フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

文字の大きさ
上 下
88 / 108
第3部 カレーのお釈迦様

第29話 バーガー風ケバブサンド食べて出発! ☆☆

しおりを挟む


 出発の準備と言っても、私には取り立ててする事はない。
 だって、つい何日か前までは冒険の旅をしてたんだから、道具とか薬とか、必要な物は全部まだ亜空間収納に入ったままだ。
 しかも、たかだか数日の旅の予定だから、別に補充の必要もない。
 せいぜい魔王城のキッチンを覗いて、多少の食材を見繕うぐらいだ。
 だから、部屋に帰って地図で再度行先の確認をしたりすると、後は手持無沙汰になってしまった。

 ところがここで、ちょっと驚くことが起こった。
 そう、例の新しい剣だ。
 箱ごと貰って持って来たのだが、あらためて開けて見てみると剣だけで鞘がない。
 剣の下に敷いてある仰々しい赤い布を取り去ってみても、鞘らしいものは見当たらない。
 これは、どういうことだろう?
 まさか、抜き身のまま持ち歩けってことじゃないよねえ。
 いくら普段は鈍刀だとしても、それはちょっと危ないんじゃないか?
 とか思いながら手に持って剣を眺めていると

(鞘に入れるところを念じてみよ)

 と心の声さんが言うので、その通りにしてみると、あら不思議、剣は瞬時に姿を変え、ちょっと洒落た腕輪のようになって私の手首に巻き付いた。
 で、逆に抜くところを念じると、姿は剣に戻り、柄は私の掌におさまり、刀身はまた妖しい煌めきを放つ。
 何だこれは? もしかして、話に聞いたことのある古代の形状記憶合金?
 いやいや、そんな生易なまやさしい形や大きさの変化じゃありませんよ。

(やはりな。そういう仕掛けか)

 知ってたの?

(そんな剣があると噂に聞いただけだがな。我には思念の剣があったから、武器は不必要だったのだ。お前と違って長時間、自由自在に使う事が出来たからな)

 自慢かよ?

(まあしかし、場合に応じて形を変える剣があっても、別に不思議はなかろう。旧文明の時代に人気だった物語には、それ自体が意思を持って言葉を話す剣とか、更には魂が人間の形の分体となって行動する剣刀〇乱舞とか、他にもいろいろまであったぞ)

 そんなあ! それは、さすがにちょっと現実には有り得ない……

(長年使われた器物は魂を得て「付喪神つくもがみ」とかいう存在になる、という言い伝えもあるぞ。それに現に、お前が戦った獣王は、剣に擬態した生物を取り込んで怪物に変身したではないか)

 あ、そんなこともあったねえ。

(ならば、魔導の力で何かの魂を実際の剣に宿らせる事も決して不可能ではあるまいよ)

 そうか。じゃあ、もしかしてこの剣も突然しゃべり出したりして。
 我とか吾輩とか…… うーん、それは嫌。

(何故だ?)
 
 だって、今でさえウルサイ人が私の中に居るんだもの。
 この上、もう1人増えたらたまりませんって。
 それに、心の声さんも、この剣が言葉を話したりしない方がいいんじゃない?

(どういう意味だ?)

 お喋りが一人増えたら、その分、影が薄くなるかもよぉ。

(な、何を言う! やはり我に対する尊敬の心が……)


 とか何とかやってる内に昼食の時間が来たので、旅立つ前に軽く腹ごしらえをする。うん、何事も空腹じゃあ始まらないからね。
 さっき聞いたように、今日の昼食はハンバーガー…… と思ったら、軽く焼いたバンズに野菜と一緒に挟んであるのは挽肉のパティではなくてケバブだ!
 なーるほど、これは確かに立派なケバブサンド。
 普通のハンバーガーなら挽肉を使うところは昨日のタコスと一緒だ。かといって、伝統的なケバブサンドならばピタパンはトルティーヤに似てるし、小さめに切ったサラダっぽい野菜を挟むところはタコス同様だ。
 考えたなあ。
 バンズを使って、野菜もハンバーガー風に切って、肉だけをケバブにすれば両方のいいとこ取りで、食べる方の目先も変わるもんね。
 それにどうせハンバーガーを作るつもりでバンズの用意もしてたんだろうから、それも無駄にならないということか。

 で、肝心の味の方だけど、それぞれの食材がしっかりと自分の味や食感を主張して、でもちゃんともあって悪くない。
 ここがハンバーガーやサンドイッチの難しいところで、具材にどんな上質の肉や野菜を使っても、バンズの質が負けてたりすると全体の味がバラバラで不味いし、その逆も当然ダメだ。
 でも今食べてるこれはバンズは外側は軽く焼かれて、ほのかにカリッとして、中はふんわりもっちり。
 ケバブはラム(仔羊)肉で柔らかくて臭みもないし、それに下味をつけて香ばしく焼いてある。
 野菜は薄切りのトマトと辛みの強くないタマネギ、それにレタスなんだけど、薄切りにしたピクルスが挟んであるところが嬉しいねえ。それにマヨネーズベースのドレッシングが合わせてあって…… 
 うん、バンズと肉と野菜が混然一体、旨味を増強し合ってるぞ。

 ここで添えてあるヨーグルトをひと口飲む。うーん、これが口の中をさっぱりさせてくれて、やっぱりケバブに合うんだよ。
 バーガースタイルということで付け合わせてあるフレンチフライも、定番ではあるけれど、高温でカラッと揚げてあって見るからに美味しそう。味付けは岩塩を振ってあるだけだけど、岩塩自体が塩っ辛いだけじゃなくて、複雑な旨味を持ってるからね。まあこれもパクパクと食の進むこと進むこと……


 さあ、食事を終えてさっきの謁見室に行くと、もう既にフェンリルのオスカル君が居て、私を待っていた。
 まあね、彼も準備って別にないだろうから、早いのは当たり前だ。
 前足を真っ直ぐ伸ばし後ろ脚を曲げた行儀正しい「お座り」の姿勢で、私を見るとやはり恥ずかしそうに頭を小さく下げて挨拶をした。
 ガイアさんもいる。見送ってくれるのだろう。
 なぜか、ふーちゃんもいる。ひょっとして一緒に来る気なのか? いやいや君は今回は留守番だ。
 ちょっと待っているとファフニール君がやって来て、バスケットを渡す。

「今晩の夕食に」

 だそうだ。気が利くなあ。

 最後にゼブルさんが2人を連れて来た。
 ベリアル君は自分で歩いてきたが、もう1人、イシュタル呼び捨てです!の方はゼブルさんに手を引かれて、嫌々連れられてきたって感じ。
 ああ、もう、そんなに嫌なら無理に来ないでもいいのに。

 ベリアル君はさっきの盛装とは違って、ラフな、いかにも旅に出るといった動き易そうな服装。
 でもイシュタルまた呼び捨て!の方は、さっきとどこが違うのかよくわからない、やっぱり風ドレス。
 不健康そうな化粧もそのままだ。

(2回も続けて呼び捨てか。相当に「クソBBA」の事を根に持っておるな)

 そうじゃなくて、今のこの態度に怒ってんの。
 見てよ、あの厚化粧の不機嫌そうな顔。
 あーあ、先が思いやられるなあ……

 とにかく! 出発だ。
 私は2人のリュックを預かり,夕食のバスケットと共に亜空間収納に入れた。
 そして自分の周りにガイアさんにならって光の魔法陣を描こうとした。
 本当だったら手をつなぐなりなんなり,身体の一部が接しているなら一緒に転移は可能なんだけど,きっとイシュタルが嫌がると思ったからだ。

(3回目か。やはり相当だな。呼び捨ての上に手も繋ぎたくないのか……)

 違います!
 手を繋がないのは、私じゃなくて、きっと向こうが嫌がると思ったからで……
 すると、ゼブルさんが

「アスラ様、出発の前に、ひとつだけ宜しいでしょうか?」

 ん? まさかまた面倒な「条件」の追加とかじゃないよねえ。
 だとしたら、私もさすがにキレるかもよ。

「魔王就任の祝宴なのですが、来賓に招待状を出さなければならないので、そろそろ日程を決めておきたいのです。2週間後では如何ですか?」
「早過ぎます。1か月後!」
「いやいや、慶事は早いに越した事はないでしょう。2週間後に致しましょう」
「今から数日かけてスパイスを手に入れに行くんだし、他のいろんな準備もあるから、やっぱり1か月後」
「いやいや2週間」
「1か月!」
「ああもう、この出発前になって何をめておるのじゃ! 妾が決めてやろう。あいだを取って3週間後にせい!」
ぴーぴーっ、ぴーっだから、君は留守番だって……

 ということで交渉成立。
 3週間後に決定だ。

 そして私は周囲に3人と1頭がはいれる大きさの光の魔法陣を描き

「さあ」

 と促した。
 1人と1頭はすんなり、もう1人のゴスロリ(!)は躊躇している様子だったが

「何をしているのです。早く!」

 とに背中を押されて、渋々光の輪の中に入って来た。
 よし、行くぞ!
 私はちょっと集中して魔法陣に魔力を込め、するとガイアさんの時のように、やはり目の前が光で真っ白になって――――――
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...