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第3部 カレーのお釈迦様

第39話 迷惑な神様・ケツァルコアトル

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 翌日はさすがに朝から出発。でも一昨日みたいには急がない。
 どうせ教会軍の来襲は明日、それも午後だろう。ゆっくりのんびり進んで、今日中に目的地の集落の手前あたりで一泊すればいいもんね。
 標高は6000から7000フィートで空気は美味しいし、天気はいいし、この地方には旧文明よりもっと以前、超古代の神殿や何やらの遺跡が多いから、それらを見物しながら、ちょっとした観光旅行みたいなものだ。

 どうせ教会軍が動いたのなら、もう魔力を隠す必要もない。
 飛翔の魔法で空を飛んだり、時々はまたオスカル君の背に乗せてもらったり、見晴らしのいい場所で休憩したり、森の中に突然ピラミッドが現れて、その壮麗さに見とれたり。

「ま…… まあ、けっこう立派じゃないの。あ! で、でも、アタシを祀ってたシュメールやアッカドのジッグラトピラミッド型の神殿らしいには負けるけどね。そうよ。だいたい、サルゴン世界最初の絶対君主だってさだって私が加護を授けてやって、それで王様になれたみたいなものだしぃ」

 とか驚きながらも自慢タラタラの人がいますが、もちろん無視。
 楽しい旅を続けよう。

 こういう時に超古代文明にも詳しい専属のガイドがいるのは本当に便利だ。
 そうです。心の声さんです。
 で、そのガイドさん(?)がおっしゃるには、ここから私たちの目的地にかけて、6000から5000年ほども昔に「アステカ」とか「マヤ」とかいう国々が繁栄していて、これらの遺跡はその国々が残した物なのだそうだ。

 ケツァルコアトルとかククルカンとかいう羽毛の生えた蛇体とも、白い肌の人型とも言われる神が、この大地や全ての動植物を創造し、火を人間に与え、農耕、婚姻などの文化を教えたという神話を伝えていたらしい。

 ぷぷぷ、ケツァル何とかとかククル何とかとか、変な名前。

 おまけに動物や植物はもちろん、全ての事物に、それらを象徴し、守護する神様がいると信じられていたっていう。
 例えばジャガーの神様なんてね。
 それはちょっとカッコ良さげな感じもするぞ。

 高度な建築技術や文字、暦を持ちながら、武器どころか日用品にも鉄器は全く存在しなくって、黒曜石を使った石器の斧や槍、陶器の鍋とかばっかり。
 それでも金銀銅などの貴金属の装飾品はあったらしいから、ますます意味がわかんない。
 もしかして、国家の防衛や人々の生活の便利さよりも、貴人の自己顕示欲の方が優先されたのか?

 農耕に従事したり、食用になる家畜もいなかったらしい。
 だから食生活は凄く貧しくって、近隣に住む僅かな獣や鳥が食用になる他は、トウモロコシ粉の団子がもっぱらの主食だってさ。

 車輪の概念さえ存在しなかったらしい。
 ということは、荷物は全て人間が抱えて運ぶってことか?
 信じられない!

 極めつけは神に捧げる人の生贄の習慣があったってことだ。
 でも本人は喜んで、名誉に感じて死んでいったとか。

 マヤでは戦争が頻発して都市国家間の覇権がしょっちゅう移動したとか、アステカってのは結局、巨大戦闘国家だったっていうし、う~ん、文化的なのか違うのか、なんだか凄く理解に苦しむ文明っぽい。

 でさあ、いろいろ変なところはあっても、これだけの建造物を造るんだから、当時としては高度に栄えた巨大文明だったんでしょう?

(そうだな。人口にして数百万人はあったろう)

 なのに、なんでそんな文明が滅びたの?

(他大陸からの侵略者の襲来だ)

 大規模な?

(そうではない。人数はたかが知れていたが……)

 火器はおろか鉄器も持たない人々は、いくら戦闘的とはいえ、容易く侵略者に殺戮されてしまったのだとか。
 おまけにこの大陸には存在しない病原菌を侵略者たちが持ち込んだので、民は次々と未知の疫病に倒れる。
 それに加えて

(古代の予言に基づく誤解もあったな)
 
 それって、どういうこと?

(つまり……)

 そのケツァル何とかという神様がいずれこの地に再臨して、また文明を進歩させ繁栄させるという古代の予言があったために、現地の民は侵略者の白い肌を見て神の再臨だと誤解し、少なくとも最初の内は反抗を控えてしまった。
 真実に気付いた時はもう遅く、それが命取りになったのだ。

 迷惑な神様だねえ。

い、いやいきなり慌てて、我は『また遊びに来るぞ』とかいう、よくある別れの挨拶を残しただけで、決してそんな約束はしていないぞ)

 えっ、って?

(うっ…… つ、つまり、

 はあ? 心の声さんが創世神で、万物を創造した?

(違う。さすがに我にも世界の創造など不可能だ。ただ、当時は今だ狩猟採集生活を送っていた太古のこの地を訪れ、農耕のやり方や婚姻、文字の基本などを教えたに過ぎん。それがいつの間にか修飾過多の大袈裟な話に変化したあ・り・が・ちのだ。
 羽毛の生えた蛇体とかいう誤った姿が伝えられたのと同様、神の再来にしても、我の白い肌の記憶と別れの挨拶だけが独り歩きして、そんな予言に変化してしまったのだ)

 このあいだの白虎さんの話といい、

(ま、待て。何を言う。我はその後、この土地の民が妙に戦闘的になったとか、諸々の神に生贄を捧げるとかの話を聞いて嫌気がさして、長いあいだここを訪れないうちに、そんな侵略事件が起こっただけであって)

 ふ~ん。

(とにかくその後は侵略者と現地民の混血が進んで、経済や文化もそれなりに発展し、土着の宗教と侵略者の宗教が混交して独自のものとなり、これから我々が向かおうとしている土地の民や文化も、それらの歴史的推移あってこその産物で……)

 はいはい。弁解はもういいです。

(うう…………)

 とにかく超古代の遺跡には美味しい料理のレシピも期待できなさそうだから、ピラミッドは外から鑑賞するだけにして、そろそろ見えてくる筈の海の景色なんかを楽しみに、旅を先に進めましょう。


 そんな風に、丸1日かけてゆっくりと目的地の手前に至り、またリラックスして一泊別荘造っといて良かったあ
 翌朝はさすがに早めに出発し、左に紺碧の海を臨んで、教会軍の船の進度をオスカル君に確認しながら、だらだらと緩い斜面を山から海沿いへと数時間も下る。
 そして、いよいよ高台から集落を遠くに望んでみると

な、何じゃこりゃぁ~!ベタなセリフだな~

 

 肌の色も髪の色も、服装も違うそれぞれ数千の人々が、4つの異なる旗を掲げる陣地から飛び出して、街の中心あたりの広場やあちこちの路上で殴り合ったり蹴ったり組み合ったり、武器を持って争ったり。

 そういえば、例の白虎さんが、「かの土地では今、4つの部族が相争って面倒なことに」とか言ってたぞ。
 聴覚を鋭敏にしてみると、とんでもない怒号や嬌声、歓声だ。
 ん? でも、はなぜ?

 う~ん、なんだかよく分からないけど、とにかく…… よし!

「オスカル君、巨大化!!!」
「は、はいぃ」
「そして大ジャンプ。あの騒動の真ん中に着地」
「はぁ、は、はいぃぃ」

 その自信なさげな声とは裏腹、オスカル君は瞬時に体高100フィートはあろうかという遥かに見上げる堂々たる姿に変身した。
 な、なんという威厳と逞しさ!
 ゼブルさんから戦闘時は巨大にっては聞いてたけど、予想を遥かに上回る、とんでもない大きさと迫力だ。
 これなら上位のドラゴンに匹敵する強さっていうのも納得。
 かっくいーっ!
 なんてことを言ってる場合じゃない。
 オスカル君は私たちを背中に乗せて、その巨躯で大ジャンプ。

「イシュタル、風の魔法で着地点の人たちを吹き飛ばして!」
「えっ、な、何でアタシが?」
「つべこべ言わない。やらないと、ご飯食べさせないよ!」
「ぶすぅ~」

 渋りながらも、イシュタルは風の魔法を発動。
 よーしよし。「ご飯食べさせないよ」は効くみたいだぞ。
 もう3日も美味しい食事で餌付けしてきたからね。

 そして私たちは争いの真っただ中に「」と着地した。
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