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第2部 魔王って? 獣王って? 天使って?
第8話 獣人、エルフ、ドワーフ、悪魔とか
しおりを挟む城の衛兵さんの長らしき人が、広間に小走りで入って来て言った。
「たった今、獣王からの使いの者が参りまして、新たな魔王様の就任に対して強く抗議する、満足のいく回答のない場合は宣戦を布告する、との事です」
「「「「「ふーん」」」」」
何、この反応の薄さ?
「また獣王か。相変わらず好戦的だな。実は小心者の癖に」
「そうそう。ガイア様が魔王の時から、よく姑息な手段でちょっかいを掛けてきましたからな」
「しかし、今回は正式に戦争をちらつかせるとは。おそらくはヒト族あたりにそそのかされでもしたのか。愚かな」
「以前から魔王の座を狙っておるようでしたから、アスラ様が新たな魔王になられたのを使い魔あたりの情報で知って、トチ狂ったのでしょう」
確か、ガイアさんが選んだ新魔王だったら、魔族はみんな喜んで受け入れるって話だったのに。でも、それを言った当の執事兼宰相さんは
「獣王ですから、いかにもありそうな出方ですな」
なんて澄ましてる。おまけに
「子細な事です。放って置きましょう。アスラ様も、それで宜しいですな」
なんて言う。
私としては一見鷹揚に任せるしかなかった。
きっと、街全体を覆う強力な大規模結界が張ってあるんで、防御は常に万全、といった意味なんだろうと思いたい。
「さあ、重要な件は全て終わりましたので、このあたりで」
という宰相さんの言葉で、今日の集まりは終了。
みんなは、お昼ご飯は何にしようかとか上機嫌に話しながら、がやがやと部屋を出て行った。
獣王、完全にナメられてるぞ。
てか、その「獣王」って何者さ?
その後、二人で場所を変えて、魔王の執務室にて、
「ではアスラ様、これを御覧下さい」
ゼブルさんに促され、重厚な机の上に広げられた地図を見る。
そこには、ヒト族の領地全体を合わせたものの半分ほどの広さの魔王領が描いてある。
「これが何か?」
「御存じとは思いますが、念のため一応は説明させて頂きます」
で、その説明によれば、一般的に「魔王領」と呼ばれる領域は細かくは、最大の「魔族領」と、次に広大な「獣人領」、それから「龍族領」「エルフ領」「ドワーフ領」「タイターン領」と大まかに分かれており(実際、魔族が作ったらしいその地図には薄く境界線が引いてあった)、それぞれに「魔族王」「獣王」「龍王」「妖精王」「侏儒王」「巨人王」という存在がいるらしい。
また、それらに加えて、ふだんは魔族の中に紛れて暮らす「悪魔」という者たちがいて、彼らにも「悪魔王」という存在がいる。
そして、これら全てを統べるのが「大魔王」、通称「魔王」である、だそうだ。
「いやー、全然ご存じありませんでした。てっきり、一切合切含めて、ただの「魔王領」と「魔王」だと思ってた。なんせ、ざっくりした性格なもので」
(一応は勇者のくせに、これだからな。はぁ……)
「それも決して間違いではございません。代々、魔族王がこの中で最も強大な勢力を持ち、大魔王、つまり普通に言うところの魔王を兼ねてきましたので。だからこそヒト族の勇者達も、魔族王をつまり魔王と信じて討伐に来たのでしょう」
そうか。ほーら、私は決して間違ってない。納得。
「特にガイア様が魔族王そして魔王になられてからは、本来は魔族の領地に獣人やエルフも多く移り住むようになり、多種族が共に楽しみ暮らす土地として、これらの領の中で最も栄えて参りました。ただし」
あ、なんか嫌ーな予感。
「アスラ様がガイア様に匹敵する偉大な大魔王として君臨される為には、これらの7人の王の中の過半数、まずは最低でも4人に認められるべきなのです。実質上、魔族王がつまり全てを統べる魔王だとしても、やはり他の王たちに心から崇められる大王でなくてはならない」
ほーら来た。
魔王が選んだ者が即ち新たな魔王、とか言っといて。
彼ら、彼女らは喜んで受け入れるとか煽っといて。
だいたい、この手の安易な話には必ず裏があるんだよ。
やっぱ、魔王とかやめとこうかなー。
でも、上手いこと引っ張り出されて、就任の挨拶とか、街や国の名前決定とか、調子に乗って謁見までやっちゃったもんなあ。
うーん、困った。どうしよう。
「困惑されたり心配なさる必要は全くございません。アスラ様は既に3人の王に認められていらっしゃるではないですか」
「え?」
「まずアスラ様自身がそうである魔族王、次に龍王ティアマト様、そして悪魔王である、わたくしゼブル。おや、御存じありませんでしたかな?」
ふーん、ティアお婆さんって龍王なんだ…… って、問題はそこじゃない!
「悪魔王であるわたくしゼブル」って、知ってるわけないだろ!
だいたい、悪魔って何なの?
しかも、しれーっと、その王とか。
「悪魔については、おいおい詳しくお話しすることとして、他の王達もアスラ様をすぐに魔王として認める事は間違いございません。わたくしは貴女様にはその資格があると固く信じております」
う、「信じております」とか、ズルい言い方するなあ。
さすが悪魔。
まあ、悪魔って、お話の中でしか知りませんけど。
「獣王だけは別ですが、これは放って置けば宜しい。近々、せいぜい精一杯の大軍を率いて押し寄せるでしょうから、その時にアスラ様の力を、全滅させない程度に軽ーく見せてやれば、それで片付きますとも」
「全滅させない程度に軽ーくって、私、手加減するの苦手なんで。ガイアさんと戦った時、見たでしょう? 手加減して、あの惨状ですよ」
「う! そう言えば……」
ここでゼブルさんは、さすがに困った顔になるが
「まあ、何とかなるでしょう」
やっぱ、この人も基本的に軽い。
魔王の配下って、みんなこんな感じだ。
ひょっとして、ガイアさんの影響だろうか。
「それよりも、もっと重要な話を致しましょう。アスラ様の魔王就任の御披露目、祝宴の件でございます。これは一大イベントになりますぞお。この街の住民全員が参加するのは勿論、他の王達も招待して、ああ楽しみだ、忙しい忙しい……」
その祝宴で、住民と来賓に振る舞う料理を私が計画し、料理人さんたちを指揮して作るのだそうだ。
誰が決めた、そんなこと!
この街の住民10万人にだとお?
しかも、メニューから何から全部が私に丸投げじゃん。
ありえねー! 絶対にありえねー!
もちろん、そのことについて一応は抗議を試みる。
すると
「まさか、アスラ様がそのような無慈悲なことをおっしゃるとは。このゼブルをこれ程に悲しませようとは、ああ情けない。いっそこの命を絶って……」
とか、大袈裟に泣き悲しむ芝居を打つからね。
悪魔が死ぬのか? 死ねるのか?
私、やっぱりこの人のこと苦手かも。
で、結局、引き受けることになってしまった。
その後、他の亜人国との関係や、この国の運営に関する今後の方針について大まかなことを二人で話す、筈だったのだが ――――
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