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第3部 カレーのお釈迦様
第46話 海賊の凱旋 ☆
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大半の船が沈み、ケルビエルは倒され、大破・小破されながらも辛うじて航行可能な数十の敵船には、今や指揮系統も何もない。
ぼろぼろの白い船団は、もはや艦隊の体を成さず、てんでばらばらに離脱・逃走にかかる。
「追わんでええぞーい。見逃して、ワシらの強さを教会に報告させてやるんじゃあ。わっはっは。その旨、旗を上げて全艦に知らせい」
またもや冷静な判断かと。
ルイジ船長、いや、提督閣下。重ね重ね感服であります。
海面は無数の死体、敵船の残骸、そして破片に掴まって息も絶え絶えに漂っている兵士や水夫で一杯だ。
なにしろ兵士だけで2万、水夫も入れるともっと多くの軍勢だったからねえ。
普段は穏やかな筈の青い海が、今日はとんでもない惨状だ。
殆どが戦死や溺れ死んだとしても、まだ1000や2000の生き残りはいる。
その漂流者たちを海賊たちが救け上げている。
あれは?
「海戦は終わったけんのう、敗残兵を救助するのは勝者の務めくさ」
おお、なんて高潔な。
これはもはや、海賊というより、正義と礼節を重んじる正統派の海の戦士だね。
感激であります!
「じゃけんど、子供たちは残念じゃった。可哀そうなことをしたのぉ」
「あの子たちなら、きっと大丈夫ですよ」
「なんと、ほぅけ?」
「はい、すぐにケロッとして顔を見せると思います」
「そりゃあ良かったさあ!」
「それよりも海賊さんたちの方が。大勝利とはいえ、やっぱり犠牲も出たみたいだから」
「戦じゃから、仕方のないこっちゃ。皆、大切な家族やワシらの地・アガルタを守るために自ら進んで戦い、傷つき、誇りを持って死んでいったすけ」
そうは言ってもなあ……
(これが戦争だ。戦うからには尊い犠牲は避けられん。しかし、戦わなければ惨めに滅ぼされるだけだ。お前はもう、そういった道に入り込んでしまったのだ。逃げられぬぞ。心せよ!)
そして海賊艦隊はやがてその作業も終え、船列を整えて港への帰路に就く。
湾に入ると海にも陸にも反響する大歓声。
岬に据えられた砲台からも声がして、手を振る大勢の姿が見える。
こんなの初めてだ。
(そうか。そうだったな)
うん。このあいだ獣王を倒した時は、サリエルとも戦って、その後に倒れちゃったからね。
それに、いくら魔物を討伐しても、ヒト族にはこんな風に喜んでもらえることってなかったもの。
全ては自分たちの信仰がもたらす恩寵だって、勇者が魔物や魔族を滅するのも当然の仕事で、全ては全能の父の思し召しだって、心の底では思ってるからね。
喜んでくれてる体でも、全然違う。
だから、こんな風に本気で凄く喜んでもらうと自分も嬉しいんだって、今知った。
(そうか……)
埠頭には歓喜の大群衆。艦隊の勝利の凱旋を一層の歓声で出迎えてくれた。
驚いたのは、その最前列にイシュタルとベリアル君が「しれっ」と混じっていたことだ。
船が桟橋に着くと、まずベリアル君が駆け寄って来て
「お帰りなさいませ。さすがはアスラ様。新魔王の名に恥じない、見事な戦い振りでございました」
なんて、優雅な口調で挨拶をし、行儀よく頭を下げる。
でも、ついさっきの歪み切った狂乱の貴公子ぶりを見ちゃってるからねえ。
なーんか素直に喜べないぞ。
「ま、まあね。アンタも結構やるじゃない。少しは認めてやってもいいわよ。でも、アタシはそれ以上に活躍したけどぉ~」
これはもちろん、わざとらしく余所見しながら遅れて歩いてきたイシュタル嬢・談。
はいはい、そんなに嫌々ながら褒めてくれなくてもいいですよ。
そして、驚いたことに2人とも全くの無傷!
服装さえ乱れちゃいない。
(言ったろう。こ奴らがあの程度で殺られるものか。高位の悪魔と太古の女神だぞ。その気になったら、こ奴ら2人だけでケルビエルを屠っていただろう)
えっ? じゃあ私のやったことは無駄?
(そうではない。巻き添えを最小に抑えた戦い振りは見ごたえがあったぞ。
ベリアルとイシュタルに任せておったら、こ奴らの事だ、ケルビエル相手となれば本気を出して、味方の事などお構いなしに、好き放題にやらかしかねん。そうすれば、どれ程の犠牲がでたことか。
お前にとっても皆にとっても、意義のある戦いだったな)
あれぇ、めずらしく褒めてるぅ?
(な、何を言う。珍しくなどとは失礼な。我はいつも褒めるべき時はちゃんと……)
はいはい、いいよいいよ、照れなくても。
嬉しかったからね。あ・り・が・と。
(全く、嬉しいなら嬉しいと素直に言えばいいものを)
海賊さんたちは涙を流す家族と抱き合い、友と手を握り合い、その間にも次々と後続の船が桟橋に接舷し、喜びの声の波は暫くは止みそうにない。
それにしても、お腹空いたぁ。
だって、戦いのせいでお昼ご飯抜きだもの。
と、そこにルイジ提督の大声が!
「宴会じゃあ!!!」
そして、大勢の子供たちの輪から離れて、こちらにやって来て
「勿論、お嬢ちゃんたちも一緒じゃあ。もともと今日は祭りだったすけ、豪華な料理が揃っとおる。ちょうど良かっただなも」
おお、宴会! 豪華な料理!
待ってました。
ということは、もしかして例の料理も。
楽しみぃーっ。
歓喜に満ちた表情の群衆は、大人も子供も、男も女も、今だ口々に大声で嬉しさを語り合いながら、大通りを南西へ向かって歩き出す。
街の中心から少し離れたところに、それだけは際立って大きな建物。
でも外壁の白っぽい煉瓦造りや、全体の雰囲気は街のあまたの家々と一緒だ。
たぶん集会場とか、そんなところだろう。
そこに満杯の人々が集まった。
わざわざ急いで家に帰って着替えてきたのか、長いマントや刺繍を施したシャツ、大きな銀のバックルのついたベルト、踵の高い靴なんて出で立ちの人も多い。お洒落だなあ。
女の人も着飾って、フリルを沢山あしらった、ウエストが細くってスカートが膨らんだロングドレスとか。
で、男にも女にも派手な帽子が大人気。でも、室内で帽子って、意味あるのか?
テーブルが何十も据えられてはいるが、それでも皆が座れる筈はない。
車座になって座り込んだり、立ったままの人もいる。
ありゃりゃ、料理が運ばれる前からワインのグラスを傾けたり、酒瓶のままラッパ飲みしてるまで人もいるぞ。
でも、誰も咎めはしない。
来る途中に見かけたけど、公園や家、あちこちの路上でも、もう既に陽気な酒宴が始まっていた。
ここでルイジ提督からひと言。
「長ったらしい挨拶は抜きじゃあ。勝利の祝宴やさけ、無礼講でいくぞい。それ、乾杯だみゃー!」
「「「「「「「「「「おおーッ! かんぱーい!」」」」」」」」」」
いやいや、乾杯以前に、もう顔の赤い人が相当数いますけど。
(海賊とはこういうものだ。しかも年に一度の祭りの日で、重ねて勝利の祝宴だぞ。行儀や式次第など、考えるだけ野暮というものだ。)
私たちが座っているのはルイジ提督と同じテーブル。
短い挨拶を終えた提督が、大振りのグラスになみなみとついだ透明の液体を一気飲みして、立ったまま、甘い霧のような息を吐きながら
「ぷはぁー! 美味ぇのっし。ほれ、お嬢ちゃんたちも『ぐーっ』といかんかい」
言われて口に含んでみると、な、なんとこれが強烈な度数のラム酒。
ほんの少しだけで舌と口蓋全体に焼けるような刺激が!
うっ、む、咽そう。
「はっはっ、なーんじゃ。イケん口かいな」
「は、はぁっ、はあ…… ま、まだ、前期乙女なんで」
「つまらんのう。ほれ、あの子たちを見やっしゃい。軽ーく2杯目じゃっど」
と、提督はどっかと椅子に腰をおろす。
言われて「えっ」と目をやると、お子ちゃま二人はこの強烈な液体を、何事もないかのように涼しい顔で、ごくごくと喉に流し込んでいた。
グラスを小さな両手で持って、さもミルクかジュースを飲むかのように。
恐ろしい。
(なりは子供でも、数千年も生きてきた女神と悪魔だぞ。この程度の度数の酒など飲み飽きているぐらいだ。お前とは違う)
ルイジ提督も軽く2杯目を空け、私の肩を何度も叩きながら
「いやあ、まっこと今日は愉快だったぜよぉ。教会の船団め、思い知ったかい」
「あ、そういえば救け上げられた教会軍の兵士や水夫たちは」
「捕虜じゃけんなあ、まあ、暫くは監視の下、畑や猟で強制労働じゃ。なあに、そう無茶な扱いはしやあせん。1年もしたら自由にしてやるずら」
「と言うと」
「解放じゃ。そうして、仕事を覚えてこの村に残りたい衆は残すさあ。故郷に帰りたい者や、どこか別の土地に行って暮らしたい者は、当座の食糧と水を与えて『ほな、さいなら』だべぇ」
なんと寛大な。
敵だった者たちを受け入れたり、一方で、去る者は追わずですか。
「ほな、さいなら」の語感はともかく、言ってることはやっぱりカッコいい。
ここらでいよいよ料理が運ばれてきた。
海賊らしく最初から骨付きの肉、とか思ってたら、まずテーブルに置かれたのは大きな木のボウルに入った「たっぷり」のサラダ。
「まずはやはりサラダさね。生野菜はちゃんと摂取せんと、健康に悪いからにゃあ」
あら、海賊さんも健康には留意されるんですね。
そしてまあ、提督さんがもりもりとサラダを頬張ること。
咥えて、噛みくだいては酒で流し込み、また頬張る。
こりゃあ馬や牛とか、大型の草食動物並みだな。
ほら、お子ちゃま二人もお酒ばっかり飲んでないで、しっかり生野菜もたべないとダメじゃないか。
「今日は海賊だったが、明日からはまた猟や畑の毎日じゃさけえ、野菜も肉もがっつり食べて、体力と英気を養うのっし」
あ、やっぱり肉も食べるのね。
ということで、次はいよいよ…… と、2・3キロはありそうな骨付きの肉塊を想像していたら、そこに出てきたのは――――――
ぼろぼろの白い船団は、もはや艦隊の体を成さず、てんでばらばらに離脱・逃走にかかる。
「追わんでええぞーい。見逃して、ワシらの強さを教会に報告させてやるんじゃあ。わっはっは。その旨、旗を上げて全艦に知らせい」
またもや冷静な判断かと。
ルイジ船長、いや、提督閣下。重ね重ね感服であります。
海面は無数の死体、敵船の残骸、そして破片に掴まって息も絶え絶えに漂っている兵士や水夫で一杯だ。
なにしろ兵士だけで2万、水夫も入れるともっと多くの軍勢だったからねえ。
普段は穏やかな筈の青い海が、今日はとんでもない惨状だ。
殆どが戦死や溺れ死んだとしても、まだ1000や2000の生き残りはいる。
その漂流者たちを海賊たちが救け上げている。
あれは?
「海戦は終わったけんのう、敗残兵を救助するのは勝者の務めくさ」
おお、なんて高潔な。
これはもはや、海賊というより、正義と礼節を重んじる正統派の海の戦士だね。
感激であります!
「じゃけんど、子供たちは残念じゃった。可哀そうなことをしたのぉ」
「あの子たちなら、きっと大丈夫ですよ」
「なんと、ほぅけ?」
「はい、すぐにケロッとして顔を見せると思います」
「そりゃあ良かったさあ!」
「それよりも海賊さんたちの方が。大勝利とはいえ、やっぱり犠牲も出たみたいだから」
「戦じゃから、仕方のないこっちゃ。皆、大切な家族やワシらの地・アガルタを守るために自ら進んで戦い、傷つき、誇りを持って死んでいったすけ」
そうは言ってもなあ……
(これが戦争だ。戦うからには尊い犠牲は避けられん。しかし、戦わなければ惨めに滅ぼされるだけだ。お前はもう、そういった道に入り込んでしまったのだ。逃げられぬぞ。心せよ!)
そして海賊艦隊はやがてその作業も終え、船列を整えて港への帰路に就く。
湾に入ると海にも陸にも反響する大歓声。
岬に据えられた砲台からも声がして、手を振る大勢の姿が見える。
こんなの初めてだ。
(そうか。そうだったな)
うん。このあいだ獣王を倒した時は、サリエルとも戦って、その後に倒れちゃったからね。
それに、いくら魔物を討伐しても、ヒト族にはこんな風に喜んでもらえることってなかったもの。
全ては自分たちの信仰がもたらす恩寵だって、勇者が魔物や魔族を滅するのも当然の仕事で、全ては全能の父の思し召しだって、心の底では思ってるからね。
喜んでくれてる体でも、全然違う。
だから、こんな風に本気で凄く喜んでもらうと自分も嬉しいんだって、今知った。
(そうか……)
埠頭には歓喜の大群衆。艦隊の勝利の凱旋を一層の歓声で出迎えてくれた。
驚いたのは、その最前列にイシュタルとベリアル君が「しれっ」と混じっていたことだ。
船が桟橋に着くと、まずベリアル君が駆け寄って来て
「お帰りなさいませ。さすがはアスラ様。新魔王の名に恥じない、見事な戦い振りでございました」
なんて、優雅な口調で挨拶をし、行儀よく頭を下げる。
でも、ついさっきの歪み切った狂乱の貴公子ぶりを見ちゃってるからねえ。
なーんか素直に喜べないぞ。
「ま、まあね。アンタも結構やるじゃない。少しは認めてやってもいいわよ。でも、アタシはそれ以上に活躍したけどぉ~」
これはもちろん、わざとらしく余所見しながら遅れて歩いてきたイシュタル嬢・談。
はいはい、そんなに嫌々ながら褒めてくれなくてもいいですよ。
そして、驚いたことに2人とも全くの無傷!
服装さえ乱れちゃいない。
(言ったろう。こ奴らがあの程度で殺られるものか。高位の悪魔と太古の女神だぞ。その気になったら、こ奴ら2人だけでケルビエルを屠っていただろう)
えっ? じゃあ私のやったことは無駄?
(そうではない。巻き添えを最小に抑えた戦い振りは見ごたえがあったぞ。
ベリアルとイシュタルに任せておったら、こ奴らの事だ、ケルビエル相手となれば本気を出して、味方の事などお構いなしに、好き放題にやらかしかねん。そうすれば、どれ程の犠牲がでたことか。
お前にとっても皆にとっても、意義のある戦いだったな)
あれぇ、めずらしく褒めてるぅ?
(な、何を言う。珍しくなどとは失礼な。我はいつも褒めるべき時はちゃんと……)
はいはい、いいよいいよ、照れなくても。
嬉しかったからね。あ・り・が・と。
(全く、嬉しいなら嬉しいと素直に言えばいいものを)
海賊さんたちは涙を流す家族と抱き合い、友と手を握り合い、その間にも次々と後続の船が桟橋に接舷し、喜びの声の波は暫くは止みそうにない。
それにしても、お腹空いたぁ。
だって、戦いのせいでお昼ご飯抜きだもの。
と、そこにルイジ提督の大声が!
「宴会じゃあ!!!」
そして、大勢の子供たちの輪から離れて、こちらにやって来て
「勿論、お嬢ちゃんたちも一緒じゃあ。もともと今日は祭りだったすけ、豪華な料理が揃っとおる。ちょうど良かっただなも」
おお、宴会! 豪華な料理!
待ってました。
ということは、もしかして例の料理も。
楽しみぃーっ。
歓喜に満ちた表情の群衆は、大人も子供も、男も女も、今だ口々に大声で嬉しさを語り合いながら、大通りを南西へ向かって歩き出す。
街の中心から少し離れたところに、それだけは際立って大きな建物。
でも外壁の白っぽい煉瓦造りや、全体の雰囲気は街のあまたの家々と一緒だ。
たぶん集会場とか、そんなところだろう。
そこに満杯の人々が集まった。
わざわざ急いで家に帰って着替えてきたのか、長いマントや刺繍を施したシャツ、大きな銀のバックルのついたベルト、踵の高い靴なんて出で立ちの人も多い。お洒落だなあ。
女の人も着飾って、フリルを沢山あしらった、ウエストが細くってスカートが膨らんだロングドレスとか。
で、男にも女にも派手な帽子が大人気。でも、室内で帽子って、意味あるのか?
テーブルが何十も据えられてはいるが、それでも皆が座れる筈はない。
車座になって座り込んだり、立ったままの人もいる。
ありゃりゃ、料理が運ばれる前からワインのグラスを傾けたり、酒瓶のままラッパ飲みしてるまで人もいるぞ。
でも、誰も咎めはしない。
来る途中に見かけたけど、公園や家、あちこちの路上でも、もう既に陽気な酒宴が始まっていた。
ここでルイジ提督からひと言。
「長ったらしい挨拶は抜きじゃあ。勝利の祝宴やさけ、無礼講でいくぞい。それ、乾杯だみゃー!」
「「「「「「「「「「おおーッ! かんぱーい!」」」」」」」」」」
いやいや、乾杯以前に、もう顔の赤い人が相当数いますけど。
(海賊とはこういうものだ。しかも年に一度の祭りの日で、重ねて勝利の祝宴だぞ。行儀や式次第など、考えるだけ野暮というものだ。)
私たちが座っているのはルイジ提督と同じテーブル。
短い挨拶を終えた提督が、大振りのグラスになみなみとついだ透明の液体を一気飲みして、立ったまま、甘い霧のような息を吐きながら
「ぷはぁー! 美味ぇのっし。ほれ、お嬢ちゃんたちも『ぐーっ』といかんかい」
言われて口に含んでみると、な、なんとこれが強烈な度数のラム酒。
ほんの少しだけで舌と口蓋全体に焼けるような刺激が!
うっ、む、咽そう。
「はっはっ、なーんじゃ。イケん口かいな」
「は、はぁっ、はあ…… ま、まだ、前期乙女なんで」
「つまらんのう。ほれ、あの子たちを見やっしゃい。軽ーく2杯目じゃっど」
と、提督はどっかと椅子に腰をおろす。
言われて「えっ」と目をやると、お子ちゃま二人はこの強烈な液体を、何事もないかのように涼しい顔で、ごくごくと喉に流し込んでいた。
グラスを小さな両手で持って、さもミルクかジュースを飲むかのように。
恐ろしい。
(なりは子供でも、数千年も生きてきた女神と悪魔だぞ。この程度の度数の酒など飲み飽きているぐらいだ。お前とは違う)
ルイジ提督も軽く2杯目を空け、私の肩を何度も叩きながら
「いやあ、まっこと今日は愉快だったぜよぉ。教会の船団め、思い知ったかい」
「あ、そういえば救け上げられた教会軍の兵士や水夫たちは」
「捕虜じゃけんなあ、まあ、暫くは監視の下、畑や猟で強制労働じゃ。なあに、そう無茶な扱いはしやあせん。1年もしたら自由にしてやるずら」
「と言うと」
「解放じゃ。そうして、仕事を覚えてこの村に残りたい衆は残すさあ。故郷に帰りたい者や、どこか別の土地に行って暮らしたい者は、当座の食糧と水を与えて『ほな、さいなら』だべぇ」
なんと寛大な。
敵だった者たちを受け入れたり、一方で、去る者は追わずですか。
「ほな、さいなら」の語感はともかく、言ってることはやっぱりカッコいい。
ここらでいよいよ料理が運ばれてきた。
海賊らしく最初から骨付きの肉、とか思ってたら、まずテーブルに置かれたのは大きな木のボウルに入った「たっぷり」のサラダ。
「まずはやはりサラダさね。生野菜はちゃんと摂取せんと、健康に悪いからにゃあ」
あら、海賊さんも健康には留意されるんですね。
そしてまあ、提督さんがもりもりとサラダを頬張ること。
咥えて、噛みくだいては酒で流し込み、また頬張る。
こりゃあ馬や牛とか、大型の草食動物並みだな。
ほら、お子ちゃま二人もお酒ばっかり飲んでないで、しっかり生野菜もたべないとダメじゃないか。
「今日は海賊だったが、明日からはまた猟や畑の毎日じゃさけえ、野菜も肉もがっつり食べて、体力と英気を養うのっし」
あ、やっぱり肉も食べるのね。
ということで、次はいよいよ…… と、2・3キロはありそうな骨付きの肉塊を想像していたら、そこに出てきたのは――――――
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