サキュバスお姉ちゃんとの転性妹成長記

黒月 明

文字の大きさ
上 下
23 / 55

エメルナちゃんの成長記録9

しおりを挟む
 石斧に対して斜めに盾を構え、受けるのではなく流すように攻撃をらす。 これが出来るようになるまで何回死んだか。 正確にはHPゲージが0になり、コロシアム内の休憩室に転送されるんだけど。
 逸らしてすぐ、体勢を立て直される前に左拳に溜め込んでいた砂粒サイズの結晶を撒き散らす。 目を瞑って苦しむゴブリンが無茶苦茶に暴れる前に、石斧を片手剣で叩き落として足を交差、全身で横に一回転する遠心力と体重をフルに使い、ゴブリンの首を斬り飛ばした。
 試合終了のブザーが鳴り、嬉しそうなお姉ちゃんのアナウンスがコロシアムに響く。

Winnerウィナー、エメルナちゃん! やっと勝てたね、おめでとう♪」

 おrrrrrrrrrr……。
 手に伝わった肉を斬り骨を断つ感触に、自分の首も痛くなった私は滝のように吐き出した。

「ぅああぁぁぁ!! 大丈夫!?」
「大丈夫……ダメージは受けていないから」

 木の盾も壊されてないし、思いっきり吐いたからスッキリしたくらいだ。 首は……まだちょっと骨が痛む感じ。
 前世からこうなんだよなぁ。 TVで痛々しい怪我とかを見ると、自分のその部位もなんとなく痛くなる。 アニメならそこまで……なんだけれど、実写で傘が首を貫通するシーンは見に行く気になれなかった。
 実況席から降りてきたお姉ちゃんに背中をさすられる。

「こうなるなんて……慣れていけば戦えるかなぁ?」
「分かんないけど……もうちょっと頑張ってみ――」

 額をチョップされた。

「ほら、日本語になってるよ」
「鬼畜!?」

 その後、異世界語講座をしながらお姉ちゃんにマッサージしてもらい、そのまま寝落ちした後、私達は居間で目が覚めた。
 あれだけ戦ったのに、外はまだ明るい。 体もいつも通りの1歳児だし、傷なんてもちろん無い。
 夢だからって、こんなことまで可能なのか。 まるでVR……いや、アニメで見たフルダイブ型のゲームに近かったな。
 精神を鍛えるにはもってこいだろうね。
 痛覚軽減とは言え、石斧で盾を貫かれた時は腕に釘が打ち込まれたような痛みに震えたものだ。
 血が出る代わりに傷口がゲームのポリゴンっぽく処理されてたけど、絶望感がエグかった。 蹲っちゃって頭にも打ち込まれた瞬間ベッドの上で見が覚めたし。 似た理由で何度死んだか。
 今は色々スッキリしてるけど、トラウマだけ植え付けられた気もする……。 これを乗り越えてこその修行なのは分かるけどさぁ……憂鬱だぁ。

 気を取り直して現状を確認してみる。
 あれから何時間経ったのか、寝た時よりちょっと移動している感じがした。

(お? 毛布を着せられている)

 寝落ち前に着た覚えはない。 寝返りを打つと、寝息を立てるお母さんと顔が合う。
 白銀色の髪が、窓からの光を浴びて輝いている。
 そういえば、私の髪って何色なんだろ?
 この世界に産まれてから様々な出会いがあった。 その中でも印象的だったのはやはり髪の色だろう。
 原色はもちろん、お父さんやエレオノールさんのようなパステルカラー、お母さんのような白銀髪、宝石のように美しい人だっている。
 前世ではありえないカラーバリエーションに目が楽しい。

 前世といえば、『ラノベの書き方』的な本に、「キャラの髪色には言及しない方が良い」ってページがあったな。 金髪や白髪等は良いとしても、ピンクとか紫とかグラデーションとかは違和感になるからとか……だっけ?

((それ、『現代を舞台にした学園ものの場合』だと思うよ? 染めてるならまだしも、風紀委員が青髪だったら「は?」でしょ))
(あぁ、そうだそれだ、そうだった)

 何で違和感無かったのかなぁと思ったら、異世界だもんねここ。
 アニメの見すぎって訳じゃなくてホッとしたよ。

((いや、重症だと思うよ……))

 それはそれとして!

(私って何色?)
((さぁ? 私も見たこと無いし))
(え? でも夢じゃお姉ちゃんと会ってるよね?)
((あぁ、そこは私とお揃いにしているの))

 へぇー、あの滑らかでツヤツヤな黒髪が私にも……今まで気にもならなかったのでショートカットなのかな。
 鏡欲しぃ~。
 ……前世の私では考えられない発言だな!?

((ぁぁ残念だけど、顔も知らないから私の子供の頃の顔にしてるの。 だから、夢の中のエメルナちゃんは、エメルナちゃんじゃないよ))

 尚更見たいのだが?
 うぅ……何で私、1年間も鏡見ずに過ごしてたんだろ。
 てかよく過ごせてたよな。 窓とか氷とか、もっとチャンスはあっただろうに!
 この部屋には無いし。 てか出れないし。
 あぁぁ~、私の部屋に行ければ姿見があるのに、自室にすら行けないなんて。 寝るときは基本、両親と同じ部屋だからなぁ。
 幼児用のドアノブ付けてほしい。

((ダメでしょ、危ないって))

 半笑いで当たり前の事を指摘された。

(ですよねぇ……)

 と、ここでお姉ちゃんが良いアイデアを思い付く。

((ちょうどお母さんが寝てるんだし、夢、覗いてみる?))
(その手があったか!)

 確かにそれなら、私が産まれた瞬間の姿だって見放題だ! 素晴らしい!

(さっそく――)
((ぁっ……ごめん。 デリカシーに欠けた行いだよね、今の無しで))

 唐突な掌返しに、伸ばしていた右手がお母さんのおでこ上空で急停止する。

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)

 んな、その気にさせておいてお預け!?
 確かに、ちょっとモラルに反してそうだけど……あぁもう!
 お姉ちゃんの協力が無ければ、他人の記憶を覗き見るなんてチート、私には無理だ。 それになんか、親の記憶不用意に覗くのって、考えてみればちょっと怖い。
 ここは素直に諦めよう。

 伸ばしていた手を戻し、モヤモヤしたまま溜め息を吐く。
 そんな私を不憫ふびんに感じたのか、お姉ちゃんがなにやらまた思い付いた。

((代わりと言っちゃなんだけど、試しに交代して、変身してみようか?))
(変身?)
((えぇ、この体でも出来るかは分からないけど、サキュバスには変身の能力があるの。 本当は歩けるようになってから教えるつもりだったんだけど、私が変身して、鏡のある所まで移動してあげるわ♪))

 冗談……ではないらしい。

(変身って、あの変身? メタモルフォーゼ的な?)
((そう、悪魔族だもん♪))

 当たり前のように言うけど、悪魔なら、何でもありなのだろうか。 サキュバスは攻撃魔法使えないらしいけど。

(まぁ、そういう事ならありがたく使わせ…………ねぇ、何で歩けるようになるまで黙っていたの?)
((バレたら一発で終わりだから))
(ダメじゃんっ!)

 目的に対してリスクが重すぎる。 これは確かに、教えられても使いどころが無い。
 駄目だ。 いけると思ったのに。
 ここまで考えても駄目なら、もう詰みな気がしてきた。

((せめて椅子か机の足が金属なら、磨いて鏡代わりにできたのにねぇ))

 肩を落とすお姉ちゃん。
 しかし私は、その発言にひらめいてしまった。

(そうだよ! 無いなら作れば良いんだよ!)
((ん? ……ぁあ、そういうこと!))

 この1年間、私の記憶を興味津々で検索していたお姉ちゃんも((やろう♪ やろう♪))と納得したところで、私ははやる気持ちのままに動き出す。
 棚からクレヨンと紙を持ち出し、黒のクレヨンで長方形に塗り潰す。 むらなく手頃なサイズまで真っ黒にすると、次はスマホサイズの魔力結晶を板状に生成した。
 これを合わせれば、鏡の完成だ。
 まさかクレヨンがフラグになろうとは!
 引きずって窓の近くまで移動し、日差しの下で紙と結晶板を重ね合わせる。 角度を調整しつつ、私達は遂にベストポジションを見つけ出した。

(お? おぉぉ~!)
((おぉぉぉ~~!♪))
(見える! 見える!)

 思ったほどじゃないけれど、電源を落とした液晶画面並みには反射している。
 転生して1年と少し、ようやく私達は自分の姿と対面した。
 うっすら緑が混ざった銀髪、整った可愛らしい顔。

(おお!♪ これはこれは♪)

 良いじゃん、可愛いじゃん。 好きな色は黒・白・青なんだけど、これも悪くない!

(私、銀の強いうっすら緑なのかぁ。 ぁぁ~、かなり綺麗かも)
((だねぇ。 髪型はどうする? 夢で反映させられるよ))

 その一言に、私達は鏡を見ることに夢中になっていった。

(そうだねぇ~。 これは……ロング系が似合いそうかな)
((エメルナちゃんの性格なら、ポニーテールも良いんじゃない?♪))
(かな。 ツインは……ツンデレっぽくなりそうだなぁ。 ぁでも子供の内なら活発っぽくてアリか)

 前世は天パだったから、お姉ちゃんみたいな綺麗なストレートなら何でも好きかも。
 三つ編みとかもしてみたい。
 っと、こういうのは全体のバランスを見ながら考えるべきだよね?
 顔に視線が下りる。
 二重瞼ふたえまぶたで、クリッとした目。 あっ、眉毛も緑っぽい銀だ。
 耳は、………普通? 人間だもんね。
 鼻は……成長しないと分からないな。
 唇はぷるんとしていて……成長してからのお楽しみだね。
 丸顔だけど……将来性はありそう。
 ほとんど幼すぎて特徴の見当たらないパーツなのに、我ながらレベルの低くない容姿と思う。

(よっしっ! 将来性はある、今はそれで良い!)
((えっと……次からの夢は、私とエメルナちゃんの中間くらいに設定しておくね~))

 お姉ちゃんも可もなく不可もなくで言葉にならないらしい。

(……うん)

 消えつつある結晶板を投げ捨て、背中から倒れる。 日差しが眩しくて瞼を閉じた。
 べつに、絶世の美幼女だなんて期待はしていなかった。 まだ1歳なんだし。 美男美女な両親なんだし。 なにより髪色が判明しただけでも充分だもん。 目的は達成したもん。
 待ち望んだ時間の筈だったのに、一気にテンションがえてしまった。
 早く……成長したい。

                        *

 お母さんがお父さんに相談しました。
 や……やだなぁ、牛ですよ。
 長方形で真っ黒だけど、頭と足も間に合ったでしょ?
 ……ちゃんとした……そう! 黒毛和牛なのよ!

((んっくっくっくっくっ!♪))

 色んな牛を描いて誤魔化しました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

END-GAME【日常生活編】

孤高
ファンタジー
この作品は本編の中に書かれていない日常を書いてみました。どうぞご覧ください 本編もよろしくです! 毎日朝7時 夜7時に投稿

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...