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人工スキル:拡大解釈
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「結論から言いますと、面白かったです」
その日、美花先輩の一言に、軽文部員達は騒然とした。
具体的には聴いていないフリすら忘れ、皆で一斉に美花先輩に視線を向けている。
いや……だって。
美花先輩が個人的な批評感想を述べているだけというのは理解している。 なにも低評価しかしない酷評したがりだなんて思ってはいない。
好みの作品があれば高評価だってするだろう。
だが批評感想を求めて来ている人というのは、『評価されていない』又は『自分の欠点が理解できていない』のが殆どだ。
面白ければ評価されるし、評価されている人は批評感想に飢えてはいない。
美花先輩の感想はいつも納得がいくものばかりで、「私なら~」を聞いていると、それならば読んでみたくなる、と何度も思わされてきた。
もちろん感性は人それぞれなのだから、それが万人受けするとまでは言えない。 が、少なくとも僕は面白くなったなと感じている。
そんな人が「面白い」と評価した作品。 ……それは果たして相談に来る必要があるのだろうか?
タブレットをタップし、美花先輩が続ける。
対面しているのは部外の女子生徒。 今1番驚いているのはこの人なのかもしれない。
「キャラ・ストーリー共にオリジナリティがあり、各種猫写に少し物足りなさはあるものの、リズム的には読みやすく、あまり不快にはなりませんでした。
主人公の設定も、最初は無駄を省いただけのありがちなモブの印象でしかなかったものが、森の中で魔法使いのお姉さんを保護した辺りから、年頃の男の子だなぁ~と初な反応が微笑ましくもあって。
むしろ少年誌主人公の仲間になる、最初は弱かったけど努力やアイデアで地道に強くなっていく5番手、くらいの印象になりました。
例えば、初めて魔獣に襲われた時なんて腰が引けてオドオドしていたのに、魔法使いさんを守るためなら……と、向けられた短剣に体は震えながらも、覚悟だけは行動に現れていて。 このあと本当の主人公が登場し、助けてくれそうな雰囲気でしたね。
小さい頃から、曾祖父ちゃんが話してくれた英雄譚の、最強スキルで躍進していく勇者や聖女。 ではなく『皆のスキルを纏めて、戦局を創る最弱の曲者』に憧れていて。
自分のスキルの試行錯誤のみならず、他人のスキルの扱い方まで妄想するのが趣味。 なのも、拡大解釈と相性が良く、この作品のテーマになっていると感じました。
魔法使いさんもキャラが立っていましたね。 言動の端々に強者の余裕が常にあり、興味が湧いた事柄には積極的かつ強引。 まさに研究者といった姿勢です。 自分で素材を取りに魔の森へ入って行きそうなタイプですね。
元魔学研究所所長だからでしょうか、持論に確信をもって理路整然と語り、自分を殺しに来た神父様を目力だけで竦ませ、真正面から説き伏せていたのはドキドキさせられました。 これ現実では絶対に真似しちゃ駄目なやつですね。 和解どころか大喧嘩売ってます。
それと、主人公の曾祖父ちゃんが恩人なのは意外でした。 幼い頃に彼と会っていたからこそスキル研究の道に進めたのは、主人公と出会った必然性としても充分ですね。
思い出の場所で眠っていたのを、行き倒れているようにしか見えずに慌てていた主人公を想像すると面白かったです。 行き倒れているようにしか見えない眠り方をしている魔法使いさんが原因なのですが。
ストーリーも、定番となっている設定を使ってオリジナリティに仕上げているのは良かったです。
神からスキルを1つだけ授かれる世界にて。
新人の樵である少年主人公が、魔獣に襲われ間一髪で先輩に助けられます。 足を負傷した先輩を教会まで運び、神父様に治癒スキルで治してもらった後、自分の斧を置いて来たのを思い出し、1人夜の森に侵入した所で倒れている魔法使いのお姉さんを拾いました。
魔法使いさんをいつ何処で拾ったのか、追及されると困ってしまうため自室の隠し地下部屋で匿うことに。 するとお姉さんは翌日には目を覚まし、自分が指名手配されている事を明かします。
元魔学研究所所長であり、共同研究をしていた相手に裏切られ逃亡。
その原因が『人工スキル:拡大解釈』の発明であり、研究記録を全て共同研究相手に独占されてしまいます。
ただし、拡大解釈を誰よりも熟知している魔法使いさんを邪魔に思った裏切り者は、捏造した国家反逆罪で指名手配してしまいました。
そうして今、助けてくれた礼にと少年に拡大解釈を伝授。 数週間の訓練の後、主人公は1人で魔獣を倒せるようにまで成長しました。
数日後。 こんな辺境の村にまで騎士達が聞き込みに現れ、各家を強制で調べられるものの、曾祖父ちゃん特製の隠し地下部屋は見付からず。
安堵した所へ神父様が。 指名手配犯の魔法使いを匿っているとバレてしまい、更には「人工スキルは神への冒涜だ!」と短剣を向けられて……
っと、3話まででも充分に面白かったので、あらすじが長くなってしまいましたね。
その後も、拡大解釈で超強化した軍勢を従える計画を企てる裏切り者に、実質的に国が乗っ取られたり。
主人公のスキル『樵』が拡大解釈で超強化されていったり。
裏切り者の行いを止めようとする魔法使いさんと、王都へ共に行くことになったり。
もちろん、道中では拡大解釈で強化された刺客と戦うことに。
と、まさに少年漫画の王道といった展開でした。 元から強スキルの騎士でも常識や経験が邪魔して拡大解釈をまともに扱えず、人格や思想に問題のある敵ばかりが超強化されていくのも納得です。
主人公のようにハズレと笑われていた弱小スキルまでもが超強化され、そうして生まれた個性溢れる敵との壮大過ぎるバトルは、是非とも漫画やアニメで見てみたい所です。 戦闘に力を入れた良作画なら、漫画買いたいです」
随分なベタ褒めに、著書である女子生徒が謙虚にお礼を言い、頭を下げる。
好きを語るヲタクのようなマシンガントークを見るに、若干引き気味な声色だったのは気付いてないんだろうなぁ美花先輩。
『神からスキルを与えられる世界』、『弱小スキルのモブ主人公』、『魔学研究所からの追放』、『拡大解釈』。
いつもなら「うっ……頭が……」となるありふれた要素が盛り沢山なのに、今では早くタイトルが知りたくて仕方がない。
にしても、拡大解釈を人工スキルとし、敵味方両方が超強化されていくのは普通に恐ろしいな。 一種のパンデミックだろこれ。 しかも人格に問題のある奴ばかり超強化されていきそうな設定とは……
インフレの限界にでも挑戦しているのだろうか?
正直、話がアホほど作れそうで少し羨ましくもある。
ただ毎話インフレ限界突破していきそうで、落とし所を見失いそうだ。 序盤で強すぎる敵を出すと主人公即死するし、かと言って主人公で勝てるレベルの敵ばかりだと単調なストーリーになる。
そこをどう調節しているのか、非常に読んでみたい。
美花先輩がタブレットを下へとスクロールしていく。
「主人公が『樵としてのスキル』という名目で得る力は、どれも強いものの万能とまでは言えず。
メインは、武器となる伐採道具『斧』『鋸』『槌』『楔』を駆使して『受け口・追い口の双方二対』で傷さえ付けばどんなに硬くとも不要な物だけを伐採出来る力ですね。
『伐採』という言葉までも拡大解釈し、不要となった『人工スキル:拡大解釈』を伐採して孤児のスキル暴走を止める回は好みの展開でした。 刺さりました。
拡大解釈で超強化された敵は捕まえても意味がない、とはいえ、超強過ぎる力に狂ってしまった孤児を殺せない主人公が、必死に絞り出した新たな力で解決する。
ご都合主義と言われそうですけれど、主人公自身が拡大解釈で試行錯誤できる設定なため、不快に思われるような不自然さは無かったです。
というより、熱い流れで誤魔化されました。
この回の女の子も、両親を殺された過去の影響から、悪い人だと断定した相手には他人・動物を精神支配して集団攻撃をさせるという『鶴の一声』の拡大解釈でした。 異世界では意味が伝わらないというタイプの弱小スキルですね。
優しいお兄ちゃんだった主人公が国家反逆の罪人だと教えられ、精神が不安定化した女の子のスキルが暴走し、声を聞いた人全員が無差別に殺し合いを始めたのはゾッとしました。
そこからの葛藤を経て、女の子の拡大解釈スキルのみを伐採したのは良かったです。 読むのが辛くなっていた所だったので、助かります。
他の敵はそれぞれ人格最悪だったりするので、尚更この子が救われる展開は心底ホっとしました」
ハッピーエンド好きなだけあって、苦しんでいる子供が救われる展開には弱いらしい。
ただまぁ……その子も、性格というより質が悪い系だったんだろうな。
悪人を許せない気持ちは理解できる。 が、自己判断で私刑するのはヤバい。
場合によっては冤罪なのに袋叩きにする可能性だってあるのだから。 常識のある人間は、悪人なんだから殺しちゃっても良いよね? と実行はしない。
子供だからこその怖さ、ってやつか……
それも声の届く範囲の他人や動物すらも精神支配、って凶悪スキル過ぎる。
よりにもよって。
いや救われたのなら心底良かったんだけど。
美花先輩がタブレットをタップする。
「登場人物も殆ど無駄が無く、何かしらストーリーに絡んでくる点も拘りを感じました。
2人を探していた騎士達・花売り趣味の少女・助けてくれたボロ聖堂のシスターさん・拡大解釈に適応できず失脚した強スキルで名の通った魔導剣士など、その場限りのぽっと出では終わらず何かしらの役割が与えられていましたね。
軽く助けただけで主人公好き好き~……はなく、1人1人に過去があっての今があり、主人公と関わったことで巻き込まれた一般人なんかもいたりして。
まさか花売りの少女がそのまま仲間になるとは想定できませんでしたよ。
スキルを利用して自身は守りながら、町中で見つけた好みの男に路地裏で抱かれたがる性的嗜好の仲間って、前例ありますかね?」
なにそのR18。 エロまで踏襲してるとか、女子高生が書くストーリーじゃないんよ。
中身おっさんか?
ここにきて空気が変わったな。 作品の。
「仲間になった理由も『常連客が奥さんにバレたから刺される前に』でしたし。
仲間になってからも、王都の情報を収集するため、数人の行商人や騎士と寝て帰ってきて。 本人は『趣味と実益を兼ねているから』と楽しそうでしたが、主人公が心配になる気持ちは共感できます。
私は、こういうキャラを見たことがなかったので、いい性格してるなぁと、良い意味で評価してます。
他にもBL・重度ファザコン娘・ストーカー趣味な青年と続々登場し、もうやりたい事の闇鍋という印象でした。
私は嫌いじゃなかったですけど」
結構攻めたな。 炎上上等とでもいったところか?
まさかそんな色物まで仲間になったりしないだろうな。 ……あり得そうで怖い。
美花先輩がタブレットを数回タップしてから、電源を押す。
「総評ですが、どれだけ自分の常識を、固定概念を書き換えられるのかが勝負な王道バトル(特殊性癖もあるよ)、ですね。
これで人気が出ないのは、おそらく宣伝不足や更新頻度が遅いのが原因かと。 毎日更新とまでは言いませんが、さすがに数ヶ月に1度更新するかどうか、というペースでは人が離れます。
最初は週3日更新できていたようですね。 ネタが尽きたのか勉強で忙しかったのか……そこは学生なので仕方がありません。
が、人気が欲しいのなら、更新頻度にも気を配ってください。
一応、Web投稿は週1更新が理想、とだけ意識してくださいね。 数より質!なら、せめて月1を〆切としましょう。
他にも細かい悩みがある場合は、興味があれば軽文部に是非。 頼りになるOBも紹介できます。
協力して宣伝し合っちゃいましょう。 少なくとも1人のままよりは有益ですから。
以上です」
ありふれた定番の要素を上手く調理し、自分の味付けをする。
やろうとして失敗しているようにしか読めない作品もある中、これは良作足り得るのではなかろうか。
まぁ、花売り趣味の少女がどう転ぶかだろうな。
書籍化したら修正されてそう……かどうかは、読んでみないと分からない。
帰ったら早速読んで……そういえばタイトルは?
美花先輩が爽健美茶のペットボトルを飲み干す。
美花先輩から「面白かった」を貰った女子生徒は、早速部長に話し掛けられていて。 さすが部長、手が早い。
女子生徒は帰っていった。 入部はしっかり考えてから決めたい、との事だったが、あれは浮かれていて一旦1人になりたい気分なのだろう。
高揚感でニマニマしていたからな。
美花先輩に好評価されたなんて、学内ならドヤ顔で自慢できる快挙だ。 実際、部長に聞いたけれど、去年好評価を貰えたのは1人だけだったらしい。 ……まぁ、専門学校じゃないんだ、そんなものか。
帰り際、タブレットには行列ができていた。 誰が始まりか、みんな検索履歴から今回の作品を遡ってスマホで撮影している。
その手があったか……
その日、美花先輩の一言に、軽文部員達は騒然とした。
具体的には聴いていないフリすら忘れ、皆で一斉に美花先輩に視線を向けている。
いや……だって。
美花先輩が個人的な批評感想を述べているだけというのは理解している。 なにも低評価しかしない酷評したがりだなんて思ってはいない。
好みの作品があれば高評価だってするだろう。
だが批評感想を求めて来ている人というのは、『評価されていない』又は『自分の欠点が理解できていない』のが殆どだ。
面白ければ評価されるし、評価されている人は批評感想に飢えてはいない。
美花先輩の感想はいつも納得がいくものばかりで、「私なら~」を聞いていると、それならば読んでみたくなる、と何度も思わされてきた。
もちろん感性は人それぞれなのだから、それが万人受けするとまでは言えない。 が、少なくとも僕は面白くなったなと感じている。
そんな人が「面白い」と評価した作品。 ……それは果たして相談に来る必要があるのだろうか?
タブレットをタップし、美花先輩が続ける。
対面しているのは部外の女子生徒。 今1番驚いているのはこの人なのかもしれない。
「キャラ・ストーリー共にオリジナリティがあり、各種猫写に少し物足りなさはあるものの、リズム的には読みやすく、あまり不快にはなりませんでした。
主人公の設定も、最初は無駄を省いただけのありがちなモブの印象でしかなかったものが、森の中で魔法使いのお姉さんを保護した辺りから、年頃の男の子だなぁ~と初な反応が微笑ましくもあって。
むしろ少年誌主人公の仲間になる、最初は弱かったけど努力やアイデアで地道に強くなっていく5番手、くらいの印象になりました。
例えば、初めて魔獣に襲われた時なんて腰が引けてオドオドしていたのに、魔法使いさんを守るためなら……と、向けられた短剣に体は震えながらも、覚悟だけは行動に現れていて。 このあと本当の主人公が登場し、助けてくれそうな雰囲気でしたね。
小さい頃から、曾祖父ちゃんが話してくれた英雄譚の、最強スキルで躍進していく勇者や聖女。 ではなく『皆のスキルを纏めて、戦局を創る最弱の曲者』に憧れていて。
自分のスキルの試行錯誤のみならず、他人のスキルの扱い方まで妄想するのが趣味。 なのも、拡大解釈と相性が良く、この作品のテーマになっていると感じました。
魔法使いさんもキャラが立っていましたね。 言動の端々に強者の余裕が常にあり、興味が湧いた事柄には積極的かつ強引。 まさに研究者といった姿勢です。 自分で素材を取りに魔の森へ入って行きそうなタイプですね。
元魔学研究所所長だからでしょうか、持論に確信をもって理路整然と語り、自分を殺しに来た神父様を目力だけで竦ませ、真正面から説き伏せていたのはドキドキさせられました。 これ現実では絶対に真似しちゃ駄目なやつですね。 和解どころか大喧嘩売ってます。
それと、主人公の曾祖父ちゃんが恩人なのは意外でした。 幼い頃に彼と会っていたからこそスキル研究の道に進めたのは、主人公と出会った必然性としても充分ですね。
思い出の場所で眠っていたのを、行き倒れているようにしか見えずに慌てていた主人公を想像すると面白かったです。 行き倒れているようにしか見えない眠り方をしている魔法使いさんが原因なのですが。
ストーリーも、定番となっている設定を使ってオリジナリティに仕上げているのは良かったです。
神からスキルを1つだけ授かれる世界にて。
新人の樵である少年主人公が、魔獣に襲われ間一髪で先輩に助けられます。 足を負傷した先輩を教会まで運び、神父様に治癒スキルで治してもらった後、自分の斧を置いて来たのを思い出し、1人夜の森に侵入した所で倒れている魔法使いのお姉さんを拾いました。
魔法使いさんをいつ何処で拾ったのか、追及されると困ってしまうため自室の隠し地下部屋で匿うことに。 するとお姉さんは翌日には目を覚まし、自分が指名手配されている事を明かします。
元魔学研究所所長であり、共同研究をしていた相手に裏切られ逃亡。
その原因が『人工スキル:拡大解釈』の発明であり、研究記録を全て共同研究相手に独占されてしまいます。
ただし、拡大解釈を誰よりも熟知している魔法使いさんを邪魔に思った裏切り者は、捏造した国家反逆罪で指名手配してしまいました。
そうして今、助けてくれた礼にと少年に拡大解釈を伝授。 数週間の訓練の後、主人公は1人で魔獣を倒せるようにまで成長しました。
数日後。 こんな辺境の村にまで騎士達が聞き込みに現れ、各家を強制で調べられるものの、曾祖父ちゃん特製の隠し地下部屋は見付からず。
安堵した所へ神父様が。 指名手配犯の魔法使いを匿っているとバレてしまい、更には「人工スキルは神への冒涜だ!」と短剣を向けられて……
っと、3話まででも充分に面白かったので、あらすじが長くなってしまいましたね。
その後も、拡大解釈で超強化した軍勢を従える計画を企てる裏切り者に、実質的に国が乗っ取られたり。
主人公のスキル『樵』が拡大解釈で超強化されていったり。
裏切り者の行いを止めようとする魔法使いさんと、王都へ共に行くことになったり。
もちろん、道中では拡大解釈で強化された刺客と戦うことに。
と、まさに少年漫画の王道といった展開でした。 元から強スキルの騎士でも常識や経験が邪魔して拡大解釈をまともに扱えず、人格や思想に問題のある敵ばかりが超強化されていくのも納得です。
主人公のようにハズレと笑われていた弱小スキルまでもが超強化され、そうして生まれた個性溢れる敵との壮大過ぎるバトルは、是非とも漫画やアニメで見てみたい所です。 戦闘に力を入れた良作画なら、漫画買いたいです」
随分なベタ褒めに、著書である女子生徒が謙虚にお礼を言い、頭を下げる。
好きを語るヲタクのようなマシンガントークを見るに、若干引き気味な声色だったのは気付いてないんだろうなぁ美花先輩。
『神からスキルを与えられる世界』、『弱小スキルのモブ主人公』、『魔学研究所からの追放』、『拡大解釈』。
いつもなら「うっ……頭が……」となるありふれた要素が盛り沢山なのに、今では早くタイトルが知りたくて仕方がない。
にしても、拡大解釈を人工スキルとし、敵味方両方が超強化されていくのは普通に恐ろしいな。 一種のパンデミックだろこれ。 しかも人格に問題のある奴ばかり超強化されていきそうな設定とは……
インフレの限界にでも挑戦しているのだろうか?
正直、話がアホほど作れそうで少し羨ましくもある。
ただ毎話インフレ限界突破していきそうで、落とし所を見失いそうだ。 序盤で強すぎる敵を出すと主人公即死するし、かと言って主人公で勝てるレベルの敵ばかりだと単調なストーリーになる。
そこをどう調節しているのか、非常に読んでみたい。
美花先輩がタブレットを下へとスクロールしていく。
「主人公が『樵としてのスキル』という名目で得る力は、どれも強いものの万能とまでは言えず。
メインは、武器となる伐採道具『斧』『鋸』『槌』『楔』を駆使して『受け口・追い口の双方二対』で傷さえ付けばどんなに硬くとも不要な物だけを伐採出来る力ですね。
『伐採』という言葉までも拡大解釈し、不要となった『人工スキル:拡大解釈』を伐採して孤児のスキル暴走を止める回は好みの展開でした。 刺さりました。
拡大解釈で超強化された敵は捕まえても意味がない、とはいえ、超強過ぎる力に狂ってしまった孤児を殺せない主人公が、必死に絞り出した新たな力で解決する。
ご都合主義と言われそうですけれど、主人公自身が拡大解釈で試行錯誤できる設定なため、不快に思われるような不自然さは無かったです。
というより、熱い流れで誤魔化されました。
この回の女の子も、両親を殺された過去の影響から、悪い人だと断定した相手には他人・動物を精神支配して集団攻撃をさせるという『鶴の一声』の拡大解釈でした。 異世界では意味が伝わらないというタイプの弱小スキルですね。
優しいお兄ちゃんだった主人公が国家反逆の罪人だと教えられ、精神が不安定化した女の子のスキルが暴走し、声を聞いた人全員が無差別に殺し合いを始めたのはゾッとしました。
そこからの葛藤を経て、女の子の拡大解釈スキルのみを伐採したのは良かったです。 読むのが辛くなっていた所だったので、助かります。
他の敵はそれぞれ人格最悪だったりするので、尚更この子が救われる展開は心底ホっとしました」
ハッピーエンド好きなだけあって、苦しんでいる子供が救われる展開には弱いらしい。
ただまぁ……その子も、性格というより質が悪い系だったんだろうな。
悪人を許せない気持ちは理解できる。 が、自己判断で私刑するのはヤバい。
場合によっては冤罪なのに袋叩きにする可能性だってあるのだから。 常識のある人間は、悪人なんだから殺しちゃっても良いよね? と実行はしない。
子供だからこその怖さ、ってやつか……
それも声の届く範囲の他人や動物すらも精神支配、って凶悪スキル過ぎる。
よりにもよって。
いや救われたのなら心底良かったんだけど。
美花先輩がタブレットをタップする。
「登場人物も殆ど無駄が無く、何かしらストーリーに絡んでくる点も拘りを感じました。
2人を探していた騎士達・花売り趣味の少女・助けてくれたボロ聖堂のシスターさん・拡大解釈に適応できず失脚した強スキルで名の通った魔導剣士など、その場限りのぽっと出では終わらず何かしらの役割が与えられていましたね。
軽く助けただけで主人公好き好き~……はなく、1人1人に過去があっての今があり、主人公と関わったことで巻き込まれた一般人なんかもいたりして。
まさか花売りの少女がそのまま仲間になるとは想定できませんでしたよ。
スキルを利用して自身は守りながら、町中で見つけた好みの男に路地裏で抱かれたがる性的嗜好の仲間って、前例ありますかね?」
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ここにきて空気が変わったな。 作品の。
「仲間になった理由も『常連客が奥さんにバレたから刺される前に』でしたし。
仲間になってからも、王都の情報を収集するため、数人の行商人や騎士と寝て帰ってきて。 本人は『趣味と実益を兼ねているから』と楽しそうでしたが、主人公が心配になる気持ちは共感できます。
私は、こういうキャラを見たことがなかったので、いい性格してるなぁと、良い意味で評価してます。
他にもBL・重度ファザコン娘・ストーカー趣味な青年と続々登場し、もうやりたい事の闇鍋という印象でした。
私は嫌いじゃなかったですけど」
結構攻めたな。 炎上上等とでもいったところか?
まさかそんな色物まで仲間になったりしないだろうな。 ……あり得そうで怖い。
美花先輩がタブレットを数回タップしてから、電源を押す。
「総評ですが、どれだけ自分の常識を、固定概念を書き換えられるのかが勝負な王道バトル(特殊性癖もあるよ)、ですね。
これで人気が出ないのは、おそらく宣伝不足や更新頻度が遅いのが原因かと。 毎日更新とまでは言いませんが、さすがに数ヶ月に1度更新するかどうか、というペースでは人が離れます。
最初は週3日更新できていたようですね。 ネタが尽きたのか勉強で忙しかったのか……そこは学生なので仕方がありません。
が、人気が欲しいのなら、更新頻度にも気を配ってください。
一応、Web投稿は週1更新が理想、とだけ意識してくださいね。 数より質!なら、せめて月1を〆切としましょう。
他にも細かい悩みがある場合は、興味があれば軽文部に是非。 頼りになるOBも紹介できます。
協力して宣伝し合っちゃいましょう。 少なくとも1人のままよりは有益ですから。
以上です」
ありふれた定番の要素を上手く調理し、自分の味付けをする。
やろうとして失敗しているようにしか読めない作品もある中、これは良作足り得るのではなかろうか。
まぁ、花売り趣味の少女がどう転ぶかだろうな。
書籍化したら修正されてそう……かどうかは、読んでみないと分からない。
帰ったら早速読んで……そういえばタイトルは?
美花先輩が爽健美茶のペットボトルを飲み干す。
美花先輩から「面白かった」を貰った女子生徒は、早速部長に話し掛けられていて。 さすが部長、手が早い。
女子生徒は帰っていった。 入部はしっかり考えてから決めたい、との事だったが、あれは浮かれていて一旦1人になりたい気分なのだろう。
高揚感でニマニマしていたからな。
美花先輩に好評価されたなんて、学内ならドヤ顔で自慢できる快挙だ。 実際、部長に聞いたけれど、去年好評価を貰えたのは1人だけだったらしい。 ……まぁ、専門学校じゃないんだ、そんなものか。
帰り際、タブレットには行列ができていた。 誰が始まりか、みんな検索履歴から今回の作品を遡ってスマホで撮影している。
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