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第1部 ルシフェルって? 教会って?

第13話 怒らないって言ったくせに(バトル開始!)☆

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(よーしよし、言えたではないか)

 はぁ…………

(やはりお前は「やる気になれば出来る子」だな。さすが我の転生体だけのことはある)

 ん、今なにか気になること、とてもとても重要なことサラッと言った?

(別にぃ。それよりほら、ガイアが激怒しておるぞ。良いのか)

 いいわけあるかい!

(怒・怒!)」

 あれあれ? 
 怒らないって約束したでしょーに。
 狭量きょうりょうな魔王ではないぞ、じゃなかったっけ。
 とかツッコんでもダメですよねえ。
 やっぱこうなりますよねえ、予想通り。

「あ、いや、あれは私が言ったんだけど、そうさせたのは私じゃなくて」
「何を訳の分からない事を言っておる!」
「ですから、あれは私の心の声が」

? !」

 あらら、魔王さんたら激おこモードに突入していらっしゃる。
 メイドさんや厨士さんたちはとっくに粛々しゅくしゅくと退避済み。
 さすがに皆さん慣れておられるようだ。

 魔王さんの赤みを帯びた眼が熱を持ったように光って、長い髪が逆立った。
 全身から青白い炎が立ち上って着ていた服が焼け、その代わりに体にぴったりとした、微細な金属粉のような輝きを放つ深紅のドレスが現れた。
 おお、マーメイドラインスタイルに自信のない人はやめておきましょう。大人っぽくて、かっくいー!
 カチューシャが燃え、マリンブルーの宝石を中央に飾った金色の宝冠ティアラまで現れた。
 これは本気の戦闘態勢に入りましたねえ。
 ん? 虚空から物体を生み出すとは、これは創造魔法か?

(そうではない。お前のように全くの無から何物かを創造するのではなく、元々存在する諸元素を組み替え定着させているのだ。もちろん今の場合、周囲の大気中にある微細な元素だけではなく、焼け散った服のそれも用いてな。物質変換、一種の錬金術だな)

 ふーん。
 おお、よーく見ると、瞳孔が縦に細長くなっちゃってるじゃないですか。
 迫力あるぅ! かっくいー!

(余裕だな)

 そーじゃないの。もう、こうなりゃヤケクソなだけ。

(ではあれだ、我が昔よくやった、ガイアを一気に落ち着かせる方法を試してみるか)

 え、そんなんあるの。だったら早く教えてよ。どうすればいい?

(簡単だ。まず巨大なハンマーをお前の能力で創造するのだ。横に100tとか書いてあると、なお良いな)

 それで?

(ガイアの背後に高速転移で移動し、「いい加減にしろーっ!」と叫びながら脳天にハンマーの強力な一撃を加えるのだ)

 それって、どこかの「あにめ」か「こんと」で見たやつじゃないよねぇ。

(け、け、決してそうではない。はるか古代に日常的に行われていた仲直りの儀式だぞ。「バカヤロー」とか言いながら相手の頬に平手打ちやグーパンチを見舞う事で、冷静さを取り戻させ反省を促すのだ。
 これを当時の文化で「雨降って地固まる」の術と言う。どれ程の打撃が妥当かは相手の防御力次第だが、ガイアならば100tハンマー程度は最低必要であろうよ)

 「術」ですと? なーんか怪しいなあ。

(ふむ、そう思うなら信じなくとも良いがな。今まで我がお前をだましたことがあるか? 嘘を言ったことがあるか?)

 いや、騙されたこともあるようなないような。
 それに、何だかんだと言いくるめられている感が。

(そーら、ガイアは待ってはくれぬぞ)

「何を呆けておる。覚悟は出来たであろうな!」

 ええい、こうなりゃしょうがない。
 私は言われた通りに、それを手に魔王さんの背後に高速転移、そして「いい加減にしろーっ!」の言葉と共に、頭上から赤髪の脳天に打ち下ろした。
 魔王さんは顔面から床に突っ込んだ。ごめんなさい。

(ぷぷぷ、騙されおった! そんな事をすれば相手は更に逆上するに決まっておるではないか。くくく、「雨降って地固まる」の術とは真っ赤な偽り。これこそ遥か古代の名作アニメを参考にして作り上げたの必殺技、名付けて「悟〇の瞬間移動・プラス・シ〇ィーハ〇ター100tハンマーの術」、別名「古典的名作アニメを適当に融合フュージョン」の術よ。わはは、こんな土壇場どたんばで嘘をつくからこそ楽しいのだ。笑いが止まらぬ。ぶあーはっはっは!)

 コイツ、いつか殺す、のはできないから消してやる。

「き、貴様あ。妾の料理をけなした上に、こんなふざけた真似をしでかして、よほど命がらぬとみえるなあ…… おのれ、どうしてくれようかあ!」

 魔王さんは頭を押さえ、ゆらりと立ち上がりながら言うが、顔にまだ床のほこりやタイルの小さな破片がくっついてて、少し笑える。
 魔力が急速に高まっていくのがわかる。
 同時に、どうしてやろうか考えてるみたいだけど、逆上しすぎてかえって頭がまとまらないみたいだ。
 それとも巨大ハンマーの一撃が、まだ少し効いてるんだろうか。
 でも、私はなんとかなるとして、連れの二人はどーするよ。
 この増大した魔力の攻撃に耐えられるのか?

(大丈夫だ。ゼブルが何とかするだろう)

「むぅ、これはいけませんね。ガイア様が思ったより激怒していらっしゃる。バベルさん、魔法障壁を張るのを手伝って下さい」
「後にしろ。吾輩は今、食後の毛づくろいで忙しいのだ」
「それどころではないでしょう。この様子では下手すると我々も一緒に吹っ飛びますよ。そうすれば二度と『さいえ〇す・だい〇っと』も賞味できませんよ」
「何! それは困るぞ。どれどれ、では」

「喰らえ!」

 その直後、閃光が走り、目の前が真っ白になった。

 同時に巨大な雷鳴がとどろいた。
 立っている床も衝撃で激しく揺れる。
 瓦礫がれきが飛び散り、天井の破片が降り注ぐ。
 あーあ、天井にひどい大穴が開いちゃったよ。
 かろうじて残った部分も今にも崩れて落ちて来そう。

 この位なら咄嗟とっさの小規模結界でも防げるし、雷撃耐性もあるから何とかなるけど、さっきから周りの会話が気になって聴覚を鋭敏にしてたせいで、まあ轟音ごうおんが耳に響いたこと響いたこと。
 「近所迷惑な騒音はつつしみましょう」って習わなかったかなあ。
 仮に習ってなくても、ちょっと考えればわかる常識的なマナーの範疇はんちゅうだと思うんだよね。
 やっぱりこの魔王さん、少し困ったちゃんだ。

(ふん、迷った末に結局は得意の雷撃か。芸がないな)

「ぷっぷっ、埃が舞ってたまらんのである。吾輩は清潔好きなので、こういうのは我慢できんのだ」
消炭けしずみにならずに済んだだけでも良かったではないですか。あのまま無防備に毛づくろいを続けていれば危なかったですよ」
「黒猫が真っ黒の消炭になど、シャレにならんのである」
「凄ぇ」
「呪文の詠唱もしないでこの威力とは、ワタシにはとても」
「要は集中力とイメージの問題です。呪文の詠唱は単にそれらを高める手段ですな。言霊ことだまなどというものが自然界の精霊に働きかける訳ではない。ある程度以上の魔力のある者が習熟すれば、呪文など不必要になる。唱えるだけ時間の無駄になるのです」

 あら、なんか、魔法の講義が始まってますけど。

(お前は常に我と共にあったから、他からの講義を受けないで良かっただけだ。少しは感謝しろ。普通はあのように教えられて学んでいくものなのだ)

 ふーん、そう言えば私も、あの二人の前で本気の大掛かりな魔法を使ったことないものねえ。それに、ちょっと目立つ魔法を使う時はいつも、適当な呪文唱えてる振りして、「魔法学院で習うのとは別系統の魔法です」とか言ってたし。

(そうだな。いい加減な呪文ばかり自作しおって。今朝の肥満体質改善必要云々デブは見た目も健康にも悪いから……にはさすがに呆れたぞ)

 あはは、遠い昔のことは、もういいじゃない。

(何が「遠い昔」だ。つい数時間前ではないか)

 まあまあ。どっちにしても、もう終わったことだしぃ。
 それにしても、無詠唱の大規模魔法を初めて見たわけかあ。
 勉強になるだろうねえ。
 私からもお礼を言っといた方がいいかな。
 では早速。

(おいおい、我に感謝しろと言っておるのに……)

「執事さん、魔王さんも、ありがとう」
「は? わたくしは別に」
「また何をほざいておる! 訳の分らぬ礼より自分の心配をせい」
「あ、いや、仲間のためになったから、お礼を言っておいた方がいいかと思って」
「このうえ更に妾を愚弄ぐろうするか。ふざけるな!」
「お礼ついでに言ってもいいでしょうか」
「この期に及んで何じゃ! 命乞いなら聞く耳持たんぞ!」
「そうじゃなくて、料理のことでちょっとアドバイス。スープを煮込むときは、ちゃんとこまめにアクを取った方がいいですよ。そうしないとエグイ味になるし、色も冴えないから」
「な!」
「それから、味を取るのにはビーフだけじゃなくて野菜も入れた方がいいと思う。風味に複雑さと華やかさが出ますよ。いやいや、ほんの些細ささいな助言ですから『ありがとう』なんて言わなくていいですよ」
「黙れ!!」

(意外に上手く挑発するではないか)

 いや、挑発も何も、純粋にお礼に料理のことでアドバイスを、と思っただけなんだけど。

「それから魚料理ですが……」

 あ、なーんか来たよ。聞いちゃいねー。
 魔王さんの左手の人差し指の先に小さな発光体ができて、どんどんエネルギーが集中して光度を増してますけど。
 この人、もしかして左利き?
 いや、それどころじゃない。

 
 何とかしないと、私どころか建物ごと蒸発しかねないぞ。
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