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初熱
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熱い……。
肌に触れる空気が涼しく感じる程に、今の私は発熱していた。
と言っても不幸中の幸い、鼻の奥や喉が炎症している痛みは無く、頭がクラクラして立てない程でもない。
とにかく全身が熱いだけ、ただそれだけだ。
「ケホッ……ケホッ……」
「……はい、飲んで」
お母さんに背中を支え起こされ、下唇にコップの縁が添えられる。 ヒヤリと冷たい水が上唇に当たり、私は少しだけ口を開けてそれを飲んだ。
冷たいのが熱い体に流れ込む。 あぁ良い。 真夏の部活中に、水筒のお茶をグッと飲んだ心地好さを思い出す。
体温が少しだけ下がった気がした。
渇いていた喉が潤い、「んん~……」と口を閉じると、お母さんがコップをテーブルに戻してくれる。
私が熱を出している事に気が付いたのは、朝食の準備を済ませたお母さんが、お父さんと私を起こしに来た時だった。
そりゃぁもう心配されたよ。 こんな小さな子が深夜に熱出してたとか、前世でも大事になっただろう。
だけど騒がしかったのはほんの僅かな間だけ。 すぐにてきぱき介抱されたのが、されててちょっと楽しくもあった。
さすが母親なだけあるわ。
ちなみに食欲は微妙だったので、パンとおかずを細かく刻んだ物をスープに入れて温めてもらい、雑炊みたいにして少し食べた。
我が家は三食野菜中心の肉少な目なので、アッサリ軽くて喉がすんなり通してくれた。
それからずっとこんな調子。
着替えたお父さんが寝室に顔を出す。
「じゃあ、早めに終わらせてもらってすぐ診療所行くから」
声色だけで、相当心配させちゃった事が伝わってくる。
「うん、いってらっしゃい」
お母さんに続き、私も心の中で手を振った。
(いってらっしゃ~い)
・
濡れタオルで体を拭いてもらい、着替えてから診療所へ向かう。
私が産まれたあの診療所だ。
の道中。
もう7月に入ろうって時季もあり、なかなかに強い日差しが石畳を照りつけている。
加えて雲1つ無い見事な晴天。 よりにもよってこんな体調の日に……。
おかげで首と背中が暑くなってきた。 抱き着くようにして向かい合ってるから、お母さんの肩に顎を乗せられるのは、かなり楽でありがたいんだけどね。
あぁ、景色が前へ流れていく……高速で後ろ歩きしてるみたい。
そこでふと、前世のニュースが頭に浮かぶ。
もしかしてこれ、熱中症? ……5月下旬あたりから耳にした事もあったし、前世での姉が熱中症で辛そうにしていた事もあったので、ヤバさは知っている。
けれど私のこれは、吐き気は僅かだし、頭痛においては全く無い。
いや……吐き気は今、最高に酷くなってきたわ。
具体的には、胃の雑炊が上下にシャッフルされてるようで辛い。
ちょっ、お母さん、速い……。
目には見えないが、やっぱり相当心配されていたらしく、普段より足早で揺れも激しかった。
ちょっと上げそうだけど……その分肌を撫でる風が涼しいので、我慢するからとにかく早く到着してほしい。
・
(犬耳ナースちゃん、エモ可愛ゆす)
そんなこんなで現在、診察室にて。
以前は見かけなかった、女子中学生くらいのチワワ耳獣人ちゃんが、晒した私の胸部に耳ピトしてくれていた。
故に目下、ゆるふわカールのミルク髪と、その特徴的なチワワ耳から目が離せそうにない。
(モフりたい! 超モフりたい! こんなロリ可愛い子がいたなんて聞いてない!!)
なんて内心大興奮していると、密着している大きなチワワ耳が、ピクッと何かに反応する。 中の耳毛がこちょがしい。
「えっと、ちょっと速くなった……? って思うのです」
控えめからか、経験が浅いのか、自信無さげに首が傾く。
(ごめん、それ私のせいだわ)
発熱中なのに恥ずかしさで顔が熱い。
だってだってこの村、亜人いないのかってくらいに見掛けないんだもん。 獣人なんて冒険者の兎人さん以来だし、お姉ちゃんってば恋愛ゲーのイベントスチル並みに勿体ぶるし。
そんな慢性ファンタジー不足状態の目前に、生けも耳っ娘(ナース装備)だぞ? もはや一挙一等即がご褒美ですよ。 アニメ好きがこれで平静を保っていられようか。
少なくとも私は心拍数に出た。
聴診器代わりの耳が離れ、ナースちゃんが小さな手で頭をポンポンしてくれる。
ちょっと鼻の高い、スッキリとした美少女顔がにっこり微笑む。
「大人しい子なのです、珍しい子なの♪」
どうやら私は少数派だったらしい。 もちろん幼児というカテゴリーでの。
邪魔とか気にせずモフれば良かった……。
カンカン。
なんて可愛がられていると、ナースちゃんの背後、竹椅子に座りメモを取っていた枯草髪のダークエルフさんが、羽ペンでデスクを2回鳴らした。
「おーい、仕事中だぞセラっち」
「ワヤッ! ご、ごめんなさいなのです!」
ビクッと肩で跳ね、ナースちゃんが深々と頭を下げて女医さんの傍へと戻っていく。
その一連の挙動ですら、私は『小動物の面白リアクション動画』を見ているような、ほっこり癒された気分になった。
お母さんに捲っていた服を戻されながらも、視線はナースちゃんをロックオンし続ける。
臆病な娘だなぁ。 だが、そこがまた弱可愛い♪
「ごめんなさいね、まだまだ芽吹きたての若木ちゃんなんですよ」
ペタンと耳を垂らして頬を赤らめるナースちゃんに、女医さんがニヤニヤとした視線を送る。
このダークエルフさんも、ナースちゃんと同じく初めて見る女医さんだ。
爽やかなショートヘアと、シミ・シワ1つ無い清潔な白衣が、褐色肌と相まって目に映える。
エルフ種特有の、長く尖ったエルフ耳も本物だ。
容姿は20代前半と若々しく、開けた白衣の合間から見えるラフな服装(私服?)や、短パンから下のスラッと長い健康的な足からは、まるで現役のスポーツ選手みたいな印象すら受ける。
白衣を羽織ってなかったら、とても医者だなんて見えそうにない。
そんな女医さんが、イタズラっ子みたいなニヤけ顔でナースちゃんの猫背を平手打ちする。 「ワヤッ!」と小さな悲鳴が上がり、ナースちゃんは慌てて姿勢を正した。
「だけど、こんな性格でも感度は敏くて頗る正確なんで、私がやるよりは早くて頼りになるんですよ」
なんて軽くフォローを入れつつ、書いていたメモをナースちゃんに手渡す。 受け取ったそれに目を通しながら、ナースちゃんは隣の部屋へと入って行った。
女医さんがまた違う用紙を取り出し、真面目な顔で何やら書き込み始める。
「今朝からの熱で、多汗。 さっき計っての37度7分。 喉に炎症は見られず、鼻水や痰、咳も無し。 で、食欲はあるけどセラっちへの反応が薄め……っと」
(え? それ判断材料なの?)
多分、怠くてそれだけの元気が無いって意味なんだろうけれど。 ……基準に私情が混じってませんかねぇ?
風邪で診察に来るような子は、基本ぐったりしてそうに思うんですが。
「セラっちの診断では、心拍数は少し速めで血圧も高め。 魔力回路の方は濁り無し。 ただ、1歳児の平均より魔力量がやや多めなので、エメルナちゃん個人の平均値をこの後調べさせてください」
「はい」とお母さんが頷く下で、私はほへ~っと感心していた。
ナースちゃん、思ってたより調べてたんだな。
モフり欲に抗っていたから、その間の会話は殆ど聞き取れていなかった。 耳ピトで体内の魔力まで感知してたとか、やっぱり高性能聴診器じゃないか。
「で、結果が出るまでは暫く掛かりますので、その間に入院手続きと、諸々の準備も済ませてしまいましょっか。 聞かされてるとは思いますが、幼少期は軽い病状でも急変したり、違う病気まで併発する恐れがありますから、熱が下がるまでは念のため」
「はい」
もちろん、お母さんは最初っからそのつもりだったので、着替えや歯ブラシセット等々準備済みだ。
お父さんも来てくれるって言ってたし、外出前からお泊まり気分である。
今夜は寝かさないぞ♪(看病よろしくお願いします)
女医さんが、真面目そうな仕事顔をホッと緩ませ、椅子の背もたれに背中を預ける。 ギシッ……と、背もたれがバネでも入ってるかのようにリクライニングした。
「分かってるとは思うけど、今後生きてる限り、病気や大怪我なんかで緊急入院する可能性くらい嫌って程あるんだから、症状の軽い今回のうちに、一通りの流れくらいは体で学んでおいてね。 じゃないと、パニック起こすよ」
「ぁー、はい……」
女医さんの忠告が胸に刺さる。
釘を刺してくれる優しさには感謝だが、予備知識の重要性は、既に身に染みるほど思い知らされている。 「その時になっても、まぁなんとかなるだろ」とか軽く考えてたら、ホント、血の気が退くよ。
実は我が家、私が生後1ヶ月の頃に1度だけ、高熱パニックを引き起こしていた。
原因は忘れようもない、あの友人組のアホ共だ。
オムツ交換見たさに黒髪冒険者さんを神回避し、厩舎では馬に跨がらせて手を離す。 極めつけは、草原で私と遊ぼうとしての空回り。
結果としてその日の夕方、私はストレスから38度もの高熱を出した。
私自身は全く辛くなかったんだけど。
体が未発達な乳児は、ご飯を食べた直後や元気に遊んだ後なんかでも、熱が上がることがしばしばあるらしい。 体温も38.5度までは平熱と大人より高めで、午前中は何ともなかったのに、夕方に上がるなんて事もありがちだとか。
あと注意したいのが、体が小さい割りには体表面積が大きく皮下脂肪が少ないため、体温が逃げやすくて冷えやすい。 かと言って厚着しすぎ・部屋が暑すぎ等といった極端に熱が籠るのも、もちろん危ない。
助産婦さんがそう言ってた。
なので『いつもと変わらず元気』なら、慌てず様子見するのが一般的なんだって。
逆に危険なのは、熱が38度以上・元気がなく、ぐったりしている・呼吸が苦しそう・顔色が青白い・熱があるのに手足が冷たい・よく眠れていない・等々……そういう場合は、深夜でも医者に見てもらう必要性がある。
あの日の夕方、私はストレスからほんの少しだけ熱を出した。 しかし私自身はそれに気付かず、精神的過労以外どこにも問題なんてなかった。
ちょっと遠くまで外出し、帰りの車で寝落ちするあの感覚だ。
そう、私はこの日の午後、表情も暗く、ぐったりしていたのだ。
当時、異世界語なんてチンプンカンプンだったせいで会話はお姉ちゃん頼りだったけど、状況くらいなら見てれば分かる。
大パニックだったよ。
産まれて初めての高熱だったせいでお母さんが焦った隙に、青髪野郎・緑髪チビ女・白髪ポニ・猫耳男が知識も無いくせに騒ぎ立てた。
突如私を抱えて家を飛び出すわ(診療所の場所知らなくてすぐに戻った)、持ってた薬を飲ませようとするわ、お抱えの医師を実家から至急派遣させようとするわ、白ポニの手紙を走って実家まで届けようとするわで寝る間も貰えず……余計に疲れた(ツッコミ疲れ)。
結果、親戚の子供達にも「死んじゃうの?」と不安が伝染し、いつの間にか紫ボブが仕事中のお父さんを連れ帰ってきたり……お母さんが濡れタオルや水枕なんかの準備を終えて戻ってきた頃には、一連のゴタゴタで更に熱が上昇。 38度のラインに乗っていた。
とまぁ、そんなこんなで、我が家では私の体調管理に一層の力が入れられるようになり、ただの発熱くらいなら、落ち着いてホームケアが出来るまでに学習したのだった。
産後の健康診断や育児相談の際、ちゃんと緊急事態の対処法も聞かされてはいたんだけどね。 真面目に聞いてても、どこか他人事のように感じちゃってて、いざって時には不安が付きまとう。
最悪命に関わるのだから、プレッシャーも一入だ。
なので女医さんの言う通り、症状の軽い今回を不幸中の幸いと前向きに捉えつつ、苦しんでる子供に不安な顔を見せないようにするのも、保護者としての大切な役目だろう。
診察室の壁際にあるベットで横になり、入院手続きを教えてもらいながら記入していくお母さんを、ボーッと眺める。
と、羽ペンが止まった。
「ん~……どうにも落ち着かないので聞かせてほしいんですが、エメルナの病気って、先生は何だと思ってます?」
痺れを切らしたのか、お母さんが溜め込んでいた不安をぶっちゃける。
詳しい検査結果はまだだけど、そういう問題じゃないもんね。
普段の熱なら、38度でも元気満点でむしろ遊びたいくらいなのに、今回のは怠くて息も熱い。
明らかに風邪なんだけど、咳・痰・鼻水がどれも無いのが、一番の気掛かりだ。
異世界特有の奇病とかじゃなければ良いんだけど……。
なんて私達の不安を知ってか知らずか、女医さんはあっけらかんとした表情で迷いなく答えた。
「あ? あぁ~大丈夫だいじょぶ。 不衛生な環境で変なの併発させたり、未知の病気でもない限り、ただの軽いテング熱だから」
(え!? 今なんつった!?)
心臓が跳ね上がりそうな驚きに耳を疑ると、「なぁんだ、テングかぁ~」と、お母さんが気の抜けた感想を呟いた。
(マジか……マジで『テング』って言ったのか)
間違っても『デング熱』と空耳した訳ではない。 もしデング熱なら背筋が凍り付いていた所だろう。
私が驚いたのは、そこじゃない。
(レムリアさんの時と同じだ……)
言い知れぬ気味の悪さが頭を巡る。
『熱』は、私が脳内和訳しているのであって、耳には当然『カロ』と異世界語で聞こえている。
しかし今の『テング』は、明らかに日本語発音の『天狗』だった。
肌に触れる空気が涼しく感じる程に、今の私は発熱していた。
と言っても不幸中の幸い、鼻の奥や喉が炎症している痛みは無く、頭がクラクラして立てない程でもない。
とにかく全身が熱いだけ、ただそれだけだ。
「ケホッ……ケホッ……」
「……はい、飲んで」
お母さんに背中を支え起こされ、下唇にコップの縁が添えられる。 ヒヤリと冷たい水が上唇に当たり、私は少しだけ口を開けてそれを飲んだ。
冷たいのが熱い体に流れ込む。 あぁ良い。 真夏の部活中に、水筒のお茶をグッと飲んだ心地好さを思い出す。
体温が少しだけ下がった気がした。
渇いていた喉が潤い、「んん~……」と口を閉じると、お母さんがコップをテーブルに戻してくれる。
私が熱を出している事に気が付いたのは、朝食の準備を済ませたお母さんが、お父さんと私を起こしに来た時だった。
そりゃぁもう心配されたよ。 こんな小さな子が深夜に熱出してたとか、前世でも大事になっただろう。
だけど騒がしかったのはほんの僅かな間だけ。 すぐにてきぱき介抱されたのが、されててちょっと楽しくもあった。
さすが母親なだけあるわ。
ちなみに食欲は微妙だったので、パンとおかずを細かく刻んだ物をスープに入れて温めてもらい、雑炊みたいにして少し食べた。
我が家は三食野菜中心の肉少な目なので、アッサリ軽くて喉がすんなり通してくれた。
それからずっとこんな調子。
着替えたお父さんが寝室に顔を出す。
「じゃあ、早めに終わらせてもらってすぐ診療所行くから」
声色だけで、相当心配させちゃった事が伝わってくる。
「うん、いってらっしゃい」
お母さんに続き、私も心の中で手を振った。
(いってらっしゃ~い)
・
濡れタオルで体を拭いてもらい、着替えてから診療所へ向かう。
私が産まれたあの診療所だ。
の道中。
もう7月に入ろうって時季もあり、なかなかに強い日差しが石畳を照りつけている。
加えて雲1つ無い見事な晴天。 よりにもよってこんな体調の日に……。
おかげで首と背中が暑くなってきた。 抱き着くようにして向かい合ってるから、お母さんの肩に顎を乗せられるのは、かなり楽でありがたいんだけどね。
あぁ、景色が前へ流れていく……高速で後ろ歩きしてるみたい。
そこでふと、前世のニュースが頭に浮かぶ。
もしかしてこれ、熱中症? ……5月下旬あたりから耳にした事もあったし、前世での姉が熱中症で辛そうにしていた事もあったので、ヤバさは知っている。
けれど私のこれは、吐き気は僅かだし、頭痛においては全く無い。
いや……吐き気は今、最高に酷くなってきたわ。
具体的には、胃の雑炊が上下にシャッフルされてるようで辛い。
ちょっ、お母さん、速い……。
目には見えないが、やっぱり相当心配されていたらしく、普段より足早で揺れも激しかった。
ちょっと上げそうだけど……その分肌を撫でる風が涼しいので、我慢するからとにかく早く到着してほしい。
・
(犬耳ナースちゃん、エモ可愛ゆす)
そんなこんなで現在、診察室にて。
以前は見かけなかった、女子中学生くらいのチワワ耳獣人ちゃんが、晒した私の胸部に耳ピトしてくれていた。
故に目下、ゆるふわカールのミルク髪と、その特徴的なチワワ耳から目が離せそうにない。
(モフりたい! 超モフりたい! こんなロリ可愛い子がいたなんて聞いてない!!)
なんて内心大興奮していると、密着している大きなチワワ耳が、ピクッと何かに反応する。 中の耳毛がこちょがしい。
「えっと、ちょっと速くなった……? って思うのです」
控えめからか、経験が浅いのか、自信無さげに首が傾く。
(ごめん、それ私のせいだわ)
発熱中なのに恥ずかしさで顔が熱い。
だってだってこの村、亜人いないのかってくらいに見掛けないんだもん。 獣人なんて冒険者の兎人さん以来だし、お姉ちゃんってば恋愛ゲーのイベントスチル並みに勿体ぶるし。
そんな慢性ファンタジー不足状態の目前に、生けも耳っ娘(ナース装備)だぞ? もはや一挙一等即がご褒美ですよ。 アニメ好きがこれで平静を保っていられようか。
少なくとも私は心拍数に出た。
聴診器代わりの耳が離れ、ナースちゃんが小さな手で頭をポンポンしてくれる。
ちょっと鼻の高い、スッキリとした美少女顔がにっこり微笑む。
「大人しい子なのです、珍しい子なの♪」
どうやら私は少数派だったらしい。 もちろん幼児というカテゴリーでの。
邪魔とか気にせずモフれば良かった……。
カンカン。
なんて可愛がられていると、ナースちゃんの背後、竹椅子に座りメモを取っていた枯草髪のダークエルフさんが、羽ペンでデスクを2回鳴らした。
「おーい、仕事中だぞセラっち」
「ワヤッ! ご、ごめんなさいなのです!」
ビクッと肩で跳ね、ナースちゃんが深々と頭を下げて女医さんの傍へと戻っていく。
その一連の挙動ですら、私は『小動物の面白リアクション動画』を見ているような、ほっこり癒された気分になった。
お母さんに捲っていた服を戻されながらも、視線はナースちゃんをロックオンし続ける。
臆病な娘だなぁ。 だが、そこがまた弱可愛い♪
「ごめんなさいね、まだまだ芽吹きたての若木ちゃんなんですよ」
ペタンと耳を垂らして頬を赤らめるナースちゃんに、女医さんがニヤニヤとした視線を送る。
このダークエルフさんも、ナースちゃんと同じく初めて見る女医さんだ。
爽やかなショートヘアと、シミ・シワ1つ無い清潔な白衣が、褐色肌と相まって目に映える。
エルフ種特有の、長く尖ったエルフ耳も本物だ。
容姿は20代前半と若々しく、開けた白衣の合間から見えるラフな服装(私服?)や、短パンから下のスラッと長い健康的な足からは、まるで現役のスポーツ選手みたいな印象すら受ける。
白衣を羽織ってなかったら、とても医者だなんて見えそうにない。
そんな女医さんが、イタズラっ子みたいなニヤけ顔でナースちゃんの猫背を平手打ちする。 「ワヤッ!」と小さな悲鳴が上がり、ナースちゃんは慌てて姿勢を正した。
「だけど、こんな性格でも感度は敏くて頗る正確なんで、私がやるよりは早くて頼りになるんですよ」
なんて軽くフォローを入れつつ、書いていたメモをナースちゃんに手渡す。 受け取ったそれに目を通しながら、ナースちゃんは隣の部屋へと入って行った。
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(え? それ判断材料なの?)
多分、怠くてそれだけの元気が無いって意味なんだろうけれど。 ……基準に私情が混じってませんかねぇ?
風邪で診察に来るような子は、基本ぐったりしてそうに思うんですが。
「セラっちの診断では、心拍数は少し速めで血圧も高め。 魔力回路の方は濁り無し。 ただ、1歳児の平均より魔力量がやや多めなので、エメルナちゃん個人の平均値をこの後調べさせてください」
「はい」とお母さんが頷く下で、私はほへ~っと感心していた。
ナースちゃん、思ってたより調べてたんだな。
モフり欲に抗っていたから、その間の会話は殆ど聞き取れていなかった。 耳ピトで体内の魔力まで感知してたとか、やっぱり高性能聴診器じゃないか。
「で、結果が出るまでは暫く掛かりますので、その間に入院手続きと、諸々の準備も済ませてしまいましょっか。 聞かされてるとは思いますが、幼少期は軽い病状でも急変したり、違う病気まで併発する恐れがありますから、熱が下がるまでは念のため」
「はい」
もちろん、お母さんは最初っからそのつもりだったので、着替えや歯ブラシセット等々準備済みだ。
お父さんも来てくれるって言ってたし、外出前からお泊まり気分である。
今夜は寝かさないぞ♪(看病よろしくお願いします)
女医さんが、真面目そうな仕事顔をホッと緩ませ、椅子の背もたれに背中を預ける。 ギシッ……と、背もたれがバネでも入ってるかのようにリクライニングした。
「分かってるとは思うけど、今後生きてる限り、病気や大怪我なんかで緊急入院する可能性くらい嫌って程あるんだから、症状の軽い今回のうちに、一通りの流れくらいは体で学んでおいてね。 じゃないと、パニック起こすよ」
「ぁー、はい……」
女医さんの忠告が胸に刺さる。
釘を刺してくれる優しさには感謝だが、予備知識の重要性は、既に身に染みるほど思い知らされている。 「その時になっても、まぁなんとかなるだろ」とか軽く考えてたら、ホント、血の気が退くよ。
実は我が家、私が生後1ヶ月の頃に1度だけ、高熱パニックを引き起こしていた。
原因は忘れようもない、あの友人組のアホ共だ。
オムツ交換見たさに黒髪冒険者さんを神回避し、厩舎では馬に跨がらせて手を離す。 極めつけは、草原で私と遊ぼうとしての空回り。
結果としてその日の夕方、私はストレスから38度もの高熱を出した。
私自身は全く辛くなかったんだけど。
体が未発達な乳児は、ご飯を食べた直後や元気に遊んだ後なんかでも、熱が上がることがしばしばあるらしい。 体温も38.5度までは平熱と大人より高めで、午前中は何ともなかったのに、夕方に上がるなんて事もありがちだとか。
あと注意したいのが、体が小さい割りには体表面積が大きく皮下脂肪が少ないため、体温が逃げやすくて冷えやすい。 かと言って厚着しすぎ・部屋が暑すぎ等といった極端に熱が籠るのも、もちろん危ない。
助産婦さんがそう言ってた。
なので『いつもと変わらず元気』なら、慌てず様子見するのが一般的なんだって。
逆に危険なのは、熱が38度以上・元気がなく、ぐったりしている・呼吸が苦しそう・顔色が青白い・熱があるのに手足が冷たい・よく眠れていない・等々……そういう場合は、深夜でも医者に見てもらう必要性がある。
あの日の夕方、私はストレスからほんの少しだけ熱を出した。 しかし私自身はそれに気付かず、精神的過労以外どこにも問題なんてなかった。
ちょっと遠くまで外出し、帰りの車で寝落ちするあの感覚だ。
そう、私はこの日の午後、表情も暗く、ぐったりしていたのだ。
当時、異世界語なんてチンプンカンプンだったせいで会話はお姉ちゃん頼りだったけど、状況くらいなら見てれば分かる。
大パニックだったよ。
産まれて初めての高熱だったせいでお母さんが焦った隙に、青髪野郎・緑髪チビ女・白髪ポニ・猫耳男が知識も無いくせに騒ぎ立てた。
突如私を抱えて家を飛び出すわ(診療所の場所知らなくてすぐに戻った)、持ってた薬を飲ませようとするわ、お抱えの医師を実家から至急派遣させようとするわ、白ポニの手紙を走って実家まで届けようとするわで寝る間も貰えず……余計に疲れた(ツッコミ疲れ)。
結果、親戚の子供達にも「死んじゃうの?」と不安が伝染し、いつの間にか紫ボブが仕事中のお父さんを連れ帰ってきたり……お母さんが濡れタオルや水枕なんかの準備を終えて戻ってきた頃には、一連のゴタゴタで更に熱が上昇。 38度のラインに乗っていた。
とまぁ、そんなこんなで、我が家では私の体調管理に一層の力が入れられるようになり、ただの発熱くらいなら、落ち着いてホームケアが出来るまでに学習したのだった。
産後の健康診断や育児相談の際、ちゃんと緊急事態の対処法も聞かされてはいたんだけどね。 真面目に聞いてても、どこか他人事のように感じちゃってて、いざって時には不安が付きまとう。
最悪命に関わるのだから、プレッシャーも一入だ。
なので女医さんの言う通り、症状の軽い今回を不幸中の幸いと前向きに捉えつつ、苦しんでる子供に不安な顔を見せないようにするのも、保護者としての大切な役目だろう。
診察室の壁際にあるベットで横になり、入院手続きを教えてもらいながら記入していくお母さんを、ボーッと眺める。
と、羽ペンが止まった。
「ん~……どうにも落ち着かないので聞かせてほしいんですが、エメルナの病気って、先生は何だと思ってます?」
痺れを切らしたのか、お母さんが溜め込んでいた不安をぶっちゃける。
詳しい検査結果はまだだけど、そういう問題じゃないもんね。
普段の熱なら、38度でも元気満点でむしろ遊びたいくらいなのに、今回のは怠くて息も熱い。
明らかに風邪なんだけど、咳・痰・鼻水がどれも無いのが、一番の気掛かりだ。
異世界特有の奇病とかじゃなければ良いんだけど……。
なんて私達の不安を知ってか知らずか、女医さんはあっけらかんとした表情で迷いなく答えた。
「あ? あぁ~大丈夫だいじょぶ。 不衛生な環境で変なの併発させたり、未知の病気でもない限り、ただの軽いテング熱だから」
(え!? 今なんつった!?)
心臓が跳ね上がりそうな驚きに耳を疑ると、「なぁんだ、テングかぁ~」と、お母さんが気の抜けた感想を呟いた。
(マジか……マジで『テング』って言ったのか)
間違っても『デング熱』と空耳した訳ではない。 もしデング熱なら背筋が凍り付いていた所だろう。
私が驚いたのは、そこじゃない。
(レムリアさんの時と同じだ……)
言い知れぬ気味の悪さが頭を巡る。
『熱』は、私が脳内和訳しているのであって、耳には当然『カロ』と異世界語で聞こえている。
しかし今の『テング』は、明らかに日本語発音の『天狗』だった。
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
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商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
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