシチシさんの背景にて、更に俯き耳を赤らめたアマノさんの姿が居た堪れなさ気に見えた俺は、「それで、何で禁止なんですか」と話を戻した。
「ん? あぁ。 えっとな……簡単に言うと、異世界人の遺伝子を残したくねぇんだわ」
「ぁ~……」
そこまで聞けば、後は察せられる。
神に選ばれた異世界人の血筋なんて、権力者や教会が黙っていられる筈がないし、遺伝子と言うからには突然変異が産まれやすい可能性も。
世界に広まればどんな影響を及ぼすか……。
それ以前に、ヤることヤって地球にバイバイじゃ、残された母子に申し訳がたたない。
「転生ならともかく、召喚されただけの地球人に魔力の適性なんてあるわけないからな。 魔力を扱えない子とか産まれたら、こっちじゃ結構生活し辛いんだわ。 お前も、変な病気移したり移されたりなんてしたくないだろ?」
「クッソ生々し過ぎて夢も希望も無いって点も含めて理解しました」
物語って上手く出来てたんだな。 恋愛禁止とか魅力半減でしかない。
あわよくばリア充にとか心做しか期待していたのに……こんなリアルさは求めていなかった。
なんなら、好きな女のために! とかなら命も懸けられそうなところを。
せっかくのチート魔法すら不穏でしかないばかりか、恋愛要素だけR18規制された血生臭い討伐依頼なんかに、これ以上関わりたくない。
「あの、帰って良いですか? 一般人な俺じゃぁ役に立てそうにありませんし、誤って召喚されただけなら拒否権ありますよね?」
「なんだ、そんなにセックスしたかったのか?♪」
「当たり前じゃないですか。 てかそんな空気になってスルーできる童貞なんているんですか?」
直球同士の投げ合いに、視界の隅に映るアマノさんの顔の変化が面白くなる。
そんな同僚の性格を熟知してか、シチシさんってば視線を向けてもいないのにニヤニヤと楽しそうだ。
この人やっぱ確信犯だろ。
「じゃぁ、アマノとセックス出来るなら行ける?」
「行きます」
「ちょっと待ってください!!?」
突然体を売られたアマノさんがテーブルをダンッ!と両手で突き、また身を乗り出した。
腹を抱えるシチシさんを余所に、赤面涙目で俺に訴える。
「なに即答してるんですか! 女なら誰でも良いんですか!? こんなので勝手にやる気出さないでください!」
「いやいや、アマノさんみたいなタイプが理想的だからこその即答ですよ。 もちろん本人の同意があればの話しです」
無理矢理とか犯罪じゃん? 現実の可哀想なのはこっちからお断りしたい。 あぁいうのはフィクションやプレイ(同意)だからこそ性癖として受け入れられているのだ。
ぷるぷると両肩を震わせていたシチシさんがアマノさんを見上げる。
「ならウチが代わろうか?♪」
「はぁ!?」
するとスッと俺の隣へ移動していたシチシさんが、流れるような動作で右腕に抱き付いてきた。 巫女服越しの柔らかな膨らみが押し当てりれ、心臓が止まりかける。
0距離上目使いの破壊力がエロい。
「なぁ、付喪神は妊娠しないって、知ってた?」
「具体的にどうぞ」
「なに今までで一番食い付いているんですか!」
*
「いやアマノよ、強がらず正直に告白してくれた若者相手に、このまま役目だけ背負わせて行ってらっしゃいは、いくら何でも酷ではないか?」
「ぅぅっ……」
シチシさんが真面目な顔してお茶を飲み、正論でつつき始めた。
その様子を、内心(いいぞ~もっとやれ~)な気持ちで静観する。
最初は「はしたないです! 軽率過ぎます!」とか顔真っ赤で訴えていたアマノさんだったのだが、その勢いは既に虫の息。
内容はともかく……落ち着いて話されると、ちゃんと耳を傾けてくれるタイプらしい。
そのせいだろうな。 あっさり釣られ、まな板の鯉状態になっているのは。
「それこそ、お前も言っていただろ? こいつは神格とは違うんだ。 分かっていても流され、性欲を抑えられなくなる危険は高い。 なら、ここはウチらが一肌脱ぐべきじゃないのか?」
「それは……ですが……」
何か言いたそうに上がった顔が、ただ左右に目を泳がせただけで、力無くまた下がる。
言いたい事は理解出来るが、納得し切れないといった様子だ。
よし今です、畳み掛けて!
「なにも無理にとは言っとらんだろぉ……どうしても嫌ならウチが代わってやっても良いし。 それに、今すぐなどと誰がぬかした。 これからこいつが頑張っていく様を見て、その気になったら付き合ってやる……という約束くらい、問題無かろ?」
「…………」
だったら放っといてあげてよとも言いたくなるが、そんな甘えをシチシさんは許そうとしない。
「命懸けで尚、人と付喪神なんだからって理由で断られる不安を抱いたままでは、本気で帰りかねんぞ。 過酷になるやもしれん旅にも耐えられるかどうかぁ……」
いくらなんでもそこまで人でなしではないのだが……俺はラノベ主人公でもないのだ。 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるシスターさんから万が一特別な好意を向けられ続ければ、いつまでも鈍感とはいかない。
そんな危険を孕んでいる童貞を送り込むくらいならば、今からでも妻や恋人を一途に想っている適性者を探した方が賢明だろう。
てかそもそも、神様チートがあるからって傍観勢でありガチャで言うならレア度ノーマルな自分に勝機があるのかすら疑わしいんだけど……本気で辞退しようかな。
と、いつまでも腑に落ちない様子のアマノさんに痺れを切らしたのか、シチシさんが遂にお茶を飲み干した。
「ハァ……年上なんだから、自分の性癖を押し付けるくらいのリードを見せんでどうする。 知っとるんだぞオ○っとるの」
「ぅわぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ここまでで一番の絶叫が室内に轟く。
とんでも暴露を塗り潰さんばかりに発せられたその悲鳴には、うつらうつらと船を漕いでいたスイハも「ふぇ!?」と目を覚ました。
こいつ、話しに参加しないなと思っていたら。
「なっななっ……えっ、それ……っ!」
一瞬にして、額の水滴が沸騰しそうなまでに赤く染まり上がった。
シチシさんがテーブルに頬杖を突く。
「一緒に暮らしてんだ、たまに音や臭いでバレてるぞ」
「ぇぇ……うそ……。 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ……」
両手で顔を覆い背を丸め、腹の底から沸き上がってきたような呻きが痛々しい。
なんてえげつない口撃だ。
さすがに見てて可哀想になってきた。
止めないけど。
「気にするくらいなら性欲まで再現しなきゃいいもんを。 それともアレか? 妄想通り、強引に迫られた方が好「」分かりました! 分かりましたから! どうしてもとなればお相手致しますので、これ以上は止めて下さい!!」
何だか聞き捨てならないワードを全身全霊で遮り、アマノさんが勢い任せにそう言い切った。
……マジか。
「そうかそうか♪ 良かったな♪」
「えっ……あっ、はい」
まさか本当に承諾されるとは思ってもいなかったので、紅玉のような瞳と目が合い、経験の無い気恥ずかしさに声が上擦る。
現実味の無い環境で、現実味の無い言質を貰ってしまった。
しかも流されるがままに、R18漫画のご都合展開みたいに。
頬をツネって夢か確かめたくなるも、ここで覚めたくないという願望とのジレンマに苛まれ――
「あの……」
顔真っ赤上目使いでモジモジしているアマノさんと目が合う。
「嫌じゃ……ないですか? 何千年も生きてる器物ですよ? 人ですらないんですよ?」
「全く問題ありませんが」
「あれ~~~ぇぇ?!」
――苛まれる理由は微塵も無かったわ。
もう、これが現実で良いや。
俺は召喚ガチャで天界に誤発注され、なろう系な展開で神様完全サポートのみならず、理想的な彼女候補まで獲得してしまったのだ。
うん、何の違和感も無いな。 あるあるだ。
そんな心情が顔に出ていたのか、アマノさんが目を丸くする。
「私がこのような事を聞くのは間違っているとは思いますが、大変危険で辛い旅になるんですよ? なのにそれを、こんな理由であっさり決めてしまわれて本当に宜しいのですか!」
「アマノさんに好かれる為ならどんな恐怖にでも立ち向かえます」
「っ~~~~!!!!!!」
どこから発せられたのか分からない声でアマノさんが茹でタコになる。
超可愛い。
いつの間にか移動していたシチシさんが、そんなアマノさんの肩に手を回す。
「いやぁ~良かったな、無事に説得出来て。 しかもお相手まで見付かるとか、一石二鳥じゃないか?」
「うぅ……」
「ねぇねぇ~、何の話しぃ?」
「君はもうちょっと寝てて良いと思うぞ?」
こうして俺は、アマノさんを惚れさせるため、悪魔討伐の任を受け入れたのだった。
半ば脅迫染みていた点は見なかった事とする。
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