君からの君へのプレゼント

平沼敬

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平山彩花

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 暫く、呆然としていた。
 ついさっきまでそこにいた平山ひらやま彩花さいかは、なんの前触れもなく忽然と姿を消した。神隠し、とでも言うのだろうか。だが、神隠しが目の前で起こるだなんて、そんなことがあるのだろうか。あるのだとしたら、神様はドジなのだろうか。ドジだから、俺の記憶からもこの世からも、平山彩花という一人の人間を消してしまったのだろうか。
 一層強くなる雨とはまた別に、俺の頬を濡らすなにかがあった。俺は、ひどく雨に打たれた地面に膝から崩れ落ちた。
「ぁあ……ぁ……あぁぁ……!」
声にならない声が、絶え間なく漏れ続ける。心が、地面よりも泥濘んでいく。
 あぁ、彩花。
 どうして君は――

 暫く雨に打たれていると、少しずつ声にならない声は収まってきた。
 心は、泥濘みきっている。だからむしろ、せいせいした。いくら嘆こうが、事実は変わらないのだ。
 俺は、家に向かって再び歩きだした。

 家の扉を、そっと引いた。だが、開かない。鍵がかかっていた。流石に、怒らせすぎただろうか。
 しかし、家に入れないというのはかなり困る。そこで俺は、裏に回って窓から入ることにした。窓が開いている確率は極端に低いが、扉は鍵がかかっているし、裏門もない。つまり、窓から入る以外に方法はないのだ。
 鍵くらい、持ってきておけばよかった。
 窓に手をかけて、開くかどうか確かめてみた。すると、その窓は耳障りな音を立てつつも、すんなり開いてくれた。
 助かった。これで、中に入れる。
 家の中は、当たり前に暗かった。
 リビングに出たが、そこに家族はいない。寝ているのだろうか。それとも……
 嫌な予感が、頭を過る。
 ふと、時計を見た。暗くてはっきりとは見えないが、確実に日は跨いでいそうだ。
 よかった。嫌な予感は外れていそうだ。
 階段を登った先の、部屋の扉を開いた。
 部屋の中は、走り出す前と何も変わっていなかった。
 俺と彩花が写った一枚の写真は、相変わらず埃が被ったままだ。指で拭って、彩花の顔にかかった埃を取った。彩花は、最高の笑顔で写っていた。
 手についた埃を適当なところに払ってベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めた。
 枕に、涙が滲んだ。
 せいせいしただなんて、大嘘だ。本当は、まだ気持ちの整理はついていなかった。ただただ泥濘んで、ほんの少し冷静になっただけだったのだ。それが、彩花の笑顔できれいに砕かれた。それに今は、純粋な悲しみだけじゃない。今まで忘れていたことへの苛立ち、何もできない不甲斐なさ、そんな色々な感情が入り混じって、涙を流していた。

 それからずっと、泣いた。涙が枯れるまで泣いた。涙が枯れても泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けて、俺の意識は落ちていった。

 「何してるの?」
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