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第3部 カレーのお釈迦様
第18話 さて、3000人相手に何を作りましょう? ☆☆☆
しおりを挟む私はまず、ゼブルさんに尋ねてみた。
「ふだんは、この材料をどんな料理にしてるの?」
「人数が多いですから、大抵は手早くごった煮ですな」
「味付けは?」
「塩胡椒と材料自体の持つ旨味、他は香草程度でしょうか」
うーん、それはあんまり美味しくなさそうだし、飽きそう。
私だったら、今更そんな食事が毎日続くなんて簡単に気が狂っちゃうかも。
ファフニール君に聞いてみる。
「あなただったら何を作る?」
「は、オレ? いや、じ、自分なんかとても……」
あーもう、面倒くさいなあ! まだ遠慮してるのか?
「こっちから聞いてるんだから、強面の顔に似合わない謙遜なんかしてないで、はっきり言ってみて。立派な腕前をしてるんだし」
「そ、そうですか、では…… な、なにしろ相当な大人数相手の料理ですから、手間を考えると、まず思いつくのはやっぱり煮込み料理ですかね。月並みで申し訳ないっす……」
「別に謝らないでいいし。それで、例えばどんな煮込み料理?」
「肉やタマネギ、ジャガイモやニンジンも豊富にあるんで、そう、ビーフシチューなんかどうでしょう。トマトでデミグラスソースを作って。炊いたコメの上にかけてハヤシライスやビーフストロガノフ風にしてもいけるかと。上にサワークリームか、それが無ければ生クリームをたらして。コメは長粒種なんで普通に炊いただけではやっぱり味気ないかと。軽くバターで炒めてバターライスにするといいかもしれないっす」
おお、さすがは料理人の発想だ。それはちょっと食べてみたい。
でもねえ、今からデミグラスソースを作るのは時間がかかり過ぎるかな。
お昼どきまであと2時間程度しかないし、大量のブイヨンの用意もない。
するとゼブルさんが
「お好み焼きは如何ですか?」
「え?」
あー、びっくりした!
しれーっと言うけど、この人の口から「お好み焼き」とか、似合わねー。
それに、お好み焼きなんて、よく知ってるなあ。
「小麦粉もキャベツも卵も、それから肉も大量にありますし、手間もかからず、それに、目の前で焼いて見せれば彼らも喜ぶのでは? ぶた玉とか牛玉とか。古代の『二ホン』で言うB級グルメですか。この際は被災者救済の為の炊き出しですな。
焼きソバなどもよろしいのでは? お好み焼きと焼きソバを組み合わせて、目玉焼きを乗せて、いわゆる広島風もわたくしは大好物ですぞ。マヨネーズを何筋にも細く長くかけて、最後に削り節を乗せて、そのふわふわと自由に動く景色は何とも言えませんな。いかにも食欲をそそります。あの動きを気色悪いなどと言う者の気持ちが理解できません……」
勝手に語ってろ!
でも、お好み焼きか、うーん。それはひょっとすると悪くないかもだけど、やっぱりソースが問題だ。あの独特のソースを今から大量に作ってる時間はない。
あ、そう言えば、この街に来た初日に通りで立派なレストラン(!)の店先に「タコヤキ」って書いてあるのは見かけたなあ。しかしねえ、あのレストランから取り寄せるにしても、まさか何千人分のソースがあるとは思えない。
それにマヨネーズも必要だし。カツオブシなんてものもここには無さそうだから、和風はちょっと難しい。
焼きソバも、中華風に塩味にするとしても、第一に麺の用意がない。
「ぴーぴー、ぴーぴー」(言ってみたかっただけ? それとも自分にも聞けということか?)
お好み焼きとか、目先が変わって面白いんだけどねえ。
洋風でそれっぽいものというと、ピザか?
でもあれもねえ。オーブンを使うから炊き出し(?)向けじゃないし、まさか今から現場に巨大なピザ窯を作る訳にもいかないし……
待てよ。
トウモロコシ粉があるぞ。それにレタスやトマトも。肉や卵はもちろん揃ってるし、チーズも豊富だ。
そうすると、アレが作れるじゃないか!
アレだったら時間も手間もかからないし、設備もそれほど必要ないし。
「よし、決めました」
「「おお!」」
「ぴーぴー!」
そして、真っ先に聞いてくるのは、やっぱりゼブルさん。
「で、何を?」
「メキシカン・タコスです」
「成程。あれならば短時間で出来るでしょうし、ちょっと変わったメニューで彼らも喜ぶでしょうな」
さすが! というか、この人はやっぱり知ってるんだ。
でも
「???」
ファフニール君には初耳の料理だったみたい。
でも説明してる暇はないし、どうせ実際に作って食べてみればわかる。
「とにかく人を呼んで来て。材料を大量に、厨房に運んでもらわなくちゃいけないから」
「あ、は、はい!」
人が来るのを待つ間、またゼブルさんと話す。
「お好み焼きがヒントになりました」
「それは良かった。わたくしの思い付きが役に立つ事も稀にはあるのですな」
「はい。でも、さっきのマダガスカルはちょっと……」
「う…… まあ、それはそうと、タコスならば、他に何かスープ的な物があった方がよろしいのでは?」
「いい物を見つけたので、それでスープを作ります」
私が指差す先には、幾つもの大きな樽。
その中には塩水が張ってあって、ちょっと口を開いて呼吸をしている大振りの二枚貝が沢山入っているのだ。これなら、もう砂抜きも必要ないだろう。
「これとジャガイモやセロリ、それにマッシュルームで、クラムチャウダーはどうでしょう」
「おお、素敵な組み合わせかと! それは是非、私も食べさせて頂かねば」
「ぴーぴー、ぴーぴー!」(自分にも食べさせろということか? それとも、とにかく会話に参加したかっただけ?)
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