フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

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第3部 カレーのお釈迦様

第16話 今日一番の大仕事 ☆

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「リゾートか! 面白いな」
「まずはドワーフとエルフ族の交友が期待できるんじゃ? そうだ! いっそ全ての亜人が利用できるようにして、将来的にはヒト族も。そうすれば文化や娯楽の発信基地になるし」
「ふむふむ」
「大地魔法で穴を埋めて地盤を固めて、いろんな素敵なお店やレストラン、劇場や音楽ホール、夏はプール、冬はスケートリンクとか、その他の娯楽施設も造って。先々は子供の喜びそうなテーマパークも。あ、近くの山にスキー場やロッジなんかいいかも」
「う~ん、楽しそうじゃな。そのような場所があれば、妾も行ってみたいぞ」
「交通の便を考えて道路の整備が必要ですね。遠隔地からは魔法陣で来訪できるようにして」
「『ねいる・さろん』はどうじゃ?」
「作りましょう。お洒落なカフェも」
「う~ん、それは良いぞ。早速、魔王城に帰って計画じゃ」

 ということで、エルフさんとドワーフさんたちの歓待から逃れることができた。だって……

 エルフの食事は動物性の食材は全く使わないので有名だ。だから、野菜や野草、木の実とかの料理ばっかり。それに調理法も焼くか煮るかだけだし、調味料や風味付けのスパイスの概念も殆ど無くって、はっきり言って味気ないんだよ。
 逆にドワーフの食卓は、あれもこれも濃い塩味の臭みのきつい肉料理と度数の高い酒類で、これもちょっとねえ。あれは何だろう? 雌や仔牛・仔豚とか去勢済みの獣類だけじゃなくて、やっぱり雄の獣でもお構いなしに食用にしちゃうってことかなあ。
 おまけにエルフが肉料理の臭みを嫌うから、この2種族は決して食事の席を一緒にすることはないし。
 そうすると、例えばまず味気無い植物性の料理ばっかりでウンザリさせられて、その後は別席で今度は臭くって塩辛い肉料理責め?
 う~ん、できれば遠慮したい。

 2人の王様は残念そうだったけど、またの機会に嘘だけど!ということで何とか諦めてくれた。

「そうじゃ! アスラの新魔王就任の祝宴の件じゃが、これには必ず出席してくれるように。後日、正式に招待状を送るぞ」

 言葉と共に、ガイアさんは返事も聞かずに振り返り、片手を高く掲げる。そうすると魔族軍は整然と隊列を組んで、魔族領へと引き返し始めた。

 ああ、魔王就任の祝宴かあ。
 そんな面倒な行事もあったっけ。困ったなあ。

 でもガイアさんは、もちろん私のそんな気分には全くお構いなしに、行進の開始を見届けるなり光る魔法陣を足元に一瞬にして描いて

「我らも帰還しよう。さあ、アスラも参れ」

 そして私が魔法陣の中に入ると、やはり目の前が光の輝きで真っ白になって……


 次の瞬間、私たちは魔王城の執務室にいた。
 瞬間転移でこそないけど、魔力であっという間に魔法陣を描いて転移するとか、ガイアさんならではだ。

 執務室にはまだゼブルさんがいて、腕を組んでせわしなく「ぐるぐる」と歩き回っていたが、私たちの姿を見るなり

「おお!」

 と、表情が一気に明るくなった。

「間に合ったのですな」
「ああ、ゼブルがアスラを急ぎ寄越してくれたからな。そうでなければ危ないところであったわ」

 だそうだ。
 念話は術者の数や正確に使える距離が限られてるし、何か伝達の方法を確立する必要がありそうだ。あ、そう言えば、あのサリエルとかいう武闘派天使は確かスマホを持ってたけど…… でも、そもそも各地にアンテナが無いからねえ。とすると、あれはただのアラーム用か? それとも単なるアクセサリー?

 ガイアさんが思い出したようにゼブルさんに食って掛かる。

「それはそうとゼブルよ、アスラがあの遺跡を攻略済みだった事を何故妾に黙っておったのじゃ。ということは、あれが危険な兵器研究所や工廠だという事も分っておったのだろう!?」
「ああ、その事でしたら、つまり ――—— 」

 使い魔の報告で分かってはいたが、そうすると3ヶ月前に誰かがあの遺跡に侵入し、魔族・エルフ・ドワーフの駐屯部隊が大騒ぎになったのがアスラ様一行の責任であったという事が明らかになり、それは今後の為に望ましくない。
 それに、どうせアスラ様は危険な武器や兵器に関心を持ってはおられないというのは分かっていたし、最下層の探検の後、当時に冒険の拠点とされていたヒト族の辺境の村に転移されたので、誰も侵入者の正体を知る者はなかった。ならば後々の事を考えて、それがアスラ様一行だと明かす必要もあるまい。何者かの侵入が知れて3軍が出動したが、どうせ、これといって何の被害もなかったし ————————

「という事なのです」
「しかし、せめて妾にだけは本当の事情を話してくれても良かったのではないか?」
「それも考えましたが、ガイア様は割と口がお軽いので、もしも誰かに話されて秘密が漏れたら面倒に……」
「妾の口が何じゃと!」
「あ、い、いや、どうせ文化の振興には関係のない兵器工廠ですし、使い様のない代物ですから。万一誰かに知られて危険な目的に利用されたりしてはと。それに、3国の勢力が接する不干渉地域にあのような遺跡が存在するなど、ガイア様の御心に更なる負担をお掛けしてはと愚考致しまして……」

 う~ん、宰相さんも、気を回して大変だなあ。
 ちょっと同情してしまった。
 ん、でも、じゃあヒト族はなんであそこが兵器工廠だと知ってたんだ?
 そうじゃなきゃ、わざわざ魔導士までいる一隊を送り込んでくる訳はないし。

(ゼブルが「使い魔の報告で」と言っておるではないか。お前たちが遺跡に入り込んだ時に、魔族だけではなくヒト族も監視していて、遺跡の中身を知ったのだろうよ)

 えっ、じゃあ今回の侵入も、そもそもは私たちが原因ってこと?

(まあ、そうだろうな)

 じゃあ、ドワーフ軍への襲撃は?

(時間稼ぎに決まっておる。これでエルフとドワーフ軍が互いを牽制し合ってくれれば、その間にヒト族の侵入者が、より深く遺跡の内部まで入り込めるだろう。更に、もしも常々から仲の悪い2国の紛争にでもなれば、魔王領の内部分裂になり、ヒト族にとってはおんの字だ)

 うーん姑息な!
 やっと全体が読めたぞ。

(遅い!)

 すると、ここでガイアさんが上機嫌に言った。何やかやの弁明で,もう気を取り直したらしい。早い!

「まあしかし、今回の件で、アスラの力量をエルフにもドワーフにも充分に示す事が出来たし、まあ結果としては良しとしよう」
「ガイア様。それは、もしかして」
「そうじゃ。エルフの女王であるエルダも、ドワーフ王であるアルベリヒも、アスラを新たな魔王として認めたという事じゃ」
「おお、それは重畳ちょうじょう
「しかも、遺跡の跡地について、アスラが良い考えを出してくれたぞ。それはな……」

 ああ、そのことは長期に渡るだろう大きな計画なんで、ゆっくりと。

「それよりも先に、まず片付けなくちゃいけない今日一番の重要な仕事があるんです」
「ん、それは何じゃ?」

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