フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

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第3部 カレーのお釈迦様

第10話 神と天使とオードブル ☆☆

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 ねえ、心の声さん。私って何を考えればいいんだろう?

(我が知るものか! それこそ、何を考えればいいか、自分で考えろ)

 だって、公爵家を飛び出す前のこととか、冒険者になってからのこととか、一通り思い返しちゃって、もう何もないんだよぉ!

(当たり前だ。ほんの十数年の人生を振り返っても、たかが知れておる。それよりも他に考えるべき重要な事があるだろう)

 例えばどんな?

(これから先の事だ。例えば神を名乗る者や天使についてとか)

 あ、それはいいや、パス。

(何故だ? 夢の中では自称神に食って掛かっていたではないか)

 ああ、あれはたまたま目の前に、きっとコイツはって奴が現れたから、とりあえず文句は言っとかなきゃって思っただけで……
 ん? でも、私まだ、心の声さんに夢の話なんかしてないはずだけど。
 何で知ってんのかな~?

(そ、そ、それはあれだ。我はお前の心の中に住んでいるのだから、どんな夢を見たかも多少は分かるのだ。むにゃむにゃ……)

 ふーん、なんか声に狼狽が感じられますけどぉ。
 やっぱりねぇ。

(とにかくだ! 魔王になったからには、神や天使、ヒト族を相手に戦う覚悟を決めたのではないのか?)

 あれ? 私、ヒト族全体の敵になったつもりはないよ。

(どういうことだ?)

 いやー、教会やヒト族の街の息苦しい生き苦しい?雰囲気よりも、魔族の自由な空気の方が好きだからね。それで魔王なんかにもなっちゃったけど、だからって別にヒト族全体を憎んでるんじゃないから。
 まあ、教会や兵士とは戦わなきゃいけないだろうけど、関係のない民間人まで殲滅せんめつする気はありませんって。

(ふーむ。では神や天使についてはどうなのだ)

 あ、それも考えても意味が無いよね。
 だって、私、もう完全に目をつけられてるみたいだから、放って置いても向こうから戦いを仕掛けてくるんでしょ。だったらこっちも戦わないと仕方がないじゃん。まあ、成るようになりますよ。

(不安は無いのか?)

 ないよ。

(相手は神を名乗る者や天使だぞ)

 別にぃ。だから何なのさって感じぃクレヨンし〇ちゃん的に?
 私って、そんなものに対する畏敬の気持ちが無いからね。

 それに……

(それに、何だ?)

 ? 

(何だと?)

 だって、親が子供に「自分は親だから偉いんだぞ」とか「尊敬しろ」とか言う?
 そんなこと、わざわざ言わなくたって親は親じゃん。親子の情愛や尊敬って、そんな強制や威嚇から生まれてくるものじゃないと思うんだよね。
 なのに教会が言う造物主は、自分を崇めろとか、あれをしろ、これをするなって口うるさいし、あげくの果てには、魔族が自分の思い通りにならないからって、新たにヒト族を創って滅ぼしにかかるとか、万能の造物主にしては妙に小者臭がするんだなあ。なんで?
 もしかして毒親?
 どうして造物主は勝手に生物や人間を創るの?
 望んでもいないのに出来ちゃった結婚(!)、とは違うよねえ。相手が居ないもの。
 あがめて欲しいから?

(うーむ……)

 まあ、造物主とか何とかは置いといても、とにかくイタい迷惑野郎であることは間違いないよね。
 結論。そんなヤツはオシオキですよ。

!)

 そうそう。
 それに、私たちが勝てば、ヒト族もそんなヤツの洗脳から解放されるわけで、そうすればヒト族のためにもなるでしょ。

 あのさあ、本当は心の声さんもゼブルさんも、自称神や天使が何者かっていうのは当然わかってるんでしょ?

(何だと?)

 でも、それをあえて私に言わないってことは、今はまだ無理に知る必要はない、いずれ嫌でもわかるってことだよね。

(むむむ……)

 だから私も今は聞かないし、考えません。

(ふーむ、一応は

 まあね。

(しかし、相手の事を知らないで、戦術や戦略が立てられるのか?)

 あ、それも、苦手だからパス。

(苦手? パス?)

 だって、全然わからないもの。
 でも、そういうのはゼブルさんとか、得意な人がいるわけでしょ。
 だから私は余計な口は挟まないで、その人たちのことを信じてデーンどっしり?と構えて、あとは自分じゃなきゃ出来ないことをやるだけです。えへん。

(うーむ、大物なのかバカなのか主人公の描写に、とてもとてもありがちなセリフ……)


 とかなんとかで、心の声さん相手にけっこう暇を紛らわすことができた。

 後は、暫くするとふーちゃんが目を覚ましたので遊んでやったり、ゼブルさんが来て飛蝗と鼠のせいで起こった被害の状況を説明してくれたり。
 やはり穀物がかなり喰い荒らされて、街も近隣の村も食糧事情が良くないのだそうだ。幸いに城の食糧庫は無事だったので、それを放出すれば取りあえずは何とかなるらしい。
 ただ、火事のせいで家を失った人も相当数いて、近衛軍が食事と寝る場所を提供しているのだが、その食事が不味くって不満が出ているらしい。
 まあね、魔王城のキッチンがあれだから、軍の食事が美味しい筈はない。
 明日の最初の仕事はこれかなあ。
 この際だから火事の被害者だけじゃなくて、軍の食事も一挙に改善して……

 なんてことを考えてると、夕刻近くになってルドラ君とソフィアさんが一緒にやって来た。
 ルドラ君はお父さんを相手に武技の特訓中らしくって、見るからにボロボロ。
 ソフィアさんはガイアさんに言われて無詠唱での魔法の練習中、具体的には長時間集中しての瞑想だそうで、見るからに頬がこけて神経が参ってる感じ。
 二人とも話もそこそこに、早々に自分たちの部屋に帰って行った。


 そしてやっと夕食だ。
 まずメイドさんが運んで来たのはオードブルの殻付きの牡蠣。
 これが3つ、小さめのお皿に乗っていて、魔王城は海からは遠いから生牡蠣は鮮度に心配が…… なんて思ってたら、なんと
 シャンパンとバターのいい香りがして、上には軽く香草が散らしてある。
 食べてみると、蒸し具合も中までちゃんと火が通ってふっくらの仕上がり。
 生臭さも全くなくって、でも牡蠣独特の磯っぽい旨味がたっぷり。

 うーん、これは、この後に出てくる料理も期待できるぞぉ! 
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