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第2部 魔王って? 獣王って? 天使って?
第1話 勇者兼魔王って、アリなの?(再びアスラの物語へ)
しおりを挟む「勇者兼魔王とか、アリと思う人、手を挙げて!」
しーん。
ほらね、誰も手を挙げないし、何も言わないじゃない。
(当たり前だ。この部屋には、お前と我の他、誰も居らぬではないか)
まあまあ。いつも通りサラッとボケてみせただけですよ。
じゃあ、心の声さんはどう思う?
アリかナシか。
(まあ、なるようになるであろうよ)
ガイアさんが突然に魔王を辞めるとか、次の魔王は私だとか言うから。
あれから大変だった。
「魔王様、吾輩だけが同行している時に、そのような重大事をいきなり言い出されても、吾輩の責任というものが。どうぞ他の者にもお諮りになって……」
「もともと妾は好きで魔王などになった訳ではない。いつの間にかそうなってしまっただけじゃ」
「しかしアスラ殿は何者かに狙われそうであると、ティア婆様もおっしゃっているではありませんか。このうえ魔王になどとは、アスラ殿が晒される危険を増すばかりではないかと」
お、いきなりアスラ「殿」とか。
さすが(中間?)管理職。変わり身早いなあ。
「妾が思うに、魔王にならずとも、そやつらはいずれ襲ってくるに違いない。いずれにしても危険なら、いっそアスラを魔王として国の中心に据え、魔族全員で力を合わせて守る方がまだ安全であろう。国を挙げてアスラを強力に支持し同時に死守する姿勢を見せれば、もしかするとそ奴らも諦めるかもしれぬ」
「儂が思うに諦めはせぬじゃろうな。襲って来るとすれば、そのような甘い連中ではなかろうて」
「ではティア婆は、アスラと妾たちはどうすべきと言うのだ」
「ガイアの言う通り、お嬢ちゃんを魔王にすれば良い。そうすれば、お嬢ちゃんの為にも魔族の為にもなるじゃろう。お互いを守り合うのじゃ。そしていずれお嬢ちゃんの力が更に増して……」
「ティア婆様ぁ、魔王様ぁ、吾輩の立場わぁ……」
猫ちゃんはおろおろと走り回るし、連れの戦士と賢者のコンビは二人揃って卒倒しそうになるし、ただガイアさんとティアお婆さんだけが顔を見合わせて
「やったあ! これでやっと妾も解放されるのじゃ」
「ヒッ、ヒッ、ヒッ、面白い事になってきおったわい」
とか勝手に喜んでるし。
ああ、あと、魔王城に帰り際に例の竜人の料理人さんが何だか名残惜しそうに挨拶に来てくれたんで
「ありがとう。おかげで助かったよ。あなたは味覚も腕もしっかりしてそうだから、これからも頑張ってね。ただ、爪はちゃんと切るように」
って言ったら、急においおい号泣し始めて困った。
ガイアさんとのことも、竜人さんとのことも、今日は何だかよく人を泣かせる日だった。私、もしかすると変な才能があるのかも。
で、魔王城のあった場所に戻って来ると、思い出したくもない巨大クレーター、ではなくて、既に以前の建物と寸分変わらない立派なお城が「ふ・ふ・ふ」と聳え立っていたのには、さすがに驚いた。
執事のゼブルさんが言うには
「地の魔法が使える者を総動員して2時間程で急遽再建致しました。つきましては、この際、以前からの計画通り色も変更済みでございます」
だそうだ。
ただねえ、色がねえ……
そう。アレだよ。
ついにピンクの魔王城、要塞ピンクパレス完成。
こうなってしまったのも、ガイアさんが噴火なんかさせるからだ。
えっ、私?
私のことは放っておいてほしい。
何かやったっけ?
それに、いずれはこの色になる運命だったんでしょ。
この件は今後これ以上は考えないようにしよう。
うん、そうしよう。
それから居間でお茶を飲みながら、ガイアさんがゼブルさんに、
「ゼブルよ、妾は魔王を辞めるぞ。新しい魔王はここに居るアスラじゃ」
サラッと伝えるとゼブルさんも
「新魔王誕生ですな。畏まりました」
なんて、やっぱりサラッと答える。
これってどうなん? どう考えてもオカシイでしょ。
でも、ゼブルさんは
「アスラ様はルシフェル様ですから」
なんて澄ましてる。
この状況、ひょっとして完全に詰んでる?
いやいやいや、猫ちゃん(あ、バベル君でしたね、ごめんなさい)の狼狽ぶりからしても、納得してるのはこの二人だけ。
きっと反対する人が多くって、発表と同時に計画は頓挫するに違いない、と思いたい。
あ、しまった!
(どうした?)
ティアお婆さんにトマトの特別な育て方を聞くのを忘れたあー!
(…………)
(おい、仲間が来たぞ)
言われて我に返ると、部屋のドアに小さなノックの音がする。
ドアの所に静かに近付いて
「合言葉は?」
「「(極めて小声で)ありえねー」」
よし、合言葉確認。
(その合言葉の儀式は、本当に毎度必要なのか?)
えーっ! それは必要でしょう。
防犯に気を付けることはやっぱり大事だよ、うん。
(せめて、何か別の合言葉は無いのか、はぁ)
で、ドアをそっと開けてみると、例の二人が合言葉の小声が無駄になるドカドカと響く大きな足音で部屋に入って来て、これもまた大声でいきなり
「逃げるぞ」
「ん、逃げるのだ」
「逃げるって、どこへ、どうやって?」
「場所はどこでもいいだろーよ。アスラの転移でサクッと」
「ああ、それは無理ですね。きっと魔王城の周りには強力な結界が張ってあるもの。結界を破るほどの転移のための魔力を放出すれば、すぐに気付かれるだろうし、魔力の痕跡を追って行先も突きとめられますって」
「何を呑気な口きいてんだよ。じゃあお前は、あいつらの言う通り魔王になるってのか」
いや、それはまだ全然決めたわけじゃないけど。
「勇者が魔族と手を組むとか、ましてや魔王になるとか考えられねーぞ。特に俺は今日お前と魔王が戦ってる時、とばっちりで死にかけたんだからな」
「でも、それは結局だいじょうぶだったでしょう? 私もガイアさんも、ああ見えて全力じゃなかったから。それに魔族ってやっぱり決して悪い人たちじゃないですよね。みんな結構良くしてくれるし。ゼブルさんも猫ちゃんも防御障壁を張るのに協力してくれたでしょう?」
「そう、役に立たなかったのはルドラだけ」
「でしょう。人間だろうが魔族だろうが協力するのって大切ですよね」
「うんうん」
「ソフィアは黙ってろ! とにかく俺は魔族を喜ばせてやる趣味はねーんだよ」
「でも、今日はガイアさんやゼブルさんやティアお婆さんたちと、けっこう仲良さげに……」
「『でも』も何もねーんだよ! さっさと行くぞ!」
あらら、思いの外の魔族嫌悪にびっくり。
「とりあえず」って、どういう意味?
とにかく、てなことで押し切られて、その場は二人の言う通り部屋を出ることになってしまった。
ところが ―――
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