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エメルナちゃんの成長記録4
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「ばんわぁ~!」
(この声は!)
嬉々として手首に結ばれた大きめのミサンガに眉間で難色を示していた最中、玄関の扉がノックされ、黒髪の冒険者さんが訪れた。
村長さんに招かれ、ぞろぞろと居間に防寒着姿の冒険者メンバーが木箱を抱えて入ってくる。
「エメルナちゃん、フローラちゃん、誕生日おめでとう!」
あいかわらず元気だなぁ。
てか村長さん家族とも知り合いだったのか。 冒険者だし、前に依頼でお世話になったとかかな?
それぞれの荷物を部屋の隅に預かり、抱えて来た木箱を前に出す。
「私達から二人に。 と、ルースさんのご両親、シエルナさんのご両親、あと二人の友人達からのプレゼントがエメルナちゃんに………なんだけど、家に行ったら真っ暗でねぇ。 誕生日プレゼントを明日渡すのもどうかと思って、来ちゃった♪」
なにそれ気まずい。
友達ん家で友達より多くプレゼント貰うとか、軽く亀裂が入りそうなんですが。
と、村長さんが立ち上がる。
「おぉそりゃ助かった! 実はフローラだけ多く貰ってしまって、エメルナちゃんに嫌われんかとハラハラしておった所じゃ」
え? そうなん?
考えてもみれば、フローラ父母にだって友人や親戚がいるわけで。 下手したら住民達からも何かしらお祝いされている可能性だってあるのか。
しかもそんな村長さん宅でパーティーとか、確かにそりゃ気まずい。 フローラちゃんが見知らぬぬいぐるみ抱えてなくて良かったね。
まぁ、だからって私は泣かないけどさ。 普通の幼児だと思われているのだから仕方ない。
「なら良かった。 じゃぁ…………ルースさんの両親からね」
(何だろう今の間は。 疲れる予感がしたぞ)
お父さんの両親からの贈り物は、赤と青でお馴染み、カスタネットだった。 こっちにもあるのかよ。 まぁ管楽器よりはありそうだけど。
楽器類も、持っていないからありがたい。 フローラちゃんとの遊びにも幅が広くなる。
お母さんが私の目の前まで持ってきてカカンカカン♪とお手本を見せてくれる。 指の使い方が上手いなぁ。
さて、どうリアクションしたものか……。
「……っ♪ ……ぁぅっ♪」
(あぁ~↑ぁあ↓体が↑ぴょん↓ぴょん↑する↑ん↓じゃぁ↑~ぁ♪↓)
もう何が正解とかじゃない、私のリアクションなんだから、私の行動が正解なのだ。
考えるな、本能で動け!
なんて自分に言い聞かせていると、隣でフローラちゃんが私の真似をし始めた。
(っしゃあぁ! 誰かムービー撮って! 10万回再生狙えるから撮って!)
結局、カスタネットはお気に入り認定された。
お母さんの両親からは、白黒の絵本が贈られた。
内容は後で読むとして、表紙は可愛らしい子供達だ。 それぞれ種族が違うらしく、皆で手を繋いで輪になっている。
中身まで白黒かは……多分そうなんだろう。
なんにしても、この世界の道徳を学べる良い教材になるかも。 ありがたい。
ただこの絵本、皆の評価が微妙だった。
「まだ読めないよねぇ」
「読み聞かせるにしても、まだ早いよな?」
「絵本なら昔のが物置にあったぞ?」
「せっかくなら、私の本棚にある魔道書でも貸そうかい?」
そして慌てるエレオノールさん。
「で……でも、今後を考えたら欲しくなる物ですし、エメルナちゃん成長するの早いから、読み聞かせていれば今年中に話せるようになっちゃうかもですよ!」
(え、私ってそんな評価なの?)
「んー……確かに大人しく聞いててくれそうだけど……。 まぁ良いっか」
せやね。
「将来の為に」とか言われて、幼児向けじゃない物を贈られるよりはマシだよ。 ……んな奴いないか。
((私としては大歓迎だねぇ♪ そろそろ文字の授業に入るところだったから、教科書にピッタリだよ♪))
(ヒエッ……)
専属家庭教師のやる気に火が点いた。 スパルタになりそうな予感に背筋が震える。
(お……お手柔らかにお願いします)
本命、冒険者さん達の番が来た。
これは二人になので、暇してるフローラちゃんに丁度良い。
ってあれ?
駄々も捏ねずに大人しいと思っていたが、もうなんか毛皮ボール抱えて眠たそうなんだけど……続けるんだね?
代表して黒髪さんが私に渡してくれた。
これは………クレヨンで描いたような海の絵に、切れ目が……。
バズルか!
良いチョイスじゃん。 しかも24ピースで子供向け。 ピース一つ一つが大きいから飲み込む心配も少ない。
そんなパズルが二枚。 海と王城(?)。 どちらもこの村にいては見られない風景だ。
選んだのは兎人のお姉さんらしい。
「まだ言葉が分からなくても教えられるし、一緒に遊べます。 何より頭を使うから教育に適していると考えました。 誰とも被らなかったようで良かったです」
確かにこれなら誰とでも遊べるし、絵に興味をもつ子だっているだろう。 悩んだ末の達成感は脳への良い刺激になりそうだ。
二枚あるから、フローラちゃんと交換したり、競争だって出来る。
最初は幼児にはまだ早いのではと過ぎったけど、兎人さんのプレゼンが上手いのか、今では全員が納得している。 個人的にも、パズルは好きな部類なので楽しみだ。
(ありがとう、超嬉しいです♪)
(さて……もうゴールしても良いんじゃないかな?)
「最後は友人さん達ね」
(えぇ……怖いからいらないよ。 持って帰って質屋にでも売ってぇ)
なんて言えず、まずは青髪のプレゼントがお父さんに渡された。
「はい、鉄製のキーホルダー3つ」
(お土産屋行きやがったな!?)
確かにコイン型の枠に収まる花・妖精・騎士が綺麗な彫刻だけど、これ彫金技術のアピール用商品だよね? 「うちはこれくらいのレベルで作れますよ」って宣伝するやつ。
そもそもキーホルダーって……異世界にも鍵くらいあってもおかしくないけどさぁ。
両親も微妙な……いや、またかと呆れ顔だ。 昔何があった。
次は緑チビ女から、お母さんに渡された。
「はい、ヘアピン6種セット」
(おぉ、まとも?)
なんか、疑ってごめんなさい緑さん。
花・果物・鳥・貝殻・星・月の、アニメキャラなんかが着けてそうなヘアピンだ。 どうやって塗装してるんだろ。
正直嬉しい。 これなら今からでも使えそうだし、永く愛用できそう。
ただフローラちゃんと楽しめないのは残念かな。 いくつか貸すか。
でも両親の評価は微妙だった。
「口に入るよね、これ」
「エメルナなら大丈夫そうな気もするけど、やめておくか」
(あぁ……そうか、幼児には危険か)
私ぐらいの子は何でも口に入れたがるからね。 こんなの誤飲したら大変だ……。
この世界、怪我は魔法で対処しやすいけど、手術となると問題が多い。
惜しいなぁ。 あとちょっと考えてほしかった。
白ポニさんからのプレゼントは。
「これですね」
細長い木箱がお母さんに渡された。
なんかちょっと高価そうな木材だな。
確かあの人、金銭感覚ズレた発言してたっけ……心配になってきた。
「うわぁ……ネックレスだ」
蓋を開けると、紫の布(シルク?)の上に、シンプルなデザインのネックレスが2つ納められていた。
ほっっそい銀チェーンに銀プレート、プレートには金で魔法陣が描かれている。 片方のプレートには魔法陣の中央に、ダイヤのような小さな石が嵌まっていた。
(ま……魔石かなぁ?)
((魔力は感じないから、多分宝石だね……))
お姉ちゃんも愕然としている。 良かった、誕生日に宝石を贈る習慣は無いようだ。
てことは白ポニが特殊なのね?
人拐いに知られたらどう責任をとるつもりだコラ。
「…………はぁ、あの子ったら」
お母さんが深くため息を吐く。
お父さんは苦笑いで遠い目をしていた。
「高そうだな……」
高そうなんてもんじゃない。 こんなもの幼児に贈るとか、貴族か本気でヤバいロリコンくらいだろ!
しかも二つ!? 銀貨(一万円)何枚するんだこれ。
「ん? 手紙が……」
箱の側面に小さく折り畳まれた紙が挟まっている。 それを開き、母が読み上げる。
[エメルナちゃん、お誕生日おめでとうございます♪
シエルナ、ルースさん、お祝い申し上げます。
私からのプレゼントはこのネックレスです。 エメルナちゃんの好みが分からなかったので、シンプルなダイヤモンドにしてみました♪
魔法陣は『遠隔探知』で注文しました。 どこにいても、お互いの居場所が分かるようになっています。
気に入っていただけると幸いです♪
お祝いに駆け付けられず、申し訳ございません。 なので代わりにと、皆で『誰とも被らないプレゼント』というテーマで探してみたのですが、被っていないか、今でも気になってしまいますね。
今度、近くを通る際に立ち寄らせていただきますので、良ければ可愛いお顔をもう一度拝見させてください♪
それでは、お読みいただきありがとうございました。 シェルより]
「……だって」
被っちゃったよ!!
一番高価なのに唯一やらかした!!
ミサンガ(GPS)とか予想つかないもんね。
で、被られたお婆ちゃんがネックレスに近付き、険しい顔で睨み付ける。
「これ…………駄目だわ」
え?
「駄目?」
「質は良いのよ? 粗悪品って意味じゃない。 銀も魔力を通しやすいから適切なんだけど、ダイヤは魔力を通さない絶縁体だからねぇ。 何で流れを乱す物を付けるのやら……あの馬鹿。
この場合は、魔力をある程度意識して流さないと魔法が発動しない。 つまり、いつでも居場所が分かるわけじゃないってことさね」
えっと……スリープモードどころか電源から入ってないから、常時送受信ができないって感じかな?
万が一、行方不明になった時の保険だからって、気絶してたらどうしようもない訳か。
「しかも、誘拐だったら金目の物なんざ一発でバレて取り上げられちまうよ。 こういうのは貴族のおもちゃ程度の価値しかないね」
確かに、ミサンガなら魔法陣は内側だからバレづらいし、金目の物でもないので取り上げる価値すら無い。
むしろこのネックレスは、子供に与える安いトランシーバーのような物か。 カラーヅであったなぁ、トランシーバーで遊ぶ回。
(結局このネックレス、完全にミサンガ(GPS)の劣化版じゃねぇか。 どこまで残念になるんだ、白ポニさん……)
残り2つ。
お父さんが渡されたのは、茶毛並み猫耳男からの木箱だった。
(また木箱かよ!?)
「あいつ、一緒に宝石店行ったな……」
(んなついでみたいに)
蓋を開けてみると、中には白い布(シルク?)に包まれた幅の広い木製の指輪が入っていた。 一回り大きめで、嵌めてみたけどぶかぶかだ。
『ベビーリング』と呼ばれる、赤ちゃんへのお祝いに贈られる指輪らしく、親指に嵌める物らしい。
(あっ、確かにこっちの方がしっくりくる)
赤ちゃんが成長した後は、そのまま子供が普通の指輪として使うか、ネックレスにするらしい。(お婆ちゃん談)
そしてこれにも、青い、小さな宝石が嵌まっているなぁ。
なんだっけこれ。
((この青寄りの緑は……多分アクアマリンだね))
(アクアマリン!?)
『アクアマリン』。 3月の誕生石で、希少と記憶している。
(まさか白ポニに良いとこ見せたくて無理したんじゃないだろうな……)
((こっちじゃ3月なのは一緒だけど、値段は大したことない筈だよ? このサイズと色の薄さの指輪なら、少銀貨8枚とちょっとくらいじゃないかな))
8000円かよ。 宝石の相場なんて知らないけど、宝石としては安いような、友人の赤ちゃんへのプレゼントとしては高すぎるような……何とも言えないな。
とりあえず、前世の世界と交易したい程の価値なのは理解した。
てかさっきのネックレスにアクアマリン付けろよ。 3月の誕生石なんだろ?
白ポニさんの評価がまた落ちた。
(で、お婆ちゃんは何を睨んでるの?)
「うん、魔法付与してない普通の指輪だね」
(一つだけだからもう被らないって)
「でもどうしよ……飲めそうじゃない?」
(あっ……(察し)
お婆ちゃんに滑り止め加工してもらうため、暫く預ける事となった。
大トリは紫ボブさんだ。
大オチ、と言い換えるべきか……。
「はい、クレヨンセットです」
お母さんが随分マシなプレゼントを受け取った。
竹筒に入った12色のクレヨン。 紙は本屋に普通に売られていたので問題ない。 フローラちゃんとも遊べるし、蜜蝋が原料らしいので口に入れるくらいなら許容できる。
(うん、ここまではまともだな。 でも騙されないぞ)
私は緑チビで学んだのだ。
こいつらは私とは違うポンコツだと。
「ん? 中に紙が……」
(ほら来た)
お母さんが折りたたまれた手紙を広げると、そのままグシャっと握り潰した。
「ぁ……ぁぁぁああぁ」
「ん? どうした「」何でもないです!! なんにもなかったんです!!」
顔を真っ赤にして即答する母に、私はTVのとあるシーンを連想した。
浮気を隠す男みたい。
なんだなんだと探ろうとするお父さんを背中でブロックしつつ、ついに耐えかねたお母さんが詠唱破棄で魔法を発動。 手の中の手紙を焼却した。
灰が足元に広がる。
「あぁぁ……」
「大丈夫よ、あの子渾身の塗り絵だから。 エメルナに塗ってほしかったんだって」
「えぇ、何で燃やしたんだ?」
「燃え盛るような絵を描くあの変態に聞けば?」
目が据ってるぅ~~!
私に何させようとしやがったんだあの女!!
お姉ちゃんよりサキュバスじゃねぇか!!
こうして、無かったことにしたお母さんに誰もが話しかけづらいままプレゼントは配り終え、眠るフローラちゃんを寝室に寝かし、誕生日会は終了した。
やっぱダメだあいつら、疲れるわ。
(この声は!)
嬉々として手首に結ばれた大きめのミサンガに眉間で難色を示していた最中、玄関の扉がノックされ、黒髪の冒険者さんが訪れた。
村長さんに招かれ、ぞろぞろと居間に防寒着姿の冒険者メンバーが木箱を抱えて入ってくる。
「エメルナちゃん、フローラちゃん、誕生日おめでとう!」
あいかわらず元気だなぁ。
てか村長さん家族とも知り合いだったのか。 冒険者だし、前に依頼でお世話になったとかかな?
それぞれの荷物を部屋の隅に預かり、抱えて来た木箱を前に出す。
「私達から二人に。 と、ルースさんのご両親、シエルナさんのご両親、あと二人の友人達からのプレゼントがエメルナちゃんに………なんだけど、家に行ったら真っ暗でねぇ。 誕生日プレゼントを明日渡すのもどうかと思って、来ちゃった♪」
なにそれ気まずい。
友達ん家で友達より多くプレゼント貰うとか、軽く亀裂が入りそうなんですが。
と、村長さんが立ち上がる。
「おぉそりゃ助かった! 実はフローラだけ多く貰ってしまって、エメルナちゃんに嫌われんかとハラハラしておった所じゃ」
え? そうなん?
考えてもみれば、フローラ父母にだって友人や親戚がいるわけで。 下手したら住民達からも何かしらお祝いされている可能性だってあるのか。
しかもそんな村長さん宅でパーティーとか、確かにそりゃ気まずい。 フローラちゃんが見知らぬぬいぐるみ抱えてなくて良かったね。
まぁ、だからって私は泣かないけどさ。 普通の幼児だと思われているのだから仕方ない。
「なら良かった。 じゃぁ…………ルースさんの両親からね」
(何だろう今の間は。 疲れる予感がしたぞ)
お父さんの両親からの贈り物は、赤と青でお馴染み、カスタネットだった。 こっちにもあるのかよ。 まぁ管楽器よりはありそうだけど。
楽器類も、持っていないからありがたい。 フローラちゃんとの遊びにも幅が広くなる。
お母さんが私の目の前まで持ってきてカカンカカン♪とお手本を見せてくれる。 指の使い方が上手いなぁ。
さて、どうリアクションしたものか……。
「……っ♪ ……ぁぅっ♪」
(あぁ~↑ぁあ↓体が↑ぴょん↓ぴょん↑する↑ん↓じゃぁ↑~ぁ♪↓)
もう何が正解とかじゃない、私のリアクションなんだから、私の行動が正解なのだ。
考えるな、本能で動け!
なんて自分に言い聞かせていると、隣でフローラちゃんが私の真似をし始めた。
(っしゃあぁ! 誰かムービー撮って! 10万回再生狙えるから撮って!)
結局、カスタネットはお気に入り認定された。
お母さんの両親からは、白黒の絵本が贈られた。
内容は後で読むとして、表紙は可愛らしい子供達だ。 それぞれ種族が違うらしく、皆で手を繋いで輪になっている。
中身まで白黒かは……多分そうなんだろう。
なんにしても、この世界の道徳を学べる良い教材になるかも。 ありがたい。
ただこの絵本、皆の評価が微妙だった。
「まだ読めないよねぇ」
「読み聞かせるにしても、まだ早いよな?」
「絵本なら昔のが物置にあったぞ?」
「せっかくなら、私の本棚にある魔道書でも貸そうかい?」
そして慌てるエレオノールさん。
「で……でも、今後を考えたら欲しくなる物ですし、エメルナちゃん成長するの早いから、読み聞かせていれば今年中に話せるようになっちゃうかもですよ!」
(え、私ってそんな評価なの?)
「んー……確かに大人しく聞いててくれそうだけど……。 まぁ良いっか」
せやね。
「将来の為に」とか言われて、幼児向けじゃない物を贈られるよりはマシだよ。 ……んな奴いないか。
((私としては大歓迎だねぇ♪ そろそろ文字の授業に入るところだったから、教科書にピッタリだよ♪))
(ヒエッ……)
専属家庭教師のやる気に火が点いた。 スパルタになりそうな予感に背筋が震える。
(お……お手柔らかにお願いします)
本命、冒険者さん達の番が来た。
これは二人になので、暇してるフローラちゃんに丁度良い。
ってあれ?
駄々も捏ねずに大人しいと思っていたが、もうなんか毛皮ボール抱えて眠たそうなんだけど……続けるんだね?
代表して黒髪さんが私に渡してくれた。
これは………クレヨンで描いたような海の絵に、切れ目が……。
バズルか!
良いチョイスじゃん。 しかも24ピースで子供向け。 ピース一つ一つが大きいから飲み込む心配も少ない。
そんなパズルが二枚。 海と王城(?)。 どちらもこの村にいては見られない風景だ。
選んだのは兎人のお姉さんらしい。
「まだ言葉が分からなくても教えられるし、一緒に遊べます。 何より頭を使うから教育に適していると考えました。 誰とも被らなかったようで良かったです」
確かにこれなら誰とでも遊べるし、絵に興味をもつ子だっているだろう。 悩んだ末の達成感は脳への良い刺激になりそうだ。
二枚あるから、フローラちゃんと交換したり、競争だって出来る。
最初は幼児にはまだ早いのではと過ぎったけど、兎人さんのプレゼンが上手いのか、今では全員が納得している。 個人的にも、パズルは好きな部類なので楽しみだ。
(ありがとう、超嬉しいです♪)
(さて……もうゴールしても良いんじゃないかな?)
「最後は友人さん達ね」
(えぇ……怖いからいらないよ。 持って帰って質屋にでも売ってぇ)
なんて言えず、まずは青髪のプレゼントがお父さんに渡された。
「はい、鉄製のキーホルダー3つ」
(お土産屋行きやがったな!?)
確かにコイン型の枠に収まる花・妖精・騎士が綺麗な彫刻だけど、これ彫金技術のアピール用商品だよね? 「うちはこれくらいのレベルで作れますよ」って宣伝するやつ。
そもそもキーホルダーって……異世界にも鍵くらいあってもおかしくないけどさぁ。
両親も微妙な……いや、またかと呆れ顔だ。 昔何があった。
次は緑チビ女から、お母さんに渡された。
「はい、ヘアピン6種セット」
(おぉ、まとも?)
なんか、疑ってごめんなさい緑さん。
花・果物・鳥・貝殻・星・月の、アニメキャラなんかが着けてそうなヘアピンだ。 どうやって塗装してるんだろ。
正直嬉しい。 これなら今からでも使えそうだし、永く愛用できそう。
ただフローラちゃんと楽しめないのは残念かな。 いくつか貸すか。
でも両親の評価は微妙だった。
「口に入るよね、これ」
「エメルナなら大丈夫そうな気もするけど、やめておくか」
(あぁ……そうか、幼児には危険か)
私ぐらいの子は何でも口に入れたがるからね。 こんなの誤飲したら大変だ……。
この世界、怪我は魔法で対処しやすいけど、手術となると問題が多い。
惜しいなぁ。 あとちょっと考えてほしかった。
白ポニさんからのプレゼントは。
「これですね」
細長い木箱がお母さんに渡された。
なんかちょっと高価そうな木材だな。
確かあの人、金銭感覚ズレた発言してたっけ……心配になってきた。
「うわぁ……ネックレスだ」
蓋を開けると、紫の布(シルク?)の上に、シンプルなデザインのネックレスが2つ納められていた。
ほっっそい銀チェーンに銀プレート、プレートには金で魔法陣が描かれている。 片方のプレートには魔法陣の中央に、ダイヤのような小さな石が嵌まっていた。
(ま……魔石かなぁ?)
((魔力は感じないから、多分宝石だね……))
お姉ちゃんも愕然としている。 良かった、誕生日に宝石を贈る習慣は無いようだ。
てことは白ポニが特殊なのね?
人拐いに知られたらどう責任をとるつもりだコラ。
「…………はぁ、あの子ったら」
お母さんが深くため息を吐く。
お父さんは苦笑いで遠い目をしていた。
「高そうだな……」
高そうなんてもんじゃない。 こんなもの幼児に贈るとか、貴族か本気でヤバいロリコンくらいだろ!
しかも二つ!? 銀貨(一万円)何枚するんだこれ。
「ん? 手紙が……」
箱の側面に小さく折り畳まれた紙が挟まっている。 それを開き、母が読み上げる。
[エメルナちゃん、お誕生日おめでとうございます♪
シエルナ、ルースさん、お祝い申し上げます。
私からのプレゼントはこのネックレスです。 エメルナちゃんの好みが分からなかったので、シンプルなダイヤモンドにしてみました♪
魔法陣は『遠隔探知』で注文しました。 どこにいても、お互いの居場所が分かるようになっています。
気に入っていただけると幸いです♪
お祝いに駆け付けられず、申し訳ございません。 なので代わりにと、皆で『誰とも被らないプレゼント』というテーマで探してみたのですが、被っていないか、今でも気になってしまいますね。
今度、近くを通る際に立ち寄らせていただきますので、良ければ可愛いお顔をもう一度拝見させてください♪
それでは、お読みいただきありがとうございました。 シェルより]
「……だって」
被っちゃったよ!!
一番高価なのに唯一やらかした!!
ミサンガ(GPS)とか予想つかないもんね。
で、被られたお婆ちゃんがネックレスに近付き、険しい顔で睨み付ける。
「これ…………駄目だわ」
え?
「駄目?」
「質は良いのよ? 粗悪品って意味じゃない。 銀も魔力を通しやすいから適切なんだけど、ダイヤは魔力を通さない絶縁体だからねぇ。 何で流れを乱す物を付けるのやら……あの馬鹿。
この場合は、魔力をある程度意識して流さないと魔法が発動しない。 つまり、いつでも居場所が分かるわけじゃないってことさね」
えっと……スリープモードどころか電源から入ってないから、常時送受信ができないって感じかな?
万が一、行方不明になった時の保険だからって、気絶してたらどうしようもない訳か。
「しかも、誘拐だったら金目の物なんざ一発でバレて取り上げられちまうよ。 こういうのは貴族のおもちゃ程度の価値しかないね」
確かに、ミサンガなら魔法陣は内側だからバレづらいし、金目の物でもないので取り上げる価値すら無い。
むしろこのネックレスは、子供に与える安いトランシーバーのような物か。 カラーヅであったなぁ、トランシーバーで遊ぶ回。
(結局このネックレス、完全にミサンガ(GPS)の劣化版じゃねぇか。 どこまで残念になるんだ、白ポニさん……)
残り2つ。
お父さんが渡されたのは、茶毛並み猫耳男からの木箱だった。
(また木箱かよ!?)
「あいつ、一緒に宝石店行ったな……」
(んなついでみたいに)
蓋を開けてみると、中には白い布(シルク?)に包まれた幅の広い木製の指輪が入っていた。 一回り大きめで、嵌めてみたけどぶかぶかだ。
『ベビーリング』と呼ばれる、赤ちゃんへのお祝いに贈られる指輪らしく、親指に嵌める物らしい。
(あっ、確かにこっちの方がしっくりくる)
赤ちゃんが成長した後は、そのまま子供が普通の指輪として使うか、ネックレスにするらしい。(お婆ちゃん談)
そしてこれにも、青い、小さな宝石が嵌まっているなぁ。
なんだっけこれ。
((この青寄りの緑は……多分アクアマリンだね))
(アクアマリン!?)
『アクアマリン』。 3月の誕生石で、希少と記憶している。
(まさか白ポニに良いとこ見せたくて無理したんじゃないだろうな……)
((こっちじゃ3月なのは一緒だけど、値段は大したことない筈だよ? このサイズと色の薄さの指輪なら、少銀貨8枚とちょっとくらいじゃないかな))
8000円かよ。 宝石の相場なんて知らないけど、宝石としては安いような、友人の赤ちゃんへのプレゼントとしては高すぎるような……何とも言えないな。
とりあえず、前世の世界と交易したい程の価値なのは理解した。
てかさっきのネックレスにアクアマリン付けろよ。 3月の誕生石なんだろ?
白ポニさんの評価がまた落ちた。
(で、お婆ちゃんは何を睨んでるの?)
「うん、魔法付与してない普通の指輪だね」
(一つだけだからもう被らないって)
「でもどうしよ……飲めそうじゃない?」
(あっ……(察し)
お婆ちゃんに滑り止め加工してもらうため、暫く預ける事となった。
大トリは紫ボブさんだ。
大オチ、と言い換えるべきか……。
「はい、クレヨンセットです」
お母さんが随分マシなプレゼントを受け取った。
竹筒に入った12色のクレヨン。 紙は本屋に普通に売られていたので問題ない。 フローラちゃんとも遊べるし、蜜蝋が原料らしいので口に入れるくらいなら許容できる。
(うん、ここまではまともだな。 でも騙されないぞ)
私は緑チビで学んだのだ。
こいつらは私とは違うポンコツだと。
「ん? 中に紙が……」
(ほら来た)
お母さんが折りたたまれた手紙を広げると、そのままグシャっと握り潰した。
「ぁ……ぁぁぁああぁ」
「ん? どうした「」何でもないです!! なんにもなかったんです!!」
顔を真っ赤にして即答する母に、私はTVのとあるシーンを連想した。
浮気を隠す男みたい。
なんだなんだと探ろうとするお父さんを背中でブロックしつつ、ついに耐えかねたお母さんが詠唱破棄で魔法を発動。 手の中の手紙を焼却した。
灰が足元に広がる。
「あぁぁ……」
「大丈夫よ、あの子渾身の塗り絵だから。 エメルナに塗ってほしかったんだって」
「えぇ、何で燃やしたんだ?」
「燃え盛るような絵を描くあの変態に聞けば?」
目が据ってるぅ~~!
私に何させようとしやがったんだあの女!!
お姉ちゃんよりサキュバスじゃねぇか!!
こうして、無かったことにしたお母さんに誰もが話しかけづらいままプレゼントは配り終え、眠るフローラちゃんを寝室に寝かし、誕生日会は終了した。
やっぱダメだあいつら、疲れるわ。
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