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遠路遥々

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「こんにちは~! シエルナさん、いる~?」

 昼、若い女性が訪ねてきた。
 お母さんが玄関へ急ぎ、対応する。
 少し経つと、何やらざわざわと話し声が増え、それらが居間へ流れこむ。
 16人……かな。 お母さんぐらい若い男女が8人、7歳前後の男の子や女の子が4人 残り4人は白髪混じりの老夫婦?
 この一ヶ月、出産祝いや産後の健診などで村の人達と会う機会は多かったが、初めて見る顔だらけだな。
 そして一斉に私へと群がる。
 怖い怖い!
 死んでも治っていない人見知りに集まるなぁ!
 取り囲んでプニプニつつくなぁ!
 八岐大蛇ヤマタノオロチに睨まれたカエルになっちゃうからぁ!!
 しかも二体分の頭数。
 大音量でギャン泣きしてやろうかオラァァァ!!


 遠く離れた王都に住む親戚と、両親の友人達だった。
 お父さんの両親・お父さんの兄とその娘。
 お母さんの両親・お母さんの姉とその息子・お母さんの兄とその兄妹。
 両親共通の友人5人(男2女3)。
 これが子供達にもてあそばれる中、お姉ちゃんが集めてくれた情報だ。
 一ヶ月も経ってるもんね、孫の顔ぐらい見たい。
 にしてもどうしたものか……赤ちゃんが人見知りとかつまらない。
 遠路はるばる来てくれたっぽいし、サービスするのも仕事だよね?
 てな訳で。

「あぅっ………っきゃぁあ♪」

 『クーイング』(満面の笑み)
 【範囲精神攻撃・容姿と年齢によって攻撃力が変動する・血縁への効果は抜群だ。
 追加効果…対象の攻撃力と行動回数が増す。】
 支援バフかな?
 あぁ~……若い女性陣が頬染めてうっとりしてるよ……これは覚悟しておかないと。
 言葉は分からずとも「可愛い」を連発されているのは分かる。
 物心付いてるなんて気付かれたら死にたくなるな。
 冥土の土産、追加確定。


 夕刻、お父さんが追加で5人の冒険者を引き連れ帰宅した。 お姉ちゃんによると、親戚達一同の護衛を勤めてくれたらしい。
 若い女性2人と若い男性2人、おっさん1人。
 高校生くらいの元気オーラ溢れる黒髪の人(女性)。
 こちらも高校生くらいの、風紀委員長とかしてそうな灰毛並み兎人とじん(女性)。
 眼鏡の似合いそうなグリーンコーネルピン色ロングのクォーターエルフ(男性)。
 中学生にしか見えないマンダリンガーネット髪ハーフリング(男性)。
 180前後ありそうながたいの良いルビー髪ハーフドワーフ(イケおじ)。
 聞き慣れない髪色だったのは、お姉ちゃんが宝石に例えたからだ。 なんでも、精霊が祖先と言われている種族は髪が透き通った半透明になりやすく、宝石で例えられることが多いらしい。
 男性陣ばっかじゃねぇか。 黒髪さんの趣味とか言わないだろうな。

 これ以上の情報は、両親から聞かないと不自然だ。 と言うので、湧き出る知識欲にモヤモヤしつつ異世界語リスニング(上級編)の授業を開始する。


 見ぃるぅなぁ~~!!!!
 オムツ替え皆で見るなぁ!!!!!
 男は特にやめろぉぉ~~~!!!
 黒髪の冒険者と兎人さんが気が付いた!
 反復横跳びで神回避すんな青髪のテメェこの野郎!!! いくらお父さんの友人でも覚えてろよ!!
 いややっぱ忘れろ!! 私だけ覚えていればそれで良いから!
 視姦しようとしたってイジり続けてやる!!

・ ・ ・

 翌日、客室に布団を並べていたお父さん家へ運ばれる。 ちなみに冒険者メンバーは昨日の夜に宿屋へと帰っていた。
 既に両家の子供達が揃っており、朝食を食べている。
 パン(固め)、野菜スープ(セロリ・ニンジン・ジャガイモ・玉ねぎ・干し肉)、目玉焼き(キャベツの千切り添え)、梅干(?)。
 うん……安心したような期待外れなような。 まさかだけど実は日本と交易してない?

 この世界は農業は勿論、鶏・豚・牛・羊・ヤギ・馬・鹿なんかも家畜としている。
 魚介類の養殖も盛んで、氷結の刻印魔法陣と魔石の存在により、山岳地帯への輸送すら可能としているそうだ。

((冷凍保存はね、戦時下、魔王軍に凍らされた村から偶然生肉が発見されて、応用したらしいよ))
たくましいな)

 転んでもタダでは起きなかったか。

 乾物・漬物は言うまでもなく保存食として広まり、研究者によって細菌の存在も周知しゅうちとなった。 この家ではまだ見てないが、納豆・味噌・醤油らしき物が主要都市では既に出回っているらしい。
 助かった、食いたくても作り方なんて知らないし。 味が違う可能性もあるけど代用くらいはできるだろう。
 最近のファンタジー系って発酵を研究してる専門学生ならまだしも、チート高校生が一から魔法で作っちゃって、賢者扱いされて、王族からも評価される~なんて展開が多いからなぁ。 おのれは磨きたいけど、目立ちたくない私にとっては嬉しい誤算だ。
 権利争奪とか経済戦争なんて面倒だし。 金と同価値とかでなければそれで良いよ。


 さすが異世界の子供達、好き嫌い無く完食ですわ。 いや、親の教育が素晴らしいのかな?
 私も苦手な野菜を残さないように気を付けないとね。 叱られるどころか嫌われかねない。
 食後のオヤツはもちろん私。
 我先にと囲まれ、もち肌を玩ばれる。 喋れも歩けもしないので、昨日とやられることが変わらない。
 無限ループって怖くね? 前世のペット達もこんな気持ちだったのだろうか……。


 お父さんが仕事に行った後、せっかくなので観光をと、全員で村を回った。
 祖父母からしてみれば子供だけで暮らす遠い地、どんな環境で生活しているか心配だろう。
 と言っても観光に適した場所なんて無いらしく、結局、商店街を巡ることに。

 馴染みの店々に挨拶しつつ、これといったイベントも無いまま時間が過ぎる。 子供達には屋台で売られていたフルーツスムージーをあげているが、体力と好奇心をもて余していそうだ。
 子供を見てて羨ましかったらしく、友人組も買っている。
 結局、スムージー作りに使っている、風刃&旋風つむじかぜの刻印魔法陣ミキサーに驚いたのは私だけだった。 氷は難なく砕いてるのにガラスに傷がつかないのが謎だ。

 生活水準が上がったからといって、田舎に娯楽施設やショッピングセンターがあるわけでもない。 強いて言うならお祭りだろうけど、そんなイベントがこの村にあるのかすら私とお姉ちゃんはまだ知らない。
 終始、挨拶回りとなった。


 人通りを外れ、森に近い農耕地区・畜産地区も見学する。
 森との境界線には大人の腰ほどの、先の尖った杭が三列に並んでいた。 農村にしてはなんとも禍々まがまがしいが、設計ミスか? 間隔が開きすぎていて小動物なら通れそうなんですが。
 農地は広い。 商店街+住宅街よりも広いのでは? 特に幅をとっているのは小麦と綿わたらしい。 秋収穫で今は無いけど。
 野菜の種類も多く、それぞれが大切な商品だ。 基本、地産地消だが、作物の輸出入や木材製品の下請けで成り立っているとのこと。
 大人に混じり、地元の子供達も畑を手伝っている。 今は休憩中。
 青緑色の作業着に残る土汚れで、真面目に働いているのが一目で分かった。 元農業科学科の生徒として、懐かしさと親近感を感じる。 家は農家じゃなかったけど、畑はあったし。

 祖父母が大人組に混ざり、子供達は子供組に混ざる。 私と母も子供組に混ざり、また玩ばれ始めた。
 行場を失う友人組。 まぁ、放置してても勝手に楽しそうな連中なので気にする必要もない。


 畜産地区は農地よりは狭い。
 端が村の出入り口に隣接していて、そこで馬車を預かり、馬の世話で稼いでいる。
 客は商人が主らしく、馬の世話は商人割引するらしいが、村では保存食料も多く取り扱っているためチーズや干し肉・油脂で利益を出しているらしい。
 育てているのは、鶏・豚・乳牛・馬。
 馬は食用というより貴重な足だ。 しかし重い怪我を足にすると、自重で他の足にも影響がでる。 苦しませないため・命を無駄にしないために安楽死させる時に限っては、食用として出回るとのこと。
 だから友人組よ、美味しそうな馬を探すな。
 ペタペタ触るな、蹴られても知らんぞ。
 おい待て!? 私を連れてくな青髪! 馬に乗せるな!!
 高い高い!! 落ちたらどうする!!
 離すなよ!? 絶対手ぇ離すなよ!!?
 てかどこ連れてかれたお母さん!?!
 と、横から兎人の冒険者さんが私を抱き上げてくれた。
 ありがとぉ!
 不安定で怖かったよぉ~!
 肩の短い毛が頬に気持ち良い。 兎は触ったこと無いけど、兎人さんの毛並みは一本一本がしっかりしていて、滑らかで……あっ、良い匂い。
 ちょっとの動物っぽさに柑橘系みたいな香りがする。 小太郎(前世のペット)をシャンプーした後みたいだ。
 絶妙じゃないか。
 癒されていると、兎人さんと青髪の口論が止まった。
 のに無表情な兎人さんの殺気が凄い。

((あぁ~、この馬車馬、兎人さん達が護衛してる護送馬車の馬なんだって))
(あぁ……)

 と、兎人さんが私を抱えたまま回転、回し蹴りを青髪へと叩き込んだ。
 護衛対象に容赦ねぇな!? いいぞもっとやれぇ。
 「馬に蹴られそうだったから」とか言ってるらしいけど、絶対それだけじゃないよね?

・ ・ ・ ・

 それから4日間、それぞれ自由行動(子供は親と)となった。
 両親の仕事場を訪問する祖父母。 住民共用の憩いの草原で地元の子と遊ぶ子供組。 たまに来る桃ロングさんとフローラちゃんまで標的にされ、私とお姉ちゃん(通訳)とフローラちゃんは癒し担当として大忙しだった。
 しかし、一番騒がしかったのは子供より、二日間それまで大人しめだった友人組。
 でもまだ大人しめだった友人組。
 特に誰ではなく、相乗効果的に全員が。
 もうあいつら嫌だ……疲れる。
 行動力が先走ってる青髪野郎。
 アイデアは出すけど先を考えていない緑髪チビ女。
 おっとりだけど金銭感覚ズレた令嬢みたいな白髪ポニーテール。
 白ポニへのアピールがウザい茶毛並み猫耳男。
 私の両親への性的アピールが直球な紫ボブ・ショートヘア女。
 紫ちょっと待てやコラァ!
 
 もうね、多すぎて細かすぎて面倒くさい。
 連携のとれたコントみたいだった。
 特に歩行練習のため、草原におろされた時はイラついた。 脇を持たれていきなり立たされたり(崩れ落ちた)、隣でハイハイ競争始めるし(子供&友人組)、高い高いで胴上げみたいに手を離されたり(友人組……)、草原に一人で放置されたり(友人組ぃ!)。
 いいかげん大音量で泣き叫んでやったらお母さんに怒られてやんの。
 ざまぁみろ。

 騒がしい(主に友人組)5日間が経過し、別れの朝。
 あの冒険者メンバーと二台の馬車に迎えられ、親戚・友人達は帰って行った。 バイバイとお母さん補助で手を振りながら、視線が友人組から逸れていたことを彼らは知らない。

((元気な人達だったねぇ……))
(借りてきた猫が初手から縄張りを主張し始めた感の図々しさがあったね)
((友人組の印象しか残ってないや))

 人見知りこじらせて名前と顔覚えるの苦手な私が、危険人物として顔は覚えたよ。
 多分あれだ、お父さんとお母さんが奴らの制御装置だったんだ。 昼間お母さんしかいなかったから暴走したんだね。
 じゃなきゃ嫌だ。 両親がアレと同類とか思いたくない。

((もし次があったら、せめて歩けて喋れるようになっておきたいね))
(うん、腹パン出来るくらいには育っておきたいかな)
((目が怖いよぉ?))
(楽しそうだね、お姉ちゃん?)
((良い夢でも見せてあげようかなぁって思ってるだけ♪ サキュバスらしい夢を、ね))

 黒い瞳が赤くきらめく。

(そっかぁ。 私は女に産まれて心底嬉しいよ。 殴れない性別は無いからね)
((フフフフッ♪))
(フフフフッ♪)
 
 こうして、私達は人生最初の目標を定めたのだった。
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