フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

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第1部 ルシフェルって? 教会って?

第17話 料理を頼まれちゃいました(3000歳の乙女?)☆☆

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 現れたのは、やっぱり、だった。

 どういうわけか濃いサングラスをかけている。ドラゴンがリゾート気分?
 黄金の三頭龍、じゃなくて首は一つだけだな。
 うーん、残念。
 無重力光線あの方は最初はそうでしたとか吐いて欲しいなあ。
 頭部には二本の三日月形の角が生えていて、その中央から白いたてがみが背中まで伸びている。
 背中にはやはり金色の、巨大なコウモリのような翼。
 マッハ3で空を飛ぶ、とか言われても軽く信じちゃいそう。

「かっくいーっ!」

 私の声を聞いてドラゴンさんが嬉しそうな表情をした、気がする。
 サインもらおうかな。「アスラさん江、キ〇グギ〇ラ」とか書いてくれたりして。
 あ、それよりも、金色の龍だったら、願い事を言えば叶えてくれるかも。キャーッ!

 なんて勝手にちょっと興奮してると、ドラゴンさんはみるみる小さくなって、あらら、ずいぶん小柄な、血色のいい、にこやかな丸顔、長い白髪を垂らした可愛いお婆さんの姿になった。
 ゆったりとした服は金色で、短い杖を持ち、背中の小さな翼をゆっくりとはためかせて目の前の宙に浮かんでいる。
 変身してもなぜか、やっぱり濃いサングラス。
 今度のは顔の小ささに比べて、かなり大きめ。

わしの名はティアマト。皆はよく『』と呼ぶが、それでは長いので『ティアばあ』だけで結構じゃ」

 はぁ……

(おい、ツッコミはどうした)

 いや、なんだか急にテンション下がっちゃって、何も言いたくない気分。

(わはは)

「ガイアよ、普段はもっぱら執事の使いで済ませるくせに、今日は不意にどうしたのじゃ。それに、お前さんが客人を連れて来るなど初めてではないか」
「この者たちをティア婆に会わせてみたくなってな。特にこの勇者をじゃ」
「あ、一応勇者やってます。名前はアスラです」
「「…………」」(他二名、あまりの展開に失語症状態)
「ふーむ、魔王が勇者を伴って来訪するとは、今までにない珍事じゃ。長生きはするものじゃ、とか年寄り臭い台詞はつつしまねばな。。とにかく、どれどれ……」

 ティアお婆さんは私の周りをゆっくりと、ふわふわと飛ぶ。
 うー、じろじろ見られるのって、やっぱり気持ちが良くない。
 おまけに時々、くんくんと匂いを嗅いでくるぞ。
 ガイアさんは腕を組んで、にやにや笑ってるばかりだ。
 おーい、心の声さん。これはいったい何をやっているんだい?

(知らん! 我こそ不愉快だ)

 そんなこと言って本当は知ってるでしょう。
 言い方でわかるんだからねえ。
 とぼけても無駄だぞお。

(知らんと言ったら知らん! 今、あまり我に話しかけるな)

「はい終了。不躾ぶしつけに済まなかったな。しかし、おかげでガイアの言う意味が少しはわかったぞ。この娘は面白い」
「そうであろう。妾もティア婆ならきっと、そう言うと思ったのじゃ」
「おお、そうじゃ。もう暫くすれば夕食の支度したくが始まる頃じゃ。お主たちも食べていけ」

 と、ここで

「では吾輩は持参した『さいえ〇す・だい〇っと』を」
「おお、猫ちゃんも居ったのか。小さくて、ガイアの影に入って見えなかったわい。何しろ真っ黒の仔猫ちゃんじゃからの」
「ぐぅ…… よわい70歳になろうとする吾輩を仔猫ちゃん呼ばわりとは、たとえティア婆様でも失礼な」
「仔猫は仔猫じゃろうが。それとも、もう成体になって、つがいの雌でも見つかったかえ」
「仔猫って、どういうことですか」
「ああ、この猫は儂に対しても『吾輩』とか自称して態度は大きいが、実はまだ成体には遠いのじゃよ。何しろこいつの一族は代々長命でな、500年以上生きるのじゃ」
「「「えーっ、500ねん!?」」」
「そうじゃ。成体になるのにも100年以上は余裕でかかるのじゃ。だから70歳などと言っても、まだまだ仔猫に決まっておろうが。ほれ、後でその缶詰は開けてやるから、それまで悪戯などせずに、お利口にしておるのじゃぞ」
「うー、好き放題言われて無念なのである」

 ふーん、ティアお婆さんは苦手なんだ。
 それにしても、まだ仔猫とはねえ。
 後で絶対にからかってやろう。

「まあ、500年とは言っても、このティア婆に比べれば短い寿命じゃがな」
「じゃあ、ティアお婆さんはいったい何歳なんですか」
「乙女に年齢を聞くか。いい度胸じゃの」
「あ、ごめんなさい」
「わはは、冗談じゃ。67
「「「えーっ‼」」」
「何を驚く。龍族の寿命は軒並のきなみ長いからな。しかも、儂のような始祖龍のそれは2万年とも言われておる」

 に、2万年⁉ 
 スケールが大きすぎて、なんだか頭がボーッとしてきた。ありえねー。

「まあ、2万年とは言っても誰も確認した者はいないからのう。ただの推測のようなものじゃ。
 だが本当だとすれば儂などもまだ乙女であろうが。まわりの皆よりずっと年上になってしまったので、ついこんなBBAババア口調にはなったが、寿命から考えれば立派な『』じゃぞ。
 アスラちゃんも、そこの魔術師っぽいお嬢ちゃんも、乙女どうしよろしくな。か弱い儂をイジメるなよ」
「「はぁ、こちらこそ宜しくお願いします……」」
「おお、そうじゃ。夕食の支度と言えば、あれを見てもらおうかのう」

 ティアお婆さんがつえで(どこから出したの?)示した先ではちょうど、20人ほどの人たちが荷車や馬車で何かを館に運んで来るところだった。

「あれはこの島の海沿いに住む漁師たちでな。船を出して魚をり、それを我が家に持って来て、うちで育てた野菜や果物や、他の食材と交換していくのじゃ。獲ってくる魚が新鮮で美味なので交換を許しておる」

 まあ、この北の海で獲れた海産物だったら、きっと美味しいでしょうねえ。
 いかん、お腹が空いてたのを思い出してしまった。
 結局お昼もオードブルとフルーツ、サンドイッチ一枚しか食べてないもんねえ。

「狩りで獲った肉を持って来る者たちもおるぞ。もうすぐ姿を現すじゃろう。そっちはエルフが多いな。弓が巧みじゃからな」

 エルフかあ。言われてみれば、農園で働いている人たちも、漁師さんも、人間だけでも魔族だけでもなくて、竜人族はもちろんだけど、エルフや獣人やドワーフや、いろんな種族がいるなあ。

「この島に住む者たちは、元から儂と共に居た竜人族を除けば、皆が奴隷だったり、故郷で迫害されたりした者たちじゃ。逃げ出し、あちこちを彷徨さまよった末に、この島に辿たどり着いたのを受け入れてやったのじゃ。途中で船が難破して沈んでしまった事も多かったと聞く」

 ううう、なんだか可哀そうな、辛い話になってきたぞ。
 私、そういうのに弱いんだよねえ意外と単純? 泣きで騙されるタイプ?
 危険をかえりみず絶海の孤島まで逃亡とか、よほど元住んでた所でひどい目にあったんだろうなあ。
 でも今はやっと、この島で平穏に暮らせてるんだろうなあ。良かったねえ。
 海での漁も、山での猟も、決して無理はしないでください。
 なんか涙が出そうになってきた、ぐすん。

「それでじゃ、良い事を思いついたのじゃ。アスラちゃんにお願いじゃ。我が家にある食材を何でも自由に使って構わぬから、儂と我が家で働く者たち、魚や肉を提供してくれる者たち皆の為に、何か料理を作ってやって欲しいのじゃ」
「えっ?」

(そう来たか)

「それは良い。妾も大賛成するぞ」
「えっ、えっ⁉」
「そうじゃろう。儂の人物鑑定眼と嗅覚が、この娘は美味しいもの好きで、かつ抜群の料理上手だと告げておる」
「全くその通りじゃ。妾の料理の問題を的確に指摘し、その後に食べさせてくれたサンドイッチの味が絶品だったのじゃ。あれはまさに、ルシフェルの料理に匹敵する味であった」
「そんなあ、急にハードル上げられても」
「う…… ガイアの料理を食べさせようとしたのか。それはまた大胆なサラッと言っちゃった!。しかし、ルシフェルの料理に匹敵する味とは、それは当然そうじゃろうなあ」
「そのうえ、ティア婆の育てたトマトと果物、それからチーズを絶賛するのだぞ。ひとつには、それがアスラをここに連れて来た理由なのだ」
「ほほう、我が家の食材をめてくれるとは嬉しいのう。それだけ味がわかるのなら、作る料理もきっと美味に決まっておろう。
 どうじゃ、可愛いお嬢ちゃん、老い先短い年寄りの頼みを聞いてはくれぬかなあ。どうしても駄目だと言うなら、死んだ後、幽霊になって毎晩毎晩毎晩(以下繰り返し)枕元に化けて出るぞえ」

 可愛い? いーや騙されないぞぉ。
 こんな時だけ「老い先短い年寄り」とか言って、確か「乙女」や「ぎゃる」じゃなかったんかい。

(だから我はこの婆が苦手なのだ。すぐに話が都合良くコロコロ変わる)

「そんな急に言われても、初対面でいきなり料理を作るとか無理です。何の準備もしてないし」
「なんと! お嬢ちゃんは確か勇者ではなかったかえ。ならばこの年寄りを悲しませるような真似が出来る筈はなかろうて。今まで苦労してきたあの者たちを、たまには喜ばせてやろうという、この婆の気持ちが分らぬとは情けない。それこそ勇者甲斐のない、男気おとこぎの無い仕打ちだろうて。お、そうか、女じゃからな。男気の無いのは当たり前か。わっはっは」

 うー、男とか女とか、差別発言じゃないの?
 だから男気がない、とか失礼な。

(落ち着け。見え透いた挑発だ)

 そ、そうだよね! 挑発だよね。こんなありふれた手には乗せられないぞ。
 ここは丁重ていちょうにお断りしてと……

「(我ながら棒読みボーヨミで)ええと、全部で何人になるんでしょう」
「(その気になったかと思い込んだらしい)おお! 儂らの分も含めて、ちょうど100人ぐらいじゃな。お嬢ちゃんの腕なら、きっとチョイチョイのチョイじゃお年寄りって、こんな言い方するよね~
「ああ、それは一人では無理ですね。私、そんな大人数分の料理をこれまで作ったこともないし」
「(意外な返答に少し慌てて)いやいや、お嬢ちゃんなら大丈夫じゃとも。儂が保証しよう。我が家の料理人たちも自由に使って構わんぞ。20人は居るから人数は何とか足りる筈じゃ」

「………………」

「(再び挑発を試みて)それに、ガイアの料理の問題を指摘したと聞いたが、批評するだけで、自分で作って見せないのでは格好がつかないのではないのかえ。サンドイッチだけでは、いかにも腕の出し惜しみではないかえ。きっとガイアもお嬢ちゃんの本気の料理を食してみたいと思っている筈じゃ」

「………………」

「(もうひとつ乗ってこないのを見て作戦を変え)はぁ…… ここまで言っても引き受けてくれぬとは残念じゃのう。儂の自慢の食材を使って、お嬢ちゃんが今までにない美味を体験させてくれると思ったのじゃが」

「………………」

「御存じの通り、儂が育てた野菜は美味じゃぞお。それがトマトだけではなく多種多様、使い放題なんじゃがなあ。ああ、残念じゃ‼」

「………………」

「それに、北の海の豪華な、身の締まった海産物も極上なのにのう」
「うっ」
「今の季節なら脂が乗って『とろとろ』のサーモンなどの魚は勿論、カニやロブスターも旬じゃのう」
「うう」
「肉なら、うちの牧場の牛は三歳未満の厳選した牝牛めうしばかり。ビールを飲ませて胃腸の調子を整え、自然の牧草で健康に育てたその味は、口に入れた瞬間に溶けてしまう濃厚なお菓子のような芸術的美味しさじゃぞぉ」
「ううう」
「ジビエならば最高のトナカイの肉が……」

! !」

 そして私は100人分の夕食を調理することになってしまった。
 決して、北の海で獲れた「サーモン」「カニ」「ロブスター」や「芸術的牛肉」「最高のトナカイ肉」などを自分が食べたかったからではない、と思いたい。


「(小声で)しめしめ。美味羅列られつ作戦まんまと的中。ガキはチョロいのう」


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