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出会い
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隣から、唐突に声が聞こえてきた。思わず僕はそちらを振り向いた。するとそこには、僕と同じくらいの女の子がいた。
「あ!お城こわれてる!」
そう言われてハッとした僕は、さっきまで作っていた砂の城を見た。それは、半分くらい壊れてしまっていた。
「なにするの!」
僕は、今も隣に居続けている女の子にそう言った。目尻には、涙が溜まっていたかもしれない。
「ごめんね。お城つくりなおすの手伝ってあげるから。ね?」
目線の先の女の子は、僕にそう言った。
それから暫く、二人で無言を貫きつつ城の修復作業を続けていた。
日も暮れてきた頃、遂に城が完成した。単純な造りではあるが、いい出来だった。
「……あ、そろそろ帰らなきゃ。」
暗くなる前には帰ってこいと、母に言いつけられていた。
「じゃあさいごにさ、名前おしえてよ。」
君は僕に、そう言った。
「そっちが先に言ってよ」
「わたし?私はねぇ、さいか。」
これが、僕と彩花の出会いだった。確か、五歳の頃だ。
次の日も、その次の日も、僕はいつも同じ公園で飽きもせず遊んでいた。そしてそこには、必ず彩花がいた。滑り台の上に登って高さにビクビクしていたときも、ジャングルジムから危うく落ちそうになったときも、絶対に彩花はいた。彩花がジャングルジムから落ちかけていたこともあった。僕と彩花は、すぐに仲良くなっていった。そうなる運命だったかのように。
ある日、彩花はこう言った。
「きょうはお人形であそぼうよ」
彩花は、薄茶色のテディベアを持ってきていた。彩花の右手はテディベアの左腕だけをがっちり掴んでいて、その付け根は中の白い綿が見えそうになっていた。僕はそれが、少し不快だった。左腕がもげたらどうするんだと、未就学児ながらにも心配だった。今考えれば、ちぎれても縫い合わせればいいだけなのだが。
彩花は、半ば強引に人形遊びをし始めた。正直、僕は人形なんかに興味はなかった。だが、何もせずにいたら彩花に怒られてしまった。「ちゃんとやってよ~」と、頬を膨らませて言っていた。
横暴だなぁ、と思いながら彩花と人形遊びを続けていた。途中からは段々と僕自身も楽しくなっていって、楽しくなかった人形遊びに熱中していた。
まだあまり時間が経った感じはしなかったが、しっかり日は暮れていた。
僕たちはいつも、帰る前は二人でブランコを漕いでいた。時には二人してどうでもいいことを話しながら小さな揺れを楽しんだり、時にはどっちがより高くいくかというシンプルな競いごとをしてみたり、時には彩花が僕に立ち漕ぎを披露したり、ブランコだけでも沢山の事をした。
この日は、僕も立ち漕ぎの練習をした。彩花にだけできて、僕にはできないという事実が悔しかった。
だが、そう簡単にはできなかった。当時の僕は、相当怖がりだったらしい。ブランコに乗ることすらままならなかった。ブランコに片足を乗せ、後はもう片方の足を乗せるだけというところで、バランスを崩したり乗った後が怖くなったりで、せっかく乗せた片足を降ろしてしまっていた。
僕がそんなことを繰り返している間にも、彩花は余裕綽々といった感じで立ち漕ぎをしていた。それが、無性に悔しかった。
片足を乗せ、悔しさからなんの躊躇いもなくもう片方の足を上げた。すると、さっきまで苦戦していたのが嘘かのように、いとも簡単にブランコに乗ることができた。後は漕ぐだけ、といったところで足元を見て、急に怖くなって、直ぐに降りてしまったが。
その時、いよいよ帰らないとしっかり怒られる時間だと気付き、僕たちは別れた。今思うと、そもそもなんであの頃の僕らのそばに親はいなかったのだろうか。なぜずっと家にいたのだろうか。
それからもずっと、僕たちは飽きもせず毎日あの公園で遊んでいた。
僕と彩花が七歳になる年の四月のある日。
僕と彩花の、小学校の入学式があった。
「あ!お城こわれてる!」
そう言われてハッとした僕は、さっきまで作っていた砂の城を見た。それは、半分くらい壊れてしまっていた。
「なにするの!」
僕は、今も隣に居続けている女の子にそう言った。目尻には、涙が溜まっていたかもしれない。
「ごめんね。お城つくりなおすの手伝ってあげるから。ね?」
目線の先の女の子は、僕にそう言った。
それから暫く、二人で無言を貫きつつ城の修復作業を続けていた。
日も暮れてきた頃、遂に城が完成した。単純な造りではあるが、いい出来だった。
「……あ、そろそろ帰らなきゃ。」
暗くなる前には帰ってこいと、母に言いつけられていた。
「じゃあさいごにさ、名前おしえてよ。」
君は僕に、そう言った。
「そっちが先に言ってよ」
「わたし?私はねぇ、さいか。」
これが、僕と彩花の出会いだった。確か、五歳の頃だ。
次の日も、その次の日も、僕はいつも同じ公園で飽きもせず遊んでいた。そしてそこには、必ず彩花がいた。滑り台の上に登って高さにビクビクしていたときも、ジャングルジムから危うく落ちそうになったときも、絶対に彩花はいた。彩花がジャングルジムから落ちかけていたこともあった。僕と彩花は、すぐに仲良くなっていった。そうなる運命だったかのように。
ある日、彩花はこう言った。
「きょうはお人形であそぼうよ」
彩花は、薄茶色のテディベアを持ってきていた。彩花の右手はテディベアの左腕だけをがっちり掴んでいて、その付け根は中の白い綿が見えそうになっていた。僕はそれが、少し不快だった。左腕がもげたらどうするんだと、未就学児ながらにも心配だった。今考えれば、ちぎれても縫い合わせればいいだけなのだが。
彩花は、半ば強引に人形遊びをし始めた。正直、僕は人形なんかに興味はなかった。だが、何もせずにいたら彩花に怒られてしまった。「ちゃんとやってよ~」と、頬を膨らませて言っていた。
横暴だなぁ、と思いながら彩花と人形遊びを続けていた。途中からは段々と僕自身も楽しくなっていって、楽しくなかった人形遊びに熱中していた。
まだあまり時間が経った感じはしなかったが、しっかり日は暮れていた。
僕たちはいつも、帰る前は二人でブランコを漕いでいた。時には二人してどうでもいいことを話しながら小さな揺れを楽しんだり、時にはどっちがより高くいくかというシンプルな競いごとをしてみたり、時には彩花が僕に立ち漕ぎを披露したり、ブランコだけでも沢山の事をした。
この日は、僕も立ち漕ぎの練習をした。彩花にだけできて、僕にはできないという事実が悔しかった。
だが、そう簡単にはできなかった。当時の僕は、相当怖がりだったらしい。ブランコに乗ることすらままならなかった。ブランコに片足を乗せ、後はもう片方の足を乗せるだけというところで、バランスを崩したり乗った後が怖くなったりで、せっかく乗せた片足を降ろしてしまっていた。
僕がそんなことを繰り返している間にも、彩花は余裕綽々といった感じで立ち漕ぎをしていた。それが、無性に悔しかった。
片足を乗せ、悔しさからなんの躊躇いもなくもう片方の足を上げた。すると、さっきまで苦戦していたのが嘘かのように、いとも簡単にブランコに乗ることができた。後は漕ぐだけ、といったところで足元を見て、急に怖くなって、直ぐに降りてしまったが。
その時、いよいよ帰らないとしっかり怒られる時間だと気付き、僕たちは別れた。今思うと、そもそもなんであの頃の僕らのそばに親はいなかったのだろうか。なぜずっと家にいたのだろうか。
それからもずっと、僕たちは飽きもせず毎日あの公園で遊んでいた。
僕と彩花が七歳になる年の四月のある日。
僕と彩花の、小学校の入学式があった。
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