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第十一章
神
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「着いたか」
俺はジル、ガルド先生、リン、メリィ、シロ、の五人が入るように魔法陣を広げた。ちょうど食事を共にしていたので近くにいたのだ。王様たちは先に逃げていたようであの場にはレイチェルさんとルビーさんだけになっている。
「おいクロ、これからどうするんだ?」
ジルが俺に聞く。普通なら年長者のガルド先生に聞くのが道理だろうが、俺に聞くという事はあの話に気を遣っているのだろう。ならば、ここはそれに甘えるとしよう。
「それより、何で学校に転移したんだ?」
ガルド先生が俺に聞く。そう、転移先を学校にしたのだ。今王都に帰ってもフェニクス教がいるだろう。指名手配されているから襲ってくることもあり得る。けれどこの学校にはあいつに用事があってきたのだ。
そう、それはレイン・カシエル!……なんかではなく。
「おぉ!クロ君じゃないか」
その人物は現在の王都の事情など全く知らないのではないかと思わせるほどの陽気な声で現れた。
薄い緑色のツインテールに、低い背。そして張れる胸などないのにも関わらず、常に胸を張って堂々とした態度。
「ロード学園長、頼みたいことがあります」
そう、その人物はレイチェルさんの知り合いであり、学園長をしているロード・レリエルだ。
ロード学園長は俺の顔を見て何かを悟ったようだ。
「そうか、レイチェルに聞いたんだね」
「はい」
俺は思い出す、レイチェルさんから告げられた真実を―――
「…わかった。それで、その蘇らせたい人ってのは誰だよ」
「それは、一言でいえば【神】ね」
「ふーん……は?」
レイチェルさんの突拍子もない言葉に唖然とする。それは神というお伽話の中にいるような存在を口にしたからだ。
「その反応は分かるわ、でも神は確かにいるの」
「なんでいるって分かるんだよ、会った事でもあるのか?」
「えぇ、会ってるどころか使い魔契約しているわ」
「神と契約!?」
いやいやいや、神と使い魔契約とか…ってかそもそも神って人間だったのか!?
「神にはね、二千年ぐらいに一度世代交代の時期があるのよ…」
「世代交代?」
「神の役割は世界を支えること、その為に魔力を常に奪われ続けるのよ…そして魔力を全て奪われると役目を終える。神の後継者を私達はある特徴から全能者、と呼んでいるわ」
「全て?それは魔力切れの事か?」
「いいえ、文字通り全てよ」
「そ、それって…」
魔力切れとは正確に言うと魔力が少なくなっている状態の事、魔力切れならばしばらく貧血状態なのを我慢すれば治る。しかし全ての魔力を奪われるという事は…
「えぇ、死ぬことになるわ…」
レイチェルさんは拳に力を入れて声を振り絞るように出した。おそらくその神に思い入れがあるのだろう。
「…その世代交代ってのはいつなんだ?」
「世代交代はもう迫って来てるの、それこそ今日でも不思議じゃない…」
「そう、なのか。それで神がいたとして…その全能者ってのは誰なんだ?」
俺はこの時、薄々感じ取っていたのだろう。それでもそんな現実から逃げようとしていたのかもしれない。もしかしたら、俺の予想は外れているのかもしれない。けれどそんな淡い期待は、レイチェルさんの言葉で粉々に砕かれることになった。
「それは…クロ、貴方なの」
「…どうして、そう思うんだ?」
「全能者の特徴は、莫大な魔力量を持って、知力、身体能力、判断力、成長力、ありとあらゆる面で能力が底上げされているの」
「で、でも」
俺は必死に考える、全能者は自分ではないと言える確証を。魔力を吸われるためだけに生きてきたと考えると自分が保てなくなるからだ。
そんな、俺は魔力を吸われるためだけに生きてきた?じゃあ、今までの…今までの日常は何だったんだよ。死の森での十年、王都での学園生活、冒険者としての仕事、魔王軍との戦い、大切な仲間との思い出、全部、全部全部、なんだったんだよ…
「そして最大の特徴、それは…全魔法属性適正者という事よ…」
追い打ちをかけるようにレイチェルさんの声がかかる。その言葉が真実ならば俺が全能者だという何よりの証拠になる。嘘だという可能性は考えられなかった、この緊迫した状況で嘘など言える人物はいないだろう。
「…その情報は、どこで手に入れたんだ」
「神、私の契約者から聞いているわ…使い魔契約すると念話ができるって知ってるでしょ?最近では何も言わなくなっちゃったけどね…神としての寿命が残り僅かになっているのかもね…」
「なら、どうして今になって話そうとしたんだ…?今まで話す機会はあったはずだ、それをどうして…」
二千年前の人間と契約していて情報を聞いていたなら、俺が死の森でリンと出会った時から知っていたことになる。
「クロ、全能者にはね。ある加護が備わっているの」
「…加護?」
「クロが死ぬとクロが産まれるところまで時間が巻き戻る、という加護よ。もちろん記憶も全て消えてしまうわ」
「何を言って…」
「この世界は!……既に七回時間が巻き戻ってるの」
「っ!!」
俺が死ぬと時間が巻き戻り、既に七回時間が巻き戻っている。つまりレイチェルさんの話によれば俺は七回死んでいる…という事になる。信じられない話だが、神という言葉が出る時点で実感が湧かない。
「一度目の世界はクロが死の森を彷徨って魔物に殺されたわ、二度目の世界はリンを死の森に行くように仕向けてクロに出会ったわ…でも」
レイチェルさんは何か言いにくそうにしている。それは何なのか知らないがここにきてそれはないと思い「言ってくれ」と言う。
「実は全能者の事を言ったの。そしたら…自殺をしたわ」
レイチェルさんの言葉に俺はただただ驚くことしか出来なかった。
俺はジル、ガルド先生、リン、メリィ、シロ、の五人が入るように魔法陣を広げた。ちょうど食事を共にしていたので近くにいたのだ。王様たちは先に逃げていたようであの場にはレイチェルさんとルビーさんだけになっている。
「おいクロ、これからどうするんだ?」
ジルが俺に聞く。普通なら年長者のガルド先生に聞くのが道理だろうが、俺に聞くという事はあの話に気を遣っているのだろう。ならば、ここはそれに甘えるとしよう。
「それより、何で学校に転移したんだ?」
ガルド先生が俺に聞く。そう、転移先を学校にしたのだ。今王都に帰ってもフェニクス教がいるだろう。指名手配されているから襲ってくることもあり得る。けれどこの学校にはあいつに用事があってきたのだ。
そう、それはレイン・カシエル!……なんかではなく。
「おぉ!クロ君じゃないか」
その人物は現在の王都の事情など全く知らないのではないかと思わせるほどの陽気な声で現れた。
薄い緑色のツインテールに、低い背。そして張れる胸などないのにも関わらず、常に胸を張って堂々とした態度。
「ロード学園長、頼みたいことがあります」
そう、その人物はレイチェルさんの知り合いであり、学園長をしているロード・レリエルだ。
ロード学園長は俺の顔を見て何かを悟ったようだ。
「そうか、レイチェルに聞いたんだね」
「はい」
俺は思い出す、レイチェルさんから告げられた真実を―――
「…わかった。それで、その蘇らせたい人ってのは誰だよ」
「それは、一言でいえば【神】ね」
「ふーん……は?」
レイチェルさんの突拍子もない言葉に唖然とする。それは神というお伽話の中にいるような存在を口にしたからだ。
「その反応は分かるわ、でも神は確かにいるの」
「なんでいるって分かるんだよ、会った事でもあるのか?」
「えぇ、会ってるどころか使い魔契約しているわ」
「神と契約!?」
いやいやいや、神と使い魔契約とか…ってかそもそも神って人間だったのか!?
「神にはね、二千年ぐらいに一度世代交代の時期があるのよ…」
「世代交代?」
「神の役割は世界を支えること、その為に魔力を常に奪われ続けるのよ…そして魔力を全て奪われると役目を終える。神の後継者を私達はある特徴から全能者、と呼んでいるわ」
「全て?それは魔力切れの事か?」
「いいえ、文字通り全てよ」
「そ、それって…」
魔力切れとは正確に言うと魔力が少なくなっている状態の事、魔力切れならばしばらく貧血状態なのを我慢すれば治る。しかし全ての魔力を奪われるという事は…
「えぇ、死ぬことになるわ…」
レイチェルさんは拳に力を入れて声を振り絞るように出した。おそらくその神に思い入れがあるのだろう。
「…その世代交代ってのはいつなんだ?」
「世代交代はもう迫って来てるの、それこそ今日でも不思議じゃない…」
「そう、なのか。それで神がいたとして…その全能者ってのは誰なんだ?」
俺はこの時、薄々感じ取っていたのだろう。それでもそんな現実から逃げようとしていたのかもしれない。もしかしたら、俺の予想は外れているのかもしれない。けれどそんな淡い期待は、レイチェルさんの言葉で粉々に砕かれることになった。
「それは…クロ、貴方なの」
「…どうして、そう思うんだ?」
「全能者の特徴は、莫大な魔力量を持って、知力、身体能力、判断力、成長力、ありとあらゆる面で能力が底上げされているの」
「で、でも」
俺は必死に考える、全能者は自分ではないと言える確証を。魔力を吸われるためだけに生きてきたと考えると自分が保てなくなるからだ。
そんな、俺は魔力を吸われるためだけに生きてきた?じゃあ、今までの…今までの日常は何だったんだよ。死の森での十年、王都での学園生活、冒険者としての仕事、魔王軍との戦い、大切な仲間との思い出、全部、全部全部、なんだったんだよ…
「そして最大の特徴、それは…全魔法属性適正者という事よ…」
追い打ちをかけるようにレイチェルさんの声がかかる。その言葉が真実ならば俺が全能者だという何よりの証拠になる。嘘だという可能性は考えられなかった、この緊迫した状況で嘘など言える人物はいないだろう。
「…その情報は、どこで手に入れたんだ」
「神、私の契約者から聞いているわ…使い魔契約すると念話ができるって知ってるでしょ?最近では何も言わなくなっちゃったけどね…神としての寿命が残り僅かになっているのかもね…」
「なら、どうして今になって話そうとしたんだ…?今まで話す機会はあったはずだ、それをどうして…」
二千年前の人間と契約していて情報を聞いていたなら、俺が死の森でリンと出会った時から知っていたことになる。
「クロ、全能者にはね。ある加護が備わっているの」
「…加護?」
「クロが死ぬとクロが産まれるところまで時間が巻き戻る、という加護よ。もちろん記憶も全て消えてしまうわ」
「何を言って…」
「この世界は!……既に七回時間が巻き戻ってるの」
「っ!!」
俺が死ぬと時間が巻き戻り、既に七回時間が巻き戻っている。つまりレイチェルさんの話によれば俺は七回死んでいる…という事になる。信じられない話だが、神という言葉が出る時点で実感が湧かない。
「一度目の世界はクロが死の森を彷徨って魔物に殺されたわ、二度目の世界はリンを死の森に行くように仕向けてクロに出会ったわ…でも」
レイチェルさんは何か言いにくそうにしている。それは何なのか知らないがここにきてそれはないと思い「言ってくれ」と言う。
「実は全能者の事を言ったの。そしたら…自殺をしたわ」
レイチェルさんの言葉に俺はただただ驚くことしか出来なかった。
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