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第2部 魔王って? 獣王って? 天使って?

第11話 人質とか、最低だな!(ガイアさんの苦悩?)

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「おお、来たか! 待っておったぞ」

 飛翔魔法で急いでやって来た私を見て、ガイアさんが笑顔になった。
 こういう表情を見ると、私もだけど、周りの男の人たちはもっと、それから兵士さんたちも、この人を喜ばせるために頑張ろうって気になるんだろうから美人は得だ。つまり、。(ここ超重要! 必ずテストに出します!)

(…………)

 南面の城壁の上には思ったよりも多い、ここだけで3000ぐらいかな、とりあえず魔族軍の一部が並んで敵を睨みつけていた。
 インドラとルドラ親子、猫ちゃ、じゃないバベル君、それからガイアさんと一緒に出掛けたソフィアさんもいるし、ついさっき魔王城で会ったばかりの軍官さんたちの顔も多少は揃ってるみたい。
 でも獣王の軍勢はそれどころじゃない。眼前の本隊だけで数万、全体ではたぶん10万は楽に超えるだろう。狼、猪、ワニだとか類人猿だとか、あらゆる種類の獣の顔の兵士を揃えた獰猛どうもうそうな大軍だ。

 それが攻城兵器を並べて城壁に攻撃を仕掛けてるけど、あれれ、大型の投石器や梯子はしごをかけるための背の高い木造の車とか、兵士が携えてるのは剣や槍や弓矢ばかりとか、兵器はヒト族並みに原始的だぞ古~いのだ
 こんなんじゃあ、この堅固な城壁を攻略するには何日かかるんだ? 
 ほーら、投石器から放たれる石も軽ーく壁に弾かれてるしど~ん。でも「ばぁん、がらがらっ」とか、梯子も高ーい城壁の頂上には届かない。
 対する魔族軍なんて、ひとりひとりに自動小銃もちろん連発式とか、城壁に備え付けてある魔導大砲とか魔力のエネルギーを「どかーん!」なんてね、段違いに強力そうな兵器を持ってるぞ。
 獣王軍には一応は鳥人部隊もいる遠くに飛んでますけど、狙撃を恐れて近づいては来ない。
 じきに街の混乱も治まって防衛の兵の数も増えるだろうし、これは意外と楽勝かも。

「飛蝗は何とかしてくれたようじゃな。それに妾の起こした火災も」
「いえ、それは私じゃなくて、白銀色のドラゴンさんが」
「アプスーか。ティア婆に言われて来てくれたのか」
「はい。それと、鼠はゼブルさんが一人で何とかすると言って」
「そうか。ならばそちらはゼブルに任せておけば良い。問題はあれじゃな・ん・じゃ?

 ガイアさんが目の前の敵軍の最前列を指差す。
 と思ったら急いで手を引っ込めたぞちょっと恥ずかしそうに
 どういうこと? 手に何かあるのか?

「何を見ておる。あっちじゃいかにも慌てて!」

 で、ガイアさんが今度は顎で示した先には、およそ100人ぐらいの魔族、それも子供たちが縛られて泣いていた。
 その周りを半円形に獣人兵が取り囲んで、にやにや笑いながら、子供たちの姿をこっちに見せつけている。縛ったロープの端をつかんで逃げられないようにして、もしそれでも逃げたらただではおかないぞって威嚇いかくを込めて、剣や槍の先を子供に向けたり、矢を放つ準備済みだ。

 

「何であんなことに?」
「街に来た芸人の中に、派手な服を着た楽士がくしが居ったのじゃ」
「楽士?」
「そうじゃ。そいつが笛で、誰も聞いた事のない奇妙な曲を奏でると、大人たちは気分が悪くなり、その隙に子供たちは踊る様にフラフラとそいつの後について歩いて、終いには門から城壁の外へ出て行ってしまったらしい」

 うーん、どこかで聞いたような話だぞ。

「そこへ突然、トビバッタ決してイナゴではない!と鼠、獣王軍の来襲じゃ」

 鼠…… そうだ、思い出した! 半年ぐらい前に探検した遺跡の民俗学資料で見たあれだ。

「ハーメルンの笛吹男ですね」
「何じゃ、それは?」
「旧文明の、それも古い時代のおとぎ話です。でも、後の時代になって、その元になった事件が実際に起こったことを示す証拠も見つかったとか」
「似た事件が大昔にあったのか。ふーむ」
「はい。だったら獣王軍に似たような能力者がいてもおかしくないでしょう?」
「しかし、たとえそうにせよ、獣王軍にそのような者がいるとは、少なくとも妾は聞いた事がないぞ。獣人は体力があるので極端な体育会系ですか?格闘や白兵戦には向いているが……」

 バッタの大群や鼠のことといい、これも何か裏がありそう。

「この状況を見て、アスラの中のルシフェルは何と言っておる? どうすべきか」
「心の声さんは、自分からああしろこうしろって言うことはほとんどないんです。私が決めたことに助言をくれたりはするし、茶化すことはしょっちゅうだけど」
相変わらずじゃなやっぱり……。300年前もそうであった」

 そこにゼブルさんが駆けつけた。早っ!

「ゼブルか。随分と早かったな」
「危急の事態ゆえ、蠅を使いましたので」
「ハエ?」
「ああ、アスラは知らなかったか。ゼブルの別名は『』じゃ」
「鼠を数倍の数の蠅でつつき回し追い払い、速やかに街から駆逐致しました」

 げげげ、鼠とハエの群れの戦いかよ。

「しつこく居残った個体には無数の卵を産み付けましたので、それがかえったうじ虫どもが鼠の身体を貪り内臓を喰い荒らし、鼠は生きながら餌になって、今頃は大半は動けないか、もはや骨になっているでしょう」

 うう、さすが「蠅の王」、
 名前通り、やり方がえげつない。

「思ったよりも敵軍の数が多いですな」
「獣人の繁殖力は亜人の中で一番で、ヒト族にまさる程だからな。人口が多いからには兵士の数も揃うじゃろう。ただ、これだけの軍勢が都の周囲に忽然こつぜんと現れたのはどのようにしてか、それまで何処どこに隠れておったのか、それには妾も少しばかり驚いておる」
「仰せの通りかと」
「募兵や訓練は以前から進めておったにせよ、大軍を一挙に我が国土に進めるのを秘密にはできぬからな。ところが、各所に潜んでいる使い魔からも、道筋の見張り番からも何の報告もなく、突然にしてこれじゃ」

 そこで私は言った。

「でも、転移の能力者がいれば可能なんじゃありませんか?」
「アスラよ、大方の獣人には転移はおろか、魔法の能力は無いのだ。しかも、これだけの数を転移させる程の大規模魔法となると、いったい何人の術者が必要やら」

 するとゼブルさんがガイアさんに言った。

「わたくしが思うに、ヒト族の教会の仕業ではないかと」
「教会だと!?」
「はい。獣王が以前からヒト族と接触を持っていたのは、ガイア様にも御報告申し上げた通りです。特にここ数か月は、高位の司祭らしき人物が何人も獣王の城に出入りしていた事も判明しております。おそらくはそれらの人物がヒト族の術者を多数提供したのでは」
「うーむ、そういう事か」

 あり得るなー。
 そう考えると飛蝗や鼠、それから笛吹男Pied Piperのことも説明がつくもんね。
 何だかんだ言って、魔族と対抗するために、教会は魔法学院や、他にも秘密裏に相当の数の術者を揃えて訓練してるらしいもの。旧文明の遺跡に残された技術を内密に手に入れ解析して、キマイラみたいな怪物を作り出してるってかげの噂もあるし。

「それはそうとガイア様、何故ゆえ魔法であ奴らを撃退なさらぬのです? どれ程の数が相手であろうと、ガイア様の極大魔法の連発であれば容易たやすく撃退できるでありましょうに」
「その第一の理由はあれじゃ」

 ガイアさんは再び人質の子供たちを指差した。
 あれ? また慌てて手を引っ込めたぞ。
 そして、私にした説明をゼブルさんに向けて簡単に繰り返した。
 ゼブルさんは、それを聞いて言った。

成程なるほど。卑劣極まる手段ですが、ガイア様には有効ですな」

 まあね。ガイアさんって、根っこは実は優しい人だからね。
 こんな卑劣な手には弱そうだ。

「『ガイア様には』とは聞き捨てならぬが、この際それは許そう。とにかく、あの数の子供たちを、魔法攻撃の巻き添えにする訳にはいかぬであろうが。だから自身でも魔法を控えておるだけではなく、兵たちにも今の所は反撃をせぬように申し渡しておるのじゃ。さもなければ獣王の事じゃ、何の迷いも無くあの子供たちを虐殺するであろう」
「しかし、殺してしまえば人質の意味が無くなるそーだよね。ここが犯人と救助隊のジレンマかな~のではありませんかな?」
「こちらの反撃の度に一人ずつ子供を殺すといった、更に獣王に似合いの卑劣な駆け引きに出てきたらどうする? 妾はそんな駆け引きに耐え得る程、神経が図太くは出来ておらぬぞ!」

 え? 反撃のたびに、見せしめに一人ずつ子供を殺すとか、獣王ってそんな手段に出かねないアブナイ奴なのか?

「それもまた、『ガイア様には有効』という事ですな。これは褒めて申し上げておるのです」
「そうか、ならば良い。だが、このにらみ合いをいつまでも続けておる訳にはいかぬ。バッタや鼠の襲来で街の食料はかなり喰い荒らされたであろう。城の貯蔵庫は大丈夫だとしても、それだけで兵士や、10万に届く街の住民を長期間養う事は不可能じゃ。いずれすぐにつらい決断をせねばなるまい。子供100人の命の為に兵と住民の全員を犠牲にすることはできぬからな……」

 うう、改めて聞くと、やっぱり魔王って、重大な責任のある大変な立場なんだなあ。他人事ながら気の毒になってきた。
 ん、他人事だっけ?

「それが第一の理由ということは、別の理由もおありになるのですね」
「おお、良く聞いた。第二のものは理由でもあるが、同時に希望じゃ! 妾はもう魔王を辞めたからな。勝手に獣王と戦ったり、妾の一存で軍に命じて戦闘に入る訳にはいかぬ。
 新しい魔王はここに居るアスラじゃ。!」
「え―――っ!」
「アスラよ、お前自身が何を驚いておる。当たり前ではないか」

 そしてその時、大軍が左右に二つに割れて、その中央を、いかにも豪華趣味の派手な鎧を着た巨漢の獣人が、これもまた他の馬の倍はありそうな黒い巨馬にまたがって、嫌らしい余裕を見せるかのようにゆっくりとこちらに進んで来た。
 背中に4本の剣を背負って、太い腰の左右にそれぞれ2本ずつ剣を差している。
 刀剣マニアか?

「出たぞ。あれが獣王じゃ」

 そして、兜を被ったその大きな大きな頭部は、なんと、だった。


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