16 / 55
餓鬼
しおりを挟む
凍てつく星空に広がる怒号と悲鳴。
金属と金属がぶつかり会う音、数多の獣の叫び声。
戦闘が始まった。
「村長!」
息を切らした丸メガネさんとフローラ兄が戻ってくる。
「受付に治療ポーションをあるだけ用意せい! ネロリは叩いてこい、鐘4!」
「「はい!」」
「チャルちゃんは二人を見とってくれ!」
慌ただしい二人に指示を出し、村長も部屋を飛び出す。
凄い。 パニックを避けるためにやるべき事だけを明確に示していた。 冷静な判断だ。
村長だよね? 元冒険者か元衛兵だったりするの?
商業ギルドの職員達も臆さず武装してたし、なにこの戦闘民族。
そんな中、私はといえば。
(おおぉおねぇっ、どどどどうしっ! どうしっ!)
((落ち着いて! どうどう! アニメじゃこういう時どうしてたか思い出して!))
(くぁwせふじこlp!)
((うん、リアクションを真似してほしかった訳じゃないの!))
(指揮官から潰さないと!)
((戦えないって言ったでしょ!))
あぁ~、やれる事が無いから逆に落ち着けない!!
と不意に、両手が暖かいもので包まれた。
「震えてる? 大丈夫だよ」
(っのぅぉ!?)
シスターちゃんが力強く握ってくれていた。 けど、そんなシスターちゃんの手も小刻みに震えている。
(一緒だ……)
そう思うと、なんだか少しだけ落ち着いてきた。
カン! カン! カン! カン!……カン! カン! カン! カン!……
警鐘が村中に鳴り響く。
4回を4セット。 発生源はこの建物の上からだ。
鐘4ってのはこの事か。 田舎な村なのに、以前からこういった事態には備えていたのか。
((辺境の村にとって魔獣との衝突は身近な問題だよ))
ゴブリンとだって何度も戦ってきた。 それらの情報と対策は国を通して領主に伝わり、こういった村にまでちゃんと伝わってくる。 冒険者が一人もいなくたって、今までの犠牲と経験が力になってくれる。
((村だから弱い、ってのは偏見よ))
(偏見、か。 そうだね、アニメの見過ぎだね)
物語で村や庶民が弱いのは、そうしないと主人公が活躍出来ないからだ。
ゲームじゃないんだから、職業やスキルが無ければ戦えないなんて誰が決めた?
便利な機械が無い農家の筋力をナメてはいけない。
((なによりこの村にはあの美魔女さんがいるのよ。 身内だけを鍛えようとするような慎ましい心の持ち主に見えたかしら?))
(見えませんでした)
そっか、魔改造済みか。 だから商業ギルド職員なのに気後れしてなかったんだな。
少しは不安が和らいできた。
そうなると、外の様子に興味が湧いてくる。
駄目なのは分かっている。 もし見つかったら危険過ぎるし、リアルな戦場を直視する心構えなんて持ってない。 PTSDになるかも。
でもお母さんに言われたのだ、「良いとこを見せてあげる」と。
それに私だって、いずれはお母さんの隣に立って一緒に戦うかもしれない。 そういう世界に来たんだ、ビビりの私は他人より早めに心を鍛えておかないといけない。
ってのも本音ではある。
((で、本心は?))
(すみません、好奇心7割です)
トラウマによる悪夢はお姉ちゃんに対処してもらえないかなっていう甘えがありました。
それにお母さんの格好いい所も見たいけど、お父さんもお婆ちゃんも見たいし、あのエレオノールさんが戦っている姿も見学したかったんだよね。
将来の人生設計に大いに関わるかもしれない一大事だ。
でもってリアルな魔法やモンスターも生で見てみたい!
恐怖心と好奇心が行ったり来たりしてて落ち着かない。
(お姉ちゃん、なんとかできない?)
((ごめんだけど、私は安全最優先だから今回はパス。 エメルナちゃんの体なんだから、どうしても見たいのなら自己責任で頑張って))
ぅ……この体はお姉ちゃんとの共用なんだから、そう言われると辛い。
分かったよ、大人しく――
ヒュ~~~~~~……ッダァァァァァァァン!!!!
――何だ!?
それは、頭上に巨大な花火を打ち上げたかのような轟音で。 空気振動が窓ガラスをガタガタ鳴らす。
「え! なに!?」
シスターちゃんも飛び上がる。
(窓の外が明るい! いや、白い!?)
さっきまで窓から見えていた星が消え、空が真っ白に輝いている。
爆発は商業ギルドの真上、上空から轟いていた。
(もしかして村長さんが何かした!?)
((そっか、明るくすれば一瞬でもゴブリンの目を潰せる。 それにこの光量なら夏の強い日差し程度だから人に害は無い))
(おぉ~……抜かり無いな)
獣の叫び声が遠くに聞こえる。
状勢が気になるっ! 今ならゴブリンの目を潰せているし、遠くも見れる! 覗くならここしかない!!
お姉ちゃんの心配ももっともだが……ハイハイで椅子に近付き、立ち上がって椅子を動かす。 窓の下に移動してよじ登るも、窓はあとちょっとで届かなかった。
(クソッ! 懸垂できない!)
腕が力んでプルプルしている。 と、シスターちゃんに抱え上げられた。
「見たいの……?」
「マぁマッ!」
強い意思を込めて目を見つめる。
数秒そうしていると、シスターちゃんに溜め息を吐かれた。
「あんたって、本当に変わってるわね」
両脇から持ち上げられ、お腹とお尻で支えられる。
少し不安定だけど、今はこれで充分だ。
「よっとっ、意外と重いのねっ……。 実は私も見たかったから、一緒に見ましょ」
(分かるけど、重いとか言わないで……)
そんなことより。
私とシスターちゃんは意を決して外を眺めた。
(うっわ…………遠っ……)
畜舎と柵が多くて、てかそもそも距離が開きすぎていて殆ど分からない。
なんとなく盾と人みたいなのは見えるけど……
「……あんまり見えないね」
シスターちゃんにも無理らしい。
考えてもみればそうだ、村の中枢と端がそんなに近い筈がない。
落胆していると、シスターちゃんが呟いた。
「二階、行ってみる?」
(二階? ……分かってるねぇ、シスターちゃん)
私達は速足で階段を探し、二階へと駆け上がって良さげな部屋を発見した。
【会議室】。 鍵は掛かっておらず、窓からの光で明るい室内を進む。
窓の外を覗いて……私達は絶句した。
(……何この数)
防衛線の向こう側、深緑色した、軍隊アリのように細かいゴブリンがワラワラと蠢いている。
こっちの10倍はいるんじゃ……。
そして死体、死体、死体、死体。 もう百はありそうだ……。
もちろん、牧草地は血の海。 そんな中で彼らは未だに戦っていた。
ちょうど、誰かの魔法でゴブリンの上半身が吹き飛ぶ瞬間を視界にとらえる。
(ぅ……)
遠いけど……生々しい場面に息が詰まった。
基本、大盾で防ぎ、隙間から槍で突いているが、より多くを倒しているのは遠距離からの攻撃魔法だ。 密集している所を集中的に狙い、統率をとれないようにしている。
槍や盾は、魔術師を守る防波堤的な役割らしい。
(あっ、お母さん達だ!)
魔術師はやっぱりお母さん達だった。 お母さん、お婆ちゃん、エレオノールさん他数名が魔法を放ち、それを守るようにお父さん達が槍や大盾で囲っている。
顔は見えないけど髪色で分かる。
(……てかさっきから私、視力良すぎない? どうなってるのこれ?)
何か解像度が異常なんだけど。 前世が運転時メガネ必須だったからかな。
((え? これくらい普通じゃない?))
(そうなの? 日本と異世界の差かな)
まぁいいや、今はどうでも。
ありがたい誤差だ。
にしてもこれは……想像以上に優勢だな。
相手は寒い中で半裸ってのもあるし、閃光で目を眩ませたのも大きい。
でも何か……いくらなんでも弱すぎない?
アリの大群……っていうより、クモの子を散らしているだけのような。
これもアニメの見すぎってやつなのかな?
((違う……逃げないんだ))
お姉ちゃんが何かに気が付いた。
(どゆこと?)
((普通、集団戦は三割も削られたら作戦失敗で一度撤退するものなの。 でもゴブリン達はもう半数以上も削られてるのに、撤退しようとしてない。 不利なのは分かってるのに。 このままじゃ全滅する……指揮官は何をしてるの?))
ちょっとゴブリンの指揮官に苛立ってすらいるご様子。
さすがにゴブリンにも指揮官はいるのか。
(ならもう倒されたんじゃない?)
((だとしたら散り散りに逃げられてる頃よ。 この数のゴブリンなら、指揮はホブ・ゴブリンが執ってる筈。 ホブ・ゴブリンが勝てない戦いにゴブリン達がそのまま挑むとは思えないわ))
(詳しいなぁ、さすが元魔王軍幹部ってこと?)
((サキュバスは攻撃魔法を使えない種族だからね。 力も劣るし。 だから身を守るには戦力を集めて、守ってもらわないといけないの。 必然的に、指揮や戦略、情報収集の勉強は誰よりも努力したわ))
へぇ……苦労してるんだな。
(ゴブリン達がお粗末なのは分かった。 こっちとしてはありがたい限りだけど、それで何が心配なの?)
((この数を纏めて生活するには指揮官は必須よ。 なのに探しても指揮官らしきゴブリンすら見当たらないし、ホブらしい武装の死体も無い))
(まだ森の中にいるんじゃ?)
((こんなに削られてるのに出てこないなんて考えられないわよ。 切羽詰まっている時は、突破口をこじ開けるために前線へ出て数で押しきるのがゴブリンの常套手段なのに))
言われて改めて見れば……私でも分かった。
これでは死体を増やしているだけだ。 もしこれがゴブリンという種の本気なら、既に絶滅しているだろう。
(へぇ……てことは他に何か理由があるのかな?)
逃げないのは、逃げる意味がないから?
作戦はまだ失敗していないってこと?
だとしたら指揮官はどこに……。
まさか……。
繁殖力の強いゴブリンは可能な限り殲滅したい。 一匹でもいたら注目を集め、皆の意識がそっちに集中する。
そう学習しているとしたら、
((もし……これが彼等の三割にも満たない数なのだとしたら))
こっちの反対側って、確か。
((……住宅街))
「んぁあぅあ! ああぅあ!」
「えぇ! ……ちょっ!? 待ってうわぁ!」
暴れだした私を支えきれず、半ば落ちるように下ろされた。
「あぁぁ……ごめん、見てて楽しいものじゃないよね」
(シスターちゃんも来て!)
ハイハイで部屋を飛び出し、氷のように冷たい廊下を急ぐ。
クソッ、廊下が長すぎる。
と、背後から両脇に手を差し入れられ、持ち上げられた。
「ダメだって! 誰か走ってきたら危ないでしよ!?」
(でもぉ~……)
手足をバタつかせて訴えると、背後から「はぁ~」と溜め息を吐かれた。
「はいはい、分かりました! で? どこ行きたいの」
「あぅあぅ」と誘導しながら廊下を進み、反対側の窓を見付ける。
外を見下ろすと、全体までは把握できないものの、建物の隙間やら通路やらの所々にいくつかの死体が確認できた。
「……え、何で」
シスターちゃんの腕が小刻みに震える。
(やっぱり、あいつら全員囮だったんだ!)
ゴブリンからしてみれば、食料は野菜や家畜だけじゃない。
この村全体が食料庫と言っていい。
やられた……挟撃だ。
金属と金属がぶつかり会う音、数多の獣の叫び声。
戦闘が始まった。
「村長!」
息を切らした丸メガネさんとフローラ兄が戻ってくる。
「受付に治療ポーションをあるだけ用意せい! ネロリは叩いてこい、鐘4!」
「「はい!」」
「チャルちゃんは二人を見とってくれ!」
慌ただしい二人に指示を出し、村長も部屋を飛び出す。
凄い。 パニックを避けるためにやるべき事だけを明確に示していた。 冷静な判断だ。
村長だよね? 元冒険者か元衛兵だったりするの?
商業ギルドの職員達も臆さず武装してたし、なにこの戦闘民族。
そんな中、私はといえば。
(おおぉおねぇっ、どどどどうしっ! どうしっ!)
((落ち着いて! どうどう! アニメじゃこういう時どうしてたか思い出して!))
(くぁwせふじこlp!)
((うん、リアクションを真似してほしかった訳じゃないの!))
(指揮官から潰さないと!)
((戦えないって言ったでしょ!))
あぁ~、やれる事が無いから逆に落ち着けない!!
と不意に、両手が暖かいもので包まれた。
「震えてる? 大丈夫だよ」
(っのぅぉ!?)
シスターちゃんが力強く握ってくれていた。 けど、そんなシスターちゃんの手も小刻みに震えている。
(一緒だ……)
そう思うと、なんだか少しだけ落ち着いてきた。
カン! カン! カン! カン!……カン! カン! カン! カン!……
警鐘が村中に鳴り響く。
4回を4セット。 発生源はこの建物の上からだ。
鐘4ってのはこの事か。 田舎な村なのに、以前からこういった事態には備えていたのか。
((辺境の村にとって魔獣との衝突は身近な問題だよ))
ゴブリンとだって何度も戦ってきた。 それらの情報と対策は国を通して領主に伝わり、こういった村にまでちゃんと伝わってくる。 冒険者が一人もいなくたって、今までの犠牲と経験が力になってくれる。
((村だから弱い、ってのは偏見よ))
(偏見、か。 そうだね、アニメの見過ぎだね)
物語で村や庶民が弱いのは、そうしないと主人公が活躍出来ないからだ。
ゲームじゃないんだから、職業やスキルが無ければ戦えないなんて誰が決めた?
便利な機械が無い農家の筋力をナメてはいけない。
((なによりこの村にはあの美魔女さんがいるのよ。 身内だけを鍛えようとするような慎ましい心の持ち主に見えたかしら?))
(見えませんでした)
そっか、魔改造済みか。 だから商業ギルド職員なのに気後れしてなかったんだな。
少しは不安が和らいできた。
そうなると、外の様子に興味が湧いてくる。
駄目なのは分かっている。 もし見つかったら危険過ぎるし、リアルな戦場を直視する心構えなんて持ってない。 PTSDになるかも。
でもお母さんに言われたのだ、「良いとこを見せてあげる」と。
それに私だって、いずれはお母さんの隣に立って一緒に戦うかもしれない。 そういう世界に来たんだ、ビビりの私は他人より早めに心を鍛えておかないといけない。
ってのも本音ではある。
((で、本心は?))
(すみません、好奇心7割です)
トラウマによる悪夢はお姉ちゃんに対処してもらえないかなっていう甘えがありました。
それにお母さんの格好いい所も見たいけど、お父さんもお婆ちゃんも見たいし、あのエレオノールさんが戦っている姿も見学したかったんだよね。
将来の人生設計に大いに関わるかもしれない一大事だ。
でもってリアルな魔法やモンスターも生で見てみたい!
恐怖心と好奇心が行ったり来たりしてて落ち着かない。
(お姉ちゃん、なんとかできない?)
((ごめんだけど、私は安全最優先だから今回はパス。 エメルナちゃんの体なんだから、どうしても見たいのなら自己責任で頑張って))
ぅ……この体はお姉ちゃんとの共用なんだから、そう言われると辛い。
分かったよ、大人しく――
ヒュ~~~~~~……ッダァァァァァァァン!!!!
――何だ!?
それは、頭上に巨大な花火を打ち上げたかのような轟音で。 空気振動が窓ガラスをガタガタ鳴らす。
「え! なに!?」
シスターちゃんも飛び上がる。
(窓の外が明るい! いや、白い!?)
さっきまで窓から見えていた星が消え、空が真っ白に輝いている。
爆発は商業ギルドの真上、上空から轟いていた。
(もしかして村長さんが何かした!?)
((そっか、明るくすれば一瞬でもゴブリンの目を潰せる。 それにこの光量なら夏の強い日差し程度だから人に害は無い))
(おぉ~……抜かり無いな)
獣の叫び声が遠くに聞こえる。
状勢が気になるっ! 今ならゴブリンの目を潰せているし、遠くも見れる! 覗くならここしかない!!
お姉ちゃんの心配ももっともだが……ハイハイで椅子に近付き、立ち上がって椅子を動かす。 窓の下に移動してよじ登るも、窓はあとちょっとで届かなかった。
(クソッ! 懸垂できない!)
腕が力んでプルプルしている。 と、シスターちゃんに抱え上げられた。
「見たいの……?」
「マぁマッ!」
強い意思を込めて目を見つめる。
数秒そうしていると、シスターちゃんに溜め息を吐かれた。
「あんたって、本当に変わってるわね」
両脇から持ち上げられ、お腹とお尻で支えられる。
少し不安定だけど、今はこれで充分だ。
「よっとっ、意外と重いのねっ……。 実は私も見たかったから、一緒に見ましょ」
(分かるけど、重いとか言わないで……)
そんなことより。
私とシスターちゃんは意を決して外を眺めた。
(うっわ…………遠っ……)
畜舎と柵が多くて、てかそもそも距離が開きすぎていて殆ど分からない。
なんとなく盾と人みたいなのは見えるけど……
「……あんまり見えないね」
シスターちゃんにも無理らしい。
考えてもみればそうだ、村の中枢と端がそんなに近い筈がない。
落胆していると、シスターちゃんが呟いた。
「二階、行ってみる?」
(二階? ……分かってるねぇ、シスターちゃん)
私達は速足で階段を探し、二階へと駆け上がって良さげな部屋を発見した。
【会議室】。 鍵は掛かっておらず、窓からの光で明るい室内を進む。
窓の外を覗いて……私達は絶句した。
(……何この数)
防衛線の向こう側、深緑色した、軍隊アリのように細かいゴブリンがワラワラと蠢いている。
こっちの10倍はいるんじゃ……。
そして死体、死体、死体、死体。 もう百はありそうだ……。
もちろん、牧草地は血の海。 そんな中で彼らは未だに戦っていた。
ちょうど、誰かの魔法でゴブリンの上半身が吹き飛ぶ瞬間を視界にとらえる。
(ぅ……)
遠いけど……生々しい場面に息が詰まった。
基本、大盾で防ぎ、隙間から槍で突いているが、より多くを倒しているのは遠距離からの攻撃魔法だ。 密集している所を集中的に狙い、統率をとれないようにしている。
槍や盾は、魔術師を守る防波堤的な役割らしい。
(あっ、お母さん達だ!)
魔術師はやっぱりお母さん達だった。 お母さん、お婆ちゃん、エレオノールさん他数名が魔法を放ち、それを守るようにお父さん達が槍や大盾で囲っている。
顔は見えないけど髪色で分かる。
(……てかさっきから私、視力良すぎない? どうなってるのこれ?)
何か解像度が異常なんだけど。 前世が運転時メガネ必須だったからかな。
((え? これくらい普通じゃない?))
(そうなの? 日本と異世界の差かな)
まぁいいや、今はどうでも。
ありがたい誤差だ。
にしてもこれは……想像以上に優勢だな。
相手は寒い中で半裸ってのもあるし、閃光で目を眩ませたのも大きい。
でも何か……いくらなんでも弱すぎない?
アリの大群……っていうより、クモの子を散らしているだけのような。
これもアニメの見すぎってやつなのかな?
((違う……逃げないんだ))
お姉ちゃんが何かに気が付いた。
(どゆこと?)
((普通、集団戦は三割も削られたら作戦失敗で一度撤退するものなの。 でもゴブリン達はもう半数以上も削られてるのに、撤退しようとしてない。 不利なのは分かってるのに。 このままじゃ全滅する……指揮官は何をしてるの?))
ちょっとゴブリンの指揮官に苛立ってすらいるご様子。
さすがにゴブリンにも指揮官はいるのか。
(ならもう倒されたんじゃない?)
((だとしたら散り散りに逃げられてる頃よ。 この数のゴブリンなら、指揮はホブ・ゴブリンが執ってる筈。 ホブ・ゴブリンが勝てない戦いにゴブリン達がそのまま挑むとは思えないわ))
(詳しいなぁ、さすが元魔王軍幹部ってこと?)
((サキュバスは攻撃魔法を使えない種族だからね。 力も劣るし。 だから身を守るには戦力を集めて、守ってもらわないといけないの。 必然的に、指揮や戦略、情報収集の勉強は誰よりも努力したわ))
へぇ……苦労してるんだな。
(ゴブリン達がお粗末なのは分かった。 こっちとしてはありがたい限りだけど、それで何が心配なの?)
((この数を纏めて生活するには指揮官は必須よ。 なのに探しても指揮官らしきゴブリンすら見当たらないし、ホブらしい武装の死体も無い))
(まだ森の中にいるんじゃ?)
((こんなに削られてるのに出てこないなんて考えられないわよ。 切羽詰まっている時は、突破口をこじ開けるために前線へ出て数で押しきるのがゴブリンの常套手段なのに))
言われて改めて見れば……私でも分かった。
これでは死体を増やしているだけだ。 もしこれがゴブリンという種の本気なら、既に絶滅しているだろう。
(へぇ……てことは他に何か理由があるのかな?)
逃げないのは、逃げる意味がないから?
作戦はまだ失敗していないってこと?
だとしたら指揮官はどこに……。
まさか……。
繁殖力の強いゴブリンは可能な限り殲滅したい。 一匹でもいたら注目を集め、皆の意識がそっちに集中する。
そう学習しているとしたら、
((もし……これが彼等の三割にも満たない数なのだとしたら))
こっちの反対側って、確か。
((……住宅街))
「んぁあぅあ! ああぅあ!」
「えぇ! ……ちょっ!? 待ってうわぁ!」
暴れだした私を支えきれず、半ば落ちるように下ろされた。
「あぁぁ……ごめん、見てて楽しいものじゃないよね」
(シスターちゃんも来て!)
ハイハイで部屋を飛び出し、氷のように冷たい廊下を急ぐ。
クソッ、廊下が長すぎる。
と、背後から両脇に手を差し入れられ、持ち上げられた。
「ダメだって! 誰か走ってきたら危ないでしよ!?」
(でもぉ~……)
手足をバタつかせて訴えると、背後から「はぁ~」と溜め息を吐かれた。
「はいはい、分かりました! で? どこ行きたいの」
「あぅあぅ」と誘導しながら廊下を進み、反対側の窓を見付ける。
外を見下ろすと、全体までは把握できないものの、建物の隙間やら通路やらの所々にいくつかの死体が確認できた。
「……え、何で」
シスターちゃんの腕が小刻みに震える。
(やっぱり、あいつら全員囮だったんだ!)
ゴブリンからしてみれば、食料は野菜や家畜だけじゃない。
この村全体が食料庫と言っていい。
やられた……挟撃だ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
私って何者なの
根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。
そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。
とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる