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第2部 魔王って? 獣王って? 天使って?
第2話 迷子になっちゃいました
しおりを挟む三人にそれぞれ与えられた部屋は最上階だったので、ここから出口まで行くには、けっこう面倒な迷路めいた通路を辿らなくちゃいけない。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
階段を下りたら、なぜか行き止まりで上に戻ったり。
途中、番犬役と思われる怖い顔のケルベロスがいたんで、その3つの首にそれぞれクッキー(ケルベロスは甘いもの好き!)をあげて吠えないように手懐けたり。
割と人懐っこいケルベロスで助かった。
それからまた右へ行ったり左へ行ったり。
で、ははは、結局
迷っちゃいました。
もう、案内が欲しいなあ。
すると
「もしも案内人が必要なら、ここに居るぞ」
タイミング良く、背後から、そんな声がする。
「ガイアさんっぽい声だったけど、まさか違うよねえ」
「「まさかあ」」
「まさかではない。その通り、ガイアじゃぞ」
三人揃って振り向くと、げっ、本当にガイアさんだ。
「何をしておるのだ? さっきから3人して、あっちへこっちへと」
「「「見てたんですか?」」」
「見てはおらぬが、城内には用心のために常に感知を働かせておるのだ。それで気付いたのじゃ」
「あ、いやあ、それがっすね、アスラがどうしても散歩に行きたいって言うもんで。俺たちは止めたんすけど」
「そうそう、ワタシたちは気が乗らなかった」
責任転嫁かよ!
「ここは北方なので、秋になると日の暮れるのが早いぞ。もう外は真っ暗じゃ」
「いやあ、暗くなってからの散歩も、却って風情があるもんすよ」
「では妾も一緒に行こう。たまに夜風に当たるのも良いものじゃ」
「「「はあ?」」」
ということで、ガイアさんも一緒に外を目指すことになってしまった。
「(小声で)おい、アスラ、お前が責任持って何とかしろ」
「(これも小声で)ん、何とか言いくるめて追い払うのだ」
「えーっ、そんなこと私に言われても」
「逃げるのじゃな」
あ、やっぱり、わかってました?
「ならば妾も一緒に逃げるとしよう。久し振りの自由な外界じゃ。楽しみじゃなあ。わくわくする。お、そこの階段を下に行くのじゃ」
「えっ、でもガイアさんは魔王じゃないですか? 責任があるでしょう」
「もう妾は魔王ではない。さっき辞めたからな。後は新しい魔王であるアスラの責任じゃ」
「えーっ、そんなあ!」
「ほら、そこの突き当りを右じゃぞ」
とか言ってるうちに居館から抜け、中庭に出た。
なんとそこに、なんとなくガン〇ムに似た警備の大型ゴーレム兵がいる。
これがまた、戦闘用のミスリム製。
「俺に任せろ!」
「あ、ちょっと待って」
「うりゃー!!!」
だから、その無駄な大声の気合はやめろって。
戦う時はいつもこうだから薄々予想はついてましたけど。
自分から「逃げよう」って言った癖に、これじゃあ台無しじゃん。
「たあーっ!! とおーっ!!」
はあ、大声で耳だけじゃなくて頭も痛い、ような気がする。
で、その一体をやっぱり、ガラガラ、ガッシャーンって騒音を響かせて倒すと、お約束の決めポーズを取る。
ぶっとい腕でこれ見よがしに力こぶ。
振り向きざま、白い歯を覗かせて暑苦しい笑顔。
ありえねー!
うーん、アイツ、殴っていいかな。
それとも、いっそ蹴りの二三発でも入れて……
「何なのだ、あれは?」
「アレについては私は何も語りたくありません! ガイアさんも、どうか見なかったことにしていただきたい」
「あの様に大きな音を出しては、こっそり逃げる意味が無いではないか。それに、あのポーズは何なのじゃ?」
「だから、しっかり忘れてください」
ほーら、音に気付いてミスリムゴーレムが何体も集まって来た。
「妾なら、もっと静かに片付けられるぞ」
「えっ、だったらお願い! でも最後のポーズは無しで」
「当たり前じゃ。あんな恥ずかしいポーズを取る位なら、舌を噛んで死んだ方がマシじゃ。では」
ガイアさんがゴーレムたちをリズムを取るように指さす。
すると、その順番で1体ずつ、頭、胴体、それに手足が音もなく大小の部品ごとに分解された。
そしてネジに至るまで、ボールのように跳ねながら音も無く地面に散らばった。
「どうじゃ。各部品の接触面の摩擦をゼロにしてゴーレムを分解し、直後に大気を濃縮して全ての部品にそれぞれ纏わせ、静かに跳ねて地面に落ちるように工夫したのじゃ」
「凄いです! こんなの初めて見ました」
「そうか。ふふふ、ならばその心のままに、妾をしっかりと尊敬して良いのじゃぞ」
「ガイア様もアスラ様も、こんな所で何をしておられるのですかな?」
あら、背後から聞こえるこの声は……
「わたくしの自慢の大切なゴーレムをオモチャになされて、何のお遊びですかな?」
「ゼブルか! 音で気付いたか」
「音もそうですが、この城のゴーレムは、わたくしの魔力で動いている事をお忘れですか? 故障したり破壊されたりすれば、魔力の繋がりが途絶えるので即時分かりますとも」
「しまった、忘れておったのじゃ」
「で、この有様は何なのか、御説明頂きましょうか」
「あ、いや、これはアスラが外に散歩に行きたいと言うので、それも良いかと思っちゃったりして」
「はあ、また私のせいに?」
「ほほう、それでガイア様も御一緒に?」
「そ、そうじゃ。妾もたまには夜の空気を吸いたくなっちゃっちゃ、あ、噛んだ」
「ふーん、そうでしたか。その為に、わざわざ警備のゴーレムまで破壊して」
あ、これはまずい。
顔は笑ってるけど、目は全く笑ってない。
口調こそ穏やかだけど、頭から湯気が出てる感じ。
「ではアスラ様、どうぞこちらへ。場所を変えて、ゆっくりとお話を致しましょうか」
「えーっ、なんで私だけ。せめてガイアさんは?」
「ガイア様は良いのです。もう魔王を辞められたのですから」
「そんなあ」
あーあ、今からたっぷりお説教かよ。
と・ほ・ほ。
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