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お花摘み
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「おーしぃ♪」
これが、私の花束(仮)を嗅いだフローラちゃんの、第一声である。
断じて惜しいではない。 おいしいと言ったのだ。
いや食わせてないよ?
多分フローラちゃんの中では、甘い香り=美味しそう=「おいしい」になったのだろう。
言葉を勉強中なので仕方ない。
……ちゃんと見張ろう。
さて、フローラちゃんにも分かってもらえたところで……あいつらもう行ってるよ。
まずは行動力がありそうな姉妹を先に花摘みへと誘導した訳だが、目を離している隙に手を繋いでどんどん先へと進んでしまっていた。
ちくしょう、団体行動のだの字もねぇ!
まぁ、知り合ったばかりの会話もろくに出来ん幼児達なんだ、計画通りになんていく筈も無い。 自然と、安心出来る姉妹でペアになる~GO!の流れは当然と言える。
さっきの自己紹介は何だったのか。
急がないと一緒に遊べない!
でも……。
振り返ると、座ったままのフローラちゃんは楽しそうに手の届く範囲の雑草を毟りまくっていた。
ちょっ!? それ青臭いだけだから!
あんまりやると手に染み付くからダメぇ!
・・・
何とか匂いの違いを教え、意外と歩けるフローラちゃんを支えつつ姉妹との合流を果たす。
さて、ここからが問題だ。
タイミングを逃し、さっきから借りてきた猫の様に見えない壁の向こう側で遊ぶ姉妹へ取り入るには、どうすべきか?
やっぱ、これしかないよね。
勇気を振り絞り、1歩前に踏み出す。
「あぁそぼっ♪」
丸い背中に声をかけた。
姉妹が振り向くと、そこには両手に花を持ち、一緒にいた子を支える銀緑の女の子が立っていた。
そう私は、明確な遊ぶ意思を伝えるのと同時に、合流するまでに摘んだ色とりどりの花束を姉妹に差し出したのだ。
中には姉妹がまだ見付けていない花なんかもあったらしく、それを目にした姉妹が「「わぁ~♪」」と目を輝かせてこちらに惹き付けられる。
完璧にハモったな。
もちろん、ただ貢ぐつもりじゃないぞ。 こうする事できっかけが作れるし、お花摘みで遊びたいんだという意図も伝えられる。
……筈。
にわか知識+持論だもん。 自信なんて無い。
後は……運ね。
未知の領域である2歳児の言語能力と理解力が気掛かりではあるが、どうせこの方法しか思い付かなかったんだ。 やるしかない。
警戒して受け取ってさえもらえない、なんて事にだけはならないと嬉しいんだけど……
と、
左手が暖かい指に包まれる。
「うん。 ぁそぼ!♪」
見上げる、僅かに高い位置の瞳。
受け取ってくれたのは姉ちゃんだった。
それを見ていた妹ちゃんも、習うように右手の花束を手に取り、自然と無邪気な笑みを浮かべてくれた。
良かったぁ~……♪
ホッと一息。
どうやら気にしすぎだったらしい。
さっき香りを教えた事で、多少は心の距離も近付いていたのだろう。
後は積極的に話し掛けながら、少しずつ仲良くなっていければ良い。
何はともあれ。
こうして私達は無事、姉妹に迎え入れてもらえたのだった。
・
「はい♪」
「スンスン……おーしぃ!♪」
実は気になっていたのか、さっそくフローラちゃんとも挨拶を交わした姉妹が、交互に花束を嗅がせてキャッキャしている。
尊ぃ……。
浄化されちゃう。 主に前世で汚れた心が。
フローラちゃんも、相手が私以外の歳の近い女の子とあって、随分と興味を示している様子。
花畑で遊ぶ無垢な幼女は絵になるなぁ♪
そんな妖精と天使が戯れる聖域のお隣で、1人残された私はと言えば……
ヘナヘナヘナ……ペタン。
筋力の限界から、その場に崩れ落ちていた。
疲れたぁぁ……。
姉妹がどんどん進むせいで10mは歩かされたぞ。 足腰が痛い。 特にふくらはぎ。
しかも支え合うと言うよりは、一方的に寄り掛かられていたから、変な所が攣りそうになってて恐ろしい。
何度もしゃがんで摘んだのも原因かな。
一応心配されないように、意識して四つん這いになっている。 全部渡して手ぶらだし、これなら花を探しているようにも映るだろう。
今の内に少しでも休みたい。
後ろを振り返ると、母親組は来た時のままの立ち位置で和気藹々と談笑していた。
保護者的に大丈夫なのだろうか……。 背の高い草とか無いから見晴らしは良いんだけどさ。
毒虫とか、万が一ってのがあるだろうに。 乙女の柔肌に焦土やクレーターなんて残されたくないぞ。
これは……不用意に花摘みを誘った者の責務として、私が目を光らせてなければいけないやつだな。
変な虫に付かれないよう、常に傍で細心の注意を払うとしよう。
((通報しなきゃ……))
「じあっ……」(事案じゃないよ!)
何故か唐突に軽く引かれ、危うく叫びそうになる。
((フフフフッ♪))
そんな私を見れて、イタズラ成功とばかりに笑いだす内なる小悪魔。
最近、気を抜くといつもこれだ。
ずっと黙っていたのは私と一緒に楽しんでいたのもあるが、私をイジるタイミングを虎視眈々と狙っていたからだろう。
いつ頃からか、お姉ちゃんのマイブームになりつつあるんだよなぁ。
ったく、どこで覚えたのやら。 私やん。
((だって、無自覚に興奮してるんだもん! 放っておいたら鼻息の荒いロリコンか、引き籠ってコスプレ衣装でも作り始めそうな熱視線だったよ))
両方ヤバい奴じゃねぇか。
勘違いも甚だしい、私はそこまで重症じゃないし方向性も全く違う。 純粋に女友達との青春を夢見てるだけで、そこに恋愛・性的感情など一切含まれてはいない。 元男だからってエロ基準でしか少女と接せれないとか偏見でしかないからね。
そう、あの有名な軽音部アニメのような、尊い親友関係を作りたいだけなのだ。
((にしては、目付きがイヤらしくなぁい?♪))
不純な動機は一切ありません。 コミュ症故の謎テンションです。
そもそも私もう女だし、同じ属性だし。 それを差し引いたとしても、幼児に手を出すとか屑過ぎるでしょ。
子供は守るべき対象であって、攻略対象であってはならない。 何より私の守備範囲は『人として好きになれるか』なのだ。
年齢も性別も余り問わないからって、さすがに15歳以下は保護対象としか見れんよ。
と、お姉ちゃんが頬に手を添える。
((その発言を聞いちゃうと、安心して良いのか、心配した方が良いのか、分からなくなってきたかなぁ……))
どうやら不測の事態が生じたようだ。
何が引っ掛かったのかがよく分からないけれど、足腰が回復してきたので、いい加減ちゃんと遊びたい。
3人の楽しそうな様子を見てると、このままだと私だけ忘れられかねないからね。
せめて、フローラちゃんの友達だってくらいの認識はしていてほしい。
・
さっきから見ていると、フローラちゃんが姉妹の審査員みたいになってるんだよね。
これじゃいけない。
と言う事で立ち上がり、1人座ったまま残されたフローラちゃんに両手を差し伸べる。
「いこ♪」
「ねぇね!♪」
やっと来てくれた! みたいな眩しい笑顔を向けられた。
そんな寂しそうには見えなかったのに、私を掴む手からは「もう離さない」という強い思いが込められているようだ。
あぁ~もう可愛ぃよぉ~♪
お持ち帰りしたいぃ!♪
グッと重心を後ろへやって、フローラちゃんを立ち上がらせる。
慣れたもので、フローラちゃんの体重移動も結構スムーズだ。 後は二足歩行の方がいっぱい遊べるし、膝が擦れて痛くならないし、汚れないんだって気付いてくれれば希望が見えてくる。
その為のお花摘みみたいなもんなんだし。
ところで、さっきまで一緒だった姉妹はというと……少し離れた所でお花を摘んでいる真っ最中である。
丸い背中が並んでいる。
ん~……混ざるべきか悩むなぁ。
一緒に遊びたいが、取り合いでトラブルにはなりたくない。
けど不用意に目を離すのも恐ろしいし……。
(どうしよ?)
((ん~……))
丸投げされたお姉ちゃんが知恵を廻らす。
丸投げと言うと聞こえは悪いが、普段微笑ましく傍観してるだけなんだから、これくらいの協力はお姉ちゃんも望む所だ。
答えが出ない時は深く悩まず相談する。 それが、私達姉妹のルールである。
と、突然のバトンタッチにも関わらず、答えはアッサリ導き出された。
((じゃぁ、フローラちゃんと遊びながら混ざろっか。 取り合い程度なら譲り合いの教育にもなるし、いつの間にかいなくなってるよりは安心なんじゃない?))
(怖っ!)
こんな見晴らしの良い草原で行方不明とか、誘拐かよ。
それなら一緒にいた方が断然マシだわ。
姉妹の方向を指差す。
「いこ!」
速めに!
「こー♪」
真似するように答えてくれるフローラちゃんを連れ、私達は歩き出した。
・ ・
あれ? さっきから追いかけてばっかじゃね?
てことで私達は今、姉妹のいる方向に進みながら、フローラちゃんとのお花摘みを楽しんでいる。
これで9本目。 プツッ!
この細く長い茎の花は、花冠を作るのに便利そうだな。 編み方分かんないけど。
こっちの世界にもその手の遊びはあるらしいから、いずれ学んでフローラちゃんにプレゼントしたい。
その隣で、雑草の青臭さを知ったフローラちゃんが近くの花を引っこ抜く。
根ごと。
あるよねぇ、茎の強い花。
なのに根は短いのか、細くて地中で切れちゃうのか、ズボッと土ごと抜けるんだよ。
このままにしてると土臭い花束になりそうだし、服が汚れそうなので教えてあげよう。
同じ花を抜き、教えるように茎を手折る。 するとフローラちゃんも見様見真似で、もう1本抜いて手折った。
そうきたか。
仕方ない、間違って後悔するのも教育の内だ。 下手に手を貸して、思ってたのと違う!なんて泣かれる方が手に負えないからね。
諦めて、自分の花束に目を移す。
2本ずつ4種類と今の+1で、計9本。 異世界とは面白いもので、見たことの無い種類も多く、ただ集めるだけが楽しくて仕方ない。
例えばこれ、水色のタンポポ。
見た目が完全にタンポポだが、綺麗な水色で、鼻を近付けると微かにラムネっぽい甘く爽やかな香りがする。
食用なら、クッキーとかに入れてみたら面白いかも。 加熱してもそのままならだけど。
次にこれ、小さい桜だ。
正確には桜に似た花の草で、香りもまんま桜のそれ。
桜餅食いたくなった。
茎は細長く、葉はペラペラ。 葉の香りもなかなか良いのでそのままにしてある。
ただ花弁が落ちやすいのが難点かな。 前世で好きだったオオイヌノフグリに極めて近い。
オオイヌノフグリよりは大きいけど。
続いてはこちら、前世でもあり得なさそうな、花弁が切り絵みたいになっている花だ。
中心の黄色い雄しべ雌しべと、白い花弁の外枠だけが残されたような奇妙な形状をしている。
初見は虫食いかと思ったが、探すといくつも見つかるので、こういう物なんだろう。
いつか咲く前に見つけて育ててみたいな。 観察日記とかつけてみると面白くなりそうかも。
香りは、バニラっぽい感じもする。 もしかして……期待が高まる出会いだった。
更にこれ、ありそうで見たことの無い、緑の花。
前世でも御衣黄桜という緑の八重桜があったっけ。 最初は緑で徐々に桜色へと変化していく品種だけど。
それと同タイプかは知らないが、葉と同じ色をしているから、花弁と気が付くのに時間がかかった。
カモフラージュかな?
例えるなら、四つ葉のクローバーの中心に雄しべ雌しべがある感じ。
この雄しべ雌しべもかなり小さいことから、もう少し待てば綺麗な色に成長しそうなんだよね。
香りが良いから摘んでるけど。
レモンっぽい柑橘系、レモンバームに近いのかも。
で、さっき取ったのは前世の道端でも見覚えのある、細長い花弁が一杯生えた白い花だ。 あの、小さな花がいくつも一緒に咲いてるやつ。
向こうのなんてもう覚えてないけど、こっちのはちょっと花粉っぽさがあるものの、蜂蜜にありそうな香りがして嫌いじゃない。
せっかくだから、これももう1本摘んで……
カサカサカサ。
葉の裏から白い百足が降りてきた。
「んぎぃぃぃぃぃ!!」
悲鳴を上げながら仰け反り、勢い余って立ち上がる。
(ふわあぁぁあぁあぁああぁ!)
全身に電流が走った。
青ざめながら1歩、2歩、後退する。 その間に白ムカデはそそくさと逃げてくれたけど。
見えなくなってもまだ手足の震えが止まらない。 てか身体中の皮膚が痺れて痛い。
もうあの花触りたくない……。
この草原にあんなのがいたなんて。
つるつるしてて、テカテカしてて、ウネウネしてて……何か湿ってるようにも見えた。
私は虫、特に毒系がトラウマレベルで無理なのだ。
毒虫怖ぃ……。
これが、私の花束(仮)を嗅いだフローラちゃんの、第一声である。
断じて惜しいではない。 おいしいと言ったのだ。
いや食わせてないよ?
多分フローラちゃんの中では、甘い香り=美味しそう=「おいしい」になったのだろう。
言葉を勉強中なので仕方ない。
……ちゃんと見張ろう。
さて、フローラちゃんにも分かってもらえたところで……あいつらもう行ってるよ。
まずは行動力がありそうな姉妹を先に花摘みへと誘導した訳だが、目を離している隙に手を繋いでどんどん先へと進んでしまっていた。
ちくしょう、団体行動のだの字もねぇ!
まぁ、知り合ったばかりの会話もろくに出来ん幼児達なんだ、計画通りになんていく筈も無い。 自然と、安心出来る姉妹でペアになる~GO!の流れは当然と言える。
さっきの自己紹介は何だったのか。
急がないと一緒に遊べない!
でも……。
振り返ると、座ったままのフローラちゃんは楽しそうに手の届く範囲の雑草を毟りまくっていた。
ちょっ!? それ青臭いだけだから!
あんまりやると手に染み付くからダメぇ!
・・・
何とか匂いの違いを教え、意外と歩けるフローラちゃんを支えつつ姉妹との合流を果たす。
さて、ここからが問題だ。
タイミングを逃し、さっきから借りてきた猫の様に見えない壁の向こう側で遊ぶ姉妹へ取り入るには、どうすべきか?
やっぱ、これしかないよね。
勇気を振り絞り、1歩前に踏み出す。
「あぁそぼっ♪」
丸い背中に声をかけた。
姉妹が振り向くと、そこには両手に花を持ち、一緒にいた子を支える銀緑の女の子が立っていた。
そう私は、明確な遊ぶ意思を伝えるのと同時に、合流するまでに摘んだ色とりどりの花束を姉妹に差し出したのだ。
中には姉妹がまだ見付けていない花なんかもあったらしく、それを目にした姉妹が「「わぁ~♪」」と目を輝かせてこちらに惹き付けられる。
完璧にハモったな。
もちろん、ただ貢ぐつもりじゃないぞ。 こうする事できっかけが作れるし、お花摘みで遊びたいんだという意図も伝えられる。
……筈。
にわか知識+持論だもん。 自信なんて無い。
後は……運ね。
未知の領域である2歳児の言語能力と理解力が気掛かりではあるが、どうせこの方法しか思い付かなかったんだ。 やるしかない。
警戒して受け取ってさえもらえない、なんて事にだけはならないと嬉しいんだけど……
と、
左手が暖かい指に包まれる。
「うん。 ぁそぼ!♪」
見上げる、僅かに高い位置の瞳。
受け取ってくれたのは姉ちゃんだった。
それを見ていた妹ちゃんも、習うように右手の花束を手に取り、自然と無邪気な笑みを浮かべてくれた。
良かったぁ~……♪
ホッと一息。
どうやら気にしすぎだったらしい。
さっき香りを教えた事で、多少は心の距離も近付いていたのだろう。
後は積極的に話し掛けながら、少しずつ仲良くなっていければ良い。
何はともあれ。
こうして私達は無事、姉妹に迎え入れてもらえたのだった。
・
「はい♪」
「スンスン……おーしぃ!♪」
実は気になっていたのか、さっそくフローラちゃんとも挨拶を交わした姉妹が、交互に花束を嗅がせてキャッキャしている。
尊ぃ……。
浄化されちゃう。 主に前世で汚れた心が。
フローラちゃんも、相手が私以外の歳の近い女の子とあって、随分と興味を示している様子。
花畑で遊ぶ無垢な幼女は絵になるなぁ♪
そんな妖精と天使が戯れる聖域のお隣で、1人残された私はと言えば……
ヘナヘナヘナ……ペタン。
筋力の限界から、その場に崩れ落ちていた。
疲れたぁぁ……。
姉妹がどんどん進むせいで10mは歩かされたぞ。 足腰が痛い。 特にふくらはぎ。
しかも支え合うと言うよりは、一方的に寄り掛かられていたから、変な所が攣りそうになってて恐ろしい。
何度もしゃがんで摘んだのも原因かな。
一応心配されないように、意識して四つん這いになっている。 全部渡して手ぶらだし、これなら花を探しているようにも映るだろう。
今の内に少しでも休みたい。
後ろを振り返ると、母親組は来た時のままの立ち位置で和気藹々と談笑していた。
保護者的に大丈夫なのだろうか……。 背の高い草とか無いから見晴らしは良いんだけどさ。
毒虫とか、万が一ってのがあるだろうに。 乙女の柔肌に焦土やクレーターなんて残されたくないぞ。
これは……不用意に花摘みを誘った者の責務として、私が目を光らせてなければいけないやつだな。
変な虫に付かれないよう、常に傍で細心の注意を払うとしよう。
((通報しなきゃ……))
「じあっ……」(事案じゃないよ!)
何故か唐突に軽く引かれ、危うく叫びそうになる。
((フフフフッ♪))
そんな私を見れて、イタズラ成功とばかりに笑いだす内なる小悪魔。
最近、気を抜くといつもこれだ。
ずっと黙っていたのは私と一緒に楽しんでいたのもあるが、私をイジるタイミングを虎視眈々と狙っていたからだろう。
いつ頃からか、お姉ちゃんのマイブームになりつつあるんだよなぁ。
ったく、どこで覚えたのやら。 私やん。
((だって、無自覚に興奮してるんだもん! 放っておいたら鼻息の荒いロリコンか、引き籠ってコスプレ衣装でも作り始めそうな熱視線だったよ))
両方ヤバい奴じゃねぇか。
勘違いも甚だしい、私はそこまで重症じゃないし方向性も全く違う。 純粋に女友達との青春を夢見てるだけで、そこに恋愛・性的感情など一切含まれてはいない。 元男だからってエロ基準でしか少女と接せれないとか偏見でしかないからね。
そう、あの有名な軽音部アニメのような、尊い親友関係を作りたいだけなのだ。
((にしては、目付きがイヤらしくなぁい?♪))
不純な動機は一切ありません。 コミュ症故の謎テンションです。
そもそも私もう女だし、同じ属性だし。 それを差し引いたとしても、幼児に手を出すとか屑過ぎるでしょ。
子供は守るべき対象であって、攻略対象であってはならない。 何より私の守備範囲は『人として好きになれるか』なのだ。
年齢も性別も余り問わないからって、さすがに15歳以下は保護対象としか見れんよ。
と、お姉ちゃんが頬に手を添える。
((その発言を聞いちゃうと、安心して良いのか、心配した方が良いのか、分からなくなってきたかなぁ……))
どうやら不測の事態が生じたようだ。
何が引っ掛かったのかがよく分からないけれど、足腰が回復してきたので、いい加減ちゃんと遊びたい。
3人の楽しそうな様子を見てると、このままだと私だけ忘れられかねないからね。
せめて、フローラちゃんの友達だってくらいの認識はしていてほしい。
・
さっきから見ていると、フローラちゃんが姉妹の審査員みたいになってるんだよね。
これじゃいけない。
と言う事で立ち上がり、1人座ったまま残されたフローラちゃんに両手を差し伸べる。
「いこ♪」
「ねぇね!♪」
やっと来てくれた! みたいな眩しい笑顔を向けられた。
そんな寂しそうには見えなかったのに、私を掴む手からは「もう離さない」という強い思いが込められているようだ。
あぁ~もう可愛ぃよぉ~♪
お持ち帰りしたいぃ!♪
グッと重心を後ろへやって、フローラちゃんを立ち上がらせる。
慣れたもので、フローラちゃんの体重移動も結構スムーズだ。 後は二足歩行の方がいっぱい遊べるし、膝が擦れて痛くならないし、汚れないんだって気付いてくれれば希望が見えてくる。
その為のお花摘みみたいなもんなんだし。
ところで、さっきまで一緒だった姉妹はというと……少し離れた所でお花を摘んでいる真っ最中である。
丸い背中が並んでいる。
ん~……混ざるべきか悩むなぁ。
一緒に遊びたいが、取り合いでトラブルにはなりたくない。
けど不用意に目を離すのも恐ろしいし……。
(どうしよ?)
((ん~……))
丸投げされたお姉ちゃんが知恵を廻らす。
丸投げと言うと聞こえは悪いが、普段微笑ましく傍観してるだけなんだから、これくらいの協力はお姉ちゃんも望む所だ。
答えが出ない時は深く悩まず相談する。 それが、私達姉妹のルールである。
と、突然のバトンタッチにも関わらず、答えはアッサリ導き出された。
((じゃぁ、フローラちゃんと遊びながら混ざろっか。 取り合い程度なら譲り合いの教育にもなるし、いつの間にかいなくなってるよりは安心なんじゃない?))
(怖っ!)
こんな見晴らしの良い草原で行方不明とか、誘拐かよ。
それなら一緒にいた方が断然マシだわ。
姉妹の方向を指差す。
「いこ!」
速めに!
「こー♪」
真似するように答えてくれるフローラちゃんを連れ、私達は歩き出した。
・ ・
あれ? さっきから追いかけてばっかじゃね?
てことで私達は今、姉妹のいる方向に進みながら、フローラちゃんとのお花摘みを楽しんでいる。
これで9本目。 プツッ!
この細く長い茎の花は、花冠を作るのに便利そうだな。 編み方分かんないけど。
こっちの世界にもその手の遊びはあるらしいから、いずれ学んでフローラちゃんにプレゼントしたい。
その隣で、雑草の青臭さを知ったフローラちゃんが近くの花を引っこ抜く。
根ごと。
あるよねぇ、茎の強い花。
なのに根は短いのか、細くて地中で切れちゃうのか、ズボッと土ごと抜けるんだよ。
このままにしてると土臭い花束になりそうだし、服が汚れそうなので教えてあげよう。
同じ花を抜き、教えるように茎を手折る。 するとフローラちゃんも見様見真似で、もう1本抜いて手折った。
そうきたか。
仕方ない、間違って後悔するのも教育の内だ。 下手に手を貸して、思ってたのと違う!なんて泣かれる方が手に負えないからね。
諦めて、自分の花束に目を移す。
2本ずつ4種類と今の+1で、計9本。 異世界とは面白いもので、見たことの無い種類も多く、ただ集めるだけが楽しくて仕方ない。
例えばこれ、水色のタンポポ。
見た目が完全にタンポポだが、綺麗な水色で、鼻を近付けると微かにラムネっぽい甘く爽やかな香りがする。
食用なら、クッキーとかに入れてみたら面白いかも。 加熱してもそのままならだけど。
次にこれ、小さい桜だ。
正確には桜に似た花の草で、香りもまんま桜のそれ。
桜餅食いたくなった。
茎は細長く、葉はペラペラ。 葉の香りもなかなか良いのでそのままにしてある。
ただ花弁が落ちやすいのが難点かな。 前世で好きだったオオイヌノフグリに極めて近い。
オオイヌノフグリよりは大きいけど。
続いてはこちら、前世でもあり得なさそうな、花弁が切り絵みたいになっている花だ。
中心の黄色い雄しべ雌しべと、白い花弁の外枠だけが残されたような奇妙な形状をしている。
初見は虫食いかと思ったが、探すといくつも見つかるので、こういう物なんだろう。
いつか咲く前に見つけて育ててみたいな。 観察日記とかつけてみると面白くなりそうかも。
香りは、バニラっぽい感じもする。 もしかして……期待が高まる出会いだった。
更にこれ、ありそうで見たことの無い、緑の花。
前世でも御衣黄桜という緑の八重桜があったっけ。 最初は緑で徐々に桜色へと変化していく品種だけど。
それと同タイプかは知らないが、葉と同じ色をしているから、花弁と気が付くのに時間がかかった。
カモフラージュかな?
例えるなら、四つ葉のクローバーの中心に雄しべ雌しべがある感じ。
この雄しべ雌しべもかなり小さいことから、もう少し待てば綺麗な色に成長しそうなんだよね。
香りが良いから摘んでるけど。
レモンっぽい柑橘系、レモンバームに近いのかも。
で、さっき取ったのは前世の道端でも見覚えのある、細長い花弁が一杯生えた白い花だ。 あの、小さな花がいくつも一緒に咲いてるやつ。
向こうのなんてもう覚えてないけど、こっちのはちょっと花粉っぽさがあるものの、蜂蜜にありそうな香りがして嫌いじゃない。
せっかくだから、これももう1本摘んで……
カサカサカサ。
葉の裏から白い百足が降りてきた。
「んぎぃぃぃぃぃ!!」
悲鳴を上げながら仰け反り、勢い余って立ち上がる。
(ふわあぁぁあぁあぁああぁ!)
全身に電流が走った。
青ざめながら1歩、2歩、後退する。 その間に白ムカデはそそくさと逃げてくれたけど。
見えなくなってもまだ手足の震えが止まらない。 てか身体中の皮膚が痺れて痛い。
もうあの花触りたくない……。
この草原にあんなのがいたなんて。
つるつるしてて、テカテカしてて、ウネウネしてて……何か湿ってるようにも見えた。
私は虫、特に毒系がトラウマレベルで無理なのだ。
毒虫怖ぃ……。
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